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映画 「愛を読む人(The Reader )」を見て思ったこと

2009-06-21 | 絵画、映画、芸術
筋はあえて書くこともないだろうが、15歳の少年のひと夏の情人になった30代半ばの女性が、かつて強制収容者の看守であり、裁判で有罪判決を受けて長く刑務所に入り、その彼女の裁判を法科学生として傍聴した主人公の男が、後年になって女に対し朗読テープを送り続け、刑期が明けた女の唯一の身元引受人となって再会するというストーリーである。 

第二次大戦中のナチ政権時やユダヤ人迫害に情況を設定するこの種ドイツ映画は、これまでも何度も製作されてきたが、感傷的に終わる危険を孕むこの映画にリアリティーを与えているのは、ミス ウィンスレットの演技だという映画評論家の意見には同意する。 

しかし、それ以上に意識させられるのは、60年以上経った今でも、決して消し去ることが出来ない暗い過去として、ドイツ人がこの暗黒の歴史を繰り返し反芻し、恥辱とする行為である。 20世紀に2度に渡って世界大戦に敗北したこの国家が、ナチスのもとで侵略とユダヤなど他民族の蹂躙を行ったことは、弁解しようのない事実として徹底的に記述されている。 観光名所として残されているベルリンの壁のSSやゲシュタポがあった辺りには、topographie des terrorsという何百メートルにも及ぶパネル展示が延々と続くし、ミュンヘンの自動車会社の最新の博物館にも、フランス人やポーランド人を強制労働させた事実の資料展示があった。 同じように全体主義国家として侵略戦争で敗北しながら、その歴史をまともに評価しえていない日本とは大きく異なる。

今回の100年に一度といわれる経済危機は、頻繁に1929年以降の大恐慌に比して語られる。 その80年前の経済危機の中で、ドイツと日本という2つの国家が、政党政治の崩壊から、一党独裁、もしくは軍部の暴走による破滅的な戦争の道を歩んだ。 ドイツの場合は、第一次大戦での敗北からワイマール共和国の成立、史上空前のインフレなどを経験し、ヒトラーのミュンヘン蜂起から10年以上の歳月をかけて、ドイツ国家社会主義労働者党(ナチス)の躍進を準備し、ついに1933年にヒトラーが首相になって一挙に独裁政権への道を進んだ。 1945年の敗戦に至るまで、12年余にわたりドイツがヒトラーを戴いたというのは、決して単純な暴力的抑圧統治の結果だけではなかった。 明らかに国民がこの「フューラー」を偉大な指導者として支持したことも確かだ。

同じ頃、第一次対戦の戦勝国である米英仏伊とともに世界の強国の一角に列せられながら、ワシントン、ロンドンの軍縮会議で欧米列強の圧力に抗い、満州を含む東亜共栄の構想を死活問題として押しすすめ、満州事変から日中戦争に進んだ日本。二国の状況はかなり異なるが、国民国家、民族主義の犯した致命的な失敗から、21世紀のグローバル社会に住む我々が今学ぶべきものがあるのではないか。 再び世界大戦が起こることはないにしても、人間の行為がかくも悲惨な運命を人間に強いることだけは繰り返さないためにも。

ドイツでは、義務教育の歴史の授業の半分は、20世紀に費やされるという。 つまり、ドイツは覆い隠すことのできない犯罪を認め、それを徹底的に記述し、次世代に伝えている。 それに対し日本では、近代は一年間の授業の最後の方で、駆け足で触れられればいいほうだ。日本は、60数年を経た今、戦争の悲惨な体験が風化しつつあるだけでなく、あの戦争は悪くなかった、侵略戦争ではなかったという言論が闊歩しているのはどうだろう(「諸君」は休刊になったとはいえである。)

北朝鮮のミサイル発射テストや核実験は、確かに不気味ではある。しかし、日本を占領しようとして戦争を仕掛けてくる国は、北を含めて現状ではまずあり得ない。北が攻めるなら韓国だろうが、それは自殺行為だろう。 つまり、北はこうした示威行為によって、経済封鎖の解除や、武器の輸出を図り、国内経済と政権の維持をせざるを得ないのだ。 

オバマは、プラハで包括的な軍縮を提案した。イラクでも、アフガニスタンでも、戦争によってイスラム原理主義やテロルを阻止することは難しいということがはっきりしている。 日本も、先の大戦の総括と歴史の伝承をしっかり行わないかぎり、本当の自立を達成することはできないと思える。 (映画評からはかけ離れたところに来てしまった。だが、この映画に刺激され、最近戦前の日独の歴史に関する本を読んでいる。組織とそのリーダー達が、如何にしてこうした取り返し不可能な誤りに突き進んでしまったのか、その真実に少しでも近づいてみたいと思う。)
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