くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(187)

2024-01-28 00:00:00 | 「王様の扉」


「ずいぶん騒がしくなっちゃいましたね」

 と、言ったマジリックは、どこか他人事のようだった。
「狙いはあんたに違いないが、こう囲まれてちゃ、どこにも逃げ場はないみたいだぜ」と、ニンジンは頭を掻きながら言った。
「困りましたね」と、マジリックはベンチから立ち上がった。
「さあ、レイラさん。ちょっと騒がしくなってきましたから、この中で休んでいてください」と、マジリックは帽子を手に取ると、抱いていた小さなアシスタントを、脱いだ帽子の中にそっと潜りこませた。
「――どうなってるんだ、その帽子」と、ニンジンが不思議そうに帽子の中をのぞいていると、パトカーから降りてきた警官が言った。

「おい、おまえ達。放した猛獣はどこにいる」

 と、パトカー越しにメガホンを握っているのは、眼帯をした刑事だった。「市民が危険な目にあうんだ。我々に協力してくれないか」
「君塚さん」と、ニンジンは訴えるように言った。「勘違いしてますよ。猛獣なんか放しちゃいないし、見たとおり、ここにそんな動物はいません」
 わずかな沈黙があった。パトカーが即席に作ったバリケードの向こうで、なにやらひそひそと、話しをしているようだった。

「――あれって、誰ですかね」

 やきもきとした時間の中、マジリックが遠くに視線を向けた。いそがしい通勤時間も過ぎ、静けさを取り戻しかけていた街が、またにわかに騒がしくなっていた。ざわざわと、野次馬の人だかりができ始めていた。

「――? 誰だろう」

 と、ニンジンは目をこらした。
 マジリックが見ている方向に、似つかわしくない大きな外国車が止まっていた。
「知ってるヤツか?」と、ニンジンはマジリックに聞いた。全開になった後部座席の窓から、スキンヘッドの男が顔をのぞかせ、意地悪そうに大口を開けて笑っていた。
 マジリックは、「さぁ……」と首を傾げた。

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よもよも

2024-01-27 06:52:39 | Weblog

やれやれ。

金曜の深夜? でもないけど、

日付が変わる間近の時間に

アニメやってるけど、

その時間ってば特にニュースも見る気ないし、

ラジオ感覚で食事しながらつけっぱにしてたんだけど、

ここ何週か、なんかだんだん引き込まれてきて、

昨日あたりは食べるより見てる方がメインだった・・・。

でもさ、調べたら原作あるんでしょ。。

今でも流行ってる? のか知らんけど

兄弟で鬼が敵役のアニメもあったでしょ。。

あれだって漫画が原作で、アニメはいいとこで終わるから

早く続きが見たくて漫画原作買って読んだけど

それってなんか原作買うように誘導されてる気がして

なんか面白くないよなぁ。。

今回の作品だって、きっとまた途中で終わるんだろうけど、

へへへ。。

絶対原作漫画なんか買わないからな。

絶対だぞ、絶対だ。

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王様の扉(186)

2024-01-27 00:00:00 | 「王様の扉」


「おい、ちょっと急用だ。どっか近くに止めてくれ」

 と、運転手は「へい――」と、うなずいた。
 携帯を取りだした男は、どこかに電話をかけた。顔が、にやついていた。

「――あの、匿名なんですが」

 ――――……

「ニャーゴ」

 と猫のような鳴き声が聞こえた。
 ニンジンがベンチの足元を見ると、ふわふわの毛で覆われた猫が、マジリックの足にほおずりをしていた。
「ずいぶんとあんたに慣れてるじゃないか」とニンジンは猫を見ながら言った。
「いえいえ、これは私の助手ですよ」と、マジリックは前髪の伸びた猫を抱き上げた。「見覚え、ありませんか」
「そんなモサモサな猫――」と言いかけて、ニンジンは言葉を飲んだ。「もしかして、あのときのライオンか?」
 ニンジンが指をさすと、抱き上げられた猫が、眠そうな顔をあげた。

「なによあんた。寝起きのレディを見て指さすなんて、失礼じゃないの」

 猫がしゃべった驚きよりも、ニンジンは目を疑った。振り返った猫の前髪が、綺麗にカールしていた。見た目は猫ほどの大きさだったが、小さな額にカールした前髪は、あの夜に見たライオンに似た獣にそっくりだった。
「よく似てるけど、こんなに小さくなかったぞ」と、ニンジンは思わず立ち上がりながら言った。「やっぱり、びっくりどっきりショーが始まってるんだろ」
「――なんのことかわかりませんが、まだまだ、なにも始めちゃいませんってば」と、マジリックは言った。「もさもさの毛はしょうがありませんよ。彼女の体質なんです。テープで小さくなると、どうしても毛が伸びちゃって……。でもそのおかげで、寒さ知らずなんです」
「――これって、魔法なのか」と、ニンジンは言った。
「いいえ、魔法じゃないです。道具のおかげですよ」と、マジリックは思い出したように言った。「そういえば、あなたにも分けてあげたじゃないですか」
 すぐには思い出せなかったニンジンは、マジリックと出会った夜のことを、宙を仰いで考えた。
 と、デジャビュのように、けたたましいサイレンの音が、いくつも聞こえてきた。
 嫌な予感を覚えたニンジンだったが、案の定、競うように走ってきたパトカーが、あっという間に公園を取り囲んでしまった。

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王様の扉(185)

2024-01-27 00:00:00 | 「王様の扉」

「なんだったんだ、あいつ――」と、男は舌打ちをしながらつぶやいた。
 髪の毛を金色ではなく、間違って黄色に染めてしまった運転手が、恐る恐るバックミラーで後部座席に座る男の顔色をうかがった。

「なに見てんだよ」

 思わず目が合い、ドン――と、運転席の背もたれを蹴られた若い運転手は「すンません」と頭を下げながら、あわてて前に向き直った。

「ちぇっ、どいつもこいつも」

 あの日の夜は、とんだ失態を見せてしまった。数年前から始めた事業が成功し、あれよあれよという間に蓄えができたのに気をよくし、ついつい飲み過ぎてしまった。
 今までは、地方議会にも顔が利く父親の陰に隠れて、じっと耐え続けてきた。父親は、昔から厳格だった。なにも問題のない兄弟に比べ、末っ子の自分ばかりが辱められる。と、どこか逆恨みをしている部分もあった。
 そんな父親が、念書も取らずまとまった資金を融資してくれた時は、涙が尽きるほどうれしかった。
 しかし、事業が成功して初めて自分の会社を訪れた父親は、ろくに話も聞かないまま、すぐに帰ってしまった。
 後になって母親が言うには、毎晩遅くまで飲み歩いている噂を聞き、自分の事のように心配していたという。

「――あ、もしもーし」

 と、携帯電話に出た男の声は、同じ人間かと疑いたくなるほど、トーンが上がっていた。
「はいはい、今日も行っちゃうヨ……えっ、先月も誕生日じゃなかったっけ……うん。うんうん。わかった」
 携帯電話をスーツの内ポケットにしまった男は、うっとりと夢を見ているような優しい顔になっていた。
 その顔が、もとの鬼瓦のような顔に一変した。

「あいつ……」

 レザー張りのシートの上に膝立ちになりながら、男は開いたドアの窓に両手をついて、食い入るように外を見た。
「どうしたんスか?」と、信号待ちで停車した運転手が、後ろを振り返って言った。
「あいつだよ、あいつ。間違いねぇ」と、後部座席にいた男は、歯をむき出しながらシートに座り直した。「おい、ここはどの辺だ」
 運転手がカーナビを確認すると、詳しい場所を聞いた男は、腕を組みながら「ハハン……」と、片方の唇を意地悪そうに吊り上げた。

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よもよも

2024-01-26 06:14:21 | Weblog

やれやれ。

もう何にも言えないくらい朝から疲れてるしXXX

昨日は一日中吹雪いてやがるし、

仕事から帰ってきて多少は雪かきしたけどさ、

風で舞い上がってむせかえるくらい強い風だった。。

で、朝起きれば昨日の夜の努力が

パーになるくらいな吹きだまり・・・。

あーあ。

らっきょうでも新生姜でもいいから、

おむすびにしてがっつし食いたい。

食いたい。。

甘いチョコでコーティングしたさきイカでもいいわ。

食いたい。。

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王様の扉(184)

2024-01-26 00:00:00 | 「王様の扉」

 ためつすがめつしながら、ニンジンは小屋の外を回ると、のっぺりとした壁の下に、小さなドアらしき物を見つけた。大人なら、体をかがめなければ入れないほどの低いドアだった。その奥になにがあるのか。ニンジンは、指でつまめる程度の、気持ちばかりの取っ手に手を掛けた。
 ギギッ――と、音だけは重々しいドアの奥に、どこかで見覚えのある帽子があった。

「あんた、ここでなにやってるんだ――」

 と、ニンジンは、ドアの奥をのぞきながら言った。
 白黒の、大きなチェック柄の帽子を被った白いロングコートの男が、驚いたようにこちらを振り向いた。
「――おやおやどうも」と、マジリックと名乗った男は、ばつが悪そうに小屋の外に出てくると、言った。「思っていたより、ずいぶん遠くまで飛ばされちゃったみたいなんです」
「なに言ってるんだよ」と、ニンジンは首をかしげて言った。「飛ばされたって、あんたと会った場所からかい」
「いえいえ、私のいた国からです」と、マジリックは首を振りながら言った。
「国って、どこの――」と、ニンジンは言った。
 マジリックは体をかがめると、重々しい音を立てないように、軽いドアをそっと閉めた。
「――王様の夢の扉を、一度見てみたかったんです」と、こちらを向き直ったマジリックが言った。「夢に通じる道を作れる扉なんて、素敵じゃないですか。お城に代々伝わる秘宝かもしれませんが、手品のタネに使えば、それこそ、みんなをあっと言わせられるはずです」
「あんたの国って、王様がいるのか」と、ニンジンは訊いた。
 マジリックはうなづくと、話を続けた。
「手品を披露する舞台があったので、ちょうどお城の近くまで行くことになっていたんです。――いいえ、もちろん初めてじゃないですよ。でも、扉を見たことは一度もなかったんです。だから今度こそ、この機会を逃しちゃ行けないと思って、大臣に頼みこんで、扉のある広間に案内してもらったんです」
 マジリックは遠くを見るような目で話しながら、歩き始めた。
「今でも信じられませんが、とうとう扉を見ることができたんです。ただ、ちょっと舞いあがり過ぎて、思わず魔法を使ってしまいました」
「あんた、病院に行かなくても大丈夫だよな」と、ニンジンは並んで歩きながら、困ったように言った。「連絡したい親族がいるなら、相談に乗ってやるよ」
 マジリックはそばにあったベンチに腰を下ろすと、話を続けた。
 ――――……

「……」

 と、数日前の晩、路上に腰を抜かして座りこんでいた男は、窓を開けた外国車のドアに頬杖をつきながら、ふてくされたように外を見ていた。

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王様の扉(183)

2024-01-26 00:00:00 | 「王様の扉」

「――で、捕まえたのか? あのライオンもどき」と、留置場から出てきた男は言った。
「困ったやつだな、おまえは――」と、眼帯をした刑事は、男が出てきた留置場のドアを、後ろ手にを閉めながら言った。「自分勝手な正義感で余計なことに首を突っこんで、面倒ばかりかけないでくれよ、ニンジンさん」
 背中をポンと叩かれた男は、歩きながらムッとした顔で振り向いた。

「なんですか、それ?」

「聞いたよ。町内の子供達の間じゃ、知らない子がいないくらい有名だってね」と、眼帯の刑事はクスリと笑った。
「――からかうのはやめてくださいよ。子供達相手に遊んでいられるほど、ひまじゃないんですから」
「まぁまぁ」と、眼帯の刑事は笑顔を浮かべて言った。「子供を狙う不審者も多いからな。保護者にすれば、探偵なんて肩書きのヤツは、信用できないのさ」
「――ちぇっ」と、男はつまらなさそうに言った。「もう一泊してもいいですよ。疑わしいことがあるなら、取り調べてください」
「またまた、そうすねないで――」と、眼帯の刑事はなだめるように言った。

「じゃあな、気をつけて帰れよ。今日は運転手つきのパトカーは無いからな」

 と、玄関まで見送りに来た眼帯の刑事が、小さく手を振って言った。
 雪が降りそうな薄曇りの空。ニンジンはジャンパーのジッパーを閉じると、小走りに警察署を後にした。
 もう何度も足を運んだ警察署だが、事務所兼自宅のアパートまでは、歩けば遠く、車では近すぎる距離だった。
 バスが傍らを走り過ぎていくのを目の端で捕らえながら、財布の中身を思い浮かべた。時刻表が、歩けと結論を出してくれた。

 数日後――。

 いつになく目が冴え、いつもより早起きをしたニンジンは、そそくさと着替えを済ませてアパートを出ると、区役所のそばにある保健所に徒歩で向かっていた。
 と、あまり来ることのない道の向こうに、日当たりのいい公園が見えた。
 白い息を吐きつつ、ニンジンは急ぎ足で公園に向かうと、座り心地の良さそうなベンチを探した。
 公園の中にやってきたニンジンは、見たこともないキノコ型のあずま屋を見つけると、首をかしげながら近づいていった。
「なんだ、あのキノコ――」と、ニンジンは思わず声を漏らした。
 一見すると、大きな傘を広げたキノコの小屋は、タコや宇宙船を模した遊具の仲間のようだった。しかしそばで見ると、外見のイメージとは違い、上り下りする階段も、すべり台もなかった。

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よもよも

2024-01-25 06:12:33 | Weblog

やれやれ。

土・日からの大荒れの天気が

全国レベルになって暴れ回ってるけど

??

こっちは時折風は強いもんの、

火曜日の朝ほどじゃないわ・・・。

助かったってか、風向きひとつでいつ地獄を見ることになるかわからんから、

ぬか喜びは禁もつ鍋ですな。。

で、思い出したわ。

何年かぶりでイヤイヤ行った歯医者の待合で

脚本家? の倉本センセの長い文書の色紙飾ってあった。

長々書いてて全文思い出せないけどさ、

「敵は愛嬌につけこんでくる」

特殊詐欺のこと書いてるんだと思うんだけど

善意とか、親切心とか、自分側から思うことじゃなくって

向こう側から見えてる自分のことを書くって、

なんかやっぱり見方が違うんだよね。。

書いてあることもそうだけど、

意外に丸い文字でお世辞にも綺麗な字とはいえんかったから

なんかそこは同じ人間なんだってほっとしたってか、可笑しかった。。

 

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王様の扉(182)

2024-01-25 00:00:00 | 「王様の扉」

「らいおん?」と、帽子を持った男は不思議そうに言うと、「ああー」と、思いついたように帽子の中を指さして言った。「見えませんでしたか、この中ですけど」
 向けられた帽子の中を、男は上からそっと覗きこんだ。
 帽子の中には、底の見えない深い影があるだけだった。ライオンのように大きな動物が入れる空間など、あるはずがなかった。
「どうやったかは知らないが、あんたも早く逃げないと、こっちにやってくる連中に捕まったら、やっかいな事になるぞ」と、男はせかすように言った。
「――はじめまして、マジリックです。今日は私のステージを見に来てくれて、ありがとうございました」
 マジリックと名乗った男は手を差し出すと、反射的に手を伸ばした男と握手を交わした。
「私、誰かに捕まるんでしょうか……」と、マジリックは、心配そうに言った。
「騒ぎが大きくなったからね。事情を聞くために捕まえられるのは、仕方ないだろうさ」と、男はため息交じりに言った。
「それは困ります。明日の準備もありますし、これ以上足止めされたくないので、私はこれで失礼します」と、マジリックは、帽子を被りながら言った。

「あなたも、もし捕まえられて困るなら、使ってください。それ、使い切りですけど、便利ですよ」

 見ると、握手をした手の中に、くるりと巻かれたテープが入っていた。
「――どうも」と、男は言いながら、頭を下げていた。
「いえいえ、ステージを見に来てくれたお客さんへの、ささやかなお礼です」

「それじゃ――」

 手元を見ていた男があわてて顔を上げると、マジリックの姿はどこにもなかった。
 と、チェック柄の帽子が、車輪のようにコロコロと転がりながら、行き交う人達の足元を縫って、見えなくなった。
 生き物のように転がり去って行く帽子に気がついた男は、すぐにを後を追いかけようとしたが、ぐさりと突き刺さるような厳しい声に呼び止められた。

「ちょっと、待ちなさい」

 男が足を止めて振り返ると、制服を着た警察官が何人か、重そうなベルトに手をかけながら、息を切らせてやって来た。

 ――――……

 

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王様の扉(181)

2024-01-25 00:00:00 | 「王様の扉」

 周りで様子をうかがっていた人達は、「うわーっ」と、言葉にならない声を一斉に上げながら、腰を抜かした赤ら顔の男を一人を残して、蜘蛛の子を散らしたように逃げまどった。

 通報を受けたパトカーのサイレンが、風に乗って聞こえ始めた。

「大丈夫です。思ったほど機嫌は悪くないみたいですから」と、人々をなだめるように言った帽子の男は、帽子の中から出てきた獣の方を向くと、困ったように言った。
「――よく見てください。その人は私じゃありませんよ」
 前髪をカールさせたライオンに似た獣は、鼻にしわを寄せながら振り向いた。
 と、ライオンに似た獣は、のっそりとこちらに近づきながら、不機嫌な様子で言った。
「なんなのよ、さっきステージが終わったばかりでしょ。どうしてまた呼び出されるの」と、ライオンに似た獣は顔に似合わず、キーの高い甘ったるい声で言った。
「これは、すみません」と、帽子の男は言った。「感激したお客さんが、なかなか私を離してくれなかったもんですから――」
「――もう、困っちゃうわね。そんなに私が魅力的だったのかしら」と、ライオンに似た獣は、カールさせた前髪をふわりと揺らしながら、満足げに言った。「お客さんが喜んでくれたなら、いいんだけれど」
 物憂げなライオンに似た獣は、ため息をつくように大きく頭を振った。たっぷりなたて髪が、生き物のように舞い踊った。

「――夜遅くまで起きてると、肌の張りがなくなっちゃうから、今日はもう休ませてよね」

 と、ライオンに似た獣は、ため息交じりに言った。
「はい、これでステージは終わりにします」と、帽子の男は、毛繕いしているライオンに似た獣のそばに来ると、言った。「――ご苦労様でした。明日に備えて、ゆっくり休んでください」
 赤ら顔の男に取られたチェック柄の帽子が、どこからか、ころころと帽子の男の足元に転がってきた。
「頭をぶつけないように、気をつけてくださいね」と、男は帽子を拾いながら言うと、前髪をカールさせたライオンに似た獣の背中を軽くさすった。
 と、ライオンに似た大きな獣の体が、煙のように消え去ってしまった。声を上げて逃げまどう人達の中、はたして何人がそのことに気がついただろうか。

 けたたましいパトカーのサイレンが、勢いよく近づいてくるのがわかった。

「――ちょっと、あんた」と、様子をうかがっていた男は、帽子の男に駆け寄ると言った。「そこにいたライオン、どこに隠したんだ」

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