山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座115

2018-08-26 19:43:25 | 観天望気

今回は笠雲(かさぐも)がテーマです。

先日、蓼科山に笠雲がかかっていました。蓼科山に、綺麗な笠雲がかかるのは珍しいことです。

笠雲と言えば、富士山が有名ですね。また、「笠雲がかかると雨が降る」と古くから言われるように、山に笠雲がかかると天気が崩れることが多くなります。

写真1 蓼科山にかかる笠雲

それでは、どうして笠雲ができると天気が崩れやすくなるのでしょうか?

まず、笠雲ができる原理を見ていきましょう。

図1 笠雲ができる仕組み

水蒸気を含んだ空気が山にぶつかり、斜面を上昇していくと、空気の中にある水蒸気が冷やされて雲粒に変わっていきます。

それが笠雲です。このとき、大気が比較的安定していると、雲はやる気を出せず、上にモクモクと成長していくことはできません。

また、風が強いと雲が風によってなめらかな形になります。

ということで、綺麗な形の笠雲ができるためには条件は次の2つになります。

1.上空の風が強いとき

2.山頂と同じ高さの空気中に水蒸気が多いとき

これらの条件が揃うのは、低気圧が発達しながら日本海を進んでいくときや、太平洋高気圧の縁を湿った空気が入ってくるときなどです。

そのようなとき、天気が崩れることが多く、「笠雲が現れると雨が降る」ということわざは、当たる方のことわざになります。

特に、二重、三重の笠雲になるときは、山では大荒れの天気になることが多くなります。

写真2 富士山にできた三重の笠雲(mt.fujiライブカメラ絶景くんより http://www.vill.yamanakako.yamanashi.jp/zekkei/)

しかしながら、笠雲が出来ても天気が崩れないこともあります。

低気圧が通過した後、湿った空気が残り、風が強いときにできる笠雲です。

こうしたときは、笠雲が段々減っていきます(山岳気象大全第1章17ページの図)ので、笠雲の変化を見ていきましょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座114

2018-08-26 19:33:25 | 観天望気

今回は“見える雨”についてです。

「雨が見えるのは当たり前じゃん!」とせせら笑ったそこのあなた。

これはその場で降っている雨が見えるということではなく、遠くで降っている雨のことです。南の島で遠くのスコールを映している映像を見たことがあると思いますが、あれのことです。

実は、遠くで降っている雨や雪を見ることは簡単です。珍しい現象ではありません。実際、八ヶ岳山麓に住んでいる私はしょっちゅう見ています。それでは「そんなのウソだ。私は見たことがない!」とお怒りのあなた。それはビルの中で生活していると、なかなか見ることができないのです。スカイツリーやあべのハルカス、ランドマークタワーなどの最上階で仕事をしていれば、きっと容易に見ることができるはずです。

つまり、周囲に建物がない、空が広く見える場所であれば、誰でも見ることができるのです。

ということは、登山中、景色の良い場所を歩いていれば見えるチャンスがあるということです。遠くで降っている雨、特にスコールのような局地的な激しい雨は美しいものです。私なんかもついつい、カメラを構えてしまいます。

ということで、撮った写真が以下のものです。

写真1 事務所から東の八ヶ岳方向で見られたスコールを撮影

写真2 スコールは右側へ移動しながら強まっていく

でも喜んでばかりもいられないのですね。

「このスコールが自分の所に来てしまったら・・・。」「雨だけでなくて雷まで引き連れてきたら・・・」ということになる訳です。

まあ、山小屋の中にいる場合には、のんびりコーヒーでも飲みながら、高見の見物ということになりますが。

こうしたリスクを避けるためには、スコールの動きを見ておきましょう。どちらからどちらに動いているか。その場合、目印を決めておくといいでしょう。例えば、今、スコールの右端が〇〇山の肩にかかっているとすると、数分後にスコールの右端がどこまで動いているかを確認します。写真1、2の場合、画面の左から右側にスコールが動いていきました。奥側から手前に動いてくる場合は、ヤマテン事務所を直撃する可能性がありますが、今回は大丈夫そうですね。 

もうひとつ、便利な機能があります。ネットが通じる所であれば、雨雲レーダーを確認しましょう。ヤマテンの会員の方は、自分のいる山の天気予報ページにあります。その動きを確認し、自分のいる場所に迫ってきているときは要注意です。ヤマテンのページは山の位置も入っているので確認しやすいですね。

図1 雨雲レーダー(今回のスコールは図の緑色のカコミの中。青い三角印は赤岳の位置。気象庁提供の図を加工したもの)

もうひとつ使えるのが上空の風。積乱雲は、その高さの中間位の高度、500hPa(高度約5,800m)面の風に流される傾向がありますので、500hPa面の風向をチェックします。

ヤマテン会員の方は「専門・高層天気図」ページの500hPa気温をチェックしましょう。

図2 500hPa面の風

上図で確認しますと、14日の午後は北西風が吹く予想です。このため、写真では左(北西側)から右(南東側)へスコールが動いていきました。

もちろん、積乱雲の動きは新たな雲の発生によって変わったり、飛び火することもありますが、どちらで発生する積乱雲が危ないのかを知る目安になります。

ぜひご活用ください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座113

2018-08-22 17:47:51 | 観天望気

ご無沙汰しております。今回は、7月10日(火)~11日(水)におこなわれた、岩手山での空見ハイキング時に見られた雲についての解説です。

この時期の東北地方は、例年、梅雨真っ盛り。それならなぜこの時期にツアーを設定したかと言うと、東北随一のコマクサ大群落を見るためです。

私は花好きなので、花が咲く時期には花見&空見ハイキングとなります。

さて、まずは登山前に気象リスクについて考えるために、この日の天気図を見てみましょう。

図1:7月10日6時の天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

上図をご覧いただくと、北海道の渡島半島付近に梅雨前線があります。岩手山はその南側に入り、前線に向かって暖かく湿った空気が入りやすい場所にはありますが、等圧線の間隔は広く、前線から多少、距離もありますので、雲は広がるものの、日中は大きな天気の崩れはないと予想しました。

昼前からの登山になりますので、避難小屋着は夕方になってしまいます。そこで、積乱雲の発達が心配になりますので、500hPa(高度約5,800m)の気温を見ると(図2)、特に強い寒気がないので落雷や強雨のリスクは少ないと判断しました(下層の暖かく湿った空気の流入も別の予想図を見て弱いことも判断の理由のひとつ)。

図2:7月10日15時の500hPa気温予想図(山の天気予報「専門・高層天気図」https://i.yamatenki.co.jp/ より)

また、10日21時の予想天気図を見ると、

図3:7月10日21時の予想天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

 前線の位置がわずかに南下しています。つまり、夜からは天気が崩れてくる可能性があった訳です。等圧線の間隔は広がっているものの、前線の南側では風が強まることが多く、風の強まりも予想しました。

さて、今回のように、停滞前線の南側に入るとき、どのような雲が見られるでしょうか?

図4:梅雨前線の構造と雲の分布(山と渓谷社「山岳気象大全」第4章より)

岩手山は前線の南側なので、上図で言えば、Gの辺りに位置します。ということは、積雲が発生しやすい場所ということになりますね。

さて、実際はどうだったでしょうか?

写真1:中腹から盛岡方面(南東方向)を見る

山腹に雲が発生していますが、これが積雲です。また、遠くには積雲がやや成長した(やる気を出し始めた)雄大積雲も浮かんでいます。

イメージ通りですね!さて、手前側の山腹にある雲はどのようにできたのでしょうか?

図5:山で雲が発生した理由

上図のように、北上平野(写真1の奥の方角)から入ってきた湿った空気が岩手山にぶつかって上昇してできた雲です。

上層に寒気が入るなど大気が不安定な状態だと、雲がやる気を出して落雷や強雨をもたらす積乱雲となっていきますが、この日はやる気がなく、中腹辺りで蒸発していました。この上昇気流は、晴れて風が弱い日の日中に発生する谷風によって発生したものです(図6参照)。

図6 岩手山山腹で発生した雲と谷風

さらに登っていくと、面白い雲が見られました。

写真2 壁のように立っている雲

 この雲は写真右手からのやや乾いた空気(橙色の矢印)と、奥側からの湿った空気(水色の矢印)がぶつかって上昇したためにできた雲です。

奥側から押し寄せてきた雲は、右側からの風によって押し戻されて上昇せざるをえなくなり、壁のように立った雲になったのです。

これは、岩手山を回り込んだ空気同士がぶつかったために発生した感じですね(図7参照)。

図7 岩手山を回り込んだ空気がぶつかり合い、さらに谷風が湿った空気を運ぶことでできた雲

 雲や景色を楽しみながら、夕方に避難小屋に到着。今日はここで泊まります。

そこで、明日の予想天気図を確認しました。

図8 7月11日9時の予想天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

これを見ると、梅雨前線は今日よりさらに南下し、岩手山に近づいてくることが予想されています。

つまり、明日の午前中は風雨が強まることが予想できる訳です。岩手山山頂付近は強風帯として知られています。

ということは、明日の登頂は厳しいかもしれない。ということで、元気なお客様は、今日中に登頂することにしました。

空を見上げると、日本海の方角に雨雲が(下の写真の赤いカコミ部分)。

天気は西から崩れることが多く、今日も上空は西風が吹いていたので、日本海、つまり西の空に雨雲があるということは、まもなく雨が降るということになります。

しかしながら、にわか雨は降っても、天気の本格的な崩れは夜になってからと予想していたので、山頂を目指すことにしました。

写真3 日本海方向に現れた雨雲

予想通り、途中で雨が降り出しましたが、風は弱く、強い雨にはならなかったのでそれほど濡れませんでした。

また、視界が良く効いたので遠くまで見渡すことができました。

写真4 日本海方向からの湿った空気の存在を教えてくれる雲

山頂から日本海の方向を見ると、低い雲がもくもくと押し寄せてきています。これが日本海の上でたっぷりと水蒸気を含んだ空気の正体です。

雲はいつでも空気の気持ち(状態)を教えてくれてます。

翌日は予想通り、風雨が強くなり、登頂を諦めて引き返す人もいましたが、何とかお鉢を越えて焼走りルートのコマクサを見ることができました。

満開のコマクサを思う存分、満喫できました。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 

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【重要】「山の天気予報」の表示不具合解消のお知らせ

2018-08-12 06:25:52 | おしらせ

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、誠にありがとうございます。

本日、システムに不具合が発生したため、「山の天気予報」パソコン版の予報ページが閲覧できない状況となっておりましたが、6時20分頃に復旧し、現在は正常に閲覧できるようになっています。

この度はご不便、ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。

引き続き、「山の天気予報」への変わらぬご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

山の天気予報
システム担当

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【重要】「山の天気予報」サイト表示不具合につきまして

2018-08-12 06:03:15 | おしらせ

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現在、パソコン版の「山の天気予報」サイトにおきまして、一部ページが正常に表示されない障害が発生しております。

【障害内容】
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https://i.yamatenki.co.jp/smartphone/login.cgi
(スマートフォン版のページは、パソコンからでも閲覧することが可能です)

障害が復旧しましたら、改めてお知らせいたします。
ご不便、ご迷惑をおかけしておりますこと、心よりお詫び申し上げます。

山の天気予報
システム担当

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