かあちゃんは、次の日シオンのアパートを出た。
持ち物は少しのお金の入って黒いバッグだけだった。まだ家から出て、少ししか
時間がたっていないのに、かあちゃんは疲れた。
自分の粗末な畳の部屋と、自分のせんべい布団が恋しかった。朝の鳥の声で目覚め
るすっきりしたあの感覚が懐かしかった。
桜の木に咲く花を見て歩くうちにかあちゃんは、シオンの通る墓所に導かれた。
桜の花びらがかあちゃんのバッグに一片落ちた。
「ここは、私のいるところではないのかもしれない。」
春の日差しは暖かかった。桜の花は誘うように散っていた。
かあちゃんは、道路から離れて、わき道にそれた。そこは、さまざまな墓石が
並んでいた。十字架のたつ墓だったり、ライオンの彫像が二体墓の入り口にあるよ
うな大きな墓だったりした。
芝生の刈り込まれた墓所を歩くうちにかあちゃんは小さな丸い黒い石の墓が
目を引いた。
枯れた芝生の上に黒い丸い石だけが置かれていた。それだけだった。
そこに、何かが書かれていた。
「ここに至る者。汝、生きて帰りて皆に告げよ。我、汝のために死すなり。
汝、我のために生きよ。」
それはかあちゃんの魂に触れた。なぜか涙が出た。
そこには、春の風に桜の花びらが花吹雪となって散っていた。
持ち物は少しのお金の入って黒いバッグだけだった。まだ家から出て、少ししか
時間がたっていないのに、かあちゃんは疲れた。
自分の粗末な畳の部屋と、自分のせんべい布団が恋しかった。朝の鳥の声で目覚め
るすっきりしたあの感覚が懐かしかった。
桜の木に咲く花を見て歩くうちにかあちゃんは、シオンの通る墓所に導かれた。
桜の花びらがかあちゃんのバッグに一片落ちた。
「ここは、私のいるところではないのかもしれない。」
春の日差しは暖かかった。桜の花は誘うように散っていた。
かあちゃんは、道路から離れて、わき道にそれた。そこは、さまざまな墓石が
並んでいた。十字架のたつ墓だったり、ライオンの彫像が二体墓の入り口にあるよ
うな大きな墓だったりした。
芝生の刈り込まれた墓所を歩くうちにかあちゃんは小さな丸い黒い石の墓が
目を引いた。
枯れた芝生の上に黒い丸い石だけが置かれていた。それだけだった。
そこに、何かが書かれていた。
「ここに至る者。汝、生きて帰りて皆に告げよ。我、汝のために死すなり。
汝、我のために生きよ。」
それはかあちゃんの魂に触れた。なぜか涙が出た。
そこには、春の風に桜の花びらが花吹雪となって散っていた。