戸隠山之神代櫻│尾形月耕「日本花圖繪」明治廿九年
「この桜ハ、忝けなくもその昔、やごとなき神の植ゑ給ひし木にて候程に、
神代桜とも申し、又世に類少なき木なればとて
素桜とも申し候。この素桜の御神躰ハ八坂刀売之命(やさかとめのみこと)にておはしまし候。か様に委しく教へ給ふ、御身ハ如何なる人やらん。誠ハ我ハこの花の精なるが、こぞのやよひに我姿、写して君に参らせしより、今ハ東のはてまでも、皆我姿をしり給ひ候、はづかしながら顕れて、昔がたりを申すなり、今宵ハ此處に下臥して、夢の告をも待ち給へと云ふかとみれば春霞、おぼろながらもかきくれて、桜の下に失せにけり、桜の下に失せにけり。」
(「素桜」, p5-6)
参考資料:
廿三世観世清廉著:観世流謡本「素桜」, 檜書店, 1994
佐野藤右衛門著:「さくら大観」, しこうしゃ図書, 1990