山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

甲斐駒ヶ岳の雪崩についてpartⅠ ~ヤマテンを活用してリスクを知る~

2023-03-24 17:32:19 | 日記

3月19日(日)に南アルプス・甲斐駒ヶ岳(2,966m)の黒戸尾根2,565m付近で雪崩が発生し、6名が巻き込まれ、うち3名が重軽傷を負いました。幸い、3名はヘリコプターで救助されました。山梨県北杜市から業務委託を受けて七丈小屋を管理している株式会社ファーストアッセントの代表取締役、花谷泰広さんによりますと、「想像をはるかに上回る規模で雪崩が発生していて、本当に全員命があって良かったと思える状況」だったということです。怪我をされた皆様には、心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い回復を祈らせていただきます。

 

この事故から学ぶべき教訓が沢山ありますので、3回に分けて投稿させていただきます。ただし、冬山(雪山)初級者向け、あるいは経験者でも地形や気象、雪崩などのリスクを自分で考えることができない、あるいは自信がない人向けです。できる方は読んでいただく必要はありません。

 

お怪我をされた1名は私の知人で、ヤマテンユーザーの方でもありました。そこで、partⅠでは、ヤマテン「山の天気予報」の活用方法について説明します。

 

山の天気予報のサービス内容、ご登録はこちら

lp.yamatenki.co.jp

 

①大荒れ情報や警戒情報が発表されているかどうかを確認

事故前日の3月18日(土)は、本州の南海上を低気圧が東に進み、南アルプスでは平均50cm前後の降雪となりました。七丈小屋付近でも50cm以上の新しい積雪があったようです(雪崩れた地点では60cm位)。大雪が降っている間やその後は、積雪が不安定になることが多く、過去にも八ヶ岳、中央アルプス、南アルプスなどで雪崩による死亡事故が起きています。この大雪をヤマテンでは事前に予想していました。3月16日(木)午前中に、甲斐駒ヶ岳を含む中部山岳中・南部に「大雪に関する警戒情報」をヤマテン会員向けに発表。このような情報は、ピン固定している山ではメールで送られてくるほか(4月からはお気に入り登録している山でも送られるようになります)、山頂予報ページ上の「大荒れ情報」が赤色に表示されているかどうかで確認できます。大荒れ情報のボタンをクリックすると、内容を確認できます。

大荒れ情報が発表されている山への登山は中止したり、計画を変更することを考えてください。

 

図1

なお、今回の事故は、たまたま甲斐駒ヶ岳で発生しましたが、甲斐駒が特に危ないというのではなく、冬山初級者に人気の八ヶ岳や中央アルプスでも同じようなリスクはあります。

実際、同じ日の朝、千畳敷カールでは登山ルート上に大きな雪崩が発生しました。幸い、ロープウェイの運行開始前でしたので、誰も巻き込まれませんでしたが、雪崩が発生したのがあと1時間遅ければ、大事故につながっていた可能性があります。そして、雪崩の後、多くの登山者が数珠つなぎになって雪崩が発生した場所を登っていっています(写真3)。この登山者は、雪崩のリスクをどう考えていたのでしょうか?

 

写真1 雪崩発生前の千畳敷カール

写真2 雪崩発生直後の様子

写真3 雪崩発生後、数珠つなぎになって登る登山者

週末登山の方は、木曜日に「今週末のおすすめ山域」を確認

毎週木曜日に発表している「今週末のおすすめ山域」では、八ヶ岳、中央アルプス、富士山、南アルプスや北関東の標高の高い山岳では、18日に大雪の恐れがあり、19日は好天になるものの、雪崩のリスクが高まることをお知らせしています。

 

ヤマテンが16日(木)に発表した「今週末のおすすめ山域」

この情報を参考にして、雪崩のリスクが高い八ヶ岳、南アルプス、中央アルプス、富士山よりも北アルプス北部や新潟県、北陸、飛騨の雪山を選ぶのもひとつの考えです。19日はすべての山岳で好天が予想されているので、なおさらですね。もちろん、天気や雪崩のリスクだけでなく、ルートの技術的、体力的難易度も重要ですから、あまり技術的・体力的に自信がない方は八ヶ岳であれば、雪崩地形がない北八ヶ岳の白駒池や縞枯山、双子池などを選ぶとか、18日に大雪にならない北アルプス北部を選択して、八方尾根を八方池まで散策するとか、栂池自然園付近まで歩くなどの選択をしていただければと思います。今回はここまでにします。次回は、前日、あるいは前々日に発表される天気予報から、登山の中止や計画の変更などを判断する方法について見ていきます。

 

山の天気予報は、ヤマテンで。

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3月13日磐梯山の遭難について

2023-03-16 16:38:17 | 日記

3月13日(月)に磐梯山で母娘が遭難し、母親が死亡、娘さんが低体温症で救助されるという痛ましい事故がありました。「気象遭難ゼロ」を目指しているヤマテンの代表として、非常に残念な気持ちでいっぱいです。ぜひ、このような遭難が二度と起こらないように、「山の天気予報」をこのように活用していただきたいという思いを書かせていただきます。

登山前日の12日(日)13時に発表された、磐梯山の山頂天気予報を確認します(画像1)。朝のうちは晴れマークが出ていますが、お昼には雪マークになっています。

画像1


天気分布予想図(画像2 数値予報による予想なので平地、山麓の天気)を見ても磐梯山付近で朝は曇り空だったのが9時頃から雨になって12時頃は、北側でみぞれや雪マークが出てきています。

画像2


また、平均風速(10分間の風の強さの平均値)も6時19m/s→12時8m/s→18時18m/sと昼前後を除き、低体温症が起こりやすい15m/sを大きく超えています。

ここで風向きに注目します。6時に南風、12時南西風、18時西北西風になっています。磐梯山は南側に那須連山などの高い山があるため、南風は吹きにくい地形です。したがって、6時の19m/sはもっと弱い可能性があります。一方、西~西北西風は2つの山脈の間を抜けてきた風がまともにぶつかるので(画像3)、この予想値より風が強まる恐れがあります。

画像3



気温も12時マイナス1℃から18時マイナス6℃と急激に下がり、午後は低体温症に陥りやすい気象条件である1.風速15m/s以上 2.雨や雪が降っていること 3.気温が低いこと(特に急激に下がるとき) にすべて当てはまる条件になりました。朝、曇り空程度で登山口では風が弱く、特に問題ない天気だったとしても(あるいは晴れていたとしても)、日中、急速に天候が悪化するときに低体温症などの気象遭難が多発します。この日の予報を見ていれば、天候が急激に悪化し、気温が下がる昼までには森林限界内に下山することが重要だったことが分かります。

新聞などの報道によると、母親が動けなくなったと娘さんから連絡があったのが15時20分。標高1,500m付近とのことで、時間的にも低体温症に陥った状況からみても下りだと思いますが、そうだとすると、山頂を出発したのは昼過ぎということになりますね。天候の悪化を考慮して出発時間を早めるか、途中で引き返す選択をすれば、このような事故が防げたのではと思うと、残念でなりません。

天気が悪化し、吹雪になると視界が非常に悪くなっていきます。猛吹雪を体験すると分かりますが、前の人すら見えなくなりますし、トレース(足跡)もあっという間に消えてなくなります。どこを進んでいるのか分からなくなり、道迷いが非常に起こりやすくなります。迷っているうちに体温が奪われて低体温症に陥るケースが非常に多いです。

もちろんヤマレコアプリを使えば、ルートから外れたときに音声や振動などが出ますが、猛吹雪の際は風の音で聞こえづらくなり、雪が画面に張り付いて画面も見づらくなることも考えられます。気温が下がると電圧が下がって急にシャットダウンしてしまうこともありますから、冬山では紙の地図も併せて持つと良いでしょう。いずれにしても、天候が悪化する中ではスマホの充電問題だけでなく、道迷い、低体温症、雪庇の踏み抜きや雪崩など様々なリスクが増えていきます。

このような事故を避けるためにも、ぜひ、ヤマテンの「山の天気予報」を有効に活用してリスクを減らしていきましょう。なお、山頂の天気予報は、非常に使いやすくなったヤマレコアプリでの山の天気予報のご利用をおすすめします。
https://www.yamareco.com/yamarecomap/

山の天気予報は、ヤマテンで。

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山の天気を学ぶオンライン講座(第3回)のご案内

2023-03-12 16:04:48 | おしらせ

4月12日(水)開催の第3回オンライン気象講座につきまして、申込みが開始となりましたので、ご案内申し上げます。

テーマ:「山で雲を見る方法を学ぶ~観天望気~」
日程:4月12日(水) 19:30~21:00
参考文献:「山の観天望気」、「山岳気象大全」第1章

講師:猪熊隆之
※講師は変更となる場合があります。
定員:各回とも70名
開催方法:オンラインZoomウェビナー

オンラインでの講座となりますので、全国の皆様にご参加いただくことができます。
また、通常の机上講座同様、質疑応答も可能となります。(後日、録画分の配信を3週間予定しております)。

参加費につきましては、一般の方とヤマテンフリー会員の方は3,500円ですが、ヤマテンプレミアム会員の方は2,500円となります。なお、4月10日(月)以降、キャンセル料がかかりますのでご注意ください。

お申し込みやキャンセル料などの詳細は下記URLをご覧ください。
※定員を越えた場合、詳細ページにアクセスできなくなります。お早めにお申し込みください。
お申込時のメールアドレスにつきましては、ヤマテンにご登録いただいているメールアドレス(ログイン時のメールアドレス)をご記入ください。

講座申し込み 
https://shop.yama-school.com/store/products/2023-04-12-weather-forecast-by-clouds

講義を受ける際の操作方法につきましては、下記のやまスクのブログにて詳細な解説が記載されております。サポート体制も整えており、不明な点があっても安心です。
https://www.yama-school.com/blog/how-to-attend-zoom-webinar

この機会にぜひ受講いただき、登山をより安全に楽しむための一助としていただければ幸いです。
皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

株式会社ヤマテン
気象講習係

 

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猪熊隆之の観天望気192回 京阪神地域の冬の雲 ~うね雲とわた雲の見分け方

2023-03-06 13:09:34 | 観天望気

今回は、2月下旬に大阪府と奈良県にまたがる生駒山で見られた雲についてです。

 

写真1 生駒山から見られた雲

この日は写真1のように、帯状に連なる低い雲が現れていました。この雲は層積雲(そうせきうん)と呼び、細長い雲が規則的に連なる様子が畑の畝(うね)に似ているので、うね雲とも呼ばれています。写真2が典型的なうね雲です。

 

写真2 畑の畝のような形のうね雲

うね雲は、前回(191回) http://sora100.net/course/kantenbouki/2893 や前々回(190回)http://sora100.net/course/kantenbouki/2827 で学んだ通り、地面や海水面付近が暖かく、上空1,500m~2,000m付近に冷たい空気が入ったときにできる雲です(図1)。空気は温められると軽くなって上昇し、冷たくなると重くなるので下降しますが、それが交互に起きるので温かい空気が上昇するところで雲が発生し、冷たい空気が下降するところで雲は蒸発して消えていきます(図1)。そのため、雲ができるところと、雲がない部分が交互に発生するため、帯状の雲が列をなして連なるのです。

図1 うね雲ができるときの気象条件

この雲は、冬型の気圧配置になったとき、西日本で良く出現します。西日本の海は暖流が流れているので温かく、それに接している空気も温められます。一方、シベリアからは北西の季節風に乗って、この日は1,500m上空でマイナス9℃以下という冷たい空気が近畿地方の上空に入ってきました。そして、日本海や瀬戸内海から水蒸気の補給を受けた空気が流れ込むと、うね雲ができるのです。

 

写真3 雲に覆われているところと陽があたっている所が隣り合っている様子

うね雲に覆われると、雲が広がっている所と雲がない所が交互になっているので、陽が当たらずに暗くなっている場所と陽が射している場所が隣合っていることがあります。山の上から見ると、その様子が良く分かって面白いですね。「私の住んでいる所は曇っているけど、あなたの所は晴れてるね!」など、自分たちの住んでいる所の天気を想像して楽しんでみましょう。

 

一方で、190回で伊勢湾側に発生していた雲は積雲(せきうん)と呼ばれる雲です。積雲は別名、綿雲(わたぐも)とも呼ばれます。その名の通り、雲の形が綿に似ています(写真4)。

 

写真4 青空に浮かぶわた雲

図2 わた雲ができる仕組み

わた雲は、日射などで周囲より温められた空気が上昇することで発生します(図2)。わた雲とうね雲は浮かんでいる高さが同じ位で、形も比較的似ているので見分けづらいことがありますが、単独でプカプカ浮いているのに対し、うね雲は組織的に列を成していることが多く、単独に見える場合でも一つ一つの雲の塊が大きいのが特徴です。

 

この日は、他にも面白い雲が見られました。そのひとつが尾流雲(びりゅううん)と降水雲(こうすいうん)です。

 

写真5 尾流雲

尾流雲は、雲がシッポをはやしたように、雲底から下に垂れ下がっている雲です。この雲は、雲から落ちてくる雨や雪が地上に達する前に蒸発していったもので、それが目に見ている訳です。

 

写真6 降水雲

尾流雲が地上まで達すると、降水雲(こうすいうん)と呼びます。降水雲になると、雨や雪が地上に到達して、雨や雪が降っていることになります。通常、うね雲からは雨や雪は降りませんが、うね雲が厚くなると、雨や雪がちらつくことがあります。少し分かりづらいですが、写真6でも所々、地上まで達している所があり、ここでは雨や雪が降っている訳です。生駒山でもこの日、時折この雲が近づくと雪がちらつきました。

 

また、この雲のように一列に連なっている場合、風と風がぶつかり合って上昇気流が発生してできていることが多いです。ちょうど、この雲が発生しているあたりは淀川に沿って京都の方から吹いている風と、川西の方から吹いてくる北西風とが大阪平野で衝突していました(図3)。

 

図3 北東風と北西風が衝突する仕組み

うね雲がやる気を出すと、入道雲(にゅうどうぐも)や雷雲(かみなりぐも)になっていくことがあります。上空3,000m以上の高い場所で冷たい空気が入ると、雲がやる気を出していきますが、今回は3,000m以上では寒気が弱かったので、雲はやる気を出せませんでした。3,000m付近の寒気は700hPaの気温予想図で、5,500m付近は500hPaの気温予想図でチェックしましょう。冬は、700hPaでマイナス18℃以下、500hPaで-30℃以下の寒気が入ると、雲がやる気を出していきます。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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