山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座150

2020-03-30 22:26:29 | 観天望気

北八ヶ岳空見ハイキングで見られた雲partⅡ

前回に続き、北八ヶ岳の空見ハイキング時に見られた雲についての解説です。今回は、登山中に見られた雲についての紹介です。

PartⅠでは、高気圧が北に偏って張り出すと、関東地方では湿った北東風が吹くため、どんよりとした曇り空となり、風下側の甲府盆地側では天気が良くなることを学びました。ただし、この日に限っては、甲府盆地でも富士川からの湿った空気が入って雲が多くなりました。一方、湿った空気が入りにくい八ヶ岳では好天に恵まれました(写真1)。

写真1 波打ったような雲が広がる

写真1は、北八ヶ岳ロープウェイから見た空です。青空が広がっている中に、幾筋もの雲の連なりがあります。このような雲を波状雲(はじょううん)と呼びます。空気が波を打ってできる雲で、2つの異なる空気の層が隣り合っているときに発生します。詳しくは、観天望気講座104回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/aacf74d5655eb3aa18757eaae0cc8f00 をご参照ください。

さて、観天望気講座では雲の話ばかりしていますが、植物から天気を学ぶこともできます。写真2の植物(オオシラビソ)は、片方だけに枝が延びています。これは、木が強風にさらされ続けた結果、低温と乾燥によりその部分の枝葉が枯れ落ちてしまう現象で、偏形樹(へんけいじゅ)と呼びます。高山帯ではよく見かける現象ですね。

枝が延びていない方角から風が吹きつけているので、この場所では写真右側(西側)から強い風が吹きやすいことが分かります。つまり、西風が吹くことが多い訳です。

写真2 縞枯山で見られた、枝が片方だけに延びた木

さて、ロープウェイ山頂駅を降りて縞枯山に向かいます。山頂付近の開けた場所からは南八ヶ岳はもちろん、南アルプス、中央アルプス、御嶽から北アルプスの山並みが見渡せました。空の方は、先ほど広がっていた青空に薄いミルク色の雲が覆ってきています(写真4の緑色のカコミ)。太陽の周りにこの雲が広がると、暈(かさ)が現れることがあります。

写真3 太陽の周りに暈が現れることも

また、その下にある山並みのすぐ上の雲は、もう少し灰色がかった濃い雲です(写真4の青色のカコミ)。前者(緑色のカコミ)を巻層雲(けんそううん、別名うす雲)、後者(青色のカコミ)を高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)と呼びます。このときは、西の空から巻層雲が広がっていき、その奥(西の方角)に高層雲が現れていました。このように、西から巻層雲、高層雲と広がっていくと、天気が崩れることが多くなります。

写真4

それでは天気が崩れる理由について、この日の天気図(図1)を見てみましょう。PartⅠで説明したように、日本海から南に高気圧が張り出しています。これに覆われて午前中は青空が広がりました。一方、九州の南西の東シナ海で前線が北へ盛り上がっています。このように前線が北側へ折れ曲がっている所は低気圧が発生しかけている場所で、この周辺で天気が崩れやすくなります。これが東に進んでくる影響で、空模様も天気が崩れるときの特徴を示したものと思われます。

図1 ハイキング初日の天気図(気象庁提供の図に猪熊が加筆したもの)

実際、翌朝になると一面の霧でした(写真5)。

写真5 霧に覆われた北八ヶ岳

幸い、風はそれほど強くなく、雪も降りませんでした。視界も10m以上はありましたし、歩行に問題ありませんでしたので予定通り、北横岳に向かいました。天気が崩れるにしても、行動が難しくなるような猛吹雪になるのか、このときのように小雪程度で風も強くない状態なのかを見極めるのはなかなか難しいものですが、天気図がひとつ、ヒントになります。

図2 ハイキング2日目の午前6時の降水+地上気圧の予想図(ヤマテン有料サイトの専門天気図に猪熊隆之が作図したもの)

天気図を見ると、日本の南海上にある前線の北側に沿うように降水域(雨や雪が降っていると予想される範囲。図中の水色や青色の部分)が予想されています。北八ヶ岳(赤い△印)付近は丁度、降水域と降水域でない所の境界にあたります。そのため、雪は降らないか、降っても弱いものということが推定できます。

図3 ハイキング2日目の午前9時の降水+地上気圧の予想図(ヤマテン有料サイトの専門天気図に猪熊隆之が作図したもの)

さらに、午前9時の予想図を見ると、雨域は南に下がっていくことが分かります。このため、朝降っていたとしても次第に止んでいくことも推測されます。登山を終えてロープウェイに乗る頃には西の空が明るくなってきました(写真6)。

写真6 高層雲に覆われているが、西の空から明るくなってきた

今回も雲の変化と天気図から、気象リスクを想定して安全登山に努めることができました。また、初日に天気が崩れるときの特徴、翌日は天気が回復するときの特徴を学ぶことができ、有意義な講座になりました。ご参加いただきました皆様、お読みいただいた皆様、ありがとうございました。

文、図(気象庁提供を除く)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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猪熊隆之の観天望気講座149

2020-03-30 22:15:56 | 観天望気

北八ヶ岳空見ハイキングで見られた雲partⅠ

ご無沙汰しています。久しぶりの更新です。さて、記憶も薄れつつありますが(笑)、1月下旬に行われた毎日新聞旅行の北八ヶ岳空見ハイキングで見られた雲について解説していきます。

新宿駅西口を出発したときは、どんよりとした曇り空でした。中央道を西に進み、山間部に入ると、さらに雲が厚くなっていきます。

写真1 低い雲が垂れ込める中央道沿線の山(神奈川・山梨県境付近)

この日の天気図を見てみましょう。

図1 1月25日の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

この日は高気圧が沿海州にあり、関東地方では等圧線が東西に走って北東からの湿った空気が入りやすい形でした。関東地方から見て高気圧が北側にあるとき、太平洋からの湿った北東風が吹いて、関東平野ではどんよりとした曇り空になることが多くなります。この湿った空気が関東山地で上昇すると、雲がやや発達して山間部では弱い雨が降ることがあります。一方、山を越えると風は吹き降ろしていきます。空気は下に降りていくと温まって乾燥していくため、雲は消えていきます(図2参照)。また、上空の風が弱いときには吹き降ろしの風が発生しませんが、その場合でも関東山地が湿った空気の侵入を防いでくれるので、甲府盆地では晴れることが多くなります。

図2 湿った北東風が吹くときの関東平野から甲府盆地にかけての天気(山岳気象大全より)

この原理で行くと、この日は関東山地の下をくぐる笹子トンネルを抜ければ、青空が広がるはずでした。ところが実際には空は明るくなって、青空も一部見えだしましたが、層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が広がっていました。

写真2 トンネルを抜けても曇り空

この理由は天気図からだと読み取れませんが、雲を見ると、太平洋(駿河湾)から富士川に沿って湿った空気が入ってきたことが分かります。

一方、湿った空気は高い山を越えることはできませんので、山の風下側では天気が良くなります。北杜市に入ると、鳳凰三山が富士川からの湿った空気を遮るため、晴れてきました(写真3)。

写真3 北杜市から富士川下流方面を見た空

また、諏訪方面に向かうと、今度は別の雲が現れてきました。写真4を見ると、前方に低い(灰色の)帯状の雲が広がっています。これは天竜川に沿って入ってきた湿った空気が作り出した雲です。また、その上方にはカモメのような雲がいくつか並んでいることが分かります。ここは、山の間を抜けてきた湿った空気が作った雲で、山の間を通る間に湿った空気が弱められるため、雲は途切れ途切れになっています。また、山を越えて空気が波を打っているので、カモメのような形状になっているのです。

写真4 天竜川に沿って入る湿った空気によってできた雲

この状況は、地図を見ると良く分かりますね。地図とにらめっこしながら、空を見ると答えが出てくることがあります。

図3 関東平野~諏訪盆地周辺の地図

登山口に到着する前に既にお腹いっぱいになりましたか(笑)?次回は登山中に見られた雲についての解説です。

文、図(気象庁提供、山岳気象大全から引用のものを除く)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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オンライン講座「衛星画像の見方」配信開始のご案内

2020-03-23 17:28:48 | おしらせ

山の天気予報会員各位

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、まことにありがとうございます。

ヤマテンではオンラインでの山岳気象講座を配信しております。地方にお住まいの方で東京、大阪、名古屋などでの机上講座の受講が難しい方、日程が合わず、ご参加いただけない方を対象としております。

今回、新たに「衛星画像の見方・中級編」の有料配信を開始いたしましたので、ご案内申し上げます。

●オンライン山岳気象講座「衛星画像の見方・中級編」
講師:猪熊 隆之
中級編では、初級編で学んだことを踏まえ、リスクマネジメントに使う方法、天気の予想や勉強のために使う方法、面白い雲の見つけ方など、より実践的な内容を学んでいきます。

受講の申し込みや詳細は下記URLをご覧ください。
https://shop.yama-school.com/store/products/411326

なお、初級編も配信中です。中級編を受講される方は、まずこちらを受講していただくことをおすすめいたします。

●オンライン山岳気象講座「衛星画像の見方・初級編」
講師:渡部 均
なかなか学ぶ機会が少ない「衛星画像」の知識。初級編では衛星画像の種類や見方など基礎事項を抑えつつ、登山において最も危険なタイプの雲=積乱雲を判別する方法を学びます。

受講の申し込みや詳細は下記URLをご覧ください。
https://shop.yama-school.com/store/products/389965

皆様の受講を心よりお待ち申し上げております。

株式会社ヤマテン
気象講習係

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アンケートご協力のお願い

2020-03-22 09:44:41 | おしらせ

山の天気予報会員各位

平素より山の天気予報をご利用いただき、まことにありがとうございます。

ヤマテンでは2021年夏にかけて、「山の天気予報」のリニューアルを段階的におこなう予定です。皆様にとって使いやすく、利用価値の高いサービスをご提供するために、アンケートを実施することにしました。

すべての質問にご回答頂いた方から抽選で当選された方に、ヤマテンオリジナル手ぬぐいと絵葉書きのどちらかを贈呈させていただきます。

つきましては、ご多忙中恐れ入りますが、以下のURLからアンケートにお答えいただき、率直なご意見・ご要望をお聞かせいただきますよう、お願い申し上げます。締め切りは4月5日(日)23時59分到着分までです。

URL:  https://www.meteojapan.com/others/12322/

なお、アンケートページの制作とデータの集計はメテオジャパンが実施させていただきます。

株式会社ヤマテン
有限会社メテオジャパン

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