yasuの「今日もブログー」

日々に感じ、考えたことを記していきます。読書、メディア、時事などイロイロです。

ライト牧師とオバマの人種に関する演説

2008-03-20 | バラクオバマと米大統領選
米大統領選挙の報道も、4/22のペンシルベニア州まで、しばらく日本では小休止といった感じの今日この頃だが、アメリカでは、オバマが長年師事してきたシカゴのトリニティー教会のジェレミー・ライト牧師の過激で人種差別的な演説が、ABCニュースで紹介され、You Tubeでもアップされて物議をかもしている。 ライト牧師の過去数年間の説教から抜粋したビデオクリップだが、例えば9・11テロについては、「広島、長崎に原爆を落とした(God bless America ではなく) God dam Americaが、今度は自分の庭に爆弾をぶち込んだ」と言い放ち、「ヒラリーは一度もniggerと蔑まれたことはないだろう。リッチな白人のアメリカ人には、(オバマが理解できるように)虐げられてきた黒人の気持ちはわかりはしない」など、これだけ見ると、過激かつ偏見に満ちている。 内容もさることながら、ライト牧師が大げさな身振りを伴って絶叫し、会衆が全身を揺すって踊りながら共鳴する黒人教会の日曜説教を初めて眼にする白人(そして我々外国人)は、あっけに取られ、引いてしまうだろう。 このYou Tubeへの掲載は、アンチObama党の輩がやったようで、こんなキ印の牧師の説教を一緒に聞いていたオバマとは一体どんな奴、というスーパーが入っていたりする。

この降って湧いたControversyに応える意味もあったのだろうが、オバマは、18日に221年前にアメリカの独立宣言が起草されたフィラデルフィアで 「A More Perfect Union 」というスピーチを行い、このライト牧師について触れ、過去の人種差別の歴史と怒りを超えて、歩み寄るべきだと真正面から説いた。 このスピーチは、政治的に不都合な人種問題には蓋をしてやり過ごすのが常識である選挙戦において、全く異例のものであり、内容的も画期的なものと、メディアから注目を集めている。 「アメリカ人は、黒人も白人もそれぞれ過去の辛い歴史や恨みを引きずっている。その悔恨や怒りにとどまり、互いに反目しあうだけでは、永遠にこの国は分裂し、より惨めな状態に陥る以外にない。 アメリカの南部を描き続けた作家William Faulknerが言っているように、過去を消し去ることは出来ないし、過去は実は過去ではなく、今とともにある。 だからここそ、過去を抱えつつも、矛盾を胚胎しながらも、理解しあい協力し合って、希望のある社会の実現に向けて努力しなければならない」とオバマは説く。 この演説のテキストを一行一行読んでいくと、その素晴らしさに感嘆せざるを得ない。

筆者は、実はbarackobama.comをチェックして、このlandmark的スピーチをビデオで見てから、ライト牧師の件が問題になっていることを知った。 それからYou Tubeでライト牧師の説教を見て、その激しい調子に驚いてしまったし、これが一人歩きするとオバマや黒人教会への不信が募るのではないかと危惧を覚えた。 ウェブをサーチしていると、オバマが「Audacity of hope」という、その最新の著書の言葉を、1990年のライト牧師の説教の中から見つけてきたことがわかった。(この説教の原文は、アメリカ在住15年という女性blogger「シスタ」さんが自身の「ブラックカルチャーbox」というブログで紹介されていた。)  これを読むと、例のビデオだけでライト牧師を判断するのが間違いであることが良く分かる。 この説教では、ライト牧師は、Hopeと題された一枚の絵と聖書を引きながら、地上でどんなに希望の印が見えなくても、希望を持ち続ける、天上の神に向かって「勇敢に希望し続けることAudacity to Hope)」で、どんなに辛く惨めな人間も救われるのだ、と力強く説いている。 これこそが、オバマをキリスト教の信仰に導いた誇り高き牧師であり、オバマの原点でもあり、信条ともなった「希望の政治」の源なのだと、納得できる。 

A More Perfect Unionのスピーチで、オバマは、ライト牧師の差別的言葉を厳しく批判しつつ、同時に、牧師の何十年にも及ぶコミュニティーでの慈善活動を讃えている。 ライト牧師の発言の多くは、人種的な偏見があり、それは貧しい黒人の会衆の気持ちを掬い取るために発せられたものである。なぜなら、日曜の朝の教会の礼拝の椅子は、鬱積した社会への不満や怒りが、一番容易に噴出しやすい場所なのだと彼は言う(ここで聴衆の大きな共感の拍手がある。)彼は、ライト牧師についてこう締めくくる。
“I can no more disown him than I can disown the black community. I can no more disown him than I can my white grandmother - a woman who helped raise me ... but a woman who once confessed her fear of black men who passed by her on the street, and …once uttered racial or ethnic stereotypes that made me cringe.”
オバマは、彼を大事に育ててくれた白人の祖母が黒人へ恐怖を語ったのを受け入れると同じように、ライト牧師を、彼の矛盾を受け入れるのだ。 TIMEは、オバマの今回のスピーチを、驚くほど率直で深遠なもので、過去数十年間、人種(race)ついて述べられたスピーチのうち最も重要なものとしながら、彼のキャンペーンへの影響を懸念もしている(タイトル:Obama’s bold gamble on Race)。  
怒りや不信に閉ざされるのでなく、過去や(肌の色の)違いも乗り越えて、より良い生活を、より良い社会を目指して希望し続ける勇気を持つことの大切さをオバマは説き続ける。 それは、何もアメリカ人に限ったことではなく、どの社会においても、人間が生きていく上で、欠くことのできない共通のチャレンジではないだろうか。だからこそ、オバマへの支持が、人種を問わずアメリカのすべての階層に広がり、アメリカの外でも、ヨーロッパで、アフリカで、中東で、アジアで広がっているのだろう。   

最新の画像もっと見る

コメントを投稿