花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

春風 江上の路│花信

2023-03-10 | アート・文化


  尋胡隱君   高啓
渡水復渡水  水を渡り 復水を渡り
看花還看花  花を看 還た花を看る
春風江上路  春風 江上の路
不覺到君家  覚えず 君が家に到る

入谷仙介注:中国詩人選集二集「高啓」,p144 ,岩波書店, 1990

天下唯だ君のみ│花信

2023-03-09 | アート・文化


  櫻花   安積艮斎
鏤雪裁雲深映簾  鏤雪(ろうせつ)雲を裁ちて 深く簾に映ず
輕陰澹日豔逾添  軽陰 澹日 艶逾(いよいよ)添ふ
玉環飛燕兼雙美  玉環 飛燕 双美を兼ぬ
天下唯君獨不廉  天下唯だ君のみ 独り廉ならずや

菊田紀朗, 安藤智重訳注:「安積艮斎 艮斎詩略」,p342-343, 明徳出版, 2010





戸隠山の神代桜│日本花図絵

2023-03-08 | アート・文化

戸隠山之神代櫻│尾形月耕「日本花圖繪」明治廿九年

「この桜ハ、忝けなくもその昔、やごとなき神の植ゑ給ひし木にて候程に、神代桜とも申し、又世に類少なき木なればとて素桜とも申し候。この素桜の御神躰ハ八坂刀売之命(やさかとめのみこと)にておはしまし候。か様に委しく教へ給ふ、御身ハ如何なる人やらん。誠ハ我ハこの花の精なるが、こぞのやよひに我姿、写して君に参らせしより、今ハ東のはてまでも、皆我姿をしり給ひ候、はづかしながら顕れて、昔がたりを申すなり、今宵ハ此處に下臥して、夢の告をも待ち給へと云ふかとみれば春霞、おぼろながらもかきくれて、桜の下に失せにけり、桜の下に失せにけり。」
(「素桜」, p5-6)

参考資料:
廿三世観世清廉著:観世流謡本「素桜」, 檜書店, 1994
佐野藤右衛門著:「さくら大観」, しこうしゃ図書, 1990


歳月怱怱 逝きて還らず│花信

2023-03-04 | アート・文化


  荒城の月  土井晩翠
春高楼の花の宴 めぐる盃影さして
千代の松が枝わけ出でし むかしの光いまいづこ。


秋陣営の霜の色 鳴き行く雁の数見せて
植うるつるぎに照りそひし むかしの光今いづこ。


いま荒城のよはの月 変わらぬ光たがためぞ
垣にのこるはただかづら 松に歌ふはただあらし。

天上影は変わらねど 栄枯は移る世の姿
写さんとてか今もなほ あゝ荒城の夜半の月。

 天地雨情│土井晩翠作「晩翠詩抄」, p18, 岩波書店, 2012

  月夜聞荒城曲   水野豊州
栄枯盛衰一場夢 相思恩讐悉塵煙
星移物換刹那事 歳月怱怱逝不還
史編読続興亡跡 弔涙幾回灑几前
今夜荒城月夜曲 哀愁切切憶当年


 栄枯盛衰は一場の夢 相思恩讐 悉く塵煙となる
 星移り物換はるは刹那の事 歳月怱怱 逝きて還らず
 史編読み続く興亡の跡 弔涙幾回か 几前に灑ぐ
 今夜荒城 月夜の曲 哀愁切切 当年を憶ふ

隅田の桜 妙なる花見│日本花図絵

2023-03-02 | アート・文化

隅田の桜 妙なる花見│尾形月耕「日本花圖繪」明治三十年

  隅田桜花   亀田鵬斎  
長堤十里白無痕  長堤 十里 白にして痕無し
訝似澄江共月渾  澄江 月と共に渾るに似たると訝る
飛蝶還迷三月雪  飛蝶 還た迷ふ 三月の雪
香風吹度水晶村  香風 吹き度る 水晶の村

鵬斎先生詩鈔 二│杉村英治編「亀田鵬斎詩文・書画集」,p132, 三樹書房, 1982