山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座144

2019-11-22 21:13:24 | 観天望気

天気が崩れるときの雲partⅡ

~日本海低気圧、寒冷前線接近時の雲~

低気圧や前線が近づいてくるときには、大きく分けて2つの天気の崩れ方があります。

1.低気圧が南側を通過するとき

2.低気圧が北側を通過するとき

前回は、1.低気圧が南側を通過するとき の状況について学びました。今回は2.低気圧が北側を通過するとき について見ていきます。

図1 低気圧と天気分布(山岳気象大全の図を猪熊が加工したもの)

 

低気圧が北側を通過するときは、温暖前線が北を素通りして、寒冷前線が通過することが多くなります。そのようなとき、図1のHのような天気変化をします。低気圧がすぐ北側を通過する際には、温暖前線が通過した後、一旦天気が回復して再び寒冷前線が通過します。天気は目まぐるしく変化し、Jのような天気変化をします。

今回は、もっとも多いケースであるHの天気変化について学んでいきましょう。その前に寒冷前線の構造を見ていきましょう。

図2 寒冷前線の構造(山岳気象大全 猪熊隆之著:山と渓谷社より)

図2は、図1のC-D間の断面図です。温暖前線と同様に、寒冷前線も上空に面として延びており、それが地上と接したところを前線と呼びます。寒冷前線は温暖前線と逆に、温かい空気があった所に、冷たい空気が入ってくることで発生します。温かい空気は軽く、冷たい空気は重いので、冷たい空気は温かい空気の下にもぐりこんでいき、温かい空気は強制的に持ち上げられます。

温かい空気が持ち上げられたところで雲は発生します。温暖前線と異なり、緩やかに持ち上げられるのではなく、急激に持ち上げられるので、雲は上方へ発達していき(雲がやる気を出し)、前線付近では積乱雲と呼ばれるもくもくとした雲が形成されます。この雲からは短時間に激しい雨が降ったり、落雷やひょうをもたらすこともあります。したがって、登山においては落雷や沢の増水など気象リスクが大きく、もっとも注意すべき前線のひとつです。

写真1 寒冷前線に伴う雲。冷たい空気が温かい空気にもぐりこんでいき、上昇させられた空気が雲を作る。

寒冷前線が接近するときの典型的な雲の変化は以下の通りです。寒冷前線の場合は、天気変化が早いので、下記の順番通りに進むのではなく、同時に進行することがあります。

①  巻雲(けんうん)→②巻積雲(うろこ雲)、またはレンズ雲→③高層雲(こうそううん=湿った空気が入るとき)または④山にかかる厚い雲(=比較的空気が乾いているとき)→⑤積乱雲(せきらんうん)が遠くに現れる→⑥積乱雲に覆われる

それでは、寒冷前線が接近するときの雲の変化(Hの天気変化)を見ていきましょう。

①   巻雲(けんうん、別名すじ雲)

昇り竜のような巻雲が現れています。雲が毛羽立っているときは、上空の風が強い証拠です。

②    レンズ雲

日本海を低気圧が通過するとき(低気圧の南側に入るとき)、凸レンズのような変わった雲が現れます。上空で風が強まっている証拠で、このような雲が現れると、山では強風になります。このレンズ雲が下の写真のように大きくなったり、二重、三重になって吊るし雲(つるし雲)になっていくと、山では荒れた天気になっていきます。

八ヶ岳上空の吊るし雲

③    高層雲(こうそううん・おぼろ雲)

温かく湿った空気が入ってくるときは、空全体を雲が覆います。このとき、レンズ雲が見られることもあります。湿った空気が入ってこない場合は②から④へと変化します。

④    山にかかる厚い雲(積雲または層積雲)

山にこのような雲がかかったときは、上空に強い寒気が入っているか、寒冷前線が接近している証拠です。この状態では、既に山は荒れた天気となっています。したがって、山では②の段階で安全地帯に避難しなければなりません。

⑤  積乱雲(せきらんうん・入道雲)が接近

西の空が真っ黒になっていくときは、要注意。

青空と真っ暗な積乱雲との境界。寒冷前線が接近するときは、天候が急変することが多く、早めの避難が重要。

日本海側の山岳では、日本海の方角から接近する雲に注意。

積乱雲の雲列が接近する福岡市。このような雲が見られたらすぐに安全地帯に避難を。

⑥    積乱雲に覆われる

なお、寒冷前線が通過した後、太平洋側の山岳では天気が回復しますが、日本海側の山岳では、大荒れの天気になることがあり、注意が必要です。また、前線通過後、一旦天気が回復してから大荒れの天気になることもあります。そのようなとき、④のような雲が山にかかるので、覚えておきましょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座143

2019-11-22 20:00:48 | 観天望気

天気が崩れるときの雲partⅠ

~南岸低気圧、温暖前線接近時の雲~

低気圧や前線が近づいてくるときには、大きく分けて2つの天気の崩れ方があります。

1.低気圧が南側を通過するとき

2.低気圧が北側を通過するとき

それぞれの天気の崩れ方と、そのときに見られる雲の変化について2回に分けて紹介していきます。今回は、1.低気圧が南側を通過するとき の雲変化について見ていきましょう。 

図1 低気圧と天気分布(山岳気象大全の図を猪熊が加工したもの)

 

低気圧が接近してくるときの雲の変化について確認しましょう。低気圧には温帯低気圧、寒冷低気圧、熱帯低気圧と3種類ありますが、天気予報などで単に“低気圧”と呼ぶ場合には、温帯低気圧を指します。温帯低気圧は冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合って発生する低気圧のことで、低気圧の中心から進行方向、あるいは南東側に温暖前線が延び、中心から後方、あるいは南西側に寒冷前線が延びます。低気圧が南側を通過するときには、温暖前線が接近してくるため、図1のB→A、またはB‘→A’のように天気が変化していきます。

①  巻雲(けんうん)→②巻層雲(けんそううん)、または③巻積雲(けんせきうん)→④高層雲(こうそううん)→⑤乱層雲(らんそううん)

巻雲、巻層雲、巻積雲は「晴れ」、高層雲に覆われると「くもり」、乱層雲に覆われると「雨」ということになります。つまり、「晴れ→くもり→雨」という天気変化をします。

一方、低気圧が南側を離れて通過すると、B’’→A’’という天気の変化になり、雨域はかかりません。したがって、「晴れ→くもり」という天気変化をします。

図2 温暖前線の構造(山岳気象大全 猪熊隆之著:山と渓谷社より)

天気は平面的に変化する訳ではなく、立体的に変化していきます。図2は、図1におけるB-A間の断面図です。前線は点や線として存在するのではなく、面として上空に延びています。その面のことを前線面と呼びます(温暖前線の場合は温暖前線面)。前線面が地上と接するところを前線と呼び、温暖前線では前線の進行方向に向かって前線面が上空に延びていきます。これは、温暖前線は、冷たい空気があった所に、温かい空気がやってきて冷たい空気の上を乗りあげていくからです。この乗り上げる所で上昇気流が発生し、雲ができます。前線付近では地上近くで上昇気流が発生し、前線から離れるにつれて(Bに近づくにつれて)上空高いところで上昇気流が起きています。つまり、前線に近いほど低いところから雲ができ、前線から離れるにつれて高い雲になっていきます。低気圧が接近すると、最初に高い雲が現れ、次第に低い雲に変わっていくのはそのためです。

また、水蒸気は地面や海水面に近いほど多く、上空高い所に行くほど少なくなっていきますので、前線に近い所ほど水蒸気を多く含んだ空気が上昇し、雲粒の密集した雲になります。その分、雲粒同士が合体して雨粒に成長しやすくなります。一方、高い所の空気は水蒸気が少ないため、上昇しても薄い雲にしかなりません。雲の種類の変化は、上昇気流の仕方や空気中の水蒸気の量によっても左右されます。これらの状況から前線付近で乱層雲(らんそううん、別名あま雲)と呼ばれる厚い雲に覆われて雨が降り、前線から離れるにしたがって雲は薄く、高くなっていきます。

それでは、実際に低気圧や温暖前線が近づいていくときの雲の変化を見ていきましょう。

①  巻雲(けんうん、別名すじ雲)

低気圧や温暖前線が接近してくるときに、最初に現れるのは巻雲です。雲の中でもっとも高い所にあり、水滴の雲粒ではなく、すべて氷の粒でできた雲です。天気が崩れるときは、湿った感じの雲になることが多いです。この時点ではまだ青空が広がっています。

②  巻層雲、薄雲 

低気圧や温暖前線が接近するときは、巻雲が現れた後、西の空から薄い雲が広がり、全天を覆うようになっていきます。太陽や月の周辺を巻層雲が覆うときは、暈(かさ)や幻日が現れることがあります。「太陽が暈をかぶると雨。」と呼ばれるのは、低気圧や温暖前線が接近する際に、巻層雲が現れることが多いからです。

日暈(ハロ)と幻日

 

③  巻積雲(けんせきうん・うろこ雲)

今回は現れませんでしたが、雨巻雲が現れた後に、巻層雲ではなく、巻積雲が現れることがあります。うろこ雲と呼ばれる、魚の鱗状の雲です。この雲が全天を覆うようなときは、上空の空気が乱れており、低気圧が急激に発達したり、台風が近づいてくるなど大荒れの天気になることがあります。そのような雲の変化をするときには特に注意しましょう。

④  高層雲(こうそううん・おぼろ雲)

さらに低気圧や温暖前線が接近してくると、全天を覆う雲が灰色の雲になり、高層雲に覆われていきます。初めは空が明るく、薄日が射したり、太陽が透けて見えることも多いですが、やがては濃密で暗い感じの雲になります。こうなると、高い山では雨や雪が降り出し、それ以外の場所でも雨が近いでしょう。

高層雲は、上空4km以上にあることが多いため、日本アルプスや富士山でも雲がかかることはありませんが、この雲とは別に、低い雲に覆われることがあります。前線が近づいてきて湿った空気が入りやすくなると、海側から湿った空気が入る場所で層雲(そううん、別名きり雲)や層積雲(そうせきうん、別名うね雲)ができてくるのです。

層積雲が広がる八ヶ岳山麓

このときも、南東側から湿った空気が入ってきたため、八ヶ岳の中腹以下で雲に覆われていきました。

⑤  乱層雲(らんそううん・あまぐも)

さらに低気圧や前線が近づくと、雲が高度を下げて山を覆うようになっていきます。雲はさらに暗い色になっていくと、雲は乱層雲に変わります。乱層雲に覆われると雨や雪が降り出します。この雲とは別に、地表付近には断片積雲や断片層雲と呼ばれる、もっと低い雲が現れることも多いです。乱層雲からは、シトシトとした雨が長時間降り続きます。植物や土壌には優しい雨ですが、最近はこうした雨の降り方が少なくなっています(冬の太平洋側で降る雨や雪はこのタイプが多くなります)。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座142

2019-11-17 18:47:06 | 観天望気

~エクアドルの気象と空partⅡ~

前回に続き、エクアドルで見られた雲についての解説です。

キトからしばらく南下すると、低い雲に覆われてきました(写真1)。層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が上空を覆っているためです。

写真1 層積雲に覆われた空

層積雲は、地面から1~2km上空にできる雲で、その高度に冷たい空気が入ることと、地面付近に湿った空気(ジメジメ君)が入ってくることでできる雲です。もう少し詳しく説明すると、

1.地面付近にジメジメ君(partⅠのようにちょいジメ君でも良い)が入ってくる

2.上空1~2kmに冷たい空気が入る

 

3.水蒸気が冷やされて雲が発生

 

4.地面付近と上空1~2kmの狭い範囲で温度差が大きくなることで対流が発生

5.上昇気流が起きる所で層積雲ができ、下降気流が起きるところで雲に隙間ができる

 

今回、なぜジメジメ君が入ってきたかを地図から考えてみましょう。この写真を撮ったのは、図1の中で写真①層積雲と書かれている所です。この場所の東側にはアンデス山脈がありますが、アンティサナという高い山の南側にはあまり高い山がなく、アマゾン側からのジメジメ君が入りやすくなっています。特に、大きな谷に沿ってジメジメ君が入ってくる撮影場所の辺りでは、ジメジメ君が多くなっている場所です。また、盆地のため、ジメジメ君が溜まりやすい場所でもあります。

図1 キト周辺からチンボラッソ付近の地図

さて、車は盆地の西側にあるアンデス山脈に近づきました。すると山の奥の方(西側)に青空が見えてきました。このようなとき、山の奥側は晴れています。

写真2 層積雲に覆われた盆地の向こうに青空が見える。

実際に車が峠を越えると青空が一面に広がりました!

写真3 山を越えて流れ出す雲

写真3は、画像の左側が東の方向、右側が西になります。これをご覧いただくと、東側からの湿った空気が山を越えるときに上昇してできた雲が山の反対側(西側)に流れ出しているのが分かります。ここは山の連なりの中でも低い場所になっているため、山で湿った空気が堰き止められずに流れ出しているのです。

流れ出した雲は下降しながら蒸発していきます。また、右側(西側)の乾いた空気が雲の上を上昇し、左側から流れ出てくる雲を蒸発させています。このため、山の西側では晴れているのです。

この写真を撮影した場所は、図1の写真③と書いてある所です。ここは小さな山脈があり、山の両側での天気の違いが良く分かる場所です。山の西側にあるキトロア湖の上空は見事な青空でした(写真4)。

写真4 青空が広がるキトロア湖

さて、次はいよいよ登山中に見られた雲です。どんだけ待たせんだい(笑)。

コトパクシの登山日は星空が広がる絶好の登頂日和。昼過ぎまでは麓の山小屋でも晴れてました。一方、アマゾン側の山麓では朝からジメジメ君が溜まっていて、それによる雲が出てました(写真5)。

写真5 山頂からアマゾン側の雲海を見下ろす

日中は、次第にアマゾン側からジメジメ君が押し寄せてきました。雲を見るとジメジメ君と乾いた空気との戦いが良く分かりますね(写真6)。

写真6 ジメジメ君とサラサラ君(乾いた空気)との戦い

ただし、この雲は標高5,000m付近の安定した層に阻まれてそれ以上、上昇はできませんでした。そのため、山頂付近では終日、お天気が良かったです。乾季の時期はこのパターンが多いですが、雨季になると大気が不安定となり、安定した層が日中は消失しますので、雲はぐんぐん成長して(やる気を出して)山頂まで覆い、雪を降らせることになります。

午後になると、日射の影響で下流側から上流側へと吹く谷風(たにかぜ)が強まります。このため、谷風(観天望気講座98 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08)に乗ってジメジメ君がアマゾン側から入ってきます。これが、写真6の雲です。そのため、標高4,500m付近の駐車場では、雲に覆われてにわか雨が降りました。

チンボラッソの登山でも似たような天気となりました。朝は快晴、日中はアマゾン側から雲が侵入してきます。この雲は安定層に抑えられて高度が一定なのも同じですね。乾季の典型的な天気変化です。

写真7 アマゾン側から侵入する雲

エクアドルの空は、アンデス側のジメジメ君と太平洋側のサラサラ君の戦いでした。雲がこの戦いをダイナミックに表現しているのを見るのは楽しかったです。

エクアドルの空と山に感謝!グラシアス!!

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

飛行機から見る飛行機雲と雲海

2019-11-17 18:46:33 | 観天望気

飛行機から見る飛行機雲と雲海

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気講座141

2019-11-16 18:47:21 | 観天望気

~エクアドルの気象と空partⅠ~

先日、エクアドルで登山する機会がありました。今回は、そのとき見られた雲についての解説です。

Ⅰ.エクアドルの場所

エクアドルといってもどこにあるか分からない方もいらっしゃると思うのでまずは場所から。エクアドルはスペイン語で「赤道」を意味する言葉。その名のごとく、赤道直下の国です。南アメリカ大陸の北部に位置し、太平洋に面しています。つまり、日本とは太平洋でつながっているんです!

図1 エクアドルの位置

Ⅱ.エクアドルの気候

赤道直下の国だから「さぞ暑いのだろう。」と思いますが、首都キトではそんなことはありません。国の中央をアンデス山脈が南北に走っているので、エクアドルはひとつの国土に、熱帯から寒帯までの気候を持つ、変化に富んだ国です。それでは、エクアドルの気候区分を見ていきましょう。

図2 エクアドルの気候区分

 

1.常春の温帯地域

エクアドルの中央を2本のアンデス山脈が走っています。その間は標高2,000m以上の高原地帯になっており、インカ帝国が栄えた地域でもあります。このエリアには、首都のキトやアンバトなど主要都市も多く存在しています。赤道直下にありながらも標高が高いので、常に春のような気候です。年間を通じて気温の変化は少ないものの、朝晩と日中の気温差は大きく、雨季と乾季もはっきりと分かれています。北に行くほど乾季の期間が短い湿潤な気候で、南に行くほど乾季の期間が長く、乾燥していきます。アンデス山脈の中に火山が数多くあり、標高4,000mを越える地点はもっとも温かい月でも10℃以下となる高山気候やツンドラ気候となり、標高5,000mを越えると氷河が出てきます。

2.暑くて湿潤なアマゾン地域

アンデス山脈の東側は、年間を通じて気温が高く、雨量も多い熱帯湿潤気候です。背の高い、熱帯雨林のジャyングルに覆われています。未開地域もあり、少数民族が居住しています。昔ながらの伝統や習慣を守っている部族もいます。今回の解説で、沢山出てくる「ジメジメ君」の故郷です。

3.太平洋沿岸地域

太平洋の沿岸部は年間を通じて気温が高く、雨季と乾季がはっきりと分かれるサバナ気候です。北に行くほど乾季が短く湿潤で南に行くほど乾季が長く、乾燥していきます。これは、北部にいくほど暖流のパナマ海流の影響を受ける期間が長く、南部ほど寒流のペルー海流の影響を受ける期間が長いからです。パナマ海流は暖流で暖かい海流のため、海水からの蒸発量が多く、雲ができやすいのに対し、ペルー海流は南極から運ばれてきた寒流であるため、赤道に近くても水温は低く、海面近くが冷やされて高気圧ができやすいことや、蒸発する水蒸気量が少ないので、雲ができにくくなります(図3参照)。

図3 海流が気象に与える影響

 

Ⅲ.エクアドルで見られた雲

さて、それではいよいよ登山中や移動中に見られた雲の解説です。私が行動した範囲は、常春の温暖地域と、アンデスの山岳地帯でした。赤道直下にあるエクアドルは、基本的に偏東風(貿易風)と呼ばれる、東風が吹いています。コロンブスはこの風に乗ってアメリカ大陸を発見しました。私がエクアドルに滞在した期間中、この東風が強まる期間と弱まる期間があり、それが天気に大きく影響しました。

また、アマゾン地域は年間を通じて暖かく湿った空気に覆われており、水蒸気量が多い地域です。そのため、東風が吹くと、アマゾン側からの湿った空気(ジメジメ君)が入ってきます。東風が強まると、ジメジメ君が勢いを増して天気が崩れ、弱まるときにはジメジメ君の元気がなくなり、天気が良くなることが多かったです。その辺りを写真で見ていきましょう。

1.弱い西風だった日の雲

この日は、珍しく東風ではなく、弱い西風が太平洋側から吹いてくる日でした。このため、アンデス山脈の間の常春地域では、西側の山に遮られて風が弱く、東からの湿った空気の入りにくいため、朝から良く晴れました。いつもは東側の山から雲に覆われることが多いのですが、この日は西側の山に雲が出ていました。

写真1 ゴンドラの乗り場から西方の山を見る(一番高い山はカヤンベ)

上の写真は、西の空を見たものですが、西側の山並みに添うように雲が出ていることが分かります。山の向こう側(西側)には太平洋があり、海から入ってきたやや湿った空気が、山にぶつかって上昇することでできた雲ですね。ただし、太平洋は前述の通り、寒流が流れていることもあって水蒸気量が少なく、湿っていると言ってもアマゾン側にある「ジメジメ君」ほどではないので、「ちょいジメ君」とでも呼びましょう。

写真2 ビチンチャ山の中腹から南西側を見た空

ゴンドラに乗って標高3,950mの山頂駅に到着。尾根道を登っていくと、それまで見られなかった雲が出てきました(写真2)。晴れた日に良く見られる積雲(せきうん、別名わたぐも)です。この雲は、次のようにできます。

1.山の斜面が日射で温められる

2.温まった斜面に接している空気も温められる

 

3.温まった空気は周囲の空気より軽くなるので、上昇する

4.上昇した空気が冷やされて雲ができる

したがって、周囲より温まりやすい場所の上でこの雲はできやすくなります。斜面の向きと太陽光線の位置関係が重要です。

さて、しばらく歩を進めていくと、空の様子が変わってきました。ひとつひとつの雲の塊が大きくなってきたのです。このように雲の塊が大きくなったものを層積雲(そうせきうん、別名うね雲)と呼びます。

写真3 積雲が層積雲に変わってきた空

積雲と層積雲の見分け方はちょっと難しいですが、このように雲の塊が大きくなってきたのは、上空に少し冷たい空気が入って、広い範囲で上昇気流が起き始めたことによります。

さて、ルク・ピチンチャの山頂に到着する頃は、午後1時を過ぎており、アマゾン側にも濃密な雲が広がっていました(写真4)。

写真4 アマゾン側の雲海

上の写真は、ビエンチャの山頂から南東側を見たもので、写真の奥がアマゾン側になります。アマゾン側では水蒸気が多く、ジメジメ君の存在が分かりますね。

それよりも鳥の方が気になりますよね。これはマダラコシジロカラカラという舌をかみそうな、長い名前の鳥です。エクアドルとコロンビアのアンデス山脈に生息する猛禽類です。

さて、次回はこのジメジメ君がやってきたときの雲をお伝えします。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする