山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座130

2019-05-24 20:39:44 | 観天望気

~キリマンジャロで見られた雲 partⅡ~

乾季のキリマンジャロでは、朝は標高2,500m以上では青空が広がることが多くなります。そして、日中は谷風(たにかぜ ※)の影響で、南側の山腹から雲が湧きたっていきます。

※  山谷風の解説については、前号をご参照ください。

写真1 谷風による上昇気流で湧き立つ積雲(せきうん)

太陽が高くなっていくと、地面付近の空気は熱せられて上昇していき、谷風は強まっていきます。その上昇気流に乗って雲は上方へ成長していき(やる気を出し)、写真2のように成長していきます。

写真2 谷風と乾いた空気のせめぎ合い

しかしながら、この雲はキリマンジャロのギボ峰~マウェンジ峰の尾根上(写真2、3の雲の右端)を越えられず、上方では逆に雲が左側に押し戻されているように見えます。

図1 キリマンジャロ周辺の風向と天候

これは、前日までの南東風がおさまり、上空を北東風が吹いているためです。図1のように、北東風は砂漠地帯からの風になるので、乾いており、この風が吹くと雲を蒸発させていきます。従って、雲は尾根を越えて右側に侵入しようとすると、東風に押し戻されるとともに、乾いた空気に触れて蒸発していきます(写真3参照)。

写真3 写真2の解説

この状況はこの日以降、ずっと続き、キボ峰~マウェンジ峰の北東側では雲がほとんどできないのに対し、南西側では雲がぐんぐんやる気を出して入道雲が発達しました。

写真4 尾根の北東側は平地に雲がある程度

写真5 尾根の南西側では入道雲が発達

キリマンジャロは、乾いた空気と湿った空気とのせめぎ合いの場になっていました。こうした観点で登っていくのも楽しいものです。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。 

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猪熊隆之の観天望気講座129

2019-05-01 10:55:02 | 観天望気

~キリマンジャロで見られた雲 partⅠ~

今回からはキリマンジャロで見られた雲について解説していきます。空気は残念ながら(?)目に見えませんので、その状態をイメージすることが難しいのですが、雲が空気の気持ち(状態)を語ってくれています。雲から空気の気持ちを理解して、その後の天候変化を察知していきましょう。

キリマンジャロを訪れた時期は、乾季の2月下旬でした。しかしながら、期間のはじめは、南東の季節風が吹いており、インド洋からの湿った空気が入る気圧配置でした。前回、説明したように、キリマンジャロでは南東風が吹くと、山麓を中心に天気が崩れる傾向にあります。

図1 キリマンジャロ周辺の地形と気象の特徴

日本の夏山もそうですが、熱帯地域では日射が強く、陽射しがある日は日中、谷風と呼ばれる風が吹きます。これが山で雲を発生させる大きな要因となります。一方で、朝晩は山風が吹くので、山では下降気流となり、お天気が良くなります。登頂日、夜半に出発して昼過ぎに山小屋へ下山するのは、午後は谷風によって雲が発生し、天気が崩れることが多いからです。

山谷風の解説については、観天望気講座98をご参照ください。

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08

登山初日、キリマンジャロの山麓にあるロッジでキリマンジャロの姿を拝むことができました。この前夜の激しい雷雨によって空気中に水蒸気が多く含まれており、山麓では朝から雲に覆われていましたが、陽射しが射しこんでくると、気温が上昇し始めて雲が蒸発していき、青空が広がってきました。写真1はそのときに撮影したものです。

写真1 朝、一瞬姿を現したキリマンジャロ

山風がまだ吹いている時間なので、山ではよく晴れています。山に雲がかかっているように見えますが、これは山の手前側の低い雲です。雲の種類も層積雲(そうせきうん)と呼ばれる高度が低い所に浮かんでいる雲で、雲は上方に発達している様子はありません。つまり、やる気のない雲です。

写真2 南東方向で見られた積乱雲(やる気のある雲)

一方で、写真2のように雲が上方へモクモクと発達している雲は、やる気のある雲です。「やる気のある雲、ない雲」については、観天望気講座77をご参照ください。

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/d8d91a3876370b0670790c4b3b078e43

この雲の下では激しい雨が降り、雷や雹を伴うこともあります。写真2は6時過ぎに撮影したものです。早朝からこのような雲が周囲で発達しているときは、その後の天候変化に要注意です。特に、このときは南東風が吹いており、風上側でこの雲が見られました。風上側でやる気のある雲が見られるときは、日中、落雷や激しい雨に襲われる確率が高くなります。このときにどうなったのかは、次回の講座をお楽しみに! 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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