山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座165

2020-10-30 14:07:30 | 観天望気

上高地で見られた雲 ~冬型が弱まるときの天気変化~

先日、上高地で見られた雲についての紹介です。これからの季節、「冬型の気圧配置」(以下、冬型)と呼ばれる気圧配置の日が増えていきます。冬型は、中国大陸に高気圧、千島列島やサハリン、三陸沖に低気圧というように、日本から見て西に高気圧、東に低気圧がある気圧配置です。等圧線(天気図に書かれている等しい気圧を結んだ線)が日本列島で縦縞模様になり、そのようなとき、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れという天気になります。しかしながら、同じ冬型でも山で多くの雪が降る「山雪型」と、平野部で多くの雪が降る「里雪型」がある他、等圧線の向きや間隔、上空の寒気の強さなどによって、天気が大きく異なってきます。

今回は、冬型が次第に弱まり、上空の寒気が抜けていくときに見られた雲について解説します。

写真1 雪の舞う朝を迎えた上高地(河童橋にて)

前日午後から降っていた雨が朝起きると雪に変わっていました。上高地では初雪になりましたし、稜線では吹雪の荒れた天気となっていました。

なぜこのような天気になったのでしょうか?まずは天気図で見ていきましょう。

図1 写真1を撮影した日(25日)の午前9時の地上天気図(気象庁ホームページより)

天気図を見ると、サハリン付近に低気圧、中国大陸東岸に高気圧があり、冬型になっています。また、等圧線が北から南に引かれているタイプの冬型(図2)ではなく、北西から南東方向に走っているため、北風というよりは西寄りの風になり、北アルプスでは降雪が多くなるタイプの冬型になります。

図2 北アルプスで降雪が少なかったり、天気が良くなるタイプの冬型

ところが、午前7時頃になると、上高地上空でも青空が広がっていき、午前8時頃には穂高連峰も新雪をまとった姿を見せてくれました。それは上空の寒気が抜けていったことと関係があります。

図3 25日午前6時の700hPa(高度約3,000m付近)の気温と風予想図

図4 25日正午の700hPa(高度約3,000m付近)の気温と風予想図

図3と図4を比べてみると、図3(午前6時)の上空3,000m付近の気温は穂高連峰付近でマイナス3℃前後で、マイナス6℃以下の寒気がすぐ北に迫っています。それに対し、図4(正午)になると、マイナス3℃と0℃の間になり、マイナス6℃線は新潟県~宮城県付近に北上しています。このように、冬型のときに寒気が抜けていくと、天気が回復することが多くなります。

写真2 新雪をまとった穂高連峰

しかしながら、14時過ぎまでは左側にある雲はずっとかかった状態でした。この雲があるため、河童橋付近からは畳岩の頭より北側の穂高連峰は見えましたが、写真2、3のように大正池方面に歩いた場所からは、穂高連峰が半分隠れるような状況です。

写真3

そこで、どうしてこの雲が取れにくいかを考えていきましょう。この日は上空を西風が吹いていましたので、日本海からの湿った空気は、穂高連峰の岐阜県側から入り、穂高連峰で上昇して雲を作りました。それが山を越えて下降すると、蒸発して明神岳側(東側)では晴れています。この日は、3,000m付近に安定した空気の層がありました。安定層があると、空気はそれより上に上がることが難しくなります。穂高連峰でも畳岩の頭から北東側は3,000mを優に超えていきますので、雲は安定層を越えられず、その上の乾いた空気に覆われて晴れています。それに対して、天狗岳より南西側では3,000mに満たない高さ(図5参照)なので、雲が山を越えていきます。そのため、写真3のように雲がかかってしまうのです。

図5 穂高連峰付近の地図(電子国土 https://maps.gsi.go.jp/ より)

冬型の気圧配置が次第に弱まっていくと、安定層の高さが低くなっていきます。そうすると、乾燥した空気も上から下に降りてきますので、北アルプスでは標高が高い場所や、その風下側から天気が回復していきます。標高が低い西穂山荘付近では飛騨側からの雲の通り道にもあたるため、天気の回復が槍ヶ岳や奥穂高岳よりも遅れる傾向にあります。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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ヤマテン「今週末のおすすめ山域」のサイト表示につきまして

2020-10-29 18:09:08 | おしらせ

山の天気予報会員各位

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、まことにありがとうございます。

このたび、「山の天気予報2021リニューアル」計画の一環として、毎週木曜日にメールでのみ配信していました「今週末のおすすめ山域」情報をサイト内でも閲覧できるようにしました。
毎週木曜日11時30分頃から翌金曜日12時までの間、山頂の天気予報ページの雨雲レーダー画像の下に「今週末のおすすめ山域」のリンクが表示されます。こちらをクリックしますと、該当する山域のおすすめ山域情報を閲覧できます。
週末の山行計画にぜひ、お役立てください。

株式会社ヤマテン
システム開発担当

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エベレスト登頂50周年記念フォーラム(web講演会)のご案内

2020-10-27 18:03:55 | おしらせ

日本山岳会ではエベレスト日本人登頂50周年を記念して「連続WEB講演会」を行っています。

第2回目となる11月5日(木)は、「エベレスト気候変動」と題しまして、ヤマテンの猪熊が出演いたします(飯田肇氏と猪熊2人による講演となります)。

20時開始予定で、Zoomを使用したインターネット上のセミナーとなりますので、地方にお住いの方もぜひ、ご参加ください。

 

詳細は下記URLをご確認ください。

https://jac1.or.jp/event-list/event-guide/202010239151.html

皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

 

山の天気予報  講習会係

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猪熊隆之の観天望気講座164

2020-10-27 08:38:00 | 観天望気

奥越高原で見られた雲を解説

シルバーウィーク中に開催された奥越高原での研修会で見られた雲についてご紹介します。まずは、奥越高原に向かう途中で見られた雲から。

写真1 松本盆地から撮影した北アルプスにかかる雲

北アルプスを越えて吹き降ろす風によって、雲も山を駆け下っている様子が分かります。滝雲っぽい感じにも見えますね。北アルプスの反対側(日本海)から入ってきた湿った空気が山の斜面に沿って上昇し、雲を発生させます。それが山を越えると、下降して温められていくため蒸発していく様子です。その上に広がっているのは、山よりずっと高い所にある高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)です。

写真2 ひるがの高原上空に広がるうろこ雲

秋の雲の定番、うろこ雲(巻積雲)ですね。これは味噌汁のまだら模様と同じ原理でできます。詳しくは103回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/bde8b7d9880a9c60757451375a388ef3 をご参照ください。

写真3 奥越高原上空に浮かぶわた雲(積雲)

青空にポッカリと浮かぶわた雲は、見た目も動きも可愛らしいです。こちらは日射によって温められた地面付近の空気が上昇してできる雲です。空気は温められると軽くなるので自然と上昇していきます。単体でポッカリと浮かんでいる雲は、その下の空気が周囲より温められているときにできます。組織的に連なっている場合には、地面付近と上空の空気との温度差が大きくなるときにできます。

写真4 おぼろ雲(高層雲)

翌朝はどんよりとした曇り空。でも雲の高度が高く、展望は良く効きます。この雲は高度約4~7km位に浮かんでいる雲で、おぼろ雲(高層雲)と呼ばれます。

写真5 太陽が透けてみえるおぼろ雲

このように太陽がおぼろげに見えることから名づけられました。

写真6 西の空から青空が広がる

しばらくすると、西の空から青空が広がってきました。春や秋は、西から天気が変化してくることが多いので、西の空が明るくなってきたり、青空が出てくると天気は回復していきます。

写真7 奥越高原上空に広がるひつじ雲

次に出てきたのはひつじ雲。今回のようにおぼろ雲がひつじ雲に変わっていくようなときは、天気が回復することが多くなります。逆にひつじ雲がおぼろ雲に変わるときは、天気が悪化することが多いですね。ひつじ雲もうろこ雲と同じ原理で発生します。うろこ雲より高度が低いので、塊が大きく見えます。人差し指を雲の方向にかざしたときに、雲が指に隠れる大きさがうろこ雲、隠れない大きさがひつじ雲、という見分け方があります。

写真8 波状雲(はじょううん)

ひつじ雲の形が変わり、雲が一列に並んでいる形となってきました。これを波状雲(はじょううん)と呼びます。重力波によってできる雲です。重力波によってできる雲については、104回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/aacf74d5655eb3aa18757eaae0cc8f00 をご参照ください。

写真9 日本海に連なる危ないヤツ

日本海側の山では、天候が急変することがあり、気象遭難が多く発生しています。天候が急変するとき、日本海の方角にその前兆が現れますので、日本海の方向の空を時々見るようにしましょう。上の写真のように、モコモコした雲が連なっているときは、要注意です。この後、雷雨になったり、天候が急変する恐れがあります。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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岳都・松本 山岳フォーラム実行委員会 主催 「信州・雪山の天気講座」のお知らせ

2020-10-26 12:10:34 | 観天望気

日時:12月6日(日)15:00~17:00
会場:松本市中央公民館(Mウイング)3-2会議室
講師:猪熊 隆之

詳細や申し込み方法は、下記のURLからご確認をお願いします。

https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01g9q4119tfcb.html

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