山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

雲のワンポイント講座第29回 ~満腹の空気が作り出した濃霧~

2025-03-08 14:42:53 | 観天望気

先日、長野県茅野市で濃霧が発生しました。

 

写真1 濃霧の発生した茅野市豊平

なぜ、濃い霧が発生したのでしょうか?この日は、本州の南岸沿いを通過した低気圧の影響で昨夜からの雪が雨に変わり、日中は降ったりやんだりの天気でした。空気は含むことができる水蒸気の量が温度によって変わります。温度が高い空気ほど沢山の水蒸気を含むことができ、温度が低い空気ほど水蒸気をあまり含むことができなくなります。人間で言えば、ご飯を沢山食べられる胃袋が大きい人が温度の高い空気、少食であまり食べられない人が温度の低い空気です。

 

前日からの雪や雨で湿度が100%に近く、空気はお腹いっぱいに近い状態でした。そこに夜になって気温が少し下がり、空気の胃袋が小さくなったことや積雪や濡れた地面からの蒸発も加わって空気はもうお腹いっぱい状態。やがて含み切れなくなり、吐き出したものが霧になったのです。人間で言えば「オエーッ」といったところでしょうか。もちろん、霧や雲ができるにはエアロゾルと呼ばれる核になるものが必要なのですが、それはちょっと難しいので、また機会があればご説明します。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報は、ヤマテンで。

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猪熊隆之の観天望気講座202回 ~風向きによる天気の違い(冬型編)~

2025-02-23 14:50:30 | 観天望気

天気予報を見るときに、天気は見るけれど、風の強さや風向きについて確認していない方は多いと思います。実は、山の天気では風の強さや風向きがとても重要です。風の強さは、低体温症や突風による転滑落などのリスクにつながりますし、風向きは天気の変化に影響します。今回は、その風向きと天気の関係について、韓国岳での空見ハイキング(※)で見られた雲を元に解説していきます。

※空見ハイキングは、旅行会社でおこなっている、山の天気を学びながら登山を楽しむツアーです。空や雲の見方、風を読む方法などを学ぶことができます。

空見ハイキング(山の天気ハイキング)の情報は下記ページでご確認ください。

https://www.yamaten.net/workshop

 

写真1 午前中は快晴の韓国岳

写真2 午後になると、層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が広がる

2月9日は、朝から韓国岳上空は晴れ渡り、霧氷に彩られた山の風景に見とれながら歩いていました。森林限界を超えると空が開けましたが、写真1のように遠くに(写真の奥の方)暗い雲の帯が見えるものの、他の所に雲はなく青空が広がっています。一方、午後になると写真2のように扁平型の塊状の雲が広がっていました。この雲は層積雲といい、北西の季節風が東シナ海を渡る間に、暖かい海面に触れて温められた海上の空気と、上空1,500~2,000m付近に流れ込んだ大陸からの冷たい空気によって、地上付近と高度約2km付近との狭い範囲で温度差が大きくなるときにできる雲です。東シナ海で生まれたこれらの雲は、上空を吹いている風によって流されていきます。

 

この日は、上空の風が午前中は北~北北西風、午後は北西~西北西風に変わりました。北北西風の場合、図1のように東シナ海からの雲は薩摩半島に入り、霧島連山や大隅半島にはかかりません。写真1の遠くに見える雲は、東シナ海から薩摩半島方面に広がる雲です。

 

図1 北北西風

図2 北西風から西北西風になると、霧島連山にも雲がかかるようになる

午後になると、風向が北西風~西北西風に変わり、東シナ海からの雲が霧島連山に向かうようになりました。それでは風向はどこで調べれば良いのでしょうか?気象庁などが発表する天気予報でも風向は発表されますが、地上の風向ですので地形の影響で上空の風向とはズレてしまうことがあります。そこでおすすめするのが上空1,500m付近の850hPa面の天気図です。

 

図3と図4は上空1,500m付近の風と気温の予想図です。風向はこの棒に羽根のようなものがついている記号で判断します。図5のように、羽根が出ている方角から風が吹いてくると判断してください。

 

図3 9日午前6時の上空1,500m付近の気温と風予想図

図4 9日午後3時の上空1,500m付近の気温と風予想図

図5 風向の調べ方

図3を見ると、朝6時の予想では九州南部では北から北北西風になっています。一方、図4の午後3時では北西から西北西風になっています。ちょっとした風向きの変化でこのように雲が流れ込む場所が変わり、天気が変わってきます。風向きや風の強さの変化は天気の変化につながります。時々、風の強さや向きをチェックしてみると天気の変化を早めに察知できるかもしれません。

 

文責:猪熊隆之

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雲のワンポイント講座第28回 ~レンズ雲の親子~ 

2025-01-10 14:37:24 | 観天望気

先日、権現岳の山頂からレンズ雲が親子のように並んでいる姿を見ました。

 

写真1 権現岳の山頂からのレンズ雲

レンズ雲とは上空で風が強いときにできる雲です。強い風が山を越えるときにできる上昇気流で雲が発生します。今回のように、2つのレンズ雲が並んでいるときは、山を越えるときに発生した空気の波が下流側に伝わって、そこでできる上昇気流がもうひとつのレンズ雲を作っていることになります(図1)。

 

図1 レンズ雲ができる仕組み(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

写真2 権現岳の山頂からレンズ雲と大気の流れ

レンズ雲は強風の兆候(サイン)になります。このときも写真を撮影したときには、風は弱かったのですが、その後、風が強まりだしました。この雲を見かけたら、その後の強風に注意した方が良いでしょう。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座201回 ~予備日を使って好天を掴め!~

2024-10-11 22:13:33 | 観天望気

※今回の内容は上・中級者向けです。

毎年恒例の空見ハイキング、東北紅葉シリーズ。今年は月山の美しい紅葉を皆さんに見ていただく企画にしました。紅葉は陽射しがあるかないかでその色合いが大きく違ってきます。やはり晴れた太陽の光で輝く紅葉を見たいものです。そこで、今回は2日目と3日目の日程を入れ替えることができるような日程にしました。当初は2日目が月山の登山、3日目が羽黒山と金峯山の登山予定でしたが、2日目の月山はガス(霧)がかかると予想して、3日目に変更しました。テレビやネット上で見られる平地の天気予報では2日目が終日晴れ、3日目が晴れのちくもりといった予想でした。結果としてこの予報が外れ、私の予想したように2日目が霧、3日目は下山時まで晴れていました。このように予想した理由について、天気図から解説していきます。

 

図1 29日発表の2日目(30日9時)の地上予想図

図2 29日発表の3日目(10月1日9時)の地上予想図

まず、2日目(30日)と3日目(1日)の天気図を比べてみましょう。2日目(図1)では、高気圧が北海道の東海上にあって29日と似たように一見、東風が吹きそうな気圧配置ですが、日本海中部にも隠れた高気圧があって、日本海側では弱い西風が吹く形です。こうなると日本海側にある月山では湿った空気が少し入りやすくなります。ただし、この微妙な風向は予想が難しいので、取りあえず風向きは不明瞭と判断しても良いでしょう。

 

一方、3日目(図2)では、東北地方で等圧線が縦縞に走っていて東が気圧が高く、西が低いことから南風になります。月山では南側に飯豊・朝日連峰、さらに関東山地などが控えており、湿った空気が入りにくい風向になります。また、台風が接近しているように見えますが、この台風の大きさは小さく、等圧線が込み合っている部分では風雨が強まりますが、そこからはまだ離れているため、影響が小さいと判断します。

 また、この両日ともに平地の最高気温の予想は30℃近くまで上がることが予想されていました。このようなときは、上層に寒気が入ると、大気が不安定になり、平地では晴れていても山では上昇気流が発生して雲に覆われることが多くなります。そこで、上層の寒気を見ていきましょう。上層の寒気は高度5,700m付近の500hPa面の気温予想図を見ていきます。地上の気温が上昇し、大気が不安定になりやすい、15時の予想図で確認します。

 

図3 2日目(30日15時)の500hPa面の気温予想図

※500hPa面の気温予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=DXiRd7LMg2g&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=9

図3を見ると、東北北部にマイナス9℃線がかかっています。地上が30℃近くまで上がるときは、マイナス9℃以下の寒気が入ると、大気が不安定になりますので、山で雲が発生しやすい気温です。また、図4は図3と同じ高さの高度・渦度予想図ですが、日本海に赤い円形の部分があり、等高度線が南に張りだしています(緑色のカコミ部分)。このような場所には上層の気圧の谷があり、上層で上昇気流が起こりやすくなるところです。つまり、雲がやる気を出して上方へ成長しやすくなります。

 

図4 2日目(30日9時)の500hPa面の高度・渦度予想図

※500hPa面の高度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=mkCIzNOKSas&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=10

※500hPa面の渦度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。

https://www.youtube.com/watch?v=p6A0MByEGx0&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=17

図5 3日目(1日15時)の500hPa面の気温予想図

一方、3日目(1日)の気温予想図を見ると、月山付近はマイナス6℃以上になっています。つまり、寒気が抜けて大気が安定していることが分かります。これまでのことから以下のことが分かります。

 

1.地上天気図から3日目の方が月山に湿った空気が入りにくい風向である

2.500hPa面気温予想図から3日目の方が大気が安定して、雲がやる気を出しにくい

 

以上のように、天気図を見ることで、より天気が良くなりそうな日に紅葉の美しい場所を訪れるチャンスが増えます。土日のどちらにメインとなる場所を持っていくのか迷うときなど是非、皆さんもチャレンジしてみてください。

 

文責:猪熊隆之

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猪熊隆之の観天望気講座200回 ~東風のときの蔵王連峰の天気~

2024-10-11 21:57:00 | 観天望気

今回は、2024年9月29日に蔵王連峰で見られた雲についての解説です。この日は、朝から山形盆地では良く晴れていました(写真1)。

 

写真1 29日朝の山形市内

一方、刈田岳に到着すると、一面のガス(霧)に覆われていました(写真2)。

 

写真2 霧の刈田岳

ガス(霧)にも悪いガスと良いガスがあります。悪いガスとは、オナラのことではなく(失礼!)、上を見上げたときに空が暗いとき、明るい感じがしないときのガスです。雲が高い所まで達しているので太陽の光が届かず、暗い感じになります。このようなときは、いつ雨が降りだしてもおかしくありません。一方、良いガスは写真3のように、太陽が透けてみえたり、明るい感じのするガスです。このようなときは、雲の上端は私たちのいる所のすぐ上にあり、湿った空気の入り込みが弱まると、ガスが取れることもあります。

 

写真3 良いガス

さて、蔵王といえばお釜。やっぱりエメラルドグリーンのお釜は見たいものですよね。ところが、刈田岳から熊野岳に向かって歩き出し、お釜の展望台に着くもガスガスでお釜は見えず・・・。良いガスなのでチャンスがあるかなと思い、時々お釜が見える所で待機しながら、お釜寄りの登山道を進んでいきます。すると、奇跡のように霧が晴れてお釜が現れました!

 

写真4 ガスが取れて突然現れたお釜

やはり、良いガスのときは諦めない方がいいですね。

さて、この日は宮城県側から東寄りの風が吹いており、太平洋からの風向きになっていました。そのため、太平洋からの湿った空気が蔵王連峰で上昇させられて宮城県側で雲を発生させ、その勢いが強いときには稜線を覆うという天気でした。このようなときは、宮城県側から登るとガスガスで景色が見られないので、山形県側からのアプローチがおすすめです。逆に、西風のときは山形県側で霧に覆われることが多く、宮城県側からのアプローチが良くなります。風向きは天気図から予想できるので、この日の予想天気図を見ていきましょう。

 

図1 28日に発表された29日午前9時の予想天気図(気象庁ホームページより)

天気図を見ると、北海道の西に高気圧があり、福島県沖から九州の南海上にかけて前線が延びて前線上に低気圧があります。つまり、北の方が気圧が高く、南が低い北高型と呼ばれる気圧配置です。このようなときは、北の高気圧からの北東や東風が吹くことが多くなります(風は気圧が高い方を右手に見て等圧線に平行に吹くので)。したがって、太平洋からの風向となり、風上側の宮城県側で海からの湿った空気が上昇して雲が発生するのです。

 

一方、山を越えると下降気流となり、空気が温められて雲が蒸発していくことや、蔵王連峰で太平洋からの湿った空気が食い止められるので、山形県側では空気が乾いた状態です。そのため、山形県側では中腹以下を中心に、お天気が良くなります。

 

図2 山を挟んで天気が異なる理由

写真5 宮城県側で霧、山形県側では晴れと蔵王連峰を挟んで天気が異なる様子

普通は山を越えた雲は風下側に流れ下り、徐々に蒸発していきますが(時に滝雲になります)、写真5のように雲が垂直に立っているのはなぜでしょうか。これは東風があまり強くないため、山形県側には風が吹き下ろさず、山形県側では日中の昇温による谷風で風が吹きあがってきているからです。山形県側からの谷風が宮城県側からの雲の侵入を食い止めているので、このように雲が垂直に立ったような状態になります。

 

講師の猪熊は、アルパインツアーや毎日新聞旅行で空見ハイキングツアーを企画、同行させていただいております。次回は2025年1月、2月に関東近郊と南九州で予定しています。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

 

文責:猪熊隆之

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