山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座205回 ~風と風がぶつかり合うところでできる雲~

2025-03-20 18:25:26 | 観天望気

先日、箱根の明神ヶ岳(1,169m)で雲や空の見方を学ぶ講座、山頂で観天望気をおこないました。前日の雨から一転、この日は朝から青空が広がっていました。

 

図1 この日の地上天気図(午前9時)

上の図(図1)は、この日の午前9時の地上天気図です。東日本から西日本にかけては等圧線が縦縞に走っていて冬型の気圧配置になっていることが分かります。このような等圧線の向きのときは、北西風が吹き、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れになることが多く、太平洋側の箱根では青空が広がったのです。

 

写真1 北側の空で雲がやる気を出し始める

この雲は、日本海から南下してきた前線付近で上昇気流が発生してできた雲で、通常であれば、中部山岳を越えてくる間に弱まるものですが、今回は雲が上方へと成長し、やる気のある雲、いわゆる積乱雲(せきらんうん、別名かみなり雲)が発生しました(写真2)。この日は北から前線が南下するので、北側の空を見ると、今後の天気が予想できます。つまりこの雲が接近してくることが予想され、実際に、この後は天気が一時的に崩れ、アラレが降りだしました。

 

写真2 上空で雲がやる気を出してきて、アラレが降る

図2 500hPa面(上空約5,500m付近)の気温予想図(この日の12時)

雲がやる気を出すのは、上空に強い寒気が入るなど、地上付近と上空高い所との温度差が大きくなるときです。この日の上空5,500m付近の気温予想図(図2)を見ると、マイナス30℃以下の強い寒気が関東地方に北西側から入ってきて雲がやる気を出しやすい条件だったことが分かります。

 

写真3 相模平野上空でやる気を出す雲

さらに登っていくと、東側に広がる相模平野の上空で雲が帯状に発生し、一部はやる気を出してきました(写真3)。一時、稲光も見え、写真の真ん中付近の雲の下はもやっとした暗い影のようなものがあります。これは雨が落ちていることを示していて降水雲(こうすいうん)と呼びます。他の場所では雲がないのに、この部分だけ雲ができているのは理由があります。

 

この日は、冬型の気圧配置となっており、朝は等圧線の間隔が関東南部でも狭く、等圧線は北西から南東方向に走っています(図3の赤い囲み部分)。

 

図3 この日の午前6時の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)

昼頃になると、関東南部で等圧線の間隔が広がり、等圧線が西側に張り出してくるようになっています(図4)。

 

図4 この日の正午の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)

このように西側に等圧線が張り出した部分では周りより気圧が低くなっており、周囲から風が集まってくる場所です。特に、この日のように冬型の気圧配置になると、三国峠や碓氷峠を吹き下ろしてきた北西風(赤城おろし)が相模川に沿って北から南へと吹く一方で、中部山岳と関東山地を迂回して駿河湾から吹く西風が相模湾から入り、北風と衝突します。風は衝突する前に上昇する性質がありますので、ここで上昇気流が生まれ、雲ができます。この日のように、上空に寒気が入って雲がやる気を出すと、積乱雲にまで成長していくのです。

 

図5 風と風のぶりかり合い(googleマップに加筆)

やる気がある雲の手前側にある小田原から酒匂川流域、大磯丘陵周辺は晴れています。ここは北側に丹沢山地があるので、北風が入ることができず、風の衝突が起きないからです。

この日の天気図のような特徴が見られるとき、関東南部では時ならぬ、にわか雨やにわか雪に見舞われることがあります。平地では晴れていても箱根など山間部では積雪になることもあるので、覚えておきましょう。

 

標高の低い明神ヶ岳ですが、東側や南側が広く開けており、雲が発生している場所と地形との関係を観察するのに適した場所です。また、駿河湾や富士山方面など西~南西側の空を見ることもでき、これらの方角から風が吹くときは、この日とは違った興味深い雲が見られるかもしれません。

 

文責:猪熊隆之

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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https://lp.yamatenki.co.jp/

 

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猪熊隆之の観天望気講座204回 ~冬型の時の八ヶ岳山麓の雲~

2025-03-19 17:46:06 | 観天望気

今回は、2025年3月6日に八ヶ岳で見られた雲についての解説です。この日は朝から曇り空となり、西側の山麓では層雲(そううん、別名きり雲)と呼ばれる地表付近の雲が見られました(写真1)。

 

写真1

なぜこのような雲が発生したのでしょうか?この日の天気図から紐解いてみましょう。

この日は冬型の気圧配置で、等圧線が北北東から南南西方向に走っており(図1参照)、地表付近では北風が吹く形です。このようなとき、風は北八ヶ岳(写真1の左側)から南八ヶ岳(同右側)の方向に吹いていきます。写真1をよく見ると山麓の層雲が北から南になびいているのが分かります。

 

図1:2025年3月6日午前9時の地上天気図(気象庁提供)

図2:地理院地図(国土地理院提供)

冬型の気圧配置のとき、日本海側の地域では湿った空気が入って雪となることが多くなりますが、八ヶ岳山麓は日本海から距離があり、地表付近の湿った空気は届きにくく(図2参照)、これだけで層雲が発生することはあまりありません。今回の層雲が発生したのには別の理由がありそうです。前日(3月5日)の天気図を見てみましょう。

 

図3:2025年3月5日午前9時の地上天気図(気象庁提供)

3月4日~5日は本州南岸を低気圧が東進し、八ヶ岳山麓では長時間にわたって雪や雨が続きました。空気中に多くの水蒸気を含んだ状態で、6日朝にかけて気温が低下したことで、雲が発生しやすい状況になりました。(気温が下がると空気中に含むことができる水蒸気の量が減り、含み切れなくなった水蒸気から雲に変わる注1

他にも、

・積もった雪が蒸発して空気中に水蒸気を供給したこと

・雲ができている場所は樹林帯となっており、降った雪が木の幹や葉から蒸発し、木がない場所に比べて多くの水蒸気が溜まったこと(森林蒸散(しんりんじょうさん)注2

 

これらのことが影響して、層雲が発生しました。

 

日中は気温が上昇し、逆転層注3(高度が上がるにつれて気温が上がる空気層のこと。雲はこの層を越えて上昇できない。)の高度が上がったことで雲が上昇していきました(写真2)。

今回の場合は上空1,500m付近でも北風が吹いており、八ヶ岳の稜線から西にのびる尾根にぶつかって空気が上昇、下降をしたことで、小規模な山岳波注4が発生し、凹凸状の雲となりました(図4)。

 

写真2

図4:地理院拡大地図(国土地理院提供)

このように、その日の天気図や数値予報だけで天気が決まるわけではなく、前日までの天気の推移や地形などが密接に関わってきます。これらのことを考えながら空を眺めてみると、新たな発見があるかもしれません。

 

 

文:鈴木遼太(株式会社ヤマテン)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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https://lp.yamatenki.co.jp/

 

脚注

1:雲のワンポイント講座29( http://sora100.net/1pointcourse/3355 )を参照

2:雲のワンポイント講座27( http://sora100.net/1pointcourse/3258 )を参照

3:猪熊隆之の観天望気講座191( http://sora100.net/course/kantenbouki/2893 )を参照

4:雲のワンポイント講座25( http://sora100.net/1pointcourse/3251 )を参照

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猪熊隆之の観天望気講座203回 ~荒島岳で見られた地形による天気の違い~

2025-03-13 08:24:04 | 観天望気

先日、日本百名山の荒島岳(標高1,523m 福井県)に行く機会がありました。この日は朝から層積雲(そうせきうん)と呼ばれる雲が山頂にかかっていました。この雲は、雲底(うんてい)の高度が1,500m付近、雲頂(うんちょう)の高度が2,000m付近にある雲で、畑の畝(うね)のように見えることからうね雲とも言われます。

 層積雲は、上空2,000m付近に冷たい空気が入り、暖かい海上との温度差が大きくなるときに、暖かい海上でできることが多く、冬の時期には、暖流が流れる日本海や東シナ海の上空に冷たい空気が入るときにできます。層積雲のできる仕組みは下記ページに詳しく書かれているので、興味がある方はお読みください。

https://sangakujro.com/%e9%9b%b2%e3%81%8b%e3%82%89%e5%b1%b1%e3%81%ae%e5%a4%a9%e6%b0%97%e3%82%92%e5%ad%a6%e3%81%bc%e3%81%86%ef%bd%9c%ef%bc%88102%ef%bc%89%e4%ba%ac%e9%98%aa%e7%a5%9e%e5%9c%b0%e5%9f%9f%e3%81%ae%e5%86%ac/

 

この日は、北風が吹く気圧配置でした(図1)。

 

図1 この日の地上天気図(午前9時)

高気圧の周辺は時計回りに風が吹きます。私は講習会で風は等圧線に沿って吹くと説明しますが、実際にはやや気圧が低い方に向かって線を斜めに横切ります。そのため、この日は高気圧の東側にあたる北陸地方では北風が吹くことになります。天気図から読み取るのが難しいという方は、上空1,500m付近(850hPa面)の風の予想図を見ましょう(図2)。

 

図2 850hPa面の気温、風予想図

図3 風の見方

風の向きは矢羽根(やばね)と呼ばれる羽根の向きで調べられます。図2を見ると、北陸地方では北風が吹く予想になっています。また、気温を見ますと、上空1,500m付近にはマイナス6℃以下という冷たい空気が入っていることが分かります。つまり、暖かい日本海との温度差が大きくなり、層積雲ができやすい状況です。荒島岳のずっと北には日本海があり、日本海で発生した層積雲が北風に乗って石川県から福井県に入ってきますが、経ヶ岳など県境の山で湿った空気が食い止められることと(図4)、山を越えるときに下降気流となって雲が蒸発していくため、登山口では晴れていました。一方、北側の経ヶ岳方面には層積雲が出ています(写真1)。

 

写真1 朝のうち経ヶ岳方面に広がる層積雲

さて、出発時に注意すべきポイントやルート上のリスクについて一通りお話しした後、荒島岳の北側にあるカドハラスキー場跡から登山を開始しました。

 

図4 荒島岳周辺の地形(国土地理院の地形図を著者が編集したもの)

高度を上げていくと、周辺の地形が見渡せるようになります。すると、荒島岳付近より西側では層積雲が広がっていますが(写真2)、東側では良く晴れています(写真3)。これはどうしたことでしょうか。

写真2 荒島岳より西側で層積雲が広がる

写真3 荒島岳より東側では青空が広がる

図4を見ていただくと、荒島岳の北側には荒島岳より標高の高い経ヶ岳(きょうがたけ)があり、その東側にはもっと高い白山(はくさん)の山並みが控えています。このため、北側から入ってきた層積雲や湿った空気はこれらの山を越えることができません。経ヶ岳より西側は高くても標高1,300m前後の山です。層積雲は標高1,500m付近から2,000m付近にできますので、雲はこれらの山を越えて南側に侵入してきます。経ヶ岳のほぼ真南に荒島岳は位置するので、荒島岳を境にして東側では晴れていて、西側で層積雲が広がっているのはそういう理由です。

 

写真3で白く見えている奥の山は白山ですが、その手前に一筋の雲が見えます。これも層積雲で、白山と経ヶ岳の間にある低い場所を通り抜けてきた雲ですが、雲の上端が綺麗に揃っていますね。ここに安定した空気の層があります。層積雲ができるときは、上空2,000m付近には冷たい空気が入ってきますが、その上には暖かい空気の層があり、非常に安定した状態です。なぜなら、空気は暖かいほど軽くなるので、上にたまりやすく、冷たくなるほど重くなるので下に沈もうとします。暖房を効かせた部屋で上の方に暖かい空気が溜まり、足元がなかなか温まらないのは、こうした空気の性質によります。そのため、下が冷たく、上が暖かいという状態は空気にとっては居心地がよく、とても安定している状態なのです。この暖かい空気と冷たい空気との境目に敷居のようなものができて、雲はそれを越えられず、横に広がっていきます。そのため、高さが一定の雲になるのです。日本海から供給される水蒸気もこの敷居の下に閉じ込められるので、敷居の上は乾いた空気になり、白山など高い山では雲がかかっていません。

 

午後になると、荒島岳の西側でも雲が取れてきました。これは上空の寒気が弱まってきたからです。実際、図5の上空1,500m付近の気温予想図を見ると、マイナス6℃の線が北上して朝の時点(図2)よりも気温が上がってきています。日本海との温度差が小さくなり、層積雲が発生しにくい状況に変わっていきました。

 

図5 この日の15時における850hPa面の気温予想図

このように地図や天気図を見ることが、雲ができている場所とできていない場所の違いや、雲が消えていくのかそれとも雲が成長していくのかを知る手がかりになります。皆さんも今度、山に行くときに試してみましょう!

 

文責:猪熊隆之

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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雲のワンポイント講座第29回 ~満腹の空気が作り出した濃霧~

2025-03-08 14:42:53 | 観天望気

先日、長野県茅野市で濃霧が発生しました。

 

写真1 濃霧の発生した茅野市豊平

なぜ、濃い霧が発生したのでしょうか?この日は、本州の南岸沿いを通過した低気圧の影響で昨夜からの雪が雨に変わり、日中は降ったりやんだりの天気でした。空気は含むことができる水蒸気の量が温度によって変わります。温度が高い空気ほど沢山の水蒸気を含むことができ、温度が低い空気ほど水蒸気をあまり含むことができなくなります。人間で言えば、ご飯を沢山食べられる胃袋が大きい人が温度の高い空気、少食であまり食べられない人が温度の低い空気です。

 

前日からの雪や雨で湿度が100%に近く、空気はお腹いっぱいに近い状態でした。そこに夜になって気温が少し下がり、空気の胃袋が小さくなったことや積雪や濡れた地面からの蒸発も加わって空気はもうお腹いっぱい状態。やがて含み切れなくなり、吐き出したものが霧になったのです。人間で言えば「オエーッ」といったところでしょうか。もちろん、霧や雲ができるにはエアロゾルと呼ばれる核になるものが必要なのですが、それはちょっと難しいので、また機会があればご説明します。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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猪熊隆之の観天望気講座202回 ~風向きによる天気の違い(冬型編)~

2025-02-23 14:50:30 | 観天望気

天気予報を見るときに、天気は見るけれど、風の強さや風向きについて確認していない方は多いと思います。実は、山の天気では風の強さや風向きがとても重要です。風の強さは、低体温症や突風による転滑落などのリスクにつながりますし、風向きは天気の変化に影響します。今回は、その風向きと天気の関係について、韓国岳での空見ハイキング(※)で見られた雲を元に解説していきます。

※空見ハイキングは、旅行会社でおこなっている、山の天気を学びながら登山を楽しむツアーです。空や雲の見方、風を読む方法などを学ぶことができます。

空見ハイキング(山の天気ハイキング)の情報は下記ページでご確認ください。

https://www.yamaten.net/workshop

 

写真1 午前中は快晴の韓国岳

写真2 午後になると、層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が広がる

2月9日は、朝から韓国岳上空は晴れ渡り、霧氷に彩られた山の風景に見とれながら歩いていました。森林限界を超えると空が開けましたが、写真1のように遠くに(写真の奥の方)暗い雲の帯が見えるものの、他の所に雲はなく青空が広がっています。一方、午後になると写真2のように扁平型の塊状の雲が広がっていました。この雲は層積雲といい、北西の季節風が東シナ海を渡る間に、暖かい海面に触れて温められた海上の空気と、上空1,500~2,000m付近に流れ込んだ大陸からの冷たい空気によって、地上付近と高度約2km付近との狭い範囲で温度差が大きくなるときにできる雲です。東シナ海で生まれたこれらの雲は、上空を吹いている風によって流されていきます。

 

この日は、上空の風が午前中は北~北北西風、午後は北西~西北西風に変わりました。北北西風の場合、図1のように東シナ海からの雲は薩摩半島に入り、霧島連山や大隅半島にはかかりません。写真1の遠くに見える雲は、東シナ海から薩摩半島方面に広がる雲です。

 

図1 北北西風

図2 北西風から西北西風になると、霧島連山にも雲がかかるようになる

午後になると、風向が北西風~西北西風に変わり、東シナ海からの雲が霧島連山に向かうようになりました。それでは風向はどこで調べれば良いのでしょうか?気象庁などが発表する天気予報でも風向は発表されますが、地上の風向ですので地形の影響で上空の風向とはズレてしまうことがあります。そこでおすすめするのが上空1,500m付近の850hPa面の天気図です。

 

図3と図4は上空1,500m付近の風と気温の予想図です。風向はこの棒に羽根のようなものがついている記号で判断します。図5のように、羽根が出ている方角から風が吹いてくると判断してください。

 

図3 9日午前6時の上空1,500m付近の気温と風予想図

図4 9日午後3時の上空1,500m付近の気温と風予想図

図5 風向の調べ方

図3を見ると、朝6時の予想では九州南部では北から北北西風になっています。一方、図4の午後3時では北西から西北西風になっています。ちょっとした風向きの変化でこのように雲が流れ込む場所が変わり、天気が変わってきます。風向きや風の強さの変化は天気の変化につながります。時々、風の強さや向きをチェックしてみると天気の変化を早めに察知できるかもしれません。

 

文責:猪熊隆之

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