花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

一騎紅塵妃子笑ふ│2024年度大学入学共通テスト「過華清宮絶句三首」

2024-01-14 | アート・文化

三十九 唐連いし ま徒り花│「四季の花」秋之部・貮, 芸艸堂, 明治41年

 過華清宮絶句三首   杜牧
  其一
長安廻望繍成堆  長安より廻望すれば繍(しゅう)堆(たい)をなす
山頂千門次第開  山頂の千門次第に開く
一騎紅塵妃子笑  一騎紅塵(こうじん)妃子笑ふ
無人知是茘枝來  人の是茘枝の来たるを知る無し
  其二
新豊緑樹起黄埃  新豊の緑樹に黄埃(こうあい)起こり
数騎漁陽探使廻  数騎の漁陽の探使廻る
霓裳一曲千峯上  霓裳(げいしょう)の一曲千峯の上
舞破中原始下來  中原を舞破して始めて下り来たる
  其三
萬國笙歌醉太平  萬国は笙歌し太平に酔ふ
倚天楼殿月分明  天に倚る楼殿に月分明(あきらか)なり。
雲中亂拍禄山舞  雲中に乱れ拍ちて禄山舞ひ
風過重巒下笑声  風は重巒(ちょうらん)を過(よぎ)りて笑声下る

試験に提示されたのは茘枝を好んだ一笑亡国の楊貴妃が詠われた其一である。続く其二・三は安禄山の動向を描写し迫り来る安史の乱を暗示する。玄宗皇帝は楊貴妃に供する為に遥か華南から茘枝を運ばせた。竹村名誉教授著『楊貴妃文学史研究』には、楊貴妃が砂塵を蹴立てて到着した早馬に満足の意を表した「一騎紅塵妃子笑」が、周の幽王が寵姫を唯笑わせんが為だけに偽りの烽火で緊急出動命令を繰り返し、遂には亡国を招来したという褒姒の故事を意識した詩的発想に基づくことが詳細に論述されている。

茘枝(レイシ)は、ムクロジ科、レイシ属の常緑高木で、学名Litchi chinensis Sonn.、果実は夏期に熟し表面鱗状の外果皮の中に乳白色、半透明の果肉と種子を蔵する。果肉を薬材とする生薬、同名の「茘枝」は薬性が甘・酸・温、帰経は肝・脾経、効能は養血健脾、行気消腫である。種子を薬材とする「茘枝核」の薬性は甘・微苦・温、帰経は肝・腎・胃経、効能は理気止痛、祛寒散滞である。 

参考資料:
竹村則行著:「楊貴妃文学史研究」, 研文出版, 2004
上海辞書出版社文学鑑賞辞典編纂中心編:「唐詩鑑賞辞典」, 上海辞書出版, 2013
南京中医薬大学編著:「中薬大辞典 下(第二版)」, 上海科学技術出版社, 2006
三橋博監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑, 北隆館, 1988