山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座95

2017-06-15 23:50:39 | 観天望気

ご無沙汰しております。大変遅くなりましたが、5月13日(土)に中日ツアーズさんで行われた伊吹山のツアーの際に見られた雲について書かせていただきます。

この日は低気圧が南岸沿いを通過する状況で出発時には激しい雨が降っていました。ツアーとなると気象遭難などのリスクが高い状況や交通機関が運行中止になるなど、余程の悪天でないと中止にはなりません。今回のルートは伊吹山の山麓で机上のお天気講座があったため、山頂近くの駐車場まで車で行き、歩行時間は短いということや、激しい雨は朝のうちで日中は弱まることが予想されたことから決行となりました。

さて、まずは登山を中止するかどうかを判断するために登山前に以下のことを確認します。

・気象上のリスク

・登山道のリスク

気象上のリスクは暴風雨や降雪、視界不良、強風などです。登山道のリスクは岩稜帯であったり、沢の渡渉や崩壊地の通過、雪渓の歩行などですね。

今回のツアーでは、いきなり森林限界上からスタートするので、強風と低体温症のリスクが考えられます。登山道のリスクは視界不良による道迷い位でしょうか。

ということで、登山前に登山当日の天気図を確認します。図1(下図)を見ると、四国沖に低気圧があり、東へ進んでいます。典型的な南岸低気圧の気圧配置です。太平洋側を中心に悪天が予想されます。

図1 登山当日の朝6時の地上天気図

ところで、今回の低気圧は中心付近より東側で雨雲が発達していました。850hPa(高度約1,500m)の相当温位と風の予想図(図2)を見てみると、赤い色の部分(相当温位が高いエリア=暖かく湿った空気がある場所)が近畿地方の方に入りこんでおり、伊吹山付近では南風が吹いていることから、南側から暖かく湿った空気が入り込んでいることが分かります。このエリアで雨が強く降っていることが分かります。

図2 5月12日3時を基準とした5月13日9時の850hPa相当温位と風予想図

※ヤマテン「山の天気予報」https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

ということは、低気圧が真南に来る頃には、雨は弱まるということです。図3(下図)を見ると、低気圧が12時には伊吹山の真南に来ています。ということで、机上講習をじっくりと時間をかけておこない、お昼頃からハイキングをスタートする、という作戦に出ました。

図3 5月13日12時の地上天気図

狙いは見事にあたりましたが、山頂はガスガス・・・。「ここはどこ~?私は誰?」状態。

写真1 伊吹山山頂近くの駐車場

ということで、ガス(霧)にも2種類あるということを説明しました。

1.良いガス・・・上を見上げると、明るさがある。太陽が透けて見えることも。

2.悪いガス・・・上を見ても明るさがない。

今回は1が時折見られ、期待させましたが、残念ながら晴れず・・・。

さらにガスが取れるときの法則を皆さんに教えちゃいましょう。

1.風が強いとき・・・風が弱まるとき、あるいは風向きが変わるとき

2.風がないとき・・・風が出てくるとき

今回は駐車場を降りた途端、東風がビュービュー吹いていました。そして、山頂から下山したときには北よりの風に変わり、風は弱まっていました。ということで1に当てはまりましたが、残念ながら晴れず・・・。

ところで、今回、山頂付近で風が東から北に変化しましたが、風の変化で低気圧が通り過ぎたかどうか分かります。

図4 低気圧周辺の風向き(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

 

 上図のように、低気圧の周辺では反時計周りに風が吹き込んでいます。今回のように低気圧が山の南側を通過すると、下図(図5)の図(下の方)のように、低気圧が山の南側を通るため、反時計周りに風向が変化します。低気圧が通過する前は南東、通過しているときは東から北東、通過した後は北から北西というように風向きが変化するのです。今回は東から北に変わってきたということで、低気圧がまさに南側を通り過ぎたことが分かります。ただし、この風向判定は、地形の影響を受けにくい、木が生えていない稜線や尾根上でおこないましょう。

図5 低気圧と山との位置関係による風向の変化(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

さて、思惑通りにいかなかった理由は、低気圧通過後(図6)も高気圧の張り出しが弱く、等圧線の間隔が広がっていてまだ弱い低圧部に入っていること、低気圧が陸地近くを通ったために、湿った東よりの風が続いたことなどが原因として考えられます。

図6 低気圧が伊吹山を通過した後の地上天気図

その証拠とも言える写真を紹介しましょう。山頂はガスガスだったので、ドライブウェイをしばらく降りた中腹で車を降りました。すると、雲の下に入り、東側から流れ込む雲の正体が見えたのです!

写真2 伊吹山中腹から見た左方向(東側)から流れ込む低い雲

左側から雲が入ってくる場所は伊吹山と養老山地の間の谷になっており、東風や西風が集まってくる場所で、そこが雲の通り道になっているようです。左側から侵入してきた湿った空気が上昇して雲ができ、右側の琵琶湖方面に下ると消えていきます。

図7 伊吹山周辺の地形。伊吹山と南側の養老山地との間に廊下のような通路ができ、そこが湿った空気と雲の侵入路になっています。

濃尾平野の向こうには伊勢湾があります。海の上の空気は水蒸気が多いので、低気圧が持つ湿った空気と伊勢湾からの湿った空気が一緒になって、この廊下を通って入ってきたのですね。

天気が悪いなりにも、色々学ぶことがあるんですね~。ということでお天気ツアーは雨でも結構です(笑)

明後日から2017年の山、雲取山(2017m)に行ってきます!報告をお楽しみに!

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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雲から山の天気を学ぼう(第10回)

2017-06-10 17:46:16 | 観天望気

雲から山の天気を学ぼう(第10回)

やる気のある雲、やる気のない雲

 

今回は、冬山の天気を予想するうえで重要な雲の見分け方をご紹介します。

 

雲は大きく分けると2種類あります。

・やる気のない雲

・やる気のある雲

 

雲は空気の状態によってやる気を出して、もくもくと上方へ成長したり、やる気がなくなって、雲のてっぺんが平らな雲になったりします。

 

つまり、雲の形を見ると、空気の状態(気持ち)が分かるのです。

 

雲のやる気がないとき

空気は温かいと軽く、冷たいと重くなる性質があるので、本来であれば、下図のように冷たい空気は下に、温かい空気が上にいきます。

こういう状態を大気が安定な状態といいます。空気にとって理想的で、居心地の良い状態です。

※上図 山岳気象大全(山と渓谷社より)

 

このようなときは、空気は動こうとしませんので、やる気を出して上に成長できません。特に雲の上に大気の安定した層があると、雲はそれ以上、上にあがっていかれず、下の写真のように雲のてっぺんが水平な雲になります。

このような雲が朝、出ているときは、大気は安定しており、好天が期待できます。

 

雲がやる気を出すとき

 

しかしながら、大気が安定な状態はあまりありません。皆様もご存じのとおり、普通は空気は上に行くほど気温が低くなっていきます。高い山になればなるほど、寒くなっていくのはそのためです。つまり、ほとんどの場合、空気は下の図のような状態になっています。

空気は普段から理想には程遠い、イライラしている状態になっています。そんなときに、下の2つのケースが発生すると、イライラしていた空気は遂にキレてしまい、雲はやる気を出してしまうのです。

上図のように、上空に寒気が入ると、空気はキレて温かい空気は冷たい空気の中に突っ込んでいこうとします。このとき、強い上昇気流が発生し、雲はこれに乗ってやる気を出して上へ上へと発達していくのです。

 

ケース2.下の方に温かく湿った空気が入ってくるとき

これは、夏場に多いケースですが、上図のように、下の方に温かく湿った空気が入ると、空気はやはりキレやすくなり、雲がやる気を出して発達することが多くなります。

 

雲がやる気を出すときは、下の図のように、上方へモクモクと雲が発達することが多くなります。夏場は日中になると、このような雲は普通に見られますが、冬はこのような雲が見られたときは、天候が急変しますので、すぐに安全なところまで逃げるのが無難です。

八ヶ岳上空で雲がやる気を出しています。やる気のないときの雲と違い、上へもくもくと成長していきます。

 

さらに、雲の底が真っ黒になったら、その下では雪が降っています。山では荒れた天気になります。

 

上の写真は、やる気のある雲の端が風でなびいたようになっています。風によって流された雲が手前側の乾いた空気に触れて蒸発して消えていっているためです。このような雲が見られるときは、上空の風が強く、稜線では荒れた天気になっています。

 

雲を見ることで、上空の寒気の強さや風の強さがある程度、分かります。登山口で必ず、雲の状態をチェックし、空気を読んでから登りましょう。また、登山中も開けた場所で、雲をチェックすることが、その後の天候の急変を知るうえで大切です。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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