山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

山の天気を学ぶオンライン講座(第2回)のご案内

2022-02-27 17:31:11 | おしらせ

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、まことにありがとうございます。

第2回オンライン気象講座につきまして、申込みが開始となりましたので、以下の通りご案内いたします。
今回は初の試みとなります、アクティブラーニング形式での講座です。
当日は、講師が遭難事例の説明・事故の前後の気象情報等の解説を行い、講師からの問いかけ、参加者の方の意見や質問を受けながら、多角的に事故の原因・対策を掘り下げます。

テーマ:「過去の落雷事故から学ぶリスクマネジメント」
日程:4月3日(日) 
時間:10:00~11:30
講師:猪熊隆之
定員:30名
開催方法:オンラインZoomミーティング
参加要件:カメラ・マイクつきのスマートフォン・タブレット・パソコン(参加者の皆様からも発話していただくため)

オンラインでの講座となりますので、全国の皆様にご参加いただくことができます。(後日、講習を録画した動画をお申し込みの方向けに2週間無料配信します。ご都合が付かずリアルタイム参加できなかった場合、当日回線トラブルがあった場合や、復習にご利用ください。)

参加費につきましては、一般の方は3,500円ですが、ヤマテン会員の方は3,000円となります。なお、開催日2日前となる4月1日(金)以降、キャンセル料がかかりますのでご注意ください。

お申し込みやキャンセル料などの詳細は下記URLをご覧ください。
※定員を越えた場合、申込用のページにアクセスできなくなります。お早めにお申し込みください。
お申込時のメールアドレスにつきましては、ヤマテンにご登録いただいているメールアドレス(ログイン時のメールアドレス)をご記入ください。

■お申し込みページ
https://shop.yama-school.com/store/products/2022-04-03-weather-active-learning


参考書は『山岳気象大全』(P174~184)、『山の天気にだまされるな』(P148~172)、『山の観天望気』(P44~45、60~63、132~142)です。必ずしもご用意いただく必要はありませんが、お読みいただくと理解がさらに深まります。
または、オンライン講習の有料講義動画、「山の天気予報」気象予報士によるオンライン講習会:初級編講義動画「山の天気のキホン」 (2021/03/21開催・収録)の閲覧をお勧めします。
https://shop.yama-school.com/store/products/2021-03-21-basic-record 

講義を受ける際の操作方法につきましては、下記のやまスクのブログにて詳細な解説が記載されております。サポート体制も整えており、不明な点があっても安心です。
https://www.yama-school.com/blog/how-to-attend-zoom-meeting

また、2022年に予定しておりますオンライン気象講座は以下でご確認いただけます。
以下URLより「ヤマテン主催講座」をクリックしてください。
https://www.yamaten.net/workshop


この機会にぜひ受講いただき、登山をより安全に楽しむための一助としていただければ幸いです。
皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

株式会社ヤマテン
気象講習係

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

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猪熊隆之の気象考察 ~西日本の山岳遭難partⅡ~

2022-02-14 15:20:07 | 観天望気

西日本の山岳遭難partⅡ

今回は、2022年2月5日~6日にかけて西日本の山岳で気象遭難が発生したときの状況について解説していきます。

新聞などの報道によると、2022年2月5日に大山を登山中の登山者2名が強風によって八合目付近で動けなくなったと119番通報があり、翌6日に1名が救助されたものの、1名は死亡したという事故がありました。また、2月6日には氷ノ山で男性1名が下山予定時刻に下山せず、翌7日に無事救助されるという事故がありました。

いずれも悪天候による行動不能や、視界不良による道迷いが原因で発生した事故です。それでは、どの位の悪天候になったのかを観測データなどを元に推測していきます。

表1 鳥取市上空のウィンドプロファイラによる風速データ(気象庁提供)

表1は、ウィンドプロファイラの観測による鳥取市上空1kmと2kmの風速です。大山8合目は標高1,550m付近、氷ノ山の山頂が1,510mですから、1kmと2kmの間付近の風速と考えられます。5日は平均で午前中は15~17m/s、午後は16~18m/s前後、6日は16~17m/s前後の西よりの強風が吹いていることが分かります。

さらに、5日から6日にかけて断続的に雪が降り、大山山麓(標高875m)では5日に18cm、6日27cmの降雪を観測しました。氷ノ山東麓の兎和野高原(540m)では5日に61cm、6日に19cmの降雪を観測し、5日は大雪になりました。強風に降雪を伴うと、吹雪になります。平均15m/sを超える状況では猛吹雪となり、数メートル先すら見えない状況になることがあります。悪天はイメージできても視界が見えないことの怖さを想像できる登山者は少ないと思います。雪山は、雪に覆われて斜面の凹凸が分かりにくく、雪庇が張り出している所があります。夏山以上に、視界が悪くなったときのリスクは大きいと認識することが大切です。

さて、こうした大荒れの状況は予想できたかと言いますと、山の天気予報をご利用いただいている方は予想されていたと思いますが、天気図からも想定することができました。PartⅠで地上天気図(予想図)から見分けるコツをお伝えしましたが、覚えていますか?

図1 2月5日12時の地上天気図(気象庁提供)

本州で4本以上、等圧線が走っているときは要注意でしたね!

図1は要注意の天気図ということになります。特に、大山、氷ノ山付近では等圧線の間隔が狭くなっています。

また、シベリアに高気圧、オホーツク海に低気圧があり、日本付近で等圧線が縦縞模様となっていることから、冬型の気圧配置になっています。このようなとき、シベリアから北西の季節風が吹き、それが日本海で温められ、さらに水蒸気の補給も受けて大気が不安定になり、雪雲が発生します。その雪雲が大山や氷ノ山など中国山地にぶつかると、さらに発達して大雪を降らせることがあります。

本州で4本以上等圧線が走っているときの冬型を、強い冬型と言います。そのようなとき、山陰地方や近畿地方北部の山岳では猛吹雪となりますので、猛吹雪による行動不能や低体温症、視界不良による道迷いや雪庇踏み抜き、雪崩、大雪によるラッセル、テント埋没や倒壊、凍傷などのリスクが高まります。自分の行くルートでどのようなリスクがあるのかをしっかりと見極めて、そのリスクに対応できないようであれば、登山計画を変更することを決断しましょう。それが雪山で事故を起こさないもっとも確実な方法です。

文、:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の気象考察 ~西日本の山岳遭難partⅠ~

2022-02-14 15:18:22 | 観天望気

今冬は、氷ノ山や大山など西日本の日本海側の山岳で遭難が相次いでいます。ここ数年、地球温暖化の影響などもあって、西日本の日本海側の山岳では降雪量が少ない傾向が続き、晴天の日も比較的多くなっていました。昔は当たり前だった、吹雪が何日も続くということも少なくなっていて、ここ数年で雪山登山を始めた登山者にとっては、久しぶりのこの地域らしい天気となり、その洗礼を受けた形です。

ここ40年の大山山麓及び、氷ノ山東麓の兎和野高原におけるシーズンごとの降雪量、及び最深積雪の変化を見ていきます。

 

図1 大山山麓の降雪量の年変化(1982-2021年)

図2 大山山麓の積雪の年変化(1982-2021年)

 

年間の総降雪量(正確には日降雪の深さの合計値)は、この40年、減少傾向が続いていることが分かります。それに対して、日降雪50cm以上の日数に大きな変化は見られません。この10年で見ても日降雪50cm以上の大雪は、年に1~2回程度は出現する年が多いことが分かります。

また、積雪の傾向を見ていくと(図2)、一年でもっとも深い積雪を観測したときの積雪深(年最深積雪)は、年による差が大きく、長期的な傾向が見られませんが、2018年頃から少ない年が続いています。3cm以上の積雪日数には大きな変化は見られず、200cm以上の積雪を観測した日数も同様で、年による差が非常に大きくなっています。

 

これらの観測データから、大山山麓では、シーズンの総降雪量は減少傾向にあり、日降雪50cmを超える大雪は年1~2回発生する年が多く、長期的な変化の傾向は見られないこと、年最深積雪など積雪量に関しては、この40年で大きな変化が見られないことが分かります。また、氷ノ山東麓の兎和野高原では、大山山麓ほど明瞭な特徴は見られず、シーズン総降雪量、日降雪50cm以上の日数、日降雪量の最大値ともに大きな変化は見られないことが分かります。

 

図3 氷ノ山東麓(兎和野高原)の降雪量の年変化(1982-2021年)

2021/22年も大雪の期間はあったものの、総降雪量は2月12日現在、大山では平年(1991-2020年)の86%、兎和野高原で同95%と平年並みかそれ以下になっています。日降雪50cm以上の日数は大山1回、兎和野高原で2回と近年の傾向と差異はありません。一方で、積雪深は、大山では2016/17年以来、5シーズンぶりに200cmを超え、兎和野高原でも5シーズンぶりに150cmを超えました。2018/19年以降、3シーズン連続で降雪量、積雪深ともにかなり少なく、今シーズンは久しぶりに平年に近づいたことと、この数年の暖冬少雪に慣れてしまった登山者や、この数年で雪山登山を始めた登山者にとっては、厳しい積雪、気象条件になったことが遭難多発の理由のように思えます。

それでは、具体的に今冬発生した3つの遭難事例について見ていきましょう。

 

●2021年12月25-26日 氷ノ山

キャンプ目的で氷ノ山に入っていた男性5名が下山予定の26日になっても帰宅せず、兵庫県警と消防が捜索に入り、4人が救出されましたが、残る1名が車中で死亡しているのが発見されました。

ネット上で調べた限りでは死因は掲載されておらず、4人が車での脱出を諦めて自力下山したとの記事がありますが、なぜ1名だけ車内に残ったのかなどは良く分かりませんでした。

雪中でのキャンプが目的ということで、大雪の情報が出ていたにも関わらず、現地に赴いたそうです。現場に近い兎和野高原の25日から26日にかけての降雪の観測データを見ていきましょう(図4)。

 

図4 12月25日夕方から26日にかけての1時間ごとの降雪の深さ、積雪深のデータ

25日19時には積雪がゼロであったのが25日夜遅くから26日未明にかけて1時間に5~6cmという非常に激しい降雪が続き、26日の午前中は一旦小康状態になったものの、昼前から再び1時間に3~5cmの降雪が長時間続いて、26日24時には積雪が75cmに達しました。26日21時までの24時間に60cm以上の大雪が降ったことになります。この観測データは標高540mのものです。25日の日中は気温が高く、雨だったのですが、標高が高い氷ノ山では日中から雪が降っていたことを考えると、24時間で100cm前後の降雪になっていた可能性があります。

それではこの大雪はどのようにしてもたらされたのでしょうか?26日午前6時の天気図を見てみましょう。

 

図5 12月26日午前6時の地上天気図(気象庁提供)

オホーツク海と千島列島の東海上に発達した低気圧があり、シベリアには優勢な高気圧があります。日本列島から見て西に高気圧、東に低気圧がある形なので、「西高東低型」あるいは、冬に多く現れる気圧配置なので「冬型」とも言われる気圧配置です。山陰地方から近畿地方北部では等圧線の間隔が狭くなっています。風は等圧線の間隔が狭いほど強く吹くため、氷ノ山や大山の上部では暴風が吹き荒れていることが分かります。この天気図のように、本州付近で4本以上線が走っているときは、日本海側の山岳で猛吹雪になることが多く、注意が必要です。

 

また、上空に強い寒気が入ると、日本海の暖流によって温められた海面付近の空気との温度差が大きくなり、大気が不安定になって雲がやる気を出します(雲が上へと成長していく)。発達した雪雲が山にぶつかるとさらに、雪雲は成長して大雪を降らせる雲になっていきます(図6)。

 

図6 日本海で雪雲ができる仕組み(山岳気象大全「山と溪谷社」より)

そのため、上空に強い寒気が入っていると、大雪になることがあります。上空の寒気は上空3,000m付近の700hPa面と、5,500m付近の500hPa面の気温予想図で確認しましょう。

 

●雲がやる気を出す(雪雲が発達する)条件

3,000m上空(700hPa面) マイナス21℃以下

5,500m上空(500hPa面) マイナス30℃以下(西日本)、マイナス36℃以下(北陸、北日本)

 

上記のいずれかひとつに該当するときは大雪に警戒が必要ですので、3,000m上空と5,500m上空の気温予想図で確認してみましょう。

 

図7 3,000m上空(700hPa面)の気温予想図(i.yamatenki.co.jp/ 山の天気予報より)

図8 5,500m上空(500hPa面)の気温予想図(i.yamatenki.co.jp/ 山の天気予報より)

図7、8より氷ノ山付近では3,000m付近でマイナス21℃以下、5,500m付近ではマイナス27℃前後の寒気に覆われていることが分かります。つまり、雪雲が発達しやすい条件にひとつ当てはまることになります。

また、このときは、JPCZと呼ばれる日本海寒帯気団収束帯が発生しました。これは風と風がぶつかる所で、そこでは上昇気流が強まり、雲がやる気を出しやすくなります(図9)。

 

図9 風と風がぶつかる所では雲がやる気を出す(山岳気象大全「山と溪谷社」より)

JPCZが現れるかどうかを見分けるコツは次の通りになります。

 

1.地上気圧+降水予想図で、強い降水域が線状に表現されている(図10)

2.850hPa面の気温予想図で等温線が楔状に、気温が高い方から低い方へ張り出している(図11)

これらの条件が揃ったため、大山や氷ノ山など山陰地方の山岳では大雪となりました。このようなとき、過去に大山でも雪崩の事故が発生しています。今回はキャンプ目的の方の遭難でしたが、登山者にとっても危険な状況であることに変わりありません。

PartⅡでは、大山で発生した遭難について見ていきます。

 

文、:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

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全国積雪深ランキング(2月6-7日)

2022-02-09 22:13:53 | 日記
明日は関東甲信で大雪予想となっていますが、今年は久しぶりに山雪型の冬型になる日が多く、飯山や妙高など10年ぶりの積雪になっている所もあります。2月6日-7日の全国積雪深ランキングです。
 
スキー場や温泉など人が常住していない場所を含む
1.奥只見丸山(新潟)616cm(標高1200m)
2.火打1号ダム(新潟)560cm(標高800m)
3.六十里(新潟) 529cm(標高860m)
4.銀山平(新潟) 502cm(標高769m)
5.鍋越峠(山形) 451cm(標高616m)
※立山カルデラ博物館で観測している室堂、国立登山研修所冬山前進基地はのぞく
 
集落がある場所
1.清水(新潟) 419cm
2.上蝦池(新潟) 405cm
3.小栗山(新潟) 386cm
4.妙高高原(新潟) 354cm
5.松之山(新潟) 350cm
※日本一の雪国宣言をしている西川町志津では304cm(防災科学技術研究所雪氷防災研究センターの観測)
 
市町村(平成の大合併前)の中心地
1.津南(新潟) 355cm
2.松之山(新潟)350cm
3.入広瀬(新潟)334cm
 
アメダスの観測
1.酸ヶ湯(青森) 439cm
2.津南(新潟) 355cm
3.肘折(山形) 331cm
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猪熊隆之の観天望気講座179

2022-02-09 12:18:44 | 観天望気

厳冬の利尻で見られた雲 ~低気圧の眼~

12月中旬から1月初めに利尻島に滞在していました。意外なことに(?)、利尻島に行くのは初めてでした。それも2週間という長期間、島に滞在できる機会が来るとは!

厳冬期の利尻島といえば、どういうイメージを思い浮かべるでしょうか?暗灰色の雲、荒れた海、白一色の世界・・・。私はそんな印象を持っていました。天気に関しても冬型の気圧配置が続いて、毎日厚い雲に覆われて吹雪になったり、少し晴れ間が出たりといった、故郷の新潟のような天気を想像していましたが、30~40年前の冬の新潟の天気そのものでした。雪は新潟よりサラサラでしたが。

ただし、冬型の気圧配置といっても同じような天気がずっと続くのではなく、日によって変化があり、風がある日とない日、大雪が降る日と降らない日、晴れ間が出る日と出ない日、など一日として同じ天気はありません。雲も変化が激しく、雲が語ってくれる空の気持ちを理解するのに、頭をフル回転し続けてました(笑)。

その中で特に興味深かったのが、“低気圧の眼”に覆われたときの天気です。台風の眼は聞いたことあるけど、“低気圧の眼”なんて聞いたことないぞ、と思われることでしょう。低気圧も種類によっては、眼が出来ることがあります。

Ⅰ.台風の眼

台風や低気圧の周辺には発達した雲があるのが普通ですが、その中で中心付近だけポッカリと雲のないエリアができることがあります。この晴天域のことを台風や低気圧の眼と呼びます。さて、台風の眼は強い勢力を持つものにしかできません。台風が勢力を増していくと遠心力が強くなり、中心付近に吹きこめなくなった風が中心の外側で上昇させられて眼の壁(アイウォール)と呼ばれる発達した積乱雲群が形成されます。そこが台風周辺でもっとも激しい暴風雨になる所ですが、その内側(中心付近)は、上昇流を補うための下降流場になっています(図1)。空気は下降すると温められるので、雲は蒸発して消えていき、晴天域になるのです。

図1 台風の眼ができる仕組み(「山岳気象大全」山と溪谷社より)

Ⅱ.低気圧の眼

低気圧の眼ができる仕組みは次の3つのパターンに分かれます。

1.発達した低気圧で台風と同じ理由で眼ができる場合

2.発達した低気圧、あるいは閉塞期(最盛期に達した後)の低気圧で乾燥域が中心付近に入り込むもの

3.上空に寒気を伴う小さな低気圧で、中心付近が下降流域になり、眼ができる場合

今回、利尻で見られた低気圧の眼は3に該当します。眼が現れたのは3回で、眼が大きかったとき(2021年12月21日)と小さかったとき(2021年12月22日)に分かれます。それぞれどのような天気になったのかを見ていきましょう。

眼が大きかったとき

14日間のうち、利尻山が見えたのはわずか3回。そのうちもっとも長い2時間程度、利尻山が見えたのは眼が大きかったときです。

写真1 奇跡的に青空が広がり、利尻山が姿を現す

このとき見た利尻山は、荘厳なまでに気高く、近づきがたい美しさで屹立していました。撮影場所は、夏は観光地として賑わうオタトマリ沼。この時期は、道が除雪されておらず、訪れるものといったらカラスと私たちだけ(笑)。

なぜ、眼が大きいと晴天の時間が長くなるのでしょうか。その理由を雨雲レーダーから見てみましょう。

図2 低気圧の眼周辺の降水強度

このときの雪雲の様子をLFM(局地モデル)の降水強度で見てみましょう。色が水色→青→黄緑→黄色となるにつれて雪が強く降っていることを示しています。低気圧の中心付近が眼で雪が降っていないエリアが広がっています。それを取り囲むように雪雲が連なっていて、この下では雪となっています。眼が大きい程、雪が降らないエリアが広くなるので晴天が長続きするのです。

写真2 眼の周囲の雲

東の方向を見ると雲がやる気を出していました。いわゆる積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)が晴天域を囲むように連なっています。これが先ほど述べた、低気圧の眼の外側にある降水域です。低気圧の周りは中心に向かうような風が吹いています。これは低気圧の中心と外側との気圧差によって生まれる風ですが、このタイプの低気圧は中心付近で気圧差がなくなる(図3)ので、中心に入る手前で風はそれ以上吹きこめなくなり、上昇していきます。その上昇気流が写真2の白い矢印の部分です。この上昇気流によって雲が発生し、このときのように上空に寒気が入るとやる気を出して積乱雲に成長していくのです。一方、それより内側ではこの上昇気流を補うように空気は下降していきます。下降気流により、雲は蒸発して消えていきます。そのため、低気圧の眼では雲がない晴天域になるのです。しかしながら、低気圧は動いていきますので、やがては眼の範囲から外れていくため、好天は長くは続きません。

図3 眼が大きいタイプの低気圧

眼が大きいタイプの低気圧は、低気圧を囲む等圧線の間隔が広く、低気圧の中心付近で気圧差が小さくなります。

眼が小さかったとき

一方、眼が小さいときの低気圧は、中心を取り囲む等圧線の間隔が狭くなります(図4)。気圧差が小さい範囲が狭くなるので、低気圧の中心に近い所まで風が吹き込みます。そのため、下降気流となる範囲が狭くなって晴天域が小さくなるのです。

図4 眼が小さいタイプの低気圧

このときは、朝のうちの30分程だけ姿を現してくれました(写真3)。

写真3 一瞬、姿を現した利尻山

この後、ものの30分ほどで猛吹雪になりました(写真4)。

写真4 吹雪になった利尻

Ⅲ.利尻島は低気圧が生まれる場所

そもそも低気圧の眼が利尻付近で頻繁に出現するのはどうしてでしょうか?それは、利尻島が眼のできやすい低気圧が生まれる場所だからです。利尻付近には冬季、シベリアからの冷たい季節風が吹きつけます。一方、日本海に沿って暖流が流れているため、この冷たい季節風は下の方で温められて周囲に比べて気圧が低くなります。さらに、利尻島や礼文島と北海道の間を吹き抜ける風や、礼文-利尻を西側から回りこむ風などが複雑にぶつかり合って渦を形成することが多く、ここで低気圧が生まれやすいのです(図5)。

図5 利尻で低気圧が生まれやすい理由

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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