平素より山の天気予報をご利用いただき、まことにありがとうございます。
2021年2月から4月にかけて高校山岳部の部員や顧問を中心に行なったアンケートの結果をまとめましたので報告します。
お礼
このたびは、アンケートにご協力いただき、まことにありがとうございました。おかげさまで740人余りの貴重な資料となりました。改めて厚くお礼申し上げます。また、アンケート実施にあたって、調査方法についてのアドバイスや高体連への協力要請など多大なるご協力をいただきました佐橋秀男先生、谷口浩平先生、大西浩先生に心より感謝申し上げます。
このアンケートは、高等学校山岳部員の活動内容や、卒業後の登山とのかかわり方について、全国規模で調査・分析し、その情報を共有することで、大学山岳部の在り方やその活動内容をどのように発信していくかを考えることを目的として実施しました。ご承知の通り、大学山岳部は1980年代以降、長期的な部員減少に悩まされており、大学によっては1学年の部員がゼロとなる年もあります。また、高校山岳部出身者で大学山岳部に入る部員が少ない傾向にあり、折角入部しても退部する部員も多くいることから、今回のアンケート結果を大学山岳部の活動に生かしていくとともに、高等学校山岳部との交流も模索していきたいと考えております。
なお、個々の調査結果に書かれているコメントは、私の個人的な感想でありますので、その点、差し引いてご活用いただければ幸いです。
実施期間
2021年2月から4月
調査結果
1.所在地
千葉県、神奈川県を中心とする関東地方の高等学校や東海地方、九州地方の高等学校が多くなっている。地域的なバラツキはややあるものの、全国の高等学校にご協力いただいたことが分かる。
2.学年
アンケート実施期間が2~4月ということもあり、1、2年生で80%以上を占めている。
3.性別
4.部員数(指導者回答)
5.部活内容
部活動の内容は、日帰り登山とインターハイなどの登山競技大会をおこなっている部員が多く、無雪期の縦走登山はコロナ禍ということもあり、少ない結果になった。
6.山行頻度
山行頻度は月1~2回が半数以上を占め、数カ月に1回程度という部員も3割程度いる。ほぼゼロ回も3%程度いるのはコロナの影響と思われる。
7.年間の登山日数
年間の山行日数は、10~20日と10日未満を合わせて70%以上を占めている。これは、山と溪谷社が読者におこなったアンケート結果(注1)と同じかやや少なくなっている。コロナ禍で無雪期の縦走登山がおこなえない学校が増えていることが影響し、山行日数が減っていることが考えられる。
8.山岳部に入った動機
第1位 楽しそうだから
第2位 自然に興味があったから、好きだから
第3位 体力をつけたかったから
第4位 登山に興味があったから
以上が多数を占める。楽しいことや興味があることをやりたいという傾向が見られる。
9.山岳部に入って良かったこと
絶景や大自然の中での癒しなどは、大人の登山者の傾向と変化がないが、第2位の「友人ができた」や、第4位~7位の「体力がついた」「精神的に鍛えられた」「危険に対する対処法を学ぶことができた」「我慢強くなった、辛抱することを覚えられた」など人間的な成長と人間関係の構築、知識の習得などが大きい割合を占めるのは大人とは違った傾向が見られる。
10.退部しようと思ったことがあるか
「ある」が私の予想より少なく、「ない」が4分の3を占めるのは、友人の存在や顧問の先生方の努力の賜物だと思われる。
11.退部を考えた理由
退部を考えた理由について、体力的な問題が多くを占め、次いで衛生的な問題になっている。トイレ問題が多いのは、自宅や公衆トイレのほとんどがウォシュレットになっているなど日常使っているトイレ環境が大きく向上した結果とも言える。他には、人間関係が多いことにも注目したい。
12.新型コロナウィルスの影響
新型コロナウィルスの影響を受けたと答えた部員が多くを占め、「影響を受けたがそれほどでもない」と答えた部員を合わせると、95%に達する。
13.影響を受けた内容
「登山や合宿がおこなえなくなった」「宿泊を伴う登山ができなくなった」が1、2位を占め、次いで登山対象が近場の山に限定されたり、インターハイが中止になるなど、自分たちの目標とする山に登れなかったなど、新型コロナウィルスが高等学校山岳部の活動に非常に大きな影響を受けたことが分かる。
14.新型コロナの影響で退部したメンバーはいましたか?
新型コロナウィルスによる活動制限で退部した部員数は少ないという結果になった。ホッとする結果である。
15.新型コロナの影響で、新入部員の数は前年に比べて減りましたか?
こちらも変わらないが多数を占め、「減った」より「増えた」が多くなるなどホッとする結果になっている。大学山岳部の多くが新人勧誘活動をおこなえなくなり、新入部員が大幅に減ったことと比べると大きな違いがある。
16.卒業後に登山やクライミングを続けたいか
登山を続けたいと答えた人が6割近くを占め、クライミングを続けたいと合わせると8割近くに上るのは嬉しい結果である。9.の「入部して良かったこと」が登山を続けたい要因であろう。
17.続けたくない理由
山行日数が新型コロナウィルスの影響で少なくなっているにも関わらず、「登山は高校時代で十分におこなえたから」がもっとも多いのは矛盾している結果に思えるが、山岳部での活動にあまり積極的でない部員がこう答えている可能性がある。また、「面倒くさいから」という意見が散見されたのは現代的であると感じた。
18.卒業後におこないたい登山形態
無雪期の日帰りと縦走登山が3割以上を占めている。沢登りや冬山登山についてはそれぞれ10%に満たない。一方、ボルダリングが第3位に入り、狩猟や釣りをしながらの登山が第4位に入っているのは、「楽しみながら登山をしたい」という8.の入部動機に通じるものがある。
19.卒業後の所属
組織には属さないが7割を超える。しかしながら、大学山岳部やワンダーフォーゲル部がそれぞれ10%、7%と健闘している。これを多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところであろう。
20.卒業後の所属選択に使う情報
情報の入手は、SNSやインターネット等の口コミがもっとも多いが、先輩、友人、両親、顧問などの意見を合わせると5割弱になり、それを上回る。周囲の意見を聞いて判断する傾向が強いと思われる。
21.組織に属さない理由
「自由に登りたいから」が圧倒的に多く、「面倒くさい」「ミーティングなどに時間を取られる」など自分の時間を大切にしたいという意識が強い。先輩や後輩との人間関係についての問題は意外と少なかった。
22.組織に属したいという理由
逆に、組織に属することを考えている理由は、「友人を作れるから」「高校山岳部で楽しかったから」「技術、経験などを学べるから」「一人だと不安だから」の4項目で9割近くを占める。
23.大学山岳部に入りたいと思いますか?
残念ながら、想定していた通り、「思わない」が多数を占めた。しかしながら、「思う」も2割前後いるのは心強い結果である。
24. 大学山岳部に入部したい理由
高校山岳部に入部した理由と同様、「楽しそうだから」がもっとも多い。以下、「技術、経験などを学べるから」「より高度な登山を実践したいから」が続く。これらを見ると、高校時代よりも高度な登山を実践したいという学生が大学山岳部を目指し、その学びの場として大学山岳部を選んでいることが分かる。
25.大学山岳部について知りたいこと
入部するうえで知りたいこととしては、「活動内容」と「日々のトレーニング」を挙げる人が多い。大学山岳部の活動内容を知ってから入部するかどうかを決めたいということだろう。また、部員構成についても知りたいという意見が多い。
26.入りたい大学名
学業優秀な高校生が多いせいか、国立大学が上位を占める。
27.その大学に入りたいと思う理由
28.大学山岳部に入りたくない理由
組織に属さない理由と同様、「自由に登山を楽しみたいから」がもっとも多く、次いで「そこまで本格的な登山をしたくないから」が3割弱を占めた。卒業後も登山を楽しみたいが、冬山やアルパインクライミングまではやりたくない、という人が多いものと思われる。
また、大学に行かないため、という意見も散見された。
29.監督、コーチの役割として期待するもの
こちらは意見が分かれた。「監督、コーチの指導や支援は不要である」と思っている人はごく少数であり、監督、コーチの指導や支援に期待している人が多いと思われる。
30.山岳部の在り方についての自由意見
沢山の多用なご意見をいただいた。それらはいくつかの傾向に分かれるので、私の方で整理させていただいた。
1)自由、気ままに、好きなときに好きなメンバーで山に行く
圧倒的に多かったのがこの意見。21や28の回答とも一致する。この「自由」が相手の「自由」も尊重することなのか、「自由」は大きな「責任」を伴うことを自覚しているのかどうかはともかくとして、今の高校生は、組織に縛られることを嫌い、自分の思うままに生きていくことを望む傾向にあると言える。
2)先輩後輩関係なく、率直な意見を言い合い、楽しく、助け合いができる
人間関係が希薄になってきたと言われるが、こうした意見が多いのは高等学校山岳部における成功体験が大きいのかもしれない。「藤枝東そのまま」や「いまの東桜の山岳部のような」など、自分の部を誇りに思い、愛していることが伝わってきて微笑ましい。
3)競技としてでない登山、勝つことだけにこだわらない
意外と多かったこれらの意見。大学山岳部が競技登山をおこなう部だと誤解している生徒さんが多いように感じた。
4)山の知識、技術向上、安全対策や危急時対策が万全、またはそれらを学べる
24や29と共通するところであるが、大学山岳部を目指す学生は、これらを学ぶ場として山岳部を期待していると思われる。
5)遠くに行ける、合宿がある、海外の山に行ける
少数ではあるが、このような積極的な意見もあった。
6)経済的な支援が得られる
大学によっては、大学側から装備や交通費などに対して活動補助費のようなものを支給されるところがある。しかしながら、これらは学生またはその親御さんが血の滲むような思いで支払った学費からいただくもの。「お金が貰える」などの意見があったのは残念なことであった。
31.まとめ
おかげさまで、高校山岳部の生徒さんたちが卒業後にどのような山登りを考え、どのようなスタイルで登山を続けたいか、大学山岳部に何を求めているかなどを知ることができました。これも皆様のご協力のおかげです。改めて心より感謝申し上げます。
大学山岳部としては、30.自由意見のうち2)から5)の生徒さんに満足していただける組織を作り上げていくことが肝要かと思いました。そのために必要なことは、
1.監督、コーチが最終的な安全管理をおこないつつも、学生の自主的な活動であること
2.明るく、楽しい雰囲気作り。助け合いができ、皆が力を合わせて目標を達成できる
3.登山の技術、危急時対策などをしっかりと学べる部
これらを実行していくことが大切だと感じています。自由意見の中に「非日常の楽しさをたっぷり感じられる活動」「絶景を心から楽しめ、練習から意識の高い山岳部」「顧問や先輩後輩関係なく一人一人の繋がりが強く、こういう人たちとだったら山に登りたいと思えるような山岳部」「自然に抗わず、汚さず、自然の中で生きていくことを学べる部活」などの意見がありましたが、こうしたことを実践していける山岳部だったら多くの高校生が山岳部を目指したいと考えるようになるかもしれません。その中で、「楽しく」ということがキーワードのように思えます。私も「空の百名山」というプロジェクトで、空を見ることの楽しさを伝える活動をしていますが、楽しくなければ人間はなかなか学ぼうとしませんし、興味を持っていただけません。空を見ることに興味を持つことが天候の急変を早めに察知し、早めの避難行動につなげることにつながるので、このような活動をしています。山岳部での活動は、体力的には厳しいことも多く、冬山における厳しい自然条件に泣きそうになることもありますが、それを皆で励まし合いながら、冗談を飛ばしながら、楽しく登ることができたら、そうしたきついことの後にある充実感にたどりつけるのではと感じました。
一方、1)を求める生徒さんが圧倒的多数を占める中で、「自由」の意味を「自分だけの自由」、あるいは「恣意的な」「なんでもやっていい」と誤解する傾向があることを危惧しています。グループで登山をしていて一人が遅れても振り返りもせずに登り続けてはぐれてしまう、という事故や単独登山での事故が増えていることも事実です。「自由」に登るといっても自分や同行者の安全に対する責任はあり、そのためには最低限の体力や経験、技術が必要だと思います。「最低限」の体力、経験、技術を学ぶ場、あるいは冒険的な登山をしたい者がその土台、基礎の部分を作り上げるのが大学山岳部と思っていますが、大学山岳部がこうした傾向の生徒さんとどのように関われるのかどうか(必ずしも入部するということではなく、入部しなくても関われる方法はあると思います)について改めて考えていこうと思いました。また、山岳気象を提供し、登山における安全啓蒙をおこなっているヤマテンとして、こうした登山者に何を伝えていけるのかということを考えさせられました。
高校山岳部の生徒さんのほとんどが、高校山岳部での活動に満足しており、山岳部の活動から貴重な経験を得ていることも分かりました。これは、大学山岳部の指導者として非常に興味のある結果です。次回は、高等学校山岳の指導者の皆様とオンラインなどで意見交換会などをおこない、指導方法や学生とのコミュニケーション方法などをお尋ねしたいと思いました。大学山岳部の魅力を高校山岳部の生徒さんに伝えるために、交流事業や高校山岳部の生徒さん向けの説明会、あるいは動画配信なども考えたいと思っています。その際には先生方にご相談させていただき、お知恵を拝借させていただくとともに、ご協力いただければ幸いです。
ありがとうございました。
注1)
山と溪谷社が「山と溪谷」の読者におこなったアンケート結果より
https://www.yamakei.co.jp/ad/1e6f05ccfbf02cc38c7bdb38637c9e96.pdf