山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気97

2017-07-13 12:49:31 | 観天望気

~雲の気持ちを学ぶ!雲取山空見トレッキング 2日目~

今回は、6月17日~18日に開催された、雲取山での空見トレッキングで見られた雲のpartⅡ(2日目)です。この日は朝からどんよりとした曇り空。それでも朝は東の空が綺麗に焼けました。

図1 登山2日目(18日)の午前9時の予想天気図(16日夕方に発表されたもの)

出発前日に入手した予想天気図(図1)によれば、雲取山周辺では三陸沖の高気圧の西側に入り、やや等圧線の間隔が狭くなっています。また、風向は等圧線の向きから南東風ということが分かります。つまり、雲取山では太平洋からの湿った空気が入りやすい形ですね。実際、南東からの湿った空気によって雲が発生し、それが雲取山の南東側から押し寄せてきました。

写真1 雲取山山頂で見られた滝雲

写真1は雲取山から奥秩父主脈、南アルプス方面を見たものです。つまり、写真の奥の方が西、左側が南の方角になります。南の方(左側)から湿った空気が入り、それが尾根を越えて右の方(北側)へ下降している様子が分かります。下降しながら雲は蒸発しています。

また、雲の上端はほぼ平(たいら)となっています。これはこの雲の上に安定層があるためです。雲を境界にして下側は冷たい空気、上側は温かい空気になっています。安定層に抑えられて雲は上方へ成長できず(やる気を出せず)、また抑えられた分勢いよく、右側に下降していくため、滝雲ができるのです。ということで、滝雲ができる条件は

1. 山の風上側から湿った空気が入ってくること

2. ある程度風が吹いていること

3. 尾根と同じ位の高さに安定層があること

4.観察者が安定層の上にいること

となります。今回安定層が雲取山とほぼ同じ高さの高度2,000m付近にできた理由は、高気圧が三陸沖と東シナ海にあり、これらを結ぶ気圧の尾根が雲取山の北方にあります。このため、尾根上を中心に周辺では下降気流場となっています。下降気流によって暖められた空気が上空にあり、一方で2,000m以下の下層では海からのやや冷たい空気が入ったことや日射が雲によって遮られたため、安定層ができたものと思われます。(ちょっと難しかったかな?)

さて、この日の天気を観天望気で予想していきましょう。滝雲の上端の高度が上にあがっていき、平だった雲が次第にもくもくとしてくるときは、天気が崩れていくことが多くなります。

また、風からも天気を予想することができます。図2(下図)をご覧ください。図1(9時)で四国の南海上にあった低気圧は、図2(15時)になると関東の南海上に達します。低気圧は陸地からかなり離れて通っていますので、天気の崩れは小さそうです。

図2 18日15時の予想天気図(16日午後に予想したもの) ※山の天気予報 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

 

図3 低気圧周辺の風の吹き方(山岳気象大全第4章「山と渓谷社」より)

図4 山と低気圧との位置関係の違いによる風向の変化(山岳気象大全第4章「山と渓谷社」より

低気圧の周辺では反時計周りに風が吹きます(図3)ので、今回のように登る山(雲取山)が低気圧の北側にある場合には、図4の下図のように、反時計周りに風向きが変化していきます。朝の段階では雲取山山頂で南東風が吹いていたので、その後、東、北東というように風が変化していくと低気圧は南側を通過することになります(ただし、風向きは地形の影響を受けにくい開けた尾根上で行う必要があります)。低気圧が山の南側を通過する場合には、低気圧が陸地にそれほど接近しなければ、天気が大きく悪化することはあまり考えられません(上空に強い寒気が入っているときは別です)。実際、風が東に変化するにつれて湿った空気の入り具合も南側から東側に変わっていき、南側の雲海は消えていき、東側から雲が入ってくるようになっていきました。

また、低気圧が予想通り、関東地方に接近する進路を取らなかったため、天気も崩れることなく、曇り空で推移しました。しかしながら、風が強まっていったり、滝雲が消えることなく、その雲に山頂まで覆われていったりするときは、低気圧が予想より北側を通っていると判断しましょう。その場合は天気が崩れていきます。

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猪熊隆之の観天望気講座96

2017-07-08 21:57:16 | 観天望気

~雲の気持ちを学ぶ!雲取山空見トレッキング 1日目~

 今回と次回は、6月17日~18日に開催された、雲取山での空見トレッキングで見られた雲について、2回に分けて解説します。

この日は日本海に高気圧があり、一見、関東地方を覆っているように見えます(図2、3参照)。しかしながら、関東地方から見て高気圧が北にあると、太平洋からの湿った北東風が入って関東地方ではどんよりとした曇り空になり、小雨が降ることもあります。一方で、風下側の甲府盆地や佐久平では下降気流場となり、お天気が良くなります(図1参照)。

図1 湿った北東風が吹くときの天気分布(山岳気象大全第7章「山と渓谷社」より)

 そのようなときは、雲取山や大菩薩嶺付近が「曇り」と「晴れ」の境界になる訳で、雲取山や大菩薩嶺はお天気を学ぶのに良い山です。

 このときは、朝の段階(図2)では高気圧が雲取山や関東平野の北西にあり、高気圧から吹き出す風は北~北西で、山越えの気流となったため、雲取山や関東平野ではお天気が良くなりました。西武秩父駅に降りたときは暑かったのですが、標高約1,100mの三峰神社に到着すると思った以上に涼しく、新緑の中を涼風が吹き抜ける快適な山行になりました。 

図2 17日6時の天気図

 

写真1 爽やかな青空が広がる荒川源流の山並み

 図3 17日15時の天気図

 ところが午後になると、低い雲が関東平野の方(東側)から広がってきて夕方には、雲取山荘付近の稜線ではガスに覆われていきました。天気図を見るとその理由が分かります。高気圧が関東地方の真北に来て、北東からの湿った空気が入る形に変わったからです。

写真2 午後になって低い雲が広がってきた雲取山周辺

 空気は気圧が高い方から低い方へ流れていくので、気圧が高い高気圧の中心から周囲へと風は吹き出していきます。それが地球の自転の影響で右向きに変わっていきます。高気圧周辺では図4のように、時計周りに風が吹き出していくと覚えておきましょう。高気圧の南側に入る場所では北東風となり、関東地方や山陰地方では天気がぐずつきます。

図4 高気圧周辺の風の吹き方(山岳気象大全第4章「山と渓谷社」より)

 さて、この時期晴れると気になるのが、午後になって雲のやる気が出るかどうか。雲がやる気を出すと、積乱雲に成長し、落雷や局地豪雨の恐れがあります。前回、あるいは第10回で学んだように、雲がやる気が出るときの条件は

1. 上層(高度5,000m以上)に強い寒気が入る

2. 下層(高度1,500m以下)に温かく湿った空気が入る

この2つが重要でした。5、6月の時期には時々、内陸を中心に日中、30℃を超えるような暑い日がありますが、そのようなときに上層に強い寒気が入ると、俄然雲はやる気を出します。6月中旬から下旬の時期には500hPa面(高度約5,700m付近)でマイナス12~15℃以下という寒気が目安となります。これが落雷や局地豪雨が発生する可能性を前日までの段階で知る手がかりになります。

さて、この日の寒気の状況を前日に発表された予想図から見ていきましょう。

図5 500hPa(高度約5700m付近)の気温(17日6時)

図6 500hPa面の気温(17日15時)

 

※図5、図6ともに「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

これらの図を見ると、500hPaでマイナス12℃以下の寒気は雲取山周辺にはかかっていません。6時まで、関東東部沿岸にかかっていますが、これは前日、関東地方を覆っていた寒気で既に抜けつつあります。前日はこの寒気の影響で関東地方は平野部でも雷雨になった所がありましたが、この日は雲のやる気を出せる寒気は入っていません。さらに涼しく爽やかな陽気でしたので、下層に温かく湿った空気も入っていないということになります。ということで、この日は雲がやる気を出すことはありませんでした。

ちなみに、梅雨明け以降、真夏の時期の目安は500hPaでマイナス6℃以下になります。

写真3 やる気を出せなかった雲

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

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