山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座139

2019-08-29 22:27:52 | 観天望気

~白山で見られた雲partⅡ~

前回に続き、白山での空見ハイキングで見られた雲と天気についての解説です。登山2日目の状況について解説します。前回に続き、登山中の気象リスクを減らすために、次のことを確認していきましょう。

1.登山前に天気図を見て気象リスクを想定する。

2.登山中に雲や風の変化から、天候変化の予兆を早めに察知する

ということで、登山前日に発表された、登山2日目の予想天気図を確認しましょう。

図1 登山前日に確認した登山2日目の予想天気図(気象庁ホームページより)

登山2日目も、関東の南東海上と朝鮮半島付近に高気圧があり、日本付近はこの2つの高気圧に広く覆われています。これらの高気圧は、「太平洋高気圧」と呼ばれ、その名の通り、太平洋に広く勢力を持つ高気圧で、この高気圧に覆われると、朝から晴れて気温が上昇します。ただし、山では日中、谷風と呼ばれる風が山を上昇して、雲を発生させ、標高の低い山から雲に覆われていき、午後になると、標高の高い稜線でも霧に覆われることが多くなります。この辺りは初日と変わりがありません。

大気が不安定なときには、雲がやる気を出して積乱雲(せきらんうん)に発達することがあり、落雷や強雨のリスクが高まります。そこで、1日目に続いて500hPaの気温予想図を確認してみましょう。 

図2 登山前日に確認した登山2日目15時の500hPa面(高度約5,900m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

この予想図で見るポイントはマイナス6℃の線。梅雨明けから秋雨に入るまでの間は、マイナス6℃以下の気温になると、雲が俄然、やる気を出します。2日目の午後の予想図を確認しますと、白山ではマイナス3℃より少し低い気温ということで、微妙なライン。これだけでは判断しかねるので、850hPa(高度約1,500m)の気温を確認しましょう。

図3 登山前日に確認した登山2日目15時の850hPa面(高度約1,500m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

850hPa面で見ると21℃前後のエリアに白山は入っていることが分かります。こちらは前日とほぼ同じです。さて、雲がやる気を出す目安は、850hPaの気温から500hPaの気温を引くと分かります。

●850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)

●850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い

●850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

今回は、500hPaで-3℃より少し低め、850hPaで21℃ということで、850-500は24℃より少し大きい値、ということになります。つまり、「雲がやる気を出す」状況です。

このような状況のときは、雲を注意深く観察し、危ない兆候が見られたときは、すぐに安全な場所に避難することが大切です。落雷のときにすぐ離れなければならない場所は、jROの安全登山教室に連載している、「落雷や強雨を予想しようpartⅡ」をご参照ください。

https://www.sangakujro.com/%e8%90%bd%e9%9b%b7%e3%82%84%e5%bc%b7%e9%9b%a8%e3%82%92%e4%ba%88%e6%83%b3%e3%81%97%e3%82%88%e3%81%86part%e2%85%a1%ef%bc%88%e7%ac%ac39%e5%9b%9e%ef%bc%89/

ということで、ここからは現場で見られた雲についての解説です。

写真1 空のグラデーションと御嶽山

上の写真は、展望歩道から見た東の空です。御嶽のシルエットが美しいですね。そして、空がグラデーションのように、大気の層によって色が分かれていて、御嶽も縞模様になっています。

空の色は、太陽の光が空気中の小さな粒子(窒素、酸素、水蒸気などの空気分子)に衝突して散りばめられるときに、どの色がもっとも強く散りばめられるかによって決まります。太陽光の波長に比べて、空気分子はずっと小さいので「レイリー散乱」という散りばめられ方をします。この散乱では、波長が短い方が散りばめられやすいという性質があります。太陽光は、波長の短い方から順番に、紫、青、緑、黄、オレンジ、赤となっていきます。つまり、紫や紺がもっとも波長が短く、もっとも強く散りばめられます。太陽光が大気の中を通っていくとき、まず真っ先に紫が散りばめられますが、地上に届く前に拡散しつくされて私たちの目には届きません。次に、青色が強く散りばめられて空一面に広がるため、空は青く見えます。

ヒマラヤや富士山の山頂など高所に行くほど空の色が濃くなるのも、空気は上にいくほど空気分子が少なくなり、青より波長の短い紺色の光が拡散しつくされることがないからです。

この辺りは富士通研究所のサイトに分かりやすく書かれています。

https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/resources/tech/techguide/list/photonic-networks/p08.html

それでは、写真1で見られる空の下の方の白い色や、さらにその下の茶色(黄色)がかった色はどうしてできるのでしょうか?

これは大気汚染物質や水蒸気が浮遊していることによります。大気汚染物質は、空気分子よりずっと粒が大きく、太陽光の波長と同じ程度の大きさのものが多くなります。その場合、「ミー散乱」という散りばめられ方をします。ミー散乱は、色によって散りばめられ方が変化しません。そのため、太陽光の白色がそのまま、雲にぶつかって散りばめられて私たちの目に届くため、白っぽく見えます。ただし、石炭燃焼などのばい煙は黒い色になるなど、汚染物質によって色が異っぽくなります。一番下の茶色っぽい空気の層は、この汚染物質によるものです。その上の白い層は汚染物質の中でも光化学大気汚染によるものです。また、白い層は、汚染物質だけでなく、水蒸気によって太陽光が散りばめられた効果もあります。地上付近は水蒸気や汚染物質が多いため、空が白っぽく見えるのです。 

さて、次はいよいよ本題。雲がやる気を出すかどうかの見極め方ですね。写真2を見ましょう。

写真2 北アルプス方面の空と雲海

この写真の空もグラデーションになっています。御嶽の左側(北側)の空ということになり、白山からは北東~東側の空になります。グラデーションの手前にもこもこした雲が出てますね。これは積雲(せきうん、別名わた雲)です。手前側の山並みにはこの雲が出ていないのに、奥の高山盆地にはこの雲があるのはなぜでしょう?

ひとつは、高山盆地は日本海から宮川に沿って水蒸気が入ってきやすい谷筋にあること。それに対して、手前側の谷は奥に山が連なっているため、水蒸気が入ってきにくい場所です。さらに、高山盆地は盆地のため、水蒸気が溜まりやすいことがあります。それが夜間に気温が下がり、冷やされることで雲ができるのです。そのため、高山盆地は雲海ができることでも有名ですね。

さて、この雲が朝早くから、ソフトクリームのようにモコモコと成長してくるときは、昼頃から落雷や強雨のリスクが高まります。この日は朝8時頃でこの程度ですからまだ大丈夫そうですね。

写真3 午前10時頃の空

さて、10時頃になってくると、ようやく西側の空に積雲が現れました。この雲は日射によって斜面が温められた結果、その上の空気も温められて周囲の空気より軽くなり、上昇してできた雲です。大気が不安定で、雲がやる気を出す状況のときは、午前10時の時点で、もっともっと雲は上方へ発達していきます。この分だと今日も大丈夫そうですね。

と思っていたら、12時を過ぎると段々やる気を出してきましたよ。

写真4 積雲が成長した雄大積雲(ゆうだいせきうん)

写真5 雲がやる気を出してきた

さて、下山していく方向に、やる気を出してきた雲。雲の底は暗くなってきてちょっと嫌な感じです。モコモコした入道雲の底が暗くなってきたら、危険サイン。

写真6 雲がやる気を出して積乱雲に成長

上の写真は、いよいよ積乱雲に発達し、雲底が真っ暗になってきました。こうなると、雲の下では大粒の雨が降っています。雷のリスクも出てくるレベルですね。念のために、この雲の雲頂高度を雨雲レーダーで確認してみます。そこまでまだ発達していないようで少し安心。幸い、このときは、これ以上雲がやる気を出さずに済みました。雲の中に入ると霧の中で、見通しが悪くなりました。そんなときは、前回学んだ霧の濃さと風の変化から判断しましょう。あるいは、電波が通じるところでは、雨雲レーダーや雷レーダーを確認するのも良いですね。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 

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猪熊隆之の観天望気講座138

2019-08-23 21:54:34 | 観天望気

~白山で見られた雲partⅠ~

今回は、白山での空見ハイキングで見られた雲と天気についての解説です。PartⅠでは登山初日の状況について、partⅡでは登山2日目の状況について解説していきます。

登山中の気象リスクを減らすには、次の2つのことが大切でした。

1.登山前に天気図を見て気象リスクを想定する。

2.登山中に雲や風の変化から、天候変化の予兆を早めに察知する

ということで、登山前日に発表された、登山当日の予想天気図を確認しましょう。

図1 登山前日に確認した登山1日目の予想天気図(気象庁ホームページより)

登山初日は、関東の南東海上と中国大陸に高気圧があり、日本付近はこの2つの高気圧に広く覆われています。関東の南東海上の高気圧は、「太平洋高気圧」と呼ばれ、その名の通り、太平洋に広く勢力を持つ高気圧で、梅雨明けと同時に、日本列島を広く覆うようになります。この高気圧に覆われると、朝から晴れて気温が上昇します。ただし、山では日中、谷風と呼ばれる風が山を上昇して、雲を発生させ、標高の低い山から雲に覆われていき、午後になると、標高の高い稜線でも霧に覆われることが多くなります。

大気が不安定なときには、雲がやる気を出して積乱雲(せきらんうん)に発達することがあり、落雷や強雨のリスクが高まります。そこで、これまでにも雲がやる気を出して、落雷や強雨のリスクが高まるときの天気図や雲の特徴について解説してきました。 

詳しくは観天望気講座132、133回をご参照ください。

132回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/8c5c72e621dacb03809863c923ff4c71

133回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/80881da68c1ee738abb8dfc3df1b18a2

さて、雲がやる気を出しやすい条件とは

1.上空高い所に寒気が入る

2.地上付近の気温が上昇する

3.地上付近に暖かく湿った空気が入る 

の3つでした。まず、1については500hPaの気温予想図を確認することが大切でしたね。

図2 登山前日に確認した登山1日目15時の500hPa面(高度約5,900m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

この予想図で見るポイントはマイナス6℃の線。梅雨明けから秋雨に入るまでの間は、マイナス6℃以下の気温になると、雲が俄然、やる気を出しやすくなりました。1日目の午後の予想図を確認しますと、白山ではマイナス3℃より少し高い気温ということが分かります。ということは雲はやる気を出せない?

いやいや、そう簡単ではありません。上空高い所の寒気がそれほど強くなくても、地上付近の気温が上昇すれば、雲はやる気を出します。

ということで、地上付近の気温を予想するときに使う850hPa(高度約1,500m)の気温を確認しましょう。

図3 登山前日に確認した登山1日目15時の850hPa面(高度約1,500m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

850hPa面で見ると21℃より少し低いエリアに白山は入っていることが分かります。850hPaで21℃になると、地上付近だと35℃以上の猛暑日になる確率が高くなります。

さて、850hPaの気温から500hPaの気温を差し引いた気温差によっても、雲のやる気を判断できることを観天望気講座133回で学びました。おさらいしてみましょう。

●850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)

●850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い

●850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

今回は、500hPaで-3℃より少し高め、850hPaで21℃より少し低めということで、850-500は24℃より少し小さい値、ということになります。つまり、「雲がやる気を出す」と「雲が少しやる気を出す」の中間位で微妙な感じですね。

つまり、登山前日の段階では、計画を変更するほどのリスクではないけれど注意した方が良い、ということになります。本当は地上付近の気温があがり、谷風も強まって雲がやる気を出しやすくなる午後の登山は控えたいのですが、今回のツアーは金沢駅に10時過ぎに集合ということで、登山口を12時30分頃に出発する計画でしたから止むを得ません。あとは、現場で雲や風の状況を確認して、危険が迫ったら少しでも安全な所に避難する、ということが大切になります。

ということで、ここからは現場で見られた雲についての解説です。

写真1 別当出合付近から南側の雲

写真1は、スタート時点で登山口(別当出合付近)から南側を見た雲の写真です。観天望気講座135回では、どの方角の空を見たら良いかを学びました。基本的に雲は上空の風に流されていくので、雲の流れを見て、雲が向かってくる方角の空を見ることが大切です。今回は雲が南から北へ流れていきましたので、南側の空を観察しました。その様子が写真1です。雲はもくもくとやる気を出していますね。

ただ、12時を過ぎた時点で、この程度のやる気具合は「普通」です。特に危険でもなければ、安全でもない、ということで天気図から判断したのと同じように、ちょっと煮え切らない感じです。今後の動向に注意していくしかありません。

しかしながら、樹林帯に入り、空が見渡せる場所がありませんから、樹林が開けた場所で確認していきます。

写真2 樹林が開けた場所で空を見上げる

周囲の状況は分かりませんが、雲はやる気を出しつつあるものの、すぐに落雷などの危険を及ぼす雲は見当たりませんでした。

写真3 標高2,000m付近から霧に覆われる

高度を上げていくと、雲の中に入っていきました。谷風によって運ばれた水蒸気が山の斜面に沿って昇っていき、冷やされることでできた雲です。夏の山では日中、標高の低い山や斜面から雲に覆われていき、昼頃からは標高2,500m以上に達することが多くなります。

今回もその典型的なパターンでした。こうなると、空は見えませんので、霧の濃さや風の変化、肌で感じる空気の変化を感じ取るしかありません。ここでは、霧の濃さと風の変化から天候の変化を予想する方法について解説します。 

霧の濃さから天気を判断する方法

1.空を見上げたとき、霧が薄く、明るい感じ。太陽が透けて見える。

2.空を見上げたとき、霧が濃くて暗い感じ。

1の場合、雲が薄いことを示しています。つまり、雲がそこまでやる気になっていない証拠です。雲が薄ければ、雲の中で雨粒が成長できず、雨は降っても霧雨程度。雷を伴った強い雨が降る心配はありません。しかしながら、近くに発達した雲がある場合は、その雲が近づくと天候が急変する可能性があります。

2の場合、雲が厚いことを示しています。いつ雨が降り出してもおかしくない状況です。霧に覆われる前に、周囲で入道雲が発達していることが確認できているときは、落雷のリスクがある場所や沢沿いから離れるようにしましょう。また、携帯がつながる場合は、雨雲レーダーや雷レーダーを確認して周囲に発達した積乱雲(やる気を出した雲)がないか確認しましょう。

風から判断する方法(霧に覆われているとき)

1.それまで吹いていた風が止んだとき

2.風向きが変わるとき

3.それまで無風だったのに風が吹き始めたとき

上記のいずれかの兆候が見られるときは、霧が晴れる可能性があります。逆にこれまで霧に覆われていなかったのに、上記1~3のいずれかの条件が現れたときは、霧に覆われていく可能性があります。風が変化すると、天気も変わっていくことが多いのです。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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「山の天気予報」サービス メンテナンスのご案内

2019-08-10 11:52:32 | おしらせ

平素より「山の天気予報」をご利用いただき、誠にありがとうございます。

山の天気予報の決済代行を行っているGMOイプシロン会社で、サービスメンテナンスを行うことになりました。下記のメンテナンス期間中は、「山の天気予報」サイト内でクレジットカード情報の変更手続きや退会手続きなどができなくなりますので、あらかじめご了承ください。

【サービスメンテナンスの期間】
2019年8月13日(火)AM1:30~AM6:00

【サービスメンテナンスによるサイトへの影響】
上記期間中は、「山の天気予報」サイト内において、「クレジットカード情報変更手続き」及び「退会手続き」が出来なくなります。

 

また、会員以外の方も、上記期間中は新規に「会員登録」を行うことが出来なくなりますのでご注意ください。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

山の天気予報
システム担当

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猪熊隆之の観天望気講座137

2019-08-05 12:29:56 | 観天望気

~霧ヶ峰で見られた雲partⅡ~

前回に続いて、霧ヶ峰の空見ハイキングで見られた雲と天気についての解説です。今回は、登山2日目の状況について考えていきます。 

この日は前日より湿った空気の入り込みが弱まり、天竜川方面からの低い雲はほとんど現れませんでした(写真1)。

写真1 八島ヶ原湿原と御嶽山

その理由としては、前日、新潟~福島付近にあった梅雨前線が北上して前線が少し離れたことや、前線の活動が弱まったことにあります。前線の位置については、partⅠの図1と見比べてみてください。佐渡島付近に注目すると分かりやすいと思います。

図1 登山前日に確認した登山2日目の予想天気図

この日、もっとも警戒すべき気象リスクは落雷でした。霧ヶ峰高原は、木が生えていない草原が続き、雷に襲われたとき、避難する場所が少ないからです。また、落雷や積乱雲(せきらんうん)と呼ばれる、発達した入道雲で発生しますが、その積乱雲が発達しやすい(つまり、雲がやる気を出しやすい)気象条件が予想されていました。 

雲がやる気を出しやすい条件については、https://www.sangakujro.com/category/blog/inokuma/ の「落雷、局地豪雨を予想しよう」に詳しく書かれていますので、ご参照ください。

雲がやる気を出しやすい条件のひとつに、上空に強い寒気が入ってくる、というものがありました。雲がやる気を出す目安として良く使われるのが500hPa面(高度約5,800m)の気温です。夏にマイナス6℃以下の空気に覆われると、雲が俄然、やる気を出して落雷や短時間強雨のリスクが増えます。登山前日(2日前)に調べた、ヤマテンの500hPa気温予想図で確認しましょう。

図2 2日目に確認した500hPa面気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

上図をご覧いただくと、霧ヶ峰付近はマイナス6℃以下の寒気に覆われる予想になっています。このため、当初、落雷や短時間強雨のリスクが高いと判断し、この日は早出早着を心がけようと思いました。

図3 前日に確認した500hPa面気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

ところが、前日に確認すると(図3)、この寒気が弱くなる予想に変わりました。当日は、さらに弱まる予想に変わってきました。そのため、落雷のリスクは少ないと判断し、朝食を取ってから出発するという行程に戻しました。

想定通り、この日は雲がそこまでやる気を出さず、昼近くになって積雲(せきうん)がモコモコと八ヶ岳の西斜面で湧き出しました(写真2)。 

写真2 八ヶ岳西面で発生した積雲

このような雲が午前9時より前に発生しているときは注意が必要ですが、昼近くになってからの発達であれば、16時頃までは大丈夫なことが多いです。それでも前線が近づいているときや、寒冷低気圧が接近しているときは、それらが接近すると突然、雲がやる気を出すこともありますので、空と天気図と両方から気象リスクを確認していきましょう。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之の観天望気講座136

2019-08-05 11:48:38 | 観天望気

~霧ヶ峰で見られた雲partⅠ~

空とアルプスの大展望台、霧ヶ峰で空見ハイキングをおこないました。霧ヶ峰は、太平洋と日本海を分ける中央分水嶺にあたり、両方からの湿った空気がぶつかり合う場所にあるため、天気を勉強したり、雲を見るのには絶好の場所です。

このときは、台風接近が予想されており、気象庁や民間気象会社の天気予報では悪天予報でしたが、ヤマテンではそこまで悪くならないと予想、旅行会社とも相談してツアーを予定通り、催行しました。登山中の天候リスクを想定するためには、まず登山前に天気図をチェックすることです。ということで、登山前日に確認した、登山1日目の予想天気図を見てみましょう。

図1 登山前日に確認した登山1日目の予想天気図

図1を見ると、梅雨前線が新潟~福島付近にあり、霧ヶ峰は前線に向かって南から湿った空気が入りやすい形です。山の天気は、海側から風が吹くときに崩れるという特徴があります。そこで、

1.地図から目的の山と海との位置関係を調べる

2.天気図から風向を調べる

ことが大切になります。まずは、地図から霧ヶ峰と海との位置関係を確認しましょう。

図2 霧ヶ峰周辺の地形(作図:猪熊隆之)

ご存じの通り、霧ヶ峰は日本海からも太平洋からも離れており、それらの中間に位置します。したがって、湿った空気は海に近い山よりは入って来にくく、周辺の盆地は日照時間が多い土地として知られています。しかしながら、山では湿った空気が上昇すると雲ができやすく、「霧ヶ峰」の名前の通り、霧がかかりやすい山でもあります。それは、海から遠くても、湿った空気が大きな川や谷に沿って内陸に入ってくるからです。太平洋からは天竜川に沿って湿った空気が流れ込み、それがまともにぶつかるのが霧ヶ峰付近ということになります。また、逆に日本海からは千曲川に沿って湿った空気が入り、それが長野盆地で犀川と千曲川に分かれ、犀川の方は松本から塩尻を越えて、諏訪盆地と松本盆地の境界にある塩嶺峠で、南の天竜川方面から入った空気とぶつかります。一方、もうひとつは千曲川に沿って上田方面から南下し、和田峠付近で諏訪側からの空気とぶつかります。これらの場所は風と風がぶつかり合って上昇気流が起きるため、雲が発生しやすく、雷の名所としても知られています。

ということで、霧ヶ峰では

1.天竜川に沿って南南西の風が吹くときに湿った空気が入りやすい

2.千曲側に沿って北寄りの風が吹くときに湿った空気が入りやすい

上記の2つの風向が雲を発生させやすいということになります。

それでは、天気図から風向を調べましょう。風は、気圧が高い方から低い方へ吹くという性質があります。そこで、天気図上で高気圧と低気圧を探します。天気図1の場合、台風が九州の北西海上にあり、高気圧が日本の南東海上とカムチャッカの東海上にあります(この天気図上には書かれていません)。つまり、日本列島の東の方ほど気圧が高く、西の方ほど気圧が低くなっています。そのため、風は気圧が高い東の方から、気圧が低い西の方へと吹いていきます。しかしながら、この風は地球の自転の影響で、90度右に向きを変えて南から北へと吹きます。つまり、日本列島付近では南風が吹いているということです。

あるいは、高気圧や低気圧の周辺ではそれぞれ時計周り、反時計周りに、なおかつ等圧線にほぼ平行に風が吹いている、と考えていただいても結構です。もう少し詳しい風向の調べ方は、山岳気象大全第2章をご参照いただくか、ヤマテン主催の気象講座で説明します。

天気図1から南風が吹いていることが分かります。南南西の風向に近く、天竜川に沿って太平洋からの湿った空気が入りやすい形です。

写真1 八島ヶ原湿原付近で見られた雲

実際、写真1を見ると、天竜川からの湿った空気(写真の左側)が霧ヶ峰~美ヶ原の中央分水嶺の山で上昇し、雲を発生させています。それが写真2(下)のように、山を越えると、蒸発している様子が分かります。山を越えた空気は下降していき、空気が次第に乾燥していくことや、湿った空気が中央分水嶺の山並みに遮られて、反対側(北側)では比較的空気が乾いているため、乾いた空気に接して雲が蒸発するためです。

写真2 中央分水嶺を越えて消えていく雲

さて、この日は夕方になって湿った空気の入り込みが弱まる予想でした。したがって、運が良ければ夕方になって晴れ間が出るかなー、と思っていましたが、そうはなりませんでした。写真1や2で見られた低い雲は消えていきましたが、中層(上空3~7km)の雲が厚みを増し、別の要因で雨がポツリポツリと降り出しました。このように、天気図から予想できない現象が起きることもあります。その場合は、雲を観察して事前の予想を修正していきましょう。

写真3 雨が降り出す直前の雲

写真3を見てください。空一面を一様に覆う雲があります。高層雲(こうそううん)です。高層雲が薄いときは、太陽が透けて見えるため、おぼろ雲と呼ばれますが、雲が濃くなると太陽が見えません。そのようなときは、雨が近い証拠です。さらに、写真3の破線部分のように、空が白くかすんだように見えるとき、その場所では雨が降っています。見えている山並みは中央アルプスで霧ヶ峰の南西方向です。南西から風が吹いているときは、この雨がやってきます。このときは、地上では先ほど天気図で調べた通り、南寄りの風でしたが、この雲がある高度では南西風でした。そのため、まもなくこの辺りでも雨が降り出しました。

ただし、このときの雨は弱いものでした。雲が一様で、ムラのない場合は雨が降ってもシトシトとした雨で、非常に激しく降ったり、雷を伴うリスクはほとんどありません。そう考えると慌てずに行動できますね。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

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