山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座89 partⅡ

2016-11-14 20:03:38 | 観天望気

さて、partⅠに続き、今回は松本→千歳の飛行機から見た雲についてご紹介します。

partⅠで説明しましたが、当日は冬型の気圧配置となっていました(図1参照)。

図1 11月3日12時の天気図

 

日本付近は等圧線が南北に走り、シベリアの高気圧から冷たい北西の季節風が吹く気圧配置です。

このような気圧配置になると、図2のように、中国大陸から吹いてきた北西の乾いた空気が日本海を渡る間に、下から水蒸気の補給を受けて湿った空気に変質し、雲が発生します。また、日本海を渡る間に、温かい日本海(図3のようにこの時期は北陸地方の沖合で18℃以上あります)に接した下部では空気が暖められて、上空のシベリアから来た冷たい空気との間で温度差が大きくなり、大気が不安定となって雲が上方に成長していきます。この雲が山にぶつかってさらに発達し、雪雲として成長するのです。

図2 日本海を渡る間に発生、成長する雪雲(山岳気象大全 山と渓谷社より)

一方、山を越えた雲は水蒸気を雪として落として弱まり、また、山を吹き降ろす下降気流によって温められて蒸発していきます。このため、風下側ではお天気が良くなるのです。雪雲が山を越えて弱まる様子がよく分かる写真が下の写真1です。

写真1 北アルプスにかかる雪雲と風下側の晴天域

日本海から押し寄せてきた雲が山で成長し、山を越えると雲がなくなっています。

さて、日本海でできる雲は、風の強さや上空の寒気によって、その形状や成長の度合が異なってきます。

まず、日本海と上空との温度差がある程度、できてくると対流という現象が起きます。対流によってできる雲が写真の雲です。

写真2 ベナール対流により発生した雲

この写真を見て、何かを思い出しませんか?温かいお味噌汁を冷ましていくと見られる模様と似ていますね。

実は同じ原因で発生しているのです。お味噌汁を冷ましていくと、冷たい空気に触れている上の方がより冷たくなり、中の方は温かいままです。狭い範囲で上下に温度差が大きくなると、上下の温度差を和らげようとして対流が起きます。下の温かいお湯が一斉に上昇し、上の冷たいお湯が一斉に下降しようとすると、衝突してお互い進めませんので、ある部分では温かいお湯が上昇するために冷たいお湯は場所を譲り、別の場所では温かいお湯が場所を譲り、そこでは冷たいお湯が下降します。空気は頭がいいですよね!

温かいお湯が上昇する場所では味噌の粒が浮き、冷たいお湯が下降する場所が味噌の粒がなくなるのでこのような模様ができる訳です。写真2の場合は、温かいお湯が日本海、冷たいお湯がシベリアからの冷たい空気ということになり、温かい空気が上昇した所で雲ができ、下降している所は雲がない部分になります。それで、このような面白い模様の雲が広がる訳です。

図2 日本海の水温(気象庁HPより) 東北から北陸地方では18℃以上もある。

図3 11月3日15時の1,500m上空の気温予想図 北陸地方まで0℃以下の冷たい空気に覆われる予想となっている。

写真2の雲は上空の寒気が強まると、大気が不安定になるため、成長して写真3のような雲になっていきます。

写真3 発達した積乱雲の雲列

上の写真では左上から右下の方に、写真2の雲より成長した積乱雲が連なっています。これは、写真2の場所より写真3の方が上空の寒気が強く、風の収束によって雲が発達したためです。上空の風が強いと、雲が風下側に一列に並んでいきます。

写真4 雪雲の中でひときわ発達した雲

また、雲は山岳にぶつかることによって成長します。日本海から侵入してきた雪雲は一様に成長するのではなく、山の形や山脈の向きによって発達度合が変わってきます。写真の真ん中やや左寄りに、ひときわ盛り上がった白い雲が見えますが、この下には周囲の山より高い白馬三山があり、この山によって上昇した雲が成長している様子が分かります。一方、奥の方は雲が切れているように見えますが、この辺りは日本海になっているため、山によって空気が上昇させられず、雲がそれほど発達できないのです。

これから日本海には塊状や筋状の雪雲や雨雲が現れることが多くなります。衛星画像で見ると良く分かります。冬型の気圧配置になったときに衛星画像を見ていきましょう。色々な模様を見ることができて楽しいですよ。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

 

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猪熊隆之の観天望気講座89 partⅠ

2016-11-03 21:31:36 | 観天望気

すっかりご無沙汰しております。著書の執筆やら何やらで落ち着いて書ける時間がなかなかなかったもので、申し訳ございません。

さて、今回は松本空港から千歳空港に向かう機窓から見られた雲について説明します。partⅠは松本空港から見られた雲についてです。

昨日(11月3日)は日中、冬型の気圧配置となりました。冬型といえば、日本海に出現する筋状の雲を思い浮かべる人が多いかもしれません。あるいは、冬場に良く気象予報士が使う「北陸から北の日本海側では雪、太平洋側では晴れ」という言葉を思い浮かべるかもしれませんね。松本空港からは雪と晴れの境界を見ることができました。

下記が3日の天気図(図1)です。北海道の南海上に低気圧があり、中国大陸には高気圧があって、「西高東低」の冬型となっています。等圧線も東日本で縦縞模様となり、やや込み合っています。

図1:11月3日12時の地上天気図(気象庁提供)

このようなとき、北西風が吹き、中国大陸からの冷たく、乾いた空気が日本海を渡る間に水蒸気の補給を受けて下から湿った空気に変わっていきます。また、日本海はこの時期、海水温が18℃以上と高いので、上空の冷たい空気との間で温度差が大きくなり、対流雲と呼ばれる積雲や積乱雲が発生します。これらの雲が北西風によって日本列島に上陸し、北アルプスなどの山にぶつかって上昇し、さらに発達するのです。

しかしながら、風がある程度強いと、山を越えて吹き降ろす下降気流となり、雲は山を越えると次第に蒸発して弱まるのです。北アルプスや谷川連峰など高い山脈が連なるときは、山を挟んだ両側で天候が大きく変わります。まさに、「トンネルを抜けると雪国だった」の世界が体験できる訳です。

さて、下の写真(写真1)を見ていただきますと、左から右へと山が連なっているのが見えます。これは北アルプスの前衛の山で、画面の左奥が北西方向、右手前が南東方向です。その山の奥は雲に覆われています。これが北アルプスの山々になり、雪雲が山にかかっているのが見えます。赤い囲みの部分は、雲から落ち着いている雪です。しかしながら、山を越えると雲は弱まり、空港上空では青空が広がっています。

写真1 信州まつもと空港から北アルプス方面(北西側)を望む

一方、緑色で囲まれた雲は、北アルプスにかかる大きな白っぽい雲とは別の雲です。これはどうしてできたのでしょうか?

要因のひとつは、地面付近の温まった空気と上空とで気温差が大きくなり、対流が発生しやすくなったことです。

まつもと空港一体は松本盆地、安積野と呼ばれる広い平地となっています。山を越えて温まった空気が日射でさらに温まり、気温が上昇しました。図2をご覧いただくと、松本付近で15℃近くまで気温が上がっています。

図2:気温アメダスデータ(3日12時、気象庁提供)

図3:700hPaの気温(ヤマテン専門天気図より)

一方、図3を見ていただくと、700hPaという高度約3,000mでは松本付近に-6℃以下という強い寒気が入っています。

この温度差によって対流が生じ、上昇気流が起きたところで積雲ができたというのが一つの要因です。

もう一つは、風の収束による上昇流によって積雲が発生したというものです。

写真で緑色の囲み部分の積雲は列をなしています。これは梓川など谷に沿って吹き降ろした水蒸気をやや多く含んだ風が安曇野を吹いている北風とぶつかって(収束して)上昇流が発生したことによるものです。図4を見ると、松本付近で北風と西風がぶつかり合っているのが分かります(赤い囲み部分)。

図4:3日13時のアメダス風向・風速(気象庁提供)

特に、風が広い範囲で収束しているところでは雨雲に発達しているところがあります。図5の雨雲レーダーにある赤い囲み部分の雨雲がそれです。

図5:3日13時解析雨量(気象庁提供)

このように、山で発生した雲と山を越えて発生した雲は発生要因が別になります。二つ同時に見られると勉強になりますね。

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

 

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