上高地で見られた雲 ~冬型が弱まるときの天気変化~
先日、上高地で見られた雲についての紹介です。これからの季節、「冬型の気圧配置」(以下、冬型)と呼ばれる気圧配置の日が増えていきます。冬型は、中国大陸に高気圧、千島列島やサハリン、三陸沖に低気圧というように、日本から見て西に高気圧、東に低気圧がある気圧配置です。等圧線(天気図に書かれている等しい気圧を結んだ線)が日本列島で縦縞模様になり、そのようなとき、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れという天気になります。しかしながら、同じ冬型でも山で多くの雪が降る「山雪型」と、平野部で多くの雪が降る「里雪型」がある他、等圧線の向きや間隔、上空の寒気の強さなどによって、天気が大きく異なってきます。
今回は、冬型が次第に弱まり、上空の寒気が抜けていくときに見られた雲について解説します。
写真1 雪の舞う朝を迎えた上高地(河童橋にて)
前日午後から降っていた雨が朝起きると雪に変わっていました。上高地では初雪になりましたし、稜線では吹雪の荒れた天気となっていました。
なぜこのような天気になったのでしょうか?まずは天気図で見ていきましょう。
図1 写真1を撮影した日(25日)の午前9時の地上天気図(気象庁ホームページより)
天気図を見ると、サハリン付近に低気圧、中国大陸東岸に高気圧があり、冬型になっています。また、等圧線が北から南に引かれているタイプの冬型(図2)ではなく、北西から南東方向に走っているため、北風というよりは西寄りの風になり、北アルプスでは降雪が多くなるタイプの冬型になります。
図2 北アルプスで降雪が少なかったり、天気が良くなるタイプの冬型
ところが、午前7時頃になると、上高地上空でも青空が広がっていき、午前8時頃には穂高連峰も新雪をまとった姿を見せてくれました。それは上空の寒気が抜けていったことと関係があります。
図3 25日午前6時の700hPa(高度約3,000m付近)の気温と風予想図
図4 25日正午の700hPa(高度約3,000m付近)の気温と風予想図
図3と図4を比べてみると、図3(午前6時)の上空3,000m付近の気温は穂高連峰付近でマイナス3℃前後で、マイナス6℃以下の寒気がすぐ北に迫っています。それに対し、図4(正午)になると、マイナス3℃と0℃の間になり、マイナス6℃線は新潟県~宮城県付近に北上しています。このように、冬型のときに寒気が抜けていくと、天気が回復することが多くなります。
写真2 新雪をまとった穂高連峰
しかしながら、14時過ぎまでは左側にある雲はずっとかかった状態でした。この雲があるため、河童橋付近からは畳岩の頭より北側の穂高連峰は見えましたが、写真2、3のように大正池方面に歩いた場所からは、穂高連峰が半分隠れるような状況です。
写真3
そこで、どうしてこの雲が取れにくいかを考えていきましょう。この日は上空を西風が吹いていましたので、日本海からの湿った空気は、穂高連峰の岐阜県側から入り、穂高連峰で上昇して雲を作りました。それが山を越えて下降すると、蒸発して明神岳側(東側)では晴れています。この日は、3,000m付近に安定した空気の層がありました。安定層があると、空気はそれより上に上がることが難しくなります。穂高連峰でも畳岩の頭から北東側は3,000mを優に超えていきますので、雲は安定層を越えられず、その上の乾いた空気に覆われて晴れています。それに対して、天狗岳より南西側では3,000mに満たない高さ(図5参照)なので、雲が山を越えていきます。そのため、写真3のように雲がかかってしまうのです。
図5 穂高連峰付近の地図(電子国土 https://maps.gsi.go.jp/ より)
冬型の気圧配置が次第に弱まっていくと、安定層の高さが低くなっていきます。そうすると、乾燥した空気も上から下に降りてきますので、北アルプスでは標高が高い場所や、その風下側から天気が回復していきます。標高が低い西穂山荘付近では飛騨側からの雲の通り道にもあたるため、天気の回復が槍ヶ岳や奥穂高岳よりも遅れる傾向にあります。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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