北八ヶ岳空見ハイキングで見られた雲partⅡ
前回に続き、北八ヶ岳の空見ハイキング時に見られた雲についての解説です。今回は、登山中に見られた雲についての紹介です。
PartⅠでは、高気圧が北に偏って張り出すと、関東地方では湿った北東風が吹くため、どんよりとした曇り空となり、風下側の甲府盆地側では天気が良くなることを学びました。ただし、この日に限っては、甲府盆地でも富士川からの湿った空気が入って雲が多くなりました。一方、湿った空気が入りにくい八ヶ岳では好天に恵まれました(写真1)。
写真1 波打ったような雲が広がる
写真1は、北八ヶ岳ロープウェイから見た空です。青空が広がっている中に、幾筋もの雲の連なりがあります。このような雲を波状雲(はじょううん)と呼びます。空気が波を打ってできる雲で、2つの異なる空気の層が隣り合っているときに発生します。詳しくは、観天望気講座104回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/aacf74d5655eb3aa18757eaae0cc8f00 をご参照ください。
さて、観天望気講座では雲の話ばかりしていますが、植物から天気を学ぶこともできます。写真2の植物(オオシラビソ)は、片方だけに枝が延びています。これは、木が強風にさらされ続けた結果、低温と乾燥によりその部分の枝葉が枯れ落ちてしまう現象で、偏形樹(へんけいじゅ)と呼びます。高山帯ではよく見かける現象ですね。
枝が延びていない方角から風が吹きつけているので、この場所では写真右側(西側)から強い風が吹きやすいことが分かります。つまり、西風が吹くことが多い訳です。
写真2 縞枯山で見られた、枝が片方だけに延びた木
さて、ロープウェイ山頂駅を降りて縞枯山に向かいます。山頂付近の開けた場所からは南八ヶ岳はもちろん、南アルプス、中央アルプス、御嶽から北アルプスの山並みが見渡せました。空の方は、先ほど広がっていた青空に薄いミルク色の雲が覆ってきています(写真4の緑色のカコミ)。太陽の周りにこの雲が広がると、暈(かさ)が現れることがあります。
写真3 太陽の周りに暈が現れることも
また、その下にある山並みのすぐ上の雲は、もう少し灰色がかった濃い雲です(写真4の青色のカコミ)。前者(緑色のカコミ)を巻層雲(けんそううん、別名うす雲)、後者(青色のカコミ)を高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)と呼びます。このときは、西の空から巻層雲が広がっていき、その奥(西の方角)に高層雲が現れていました。このように、西から巻層雲、高層雲と広がっていくと、天気が崩れることが多くなります。
写真4
それでは天気が崩れる理由について、この日の天気図(図1)を見てみましょう。PartⅠで説明したように、日本海から南に高気圧が張り出しています。これに覆われて午前中は青空が広がりました。一方、九州の南西の東シナ海で前線が北へ盛り上がっています。このように前線が北側へ折れ曲がっている所は低気圧が発生しかけている場所で、この周辺で天気が崩れやすくなります。これが東に進んでくる影響で、空模様も天気が崩れるときの特徴を示したものと思われます。
図1 ハイキング初日の天気図(気象庁提供の図に猪熊が加筆したもの)
実際、翌朝になると一面の霧でした(写真5)。
写真5 霧に覆われた北八ヶ岳
幸い、風はそれほど強くなく、雪も降りませんでした。視界も10m以上はありましたし、歩行に問題ありませんでしたので予定通り、北横岳に向かいました。天気が崩れるにしても、行動が難しくなるような猛吹雪になるのか、このときのように小雪程度で風も強くない状態なのかを見極めるのはなかなか難しいものですが、天気図がひとつ、ヒントになります。
図2 ハイキング2日目の午前6時の降水+地上気圧の予想図(ヤマテン有料サイトの専門天気図に猪熊隆之が作図したもの)
天気図を見ると、日本の南海上にある前線の北側に沿うように降水域(雨や雪が降っていると予想される範囲。図中の水色や青色の部分)が予想されています。北八ヶ岳(赤い△印)付近は丁度、降水域と降水域でない所の境界にあたります。そのため、雪は降らないか、降っても弱いものということが推定できます。
図3 ハイキング2日目の午前9時の降水+地上気圧の予想図(ヤマテン有料サイトの専門天気図に猪熊隆之が作図したもの)
さらに、午前9時の予想図を見ると、雨域は南に下がっていくことが分かります。このため、朝降っていたとしても次第に止んでいくことも推測されます。登山を終えてロープウェイに乗る頃には西の空が明るくなってきました(写真6)。
写真6 高層雲に覆われているが、西の空から明るくなってきた
今回も雲の変化と天気図から、気象リスクを想定して安全登山に努めることができました。また、初日に天気が崩れるときの特徴、翌日は天気が回復するときの特徴を学ぶことができ、有意義な講座になりました。ご参加いただきました皆様、お読みいただいた皆様、ありがとうございました。
文、図(気象庁提供を除く)、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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