新書ながら、鋭い指摘にハッとさせられる内容で2回目を通した。
まず冒頭で意表を突かれたのは、「グローバリズムは既に止まっている」と著者らが明確に宣告していることだ。それは、海外直接投資額(フロー)や世界貿易額が世界のGDPに占める比率が、リーマンショック以降停滞(減少)しているデータで示されるが、Brixitや米トランプ大統領の誕生などで、イギリスのEUからの脱退や、アメリカ最優先主義が選択されたことで、その流れは決定的になったという。イギリスやアメリカで起こった動きは不可逆的で、再び「グローバリズム」を是とする政権が復活することはないだろう、とこの気鋭の論客は予測する。
著者は、第二次大戦中に書かれたカール・ポラ(ン)ニーの「大転換」を引きあいに出し、「20世紀の2度の世界大戦は、19世紀後半から進んだグローバル化の反動として起こったものであり、「自然、市場、貨幣」を市場に任せたら社会は壊れる、市場は逆に社会に埋め込まれる(embedded)されるべきだ」という説をとりあげる。 そして現在は、1980年代から進展したグローバリズムと市場経済が各国で雇用を破壊し格差を拡大した結果、その社会的反動が始まったとして、近代における2度目のグローバリズムが終わるとしている。
これは同時に、「資本と経済のグローバル化が進み、世界に富と財が増えていけば、やがて紛争や戦争はなくなり、より進歩的な理想社会に近づく」という、啓蒙主義的、進化論的史観が効力を失うことであるともいう。 ソ連の崩壊後、リベラルな市場主義が世界を席巻するとしたフランシス・フクヤマの「歴史のおわり」(1996年刊)はお伽噺だった。世界はこれから「重商主義に向かう」と著者は主張するのだ。
重商主義 -軍事力を背景に対外貿易で富を蓄積する絶対君主制時代の通商政策、を引き合いに出したのは、著者が、アメリカが世界の警察官を止めた後の、混沌とした地政学的状況を予見しているからだ。 アメリカ国民は、今やNATOや日米安保条約など冷戦時代につくられた安全保障体制を重荷に感じており(!)、早晩それから手を引くかもしれない、という指摘は、日に日に現実味を帯びている。 日米安保体制が中国のみならず日本を封じ込めるという意味があるにしても、東アジアにおける軍事的、安全保障上のバランスの維持なしに、安定的な貿易や経済運営は望めない。
もしアメリカが東アジアの警察官から手を引くとどうなるか。ここでは、アメリカは、中国に覇権を引きわたし、日本は米、中との二重の隷属関係に置かれる、という不気味な絵が披露される。 確かに、アメリカは首相の靖国参拝に不快感を示し、中国を刺激するなと戒めた。また尖閣を防衛するといいながら、いざ尖閣諸島で海自と中国軍の軍事的衝突が起こった時、米軍が動くかどうか。多分、NOであろう、と著者は悲観的だ。
未だに政府の指導者も多くの国民も、「グローバル化は善であり、市場主義経済は成長を生む」という理念を信奉している日本は、世界から取り残されると「TTP亡国論」の中野氏は警鐘をならす。 日本の政治もポピュリズムに傾斜しているが、自民党も野党もTPP賛成で明らかだったように(共産党を除いては)、反グローバル化を掲げる政党や政治家はいない。 日本のGDPに占める輸出の比率は20%にも及ばず、元々TPPで得られるものはほとんどなかった。 グローバル化や合理化による「底辺への競争」をするのではなく、自国の雇用や産業の守るべきところは守り、真の競争力を付けるための教育や産業育成に投資しなければ明日はない、と著者は主張している。
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