
春分(3月21日)は、二十四節気の第四番目の節気である。昼夜の長さが等しくなる頃であり、この後は昼の時間が長くなり、夜が短くなって行く。気候も寒さと暑さの境目にあたり、春の暖かさをより実感できる時節になってくるが、まだまだ寒暖が入り混じり気候が不安定であるから油断は禁物である。人間は自然界の中で生活しており、春夏秋冬の四季の移り変わりは身体に深く影響を与える。冬至には陰が極まって陽が生まれ、春には陽が長じて陰が消えてゆき、夏至には陽が極まり陰が生まれ、秋には陰が長じて陽が消えてゆく。先の「春の養生」で辿った様に、一日もまた四季に喩えると朝は春、日中は夏、日の入りは秋、夜中は冬にあたり、一日の内でも昼は陽、夜は陰として陰陽は変化している。一般に、陽に属するのは動的、外向的、上昇性あるいは温熱性を示すものであり、陰に属するのは静的、内向的、下降性あるいは寒冷なものが挙げられる。体で言えば、上部は陽で下部は陰、背中は陽で腹は陰、体表は陽で体内は陰となる。五臓六腑では、五臓は陰で六腑は陽に分けられる。また機能的側面は陽で、物質的側面は陰であり、興奮は陽で抑制は陰とみなされる。このように身体は、上下左右、内外、表裏や臓器同士で陰陽が分かれていて、これら対立する陰陽の性格を帯びたものが、お互いに影響し合って調和を保ち、生理機能を維持している。自然および人体の生命活動において、陰陽は釣りあったまま動かず固定した状態ではなくて、絶えず流動的な動的平衡を保っているのである。昼夜寒暑を等分に分ける春分の時期における養生の原則は、この陰陽のバランスを保つことにある。陰陽平衡の崩れが生じ、陰陽が偏ったまま消長を遂げなくなると、確実に病気の発症につながってゆく。
散ればこそいとど桜はめでたけれ うき世になにか久しかるべき 伊勢物語 第八十二段