山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気196回 雲のやる気がなくなっていくとき ~山頂で観天望気 in 車山(長野)~

2023-05-31 16:43:54 | 観天望気

雲がやる気を出すときは、さんざんご紹介してきましたが、今日は逆に、雲がやる気を出さなくなってくる日の空についてです。

猪熊の講座では、雲がモクモクと上方へ成長していくことを「雲がやる気を出す」と言い、逆に雲が上に成長していかない場合を「雲がやる気を出さない」と言います。雲がやる気を出す条件は、

1.上空に強い寒気が入ってくる(地表付近と上空高い所との気温差が大きい)

2.地上付近に温かく湿った空気が入る

以上の2点でした。

図1 5月27日(土)午前9時の地上天気図(気象庁ホームページより)

上の天気図を見ると、日本の東海上には高気圧があり、高気圧から西側へと等圧線(天気図上に書かれている線)が張り出しています。地形の尾根と同じで、高気圧(地形では山頂)から気圧が低い方へ張り出す線を結んだところを“気圧の尾根”と言います。ここでは、高気圧の中心付近と同様に、下降気流が起きて天気が良くなります。今回は、高気圧から延びる尾根に覆われて2の条件には当てはまらないので、1について確認します。1の確認方法は、193回で以下のことを学びました。

 

  • 850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)
  • 850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い)
  • 850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

 

今回は、500hPa面の気温だけで確認していきます。この時期はマイナス15℃以下の寒気が入ると、雲がやる気を出しやすくなります。そこで、500hPaの気温予想図を確認していきましょう。

図2 500hPa面の気温予想図(27日午前6時の予想) ヤマテン「山の天気予報」より

天気図を見ると、朝の時点では、車山付近(△印)では500hPa面(上空約5,700m)でマイナス12℃位の気温です。出発前(10時30分頃)には積雲(せきうん、別名わた雲)が少しやる気を出していき、入道雲(にゅうどうぐも、正式には雄大積雲)に成長していきました(写真1)。

写真1 入道雲が周囲で成長してきた

午前10時頃に、この位の雲ができるのは、夏では当たり前で特に危険な状況ではありませんが、午前6~7時頃の早い時間に、こうした雲が周囲で見られるときは、その日の昼前から、雲がやる気を出して雷雲(かみなりぐも、別名積乱雲)ができやすくなります。

出発時には、別の方角にも入道雲が湧き立っていき、雲の底も暗くなってきました(写真2)。

写真2 車山上空でやる気を出し始めた雲

しかし、この日は次第に雲がやる気を失っていき、車山の山頂に立つ頃にはおとなしくなってきました。

写真3 やる気を失ってきた雲(積雲)

雲がやる気を失ってきているのは、雲の上の部分がモクモクとしたカリフラワー状やソフトクリームのような形から、写真3のように扁平な形になってきているときです。こうなると、雷や強雨のリスクは小さくなります。通常は、地上の気温が上昇していく日中は、上空との温度差が大きくなっていくので、次第に雲がやる気を出していくのに、これはどうしたことでしょうか?

その原因を500hPa面の気温予想図から見ていきましょう。

図3 500hPa面の気温予想図(27日15時の予想) ヤマテン「山の天気予報」より

上図は、15時の予想図ですが、車山付近(△印)でマイナス9℃位になっています。午前6時(図2)はマイナス12℃でしたので、3℃上がっています。このように上空の寒気が次第に抜けて気温が上がっていくようなとき、地上との温度差が小さくなっていくので、雲はやる気を失っていくのです。逆に、上空の寒気が次第に強まっていくときは、雲がどんどんやる気を出していきます。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲のワンポイント講座 第16回 富士川に沿って湿った空気がやってきた

2023-05-15 11:53:00 | 観天望気

今日(2023年5月13日)は、富士川に沿って湿った空気が入ってきた様子を雲が教えてくれました。

 

写真1 富士川に沿って入ってきた水蒸気による雲

さて、なぜ富士川に沿って湿った空気が入ってきたかと言うと、湿った空気は、山にぶつかると、そこで堰き止められるので、谷や川に沿って内陸の方に運ばれていきます。今日は高気圧が東に抜けて南風が吹く気圧配置でした。風は気圧が高い方(高気圧の方)を右手に見て、等圧線に沿って吹くので、天気図(図1)を見ると、南風になることが分かります。

 

図1 5月13日(土)午前9時の天気図

そのため、富士川に沿って南から水蒸気が運ばれてきました。その水蒸気を含んだ空気が山の斜面で上昇させられて雲を作っています。左の写真はまだ、水蒸気がそれほど多くなかったと昨日(5月12日)の写真、今日は水蒸気が多くなって雲の量や厚みが増してきています。

 

雲は色々なことを教えてくれるので、雲を見るのはめっちゃ楽しい!

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山の天気を学ぶオンライン講座(第4回)のご案内

2023-05-07 11:50:57 | おしらせ

山の天気予報会員各位

6月11日(日)開催の第4回オンライン気象講座につきまして、申込みが開始となりましたので、ご案内申し上げます。

テーマ:「梅雨・夏山の気象」
日程:6月11日(日) 

●初級編「これだけは知っておきたい!夏山の天気入門と梅雨の気象リスク」 10:00~11:30
参考資料:山岳気象大全(猪熊隆之著・山と溪谷社)P154~184

●中級編「衛星画像や高層天気図から予想する梅雨と夏山の気象リスク」 13:00~15:00
参考資料:山岳気象大全(猪熊隆之著・山と溪谷社)P108~109、P112~122

講師:渡部均
※講師は変更となる場合があります。
定員:各回とも70名
開催方法:オンラインZoomウェビナー

オンラインでの講座となりますので、全国の皆様にご参加いただくことができます。
また、通常の机上講座同様、質疑応答も可能となります。(後日、録画分の配信を3週間予定しております)。

参加費につきましては、一般の方とヤマテンフリー会員の方は3,500円ですが、ヤマテンプレミアム会員の方は2,500円となります(初級編、中級編両方をお申込みの方は一般の方とヤマテンフリー会員の方は6,500円、ヤマテンプレミアム会員の方は4,500円と、別々にお申し込み頂くより500円割引になります)。なお、6月9日(金)以降、キャンセル料がかかりますのでご注意ください。

お申し込みやキャンセル料などの詳細は下記URLをご覧ください。
※定員を越えた場合、詳細ページにアクセスできなくなります。お早めにお申し込みください。
お申込時のメールアドレスにつきましては、ヤマテンにご登録いただいているメールアドレス(ログイン時のメールアドレス)をご記入ください。

初級編 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-06-11-summer-weather-basic

中級編 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-06-11-summer-weather-mid

初級編・中級編セット 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-06-11-summer-weather-basic-set

講義を受ける際の操作方法につきましては、下記のやまスクのブログにて詳細な解説が記載されております。サポート体制も整えており、不明な点があっても安心です。
https://www.yama-school.com/blog/how-to-attend-zoom-webinar

この機会にぜひ受講いただき、登山をより安全に楽しむための一助としていただければ幸いです。
皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

株式会社ヤマテン
気象講習係

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪熊隆之の観天望気195回 冬型が弱まるときの雲partⅡ ~山頂で観天望気 in 上蒜山(岡山・鳥取)~

2023-05-04 19:00:32 | 観天望気

前回に続き、上蒜山で見られた雲についての解説です。PartⅡでは雲を見ることで、今の空気の状態を知り、今後の天気変化を考えていきましょう。さて、当日は、岡山県真庭市にある蒜山高原の宿で目が覚めました。カーテンを開けると、暗雲が垂れ込めて雨が降っています。蒜山三座も雲の中です。

 

写真1 早朝は雨が激しく降っていた

この雨の原因を考えると、1.冬型の気圧配置となっていて、日本海からの湿った空気が入ってきていること 2.上空の寒気が抜けておらず、雲がやる気を出していること

 

が考えられます。冬型の気圧配置のときに、日本海でできる雲は、筋状の雲と呼ばれ、雲ができている長細い部分と雲がない部分が交互になっています(図1)。日本海で筋状の雲ができる仕組みについては、89回partⅡ https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/83599c4fc972222a188ab4bb5b89e756 をご参照ください。

日本海側の沿岸部では、冬型の気圧配置のとき、筋状の雲に覆われると吹雪や風雨となり、雲がない部分に入ると晴れるという、猫の目のような天気になります。山沿いでは、日本海からの水蒸気が山の斜面で上昇するため、雪が止むことはなく、筋状の雲がかかると雪が強まり、それが抜けると弱まるという降り方を繰り返します。

 

図1 冬型のときに日本海で現れるすじ状の雲

そして、上層の寒気が強いときは、雲がやる気を出して、高い所まで成長するので、西日本の標高1,500m級の山を越えて風下側にも雪雲や雨雲が侵入してきます。当日の朝、雨が強く降ったのは、この雨雲が入ってきたからに他なりません。ただし、筋状の雲の幅は小さいので、その後は青空が広がり、地上から雲が立ち昇っていく様子が見られました。

 

写真2 晴れ間が出て、地上から雲が立ち昇っていく様子

地上から立ち昇っていく、この雲ができる仕組みについては、「雲のワンポイント講座13回」( http://sora100.net/1pointcourse/2976 )に詳しく書かれています。

 

さて、筋状の雲は、日本海で吹いている風向きによって流されていきます。このときは北西風(前号参照)だったので、北西から南東に流されていきます。そのため、今後数分から数十分といった直近の予想を知りたい場合は、風上側の北西側の空を確認します。暗い感じの雲であれば、まもなく雨が降ってきますし、青空が広がったり、明るくなっていれば天気が回復する可能性があります。ただし、北西側に高い山が連なっている場合は、山の上の空が暗くなっても山を越えると下降気流で雲が弱められるので、天気が悪化しない場合もあります。

 

もう少し長めの数十分から1、2時間後の予想を知りたい場合には、西側の空を見ます。冬型が弱まっていくときは、西から乾いた空気が入ってくるので、雲は北西から南東に流されながらも、西から東へ徐々に動いていくからです。スタート時は、次の筋状の雲がかかって再び雨になりましたが、出発すると写真3のように、西側の空が明るくなってきました。

 

写真3 西の空が明るくなってきた様子

このように、西の空が少し明るくなってきたときは、今後数十分は雨は小康状態になり、晴れ間が出てくる可能性が高くなります。

 

日中になると、次第に冬型が弱まって、日本海からの風が弱まり、その分、水蒸気が入りにくくなってきたことと、上層の寒気が抜けて、雲がやる気を出せなくなってきたことから、雲のてっぺんの高さが低くなって、山を越えると弱まっていくようになりました。

 

写真4 山にかかる雲と、山を越えて弱まる雲

写真4は、左側が北側、右側が南側の空になります。日本海の方角(左側)から入ってきた雲が蒜山の山で上昇してやや成長し、山を越えると下降して消えていく様子が良く分かります。

 

さらに上層の寒気が弱まり、雲のやる気がなくなっていくと、山を越えられず、山を挟んで日本海側が霧、反対側が晴れといった対照的な天気になります。

 

写真5 山を挟んで日本海(左)側が霧、蒜山高原(右)側が晴れている様子

山を越えられなくなった雲は、山と山の間にある低地や谷に沿って進むようになっていき、大山から蒜山に連なる山並みと、その南側に連なる山との間に雲が侵入してきました。

 

写真6 谷間を通っていく雲

特に、大山の西側を回り込むように入ってきた北西風と、蒜山の東側にある低い場所を通り抜けてきた風がぶつかる所では、雲が少しやる気を出していきました。

 

図2 蒜山周辺の地形図

写真7 雲と雲がぶつかり合ってできた雄大積雲(入道雲)

さて、写真7のようなシュークリームのような雲が朝早い時間から出ているときは、その日の昼前から積乱雲(雷雲)が発達して落雷や強雨のリスクがあるので、昼頃までにはそれらのリスクから身を守れるような場所に移動するようにしましょう。また、行動中は、雲がやる気を出していかないかどうかを確認するようにしましょう。今回は、上層の寒気が抜けていく局面でしたが、逆に寒気が入ってくるようなときは、朝早い時間でなくてもリスクが大きく、特に風上側にこれらの雲が現れるときは、早めに避難をした方が良いでしょう。

 

空気は残念ながら、私たちには見えませんが、その見えない空気の“気持ち”を私たちに伝えてくれるのが雲です。雲は空の翻訳者と言えます。今回も沢山のことを、雲が教えてくれましたね。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲のワンポイント講座 第15回 色々な雲が共演した空

2023-05-04 18:57:20 | 観天望気

今回は、写真1に見られるように、一枚の写真で色々な雲が見られましたので紹介していきます。

 

写真1 一枚の写真に色々な雲が

1.波状雲

雲が波を打ったように見えることから波状雲と呼ばれています。空気中に発生した波によって発生します。

2.レンズ雲

凸レンズのような形をしたレンズ雲は、上空の風が強い時に現れやすい雲です。山では強風のサインとなる雲で、悪天の前兆となることもあります。

3.ひつじ雲(高積雲)

ひつじの群れのような雲で、高積雲と呼ばれる雲の別名です。第12回(http://sora100.net/1pointcourse/2958)で紹介したように、ひつじ雲からおぼろ雲へと変化する際は、天気が崩れていくことが多くなります。

3-a.尾流雲

モヤモヤっと見えている部分は、ひつじ雲が蒸発している様子です。

4.おぼろ雲(高層雲)

ひつじ雲とは違い、空一面にムラのないこの雲は、おぼろ雲(高層雲)と呼びます。おぼろ雲は太陽がおぼろげに見えることから名づけられました。

皆さんも、ぜひ色々な雲を見つけてみてください。

 

文:窪田純(株式会社ヤマテン)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

https://lp.yamatenki.co.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする