山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座128

2019-04-29 23:00:15 | 観天望気

~キリマンジャロの気象特性~

今年(2019年)の2月、キリマンジャロに行きました。

初めてのアフリカ大陸。初めてのキリマンジャロ。どんな雲が見られるのかドキドキしながら登りました。その結果、期待を裏切らない、やる気でのある雲を見ることができました(笑)。

登山の際、見ることができたさまざまな雲についての解説をする前に、今回はキリマンジャロの気候についてお話しします。

キリマンジャロは赤道のすぐ南側にあり、アフリカ大陸の真ん中辺りに位置します。

山の天気は、海と山との位置関係が重要ですが、東側にインド洋があり、この存在がキリマンジャロの気象に大きな影響を与えています。

キリマンジャロは赤道の近くにあるため、気温は一年を通じてあまり変わりませんが、雨季と乾季があります。雨季は3月中旬から6月にかけてです(こちらを大雨季と呼びます)。10月から12月上旬にかけても小雨季になりますが、雨量は大雨季よりも大分少なくなります。従って、登山適期は乾季になる12月中旬から2月にかけてと7月から9月にかけてですが、7月から9月は気温が下がるので、12月中旬から2月にかけての方が登頂日は登りやすいと思います。

また、キリマンジャロは大型の成層火山(富士山と同じタイプの火山)で、3つの主な火山から成り立っており、東西約50km、南北約30kmの山体を擁します。そこで南北、東西であるいは山麓と山頂付近とで天候は大きく異なっています。 

図1 キリマンジャロ周辺の地形と気象の特徴

キリマンジャロに大きく影響を与えるのは、南東の季節風と北東の季節風です。北半球の冬にあたる2月は亜熱帯高気圧がキリマンジャロの近くまで南下し、この高気圧に覆われて晴れる日が多くなりますが、高気圧の位置が少しでも南に偏ると、高気圧から吹き出す南東風が吹くようになります。逆に、高気圧の位置が少しでも北に偏ると、北東風になります。キリマンジャロの北東側には砂漠地帯が広がっており、乾いた空気に覆われています。したがって、北東風が吹くときは乾いた空気が入り、キリマンジャロの天気は良くなります。一方、南東風が吹くときは、インド洋からの湿った空気が入るため、天気が悪くなります。

また、南東風が吹きつけてくると、湿った空気が山にぶつかって上昇します。平地では山がないので上昇気流が発生せず、雲はできませんが、山の場合は斜面に沿って空気が昇っていくので雲ができ、雨が降りやすくなります。そのため、キリマンジャロの南東斜面では特に雨の量が多くなり、鬱蒼としたジャングルを形成しています。

南西斜面でも南側からの湿った空気が谷風によって上昇するので雲ができやすく、雨量が多くなります(谷風については、観天望気講座98をご参照ください)。

https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08

今回の登山では、この北東風と南東風のせめぎ合いが見られましたが、それは次回以降のお楽しみに。

キリマンジャロでは高度によって気候が変わります。高度約11kmまでの対流圏では気温は高い所に行くほど下がります。気温が低下する割合は1,000mにつき約6℃ですが、水蒸気量が少ない高所では1,000mにつき約7~8℃になります。

図2 キリマンジャロの高度による気温の違い

そのため、山麓では熱帯の気温ですが、標高3,000m付近では温帯気候、5,500m以上では一年中、氷点下の氷雪気候となります。

 

表1 キリマンジャロの高度と気候区分

標高

気候

年間降水量

800~1,500m

サバナ気候

500~1800mm

1,500~2,700m

熱帯雨林気候

1800~2500mm

2,700~3,200m

温帯夏多雨気候

600~1800mm

3,200~4,000m

ステップ気候

300~600mm

4,000~5,500m

寒帯気候(高山気候)

100~300mm

5,500m~

氷雪気候(高山気候)

100mm以下

 (AFRICAN WILDLIFE FOUNDATIONの区分から近年の変化を加えて猪熊が修正したもの)

 

高度による水蒸気量の違いもあります。一般に水蒸気は地面や海、湖、川から蒸発したものが空気中に漂っています。そのため、地上付近では水蒸気量が多いのですが、上空に行くにつれて少なくなっていきます。雲は水蒸気が冷やされることによってできるので、水蒸気量が少ないと、雲が成長できません。雲ができなければ雨も降りませんので、水蒸気量が少ない高所では、雨や雪の量は少なくなっていきます。そして、空気は次第に乾燥していきます。

表1はキリマンジャロの高度による気候の違いを表したものです。高度が高くなるにつれて降水量が少なくなっていくことが分かります。

簡単に説明しようと思いましたが、力が入ってついつい長くなってしまいました(笑)。次回は、いよいよキリマンジャロで見られた雲についての解説です。

お楽しみに!

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座127

2019-04-28 23:00:41 | 観天望気

虹のようなものの正体は?

~神秘的な光学現象~

今回は、今日、信州(長野県)や飛騨地方などで見られた虹のような、不思議な現象について解説していきます。

まず現れたのは、比較的良く現れる現象、日暈(ひがさ、にちうん、英名ハロ)です。

写真1 4月28日(日)蓼科上空に現れた日暈(ハロ)

空に浮かんでいる薄い雲は氷の粒でできています。この氷の粒に太陽光が屈折する(折れ曲がる)ことによってできます。光は色によって折れ曲がる角度が違うことにより、色が七色に分かれて見えるのです。

詳細は、観天望気講座93をご参照ください。http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/3f8e6696c91739f680fe1f447cf2236a

続きまして、こちらは比較的珍しい現象、環水平(かんすいへい)アークです。今日、現れた環水平アークはその帯の太さと言い、色の鮮やかさと言い、長さと言い、最高級のものでした。私もこれだけのものを見たのは初めてです。

写真2 蓼科上空(茅野市豊平)で見られた環水平アーク。これだけ鮮やかで長いものは珍しい。

写真3 桜と環水平アーク。中央部が広がっている。

空にある薄い雲は氷の粒(氷晶)でできていますが、環水平アークができるのは、

1.この氷晶が薄くて水平に浮かんでいる

2.太陽光が薄い氷晶の天面(上の面)から横面(横の面)に抜けて2回屈折する

上記の条件がそろったときにできます。ハロと同じように太陽光が氷晶に屈折し、プリズムの原理で色が分かれることによって虹色に見えます。ハロと違うのは氷晶が水平にそろっていないといけないことや、薄い氷晶でないとできない点です。その分、現れる頻度は減少します。

今日はこの2つだけでなく、幻日環(げんじつかん)も見られました。幻日環とは、天頂(私たちの真上にあたる地点)を中心とした太陽を通る光の輪のことです。これも比較的レアな現象で、薄い氷晶(氷の粒)に太陽光が反射して見える現象です。

写真4 蓼科上空に現れた幻日環

このように、今日は3つの光学現象が見られました。中でも環水平アークの規模、鮮やかさは本当に感動ものでした。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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