先日、箱根の明神ヶ岳(1,169m)で雲や空の見方を学ぶ講座、山頂で観天望気をおこないました。前日の雨から一転、この日は朝から青空が広がっていました。
図1 この日の地上天気図(午前9時)
上の図(図1)は、この日の午前9時の地上天気図です。東日本から西日本にかけては等圧線が縦縞に走っていて冬型の気圧配置になっていることが分かります。このような等圧線の向きのときは、北西風が吹き、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れになることが多く、太平洋側の箱根では青空が広がったのです。
写真1 北側の空で雲がやる気を出し始める
この雲は、日本海から南下してきた前線付近で上昇気流が発生してできた雲で、通常であれば、中部山岳を越えてくる間に弱まるものですが、今回は雲が上方へと成長し、やる気のある雲、いわゆる積乱雲(せきらんうん、別名かみなり雲)が発生しました(写真2)。この日は北から前線が南下するので、北側の空を見ると、今後の天気が予想できます。つまりこの雲が接近してくることが予想され、実際に、この後は天気が一時的に崩れ、アラレが降りだしました。
写真2 上空で雲がやる気を出してきて、アラレが降る
図2 500hPa面(上空約5,500m付近)の気温予想図(この日の12時)
雲がやる気を出すのは、上空に強い寒気が入るなど、地上付近と上空高い所との温度差が大きくなるときです。この日の上空5,500m付近の気温予想図(図2)を見ると、マイナス30℃以下の強い寒気が関東地方に北西側から入ってきて雲がやる気を出しやすい条件だったことが分かります。
写真3 相模平野上空でやる気を出す雲
さらに登っていくと、東側に広がる相模平野の上空で雲が帯状に発生し、一部はやる気を出してきました(写真3)。一時、稲光も見え、写真の真ん中付近の雲の下はもやっとした暗い影のようなものがあります。これは雨が落ちていることを示していて降水雲(こうすいうん)と呼びます。他の場所では雲がないのに、この部分だけ雲ができているのは理由があります。
この日は、冬型の気圧配置となっており、朝は等圧線の間隔が関東南部でも狭く、等圧線は北西から南東方向に走っています(図3の赤い囲み部分)。
図3 この日の午前6時の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)
昼頃になると、関東南部で等圧線の間隔が広がり、等圧線が西側に張り出してくるようになっています(図4)。
図4 この日の正午の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)
このように西側に等圧線が張り出した部分では周りより気圧が低くなっており、周囲から風が集まってくる場所です。特に、この日のように冬型の気圧配置になると、三国峠や碓氷峠を吹き下ろしてきた北西風(赤城おろし)が相模川に沿って北から南へと吹く一方で、中部山岳と関東山地を迂回して駿河湾から吹く西風が相模湾から入り、北風と衝突します。風は衝突する前に上昇する性質がありますので、ここで上昇気流が生まれ、雲ができます。この日のように、上空に寒気が入って雲がやる気を出すと、積乱雲にまで成長していくのです。
図5 風と風のぶりかり合い(googleマップに加筆)
やる気がある雲の手前側にある小田原から酒匂川流域、大磯丘陵周辺は晴れています。ここは北側に丹沢山地があるので、北風が入ることができず、風の衝突が起きないからです。
この日の天気図のような特徴が見られるとき、関東南部では時ならぬ、にわか雨やにわか雪に見舞われることがあります。平地では晴れていても箱根など山間部では積雪になることもあるので、覚えておきましょう。
標高の低い明神ヶ岳ですが、東側や南側が広く開けており、雲が発生している場所と地形との関係を観察するのに適した場所です。また、駿河湾や富士山方面など西~南西側の空を見ることもでき、これらの方角から風が吹くときは、この日とは違った興味深い雲が見られるかもしれません。
文責:猪熊隆之
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