山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座201回 ~予備日を使って好天を掴め!~

2024-10-11 22:13:33 | 観天望気

※今回の内容は上・中級者向けです。

毎年恒例の空見ハイキング、東北紅葉シリーズ。今年は月山の美しい紅葉を皆さんに見ていただく企画にしました。紅葉は陽射しがあるかないかでその色合いが大きく違ってきます。やはり晴れた太陽の光で輝く紅葉を見たいものです。そこで、今回は2日目と3日目の日程を入れ替えることができるような日程にしました。当初は2日目が月山の登山、3日目が羽黒山と金峯山の登山予定でしたが、2日目の月山はガス(霧)がかかると予想して、3日目に変更しました。テレビやネット上で見られる平地の天気予報では2日目が終日晴れ、3日目が晴れのちくもりといった予想でした。結果としてこの予報が外れ、私の予想したように2日目が霧、3日目は下山時まで晴れていました。このように予想した理由について、天気図から解説していきます。

 

図1 29日発表の2日目(30日9時)の地上予想図

図2 29日発表の3日目(10月1日9時)の地上予想図

まず、2日目(30日)と3日目(1日)の天気図を比べてみましょう。2日目(図1)では、高気圧が北海道の東海上にあって29日と似たように一見、東風が吹きそうな気圧配置ですが、日本海中部にも隠れた高気圧があって、日本海側では弱い西風が吹く形です。こうなると日本海側にある月山では湿った空気が少し入りやすくなります。ただし、この微妙な風向は予想が難しいので、取りあえず風向きは不明瞭と判断しても良いでしょう。

 

一方、3日目(図2)では、東北地方で等圧線が縦縞に走っていて東が気圧が高く、西が低いことから南風になります。月山では南側に飯豊・朝日連峰、さらに関東山地などが控えており、湿った空気が入りにくい風向になります。また、台風が接近しているように見えますが、この台風の大きさは小さく、等圧線が込み合っている部分では風雨が強まりますが、そこからはまだ離れているため、影響が小さいと判断します。

 また、この両日ともに平地の最高気温の予想は30℃近くまで上がることが予想されていました。このようなときは、上層に寒気が入ると、大気が不安定になり、平地では晴れていても山では上昇気流が発生して雲に覆われることが多くなります。そこで、上層の寒気を見ていきましょう。上層の寒気は高度5,700m付近の500hPa面の気温予想図を見ていきます。地上の気温が上昇し、大気が不安定になりやすい、15時の予想図で確認します。

 

図3 2日目(30日15時)の500hPa面の気温予想図

※500hPa面の気温予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=DXiRd7LMg2g&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=9

図3を見ると、東北北部にマイナス9℃線がかかっています。地上が30℃近くまで上がるときは、マイナス9℃以下の寒気が入ると、大気が不安定になりますので、山で雲が発生しやすい気温です。また、図4は図3と同じ高さの高度・渦度予想図ですが、日本海に赤い円形の部分があり、等高度線が南に張りだしています(緑色のカコミ部分)。このような場所には上層の気圧の谷があり、上層で上昇気流が起こりやすくなるところです。つまり、雲がやる気を出して上方へ成長しやすくなります。

 

図4 2日目(30日9時)の500hPa面の高度・渦度予想図

※500hPa面の高度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=mkCIzNOKSas&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=10

※500hPa面の渦度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=p6A0MByEGx0&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=17

図5 3日目(1日15時)の500hPa面の気温予想図

一方、3日目(1日)の気温予想図を見ると、月山付近はマイナス6℃以上になっています。つまり、寒気が抜けて大気が安定していることが分かります。これまでのことから以下のことが分かります。

 

1.地上天気図から3日目の方が月山に湿った空気が入りにくい風向である

2.500hPa面気温予想図から3日目の方が大気が安定して、雲がやる気を出しにくい

 

以上のように、天気図を見ることで、より天気が良くなりそうな日に紅葉の美しい場所を訪れるチャンスが増えます。土日のどちらにメインとなる場所を持っていくのか迷うときなど是非、皆さんもチャレンジしてみてください。

 

文責:猪熊隆之

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猪熊隆之の観天望気講座200回 ~東風のときの蔵王連峰の天気~

2024-10-11 21:57:00 | 観天望気

今回は、2024年9月29日に蔵王連峰で見られた雲についての解説です。この日は、朝から山形盆地では良く晴れていました(写真1)。

 

写真1 29日朝の山形市内

一方、刈田岳に到着すると、一面のガス(霧)に覆われていました(写真2)。

 

写真2 霧の刈田岳

ガス(霧)にも悪いガスと良いガスがあります。悪いガスとは、オナラのことではなく(失礼!)、上を見上げたときに空が暗いとき、明るい感じがしないときのガスです。雲が高い所まで達しているので太陽の光が届かず、暗い感じになります。このようなときは、いつ雨が降りだしてもおかしくありません。一方、良いガスは写真3のように、太陽が透けてみえたり、明るい感じのするガスです。このようなときは、雲の上端は私たちのいる所のすぐ上にあり、湿った空気の入り込みが弱まると、ガスが取れることもあります。

 

写真3 良いガス

さて、蔵王といえばお釜。やっぱりエメラルドグリーンのお釜は見たいものですよね。ところが、刈田岳から熊野岳に向かって歩き出し、お釜の展望台に着くもガスガスでお釜は見えず・・・。良いガスなのでチャンスがあるかなと思い、時々お釜が見える所で待機しながら、お釜寄りの登山道を進んでいきます。すると、奇跡のように霧が晴れてお釜が現れました!

 

写真4 ガスが取れて突然現れたお釜

やはり、良いガスのときは諦めない方がいいですね。

さて、この日は宮城県側から東寄りの風が吹いており、太平洋からの風向きになっていました。そのため、太平洋からの湿った空気が蔵王連峰で上昇させられて宮城県側で雲を発生させ、その勢いが強いときには稜線を覆うという天気でした。このようなときは、宮城県側から登るとガスガスで景色が見られないので、山形県側からのアプローチがおすすめです。逆に、西風のときは山形県側で霧に覆われることが多く、宮城県側からのアプローチが良くなります。風向きは天気図から予想できるので、この日の予想天気図を見ていきましょう。

 

図1 28日に発表された29日午前9時の予想天気図(気象庁ホームページより)

天気図を見ると、北海道の西に高気圧があり、福島県沖から九州の南海上にかけて前線が延びて前線上に低気圧があります。つまり、北の方が気圧が高く、南が低い北高型と呼ばれる気圧配置です。このようなときは、北の高気圧からの北東や東風が吹くことが多くなります(風は気圧が高い方を右手に見て等圧線に平行に吹くので)。したがって、太平洋からの風向となり、風上側の宮城県側で海からの湿った空気が上昇して雲が発生するのです。

 

一方、山を越えると下降気流となり、空気が温められて雲が蒸発していくことや、蔵王連峰で太平洋からの湿った空気が食い止められるので、山形県側では空気が乾いた状態です。そのため、山形県側では中腹以下を中心に、お天気が良くなります。

 

図2 山を挟んで天気が異なる理由

写真5 宮城県側で霧、山形県側では晴れと蔵王連峰を挟んで天気が異なる様子

普通は山を越えた雲は風下側に流れ下り、徐々に蒸発していきますが(時に滝雲になります)、写真5のように雲が垂直に立っているのはなぜでしょうか。これは東風があまり強くないため、山形県側には風が吹き下ろさず、山形県側では日中の昇温による谷風で風が吹きあがってきているからです。山形県側からの谷風が宮城県側からの雲の侵入を食い止めているので、このように雲が垂直に立ったような状態になります。

 

講師の猪熊は、アルパインツアーや毎日新聞旅行で空見ハイキングツアーを企画、同行させていただいております。次回は2025年1月、2月に関東近郊と南九州で予定しています。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

 

文責:猪熊隆之

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雲のワンポイント講座第27回 ~雨上がりに森から立ち昇る雲は何?~

2024-07-18 17:34:59 | 観天望気

雨が降っているときや、雨上がり、霧がぱぁーっと晴れたときに上の写真のような雲が山から湧き出るように発生するのを見たことがあると思います。この雲を森林蒸散雲(しんりんじょうさんうん)と呼びます。

 

長く雨が降ると、雨は地上に落ちてくる間に少しずつ蒸発するので、空気中の湿度が高くなります。また、森に降った雨は木の幹や葉っぱから蒸発していくので、木がない場所よりも水蒸気が溜まっていき、空気の中は水蒸気でお腹いっぱいになっていきます。そして、含み切れなくなった水蒸気が雲に変わっていくのです。森に流れる神秘的な雲は、木々の蒸発散によって生まれているのですね。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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雲のワンポイント講座第26回 ~飛行機雲が長く残ると、天気は崩れる!?~

2024-07-18 17:32:42 | 観天望気

青空に広がる飛行機雲。上の写真に見られる帯状の雲は全て飛行機雲が形を変えたものです。上層(上空約7,000m以上)の空気が湿っているときには、飛行機雲がなかなか蒸発せず、長く残ります。

 

それでは、良く言われる「飛行機雲が長く残ると、天気は崩れる」のでしょうか?

これは、当たっているときと外れるときがあります。上層の湿った空気が低気圧や前線の接近によるものであれば、天気は崩れます。しかしながら、一時的に湿った空気が入っているときは天気が崩れません。西側の離れた場所に(関東地方の場合、東シナ海などに)前線や低気圧があるときに、飛行機雲が残るときは天気が崩れるので、天気図と併せて確認すると良いでしょう。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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雲のワンポイント講座第25回 ~山岳波(さんがくは)による雲~

2024-07-15 17:43:58 | 観天望気

先日、八ヶ岳上空にレンズ雲が現れました。しかも三重のレンズ雲です。レンズ雲は、風が山を越える際に生まれる上昇気流が上空や山の下流側に伝わって発生する雲で、山によって発生する空気の波を山岳波と呼びます。レンズ雲の他に吊るし雲や笠雲が山岳波によって発生する雲です。山岳波はある程度、風が強くないと発生しないことから、これらの雲が出たときは、山の上では強風となる恐れがあります。

 

さて、レンズ雲はひとつしか現れないこともありますが、全天に数が増えていくときや、写真のように二重、三重になっていくときは風が益々強まっていき、高い山では天気も悪化することが多くなりますので、覚えておきましょう。

 

ちなみに、今回の三重の雲、一番下は平均的なレンズ雲(八ヶ岳の山脈に沿って波が発生しているため、長めのレンズ雲)ですが、その上の雲は面白い形をしています。雲の端がギザギザしていますが、これは雲が下降しながら蒸発している様子を表しています。雲の形がそれぞれ違うのは、雲が浮かんでいる高さが違うためです。レンズ雲は高さによってさまざまな雲の種類からできています。今回の写真のレンズ雲では、一番下の雲と真ん中は高積雲(こうせきうん)によるレンズ雲、一番上は巻層雲(けんそううん)によるレンズ雲になります。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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