ダイヤモンド社より 転載
なぜ記者会見に出席したのは委員長だけだったのか
大川小検証委・初会合で抱いた真相解明への懸念
東日本大震災の津波で、多くの児童が犠牲になった石巻市大川小学校。震災からまもなく1年11ヵ月を迎える2月7日に第1回大川小学校事故検証委員会が開かれた。委員長に就任した室崎益輝氏は「行政と被災者と専門家とメディアの4者は対等な立場で協力すること」を所信として表明し、これまで検証対象外にされてきた震災時における学校関係者や市教委の「事後対応」を検証範囲に含めるなど、画期的な成果も得られた。しかし、委員会後の記者会見に出席したのは室崎委員長1人だけ。委員会が終わると、そそくさと会場を後にした他の委員たちに我々は違和感を抱かずにいられなかった。
第1回大川小学校事故検証委員会は2月7日午後1時から、石巻グランドホテルで開かれた。
出席した委員6人と調査委員4人は、以下の通り。
<委員>
・数見隆生 東北福祉大学総合福祉学部社会教育学科教授(67歳)
・佐藤健宗 弁護士、鉄道安全推進会議(TASK)事務局長、
関西大学社会安全学部客員教授(54歳)
・首藤伸夫 東北大学名誉教授(78歳)
・芳賀繁 立教大学現代心理学部心理学科教授(60歳)
・美谷島邦子 8・12連絡会事務局長(66歳)
・室崎益輝 関西学院大学総合政策学部都市政策学科教授
災害復興制度研究所長、神戸大学名誉教授(68歳)
<調査委員>
・大橋智樹 宮城学院女子大学学芸学部心理行動科学科学科長、教授(42歳)
・佐藤美砂 弁護士、公益財団法人日弁連交通事故相談センター理事、
宮城地方最低賃金審議会公益委員(48歳)
・翠川洋 弁護士、東北大学法科大学院非常勤講師、
公益社団法人みやぎ被害者支援センター理事(50歳)
・南哲 神戸大学名誉教授(72歳)
また、事務局から、進行役の(株)社会安全研究所の首藤由紀所長のほか、文部科学省の前川喜平官房長、宮城県教育委員会の伊東昭代教育次長も同席した。
「遺族に寄り添う」「疑わしきは取り上げる」
室崎委員長による5点の所信表明
まず、委員長に室崎委員が選出された。室崎委員長の所信表明は、次の5点。
1、公正中立というが、足して2で割るのは中立ではない。亡くなられた方、遺族の方の気持ちに寄り添っていくことがなくてはいけない。
2、普通は“疑わしきは罰せず”だが、(今回の検証は)“疑わしきは取り上げる”形でないといけない。誰が悪いかではなく、問題点をたくさん出すが、どう教訓として生かしていくかが大切だ。
3、委員の全員一致で決めていく原則を大切にしたい。遠慮なく発言していただいて、みんなの意見で、みんなの合意の基に正しい結論を下していきたい。
4、行政と被災者と専門家とメディアの4者は対等な立場でしっかり協力し合わなければいけない。力を合わせてしっかり結論を出していくというスタンスをとっていきたい。
5、いちばん大切なのは、真実を明らかにすること。今回は、覆すことのできない客観的データが存在しない。1つ1つの証言がとても大きな意味を持ってくる。その中で、1つの真実を組み立てていく。最終的には、次の世代につながる教訓を引き出したい。
2
まず評価したいのは、室崎委員長が所信表明で、亡くなった人や遺族の気持ちに寄り添いながら、「疑わしきは取り上げる」という方針を明らかにしたことだ。
検証を求める大川小学校の児童の遺族たちは、あの日から、行政や教育委員会の壁に阻まれながら、何度も話し合いを行い、自分たちの力だけで情報収集を続けてきた。この2年近くにわたって、遺族たちが集めてきた資料や情報は、すでに膨大な量に上る。
しかしいま、ようやく立ち上がった検証委員会は、ゼロから調べていかなければいけない。遺族の持っている情報量の域に達するまでには大変な作業が必要であり、「疑わしきは取り上げる」姿勢で調査を進めていかなければ、遺族の思いに寄り添うこともできなくなるだろう。
検証委は「公開」の約束だったのになぜ?
メディア批判、映像は一部制限の経緯
その一方で、室崎委員長は、こんな気になる発言をした。
「公開の場はとてもいいことだが、個々にとってはプレッシャーがかかる。発言が責められたりしないかと思ってしまうと、言いたいことが言えなくなる」
この発言の真意は、続いて行われた「情報の取り扱いについての話し合い」で明らかになった。
当日、すでに事務局は、同委員会の「会議の公開は傍聴によるもの」であり、「傍聴者は会場が許す限り制限を設けない」とする資料を配布。口頭で「委員の議論の中で、撮影は頭撮りだけでなく、継続させるべきとの意見があった」ことも紹介された。
しかし、芳賀委員は「うっかり固有名詞を出してしまったり、まだ調査が始まっていない段階で、発言が間違っているかもしれない」として、「録画が流れてしまうと、ユーチューブで複製がどんどん広まって、間違いでしたと後で言っても、何万人も見てしまう。議論の間の録画録音はやめていただけないか」と意見を述べた。
すると、首藤委員がこう続けた。
「昨日、ソロモンの地震の津波が来たとき、第一報のユーチューブに日本の3.11のときの津波が出た。きちんと責任を持てる段階の情報であることをお出しになられたほうがいいと思う」
佐藤健宗委員も、ご自身の経験から「すべての議論の過程を撮影録画されるのは窮屈で議論しにくい」と同調した。
遺族の代表であるはずの美谷島委員も、「映像は一部切り取られて、決して遺族を守るものではない」と発言した。
私は、映像メディアではないものの、このやりとりに少し違和感を抱いた。
3
大川小の報道についても、どの部分をどう伝えていくかについては、私たちメディアの側も遺族たちと真剣に向き合う中で、さんざん悩みながら、みんなで積み上げてきたものだ。
今回の検証委員会の議論を「公開」で行うことは、遺族とのやりとりだけでなく、そもそも石巻市議会が検証委員会委託費を同市の予算で通すときに交わした条件であり、石巻市民との約束事でもある。
2年近く経って、その“付託”を背負って委員に就いた人たちが、これまでの経緯を知る努力をすることもなく、「勝手にユーチューブに流される」などと、自らの発言が可視化されることへの不安を一方的にまくし立て、メディア側の規範のみを問題視した。
もちろんメディア側は、これまでの市教委の説明会などでも、個人情報が出れば、当該箇所を伏せるなどの配慮をしてきたし、今後も配慮し続けていかなければいけない。
しかし、こうした検証の議論の過程で発言が変わっていったりするのは、人間として自然なことだろう。世界も注目する公的な委員を引き受けられた以上は、委員たちの一言一句の展開に、オープンな場でリスクマネジメントが問われていくのは当然の話である。
ある委員は「私が用意した資料も、まだ最初の段階の考えで変わっていく可能性がある。報道されることに不安。報道関係には十分注意を…」などと映像メディア批判に“便乗”した。実際には、資料は配布されたものの、公的な立場としての自覚が問われる発言だ。
室崎委員長は、「報道関係と相互の信頼関係ができたときに許可することはできると思う。今日に関しては頭撮りだけで、報道から『こういう取り扱いします』という文書を出していただき、妥当なものだと判断したときに、許可することでどうか」と議論を引き取った。この後、委員長の指示で、カメラは退出を求められた。
まるで三文芝居でも見せられているかのように、のっけから委員たちのメディア批判が繰り広げられるという異様な展開に唖然とさせられた。
遺族が約2年間訴えてきた
「事後対応」も検証対象に
休憩をはさんで、「検証の方針、進め方など」についての議論に入った。
画期的だったのは、遺族が2年近くにわたって求めてきた「事後対応」も、検証の対象に含める方針が決まったことだ。
すでに事務局側のほうで、【要検討事項】として、
<①サバイバル・ファクター(生存可能性に関する要因)>
<②遺体捜索、事故に関する調査、ご遺族・保護者への説明など、関係当局として実施しなければならない各種対応>
についても「対象とするか」。対象とする場合は「どこまで取り扱うか」という資料が用意されていた。
事前に、事務局の社会安全研究所が、検証を求めてきたご遺族の意向を汲んで、検証に生かそうと反映させたものなのだろう。
4
美谷島委員が、こう口火を切った。
「被害者ならではの視点を大切にしてほしい。ご遺族の方々がいろいろと調査なさっている部分も含めて、この場でご遺族の方のお話も聞きたいと思う。事後対応をぜひ対象に入れてほしい」
佐藤健宗委員も、こう続けた。
「サバイバル・ファクターが重要なのは議論するまでもない。ご遺族ならではの視点、気づき、情報収集に真摯に学ぶべき。委員会の場に、ご遺族の何人かに来ていただいて、資料も提示していただきながら、しっかり聞く場を設けるべきだ」
さらに、同委員は<事故に関する調査>についても、「米国NTSB(国家運輸安全委員会)の事故調査報告書や、英国HMRI(鉄道監督局)の鉄道事故調査報告書を見てみると、事故直後の現場保全が適切だったかどうか。生資料が散逸しているか。当事者によって証拠資料の改ざんが行われたかという点が触れられていた」ことを説明し、こう踏み込んだ。
「我々が生資料を参照できなかったことが影響あるかどうかも考えながら、事故直後の対応が徹底的な事実究明や再発防止に悪い影響があった、という結論が出るかもしれない」
事後対応のうち、①及び、②の<事故に関する調査>の対応について、検証対象に入れるべきとの意見が出た。
これに対し、芳賀委員は、「教育委員会による教員や児童に対する聞き取り調査への不満、問題点について、直接批判的に述べることはしなくていい」と指摘。事後対応のあり方についても、
「非常に乱暴な聞き取りが行われた可能性がある。様々な事件事故が起きたとき、今後こういうことに配慮して、できるだけ速やかに十分な配慮をもって聞き取りが行われるような仕組みや体制が必要である」
などと、遺族の求めてきた教育委員会に対する問題究明とは別の方向性から必要性を語った。
一方、佐藤美砂調査委員は、事後対応について「必要に応じて検討する進め方でよい」としながらも、<事故に関する調査>について、「他の機関で行った調査を、この委員会でどうこうするのはいかがかと思う。遺体捜索(の対応)も、ここでテーマにする話ではない」と懸念も示した。
翠川調査委員は、「『いつどこでご遺体が発見されたのか?』は結果として、『どういう被害に遭ったのか』の解明につながる。事後対応も避けて通れない。全体を把握するためには避けられない」と強調した。
こうして、震災後の学校や教育委員会の「事後対応」についても、必要に応じて検証対象に含まれる方向で合意した。
なぜ記者会見に出席したのは委員長だけだったのか
大川小検証委・初会合で抱いた真相解明への懸念
東日本大震災の津波で、多くの児童が犠牲になった石巻市大川小学校。震災からまもなく1年11ヵ月を迎える2月7日に第1回大川小学校事故検証委員会が開かれた。委員長に就任した室崎益輝氏は「行政と被災者と専門家とメディアの4者は対等な立場で協力すること」を所信として表明し、これまで検証対象外にされてきた震災時における学校関係者や市教委の「事後対応」を検証範囲に含めるなど、画期的な成果も得られた。しかし、委員会後の記者会見に出席したのは室崎委員長1人だけ。委員会が終わると、そそくさと会場を後にした他の委員たちに我々は違和感を抱かずにいられなかった。
第1回大川小学校事故検証委員会は2月7日午後1時から、石巻グランドホテルで開かれた。
出席した委員6人と調査委員4人は、以下の通り。
<委員>
・数見隆生 東北福祉大学総合福祉学部社会教育学科教授(67歳)
・佐藤健宗 弁護士、鉄道安全推進会議(TASK)事務局長、
関西大学社会安全学部客員教授(54歳)
・首藤伸夫 東北大学名誉教授(78歳)
・芳賀繁 立教大学現代心理学部心理学科教授(60歳)
・美谷島邦子 8・12連絡会事務局長(66歳)
・室崎益輝 関西学院大学総合政策学部都市政策学科教授
災害復興制度研究所長、神戸大学名誉教授(68歳)
<調査委員>
・大橋智樹 宮城学院女子大学学芸学部心理行動科学科学科長、教授(42歳)
・佐藤美砂 弁護士、公益財団法人日弁連交通事故相談センター理事、
宮城地方最低賃金審議会公益委員(48歳)
・翠川洋 弁護士、東北大学法科大学院非常勤講師、
公益社団法人みやぎ被害者支援センター理事(50歳)
・南哲 神戸大学名誉教授(72歳)
また、事務局から、進行役の(株)社会安全研究所の首藤由紀所長のほか、文部科学省の前川喜平官房長、宮城県教育委員会の伊東昭代教育次長も同席した。
「遺族に寄り添う」「疑わしきは取り上げる」
室崎委員長による5点の所信表明
まず、委員長に室崎委員が選出された。室崎委員長の所信表明は、次の5点。
1、公正中立というが、足して2で割るのは中立ではない。亡くなられた方、遺族の方の気持ちに寄り添っていくことがなくてはいけない。
2、普通は“疑わしきは罰せず”だが、(今回の検証は)“疑わしきは取り上げる”形でないといけない。誰が悪いかではなく、問題点をたくさん出すが、どう教訓として生かしていくかが大切だ。
3、委員の全員一致で決めていく原則を大切にしたい。遠慮なく発言していただいて、みんなの意見で、みんなの合意の基に正しい結論を下していきたい。
4、行政と被災者と専門家とメディアの4者は対等な立場でしっかり協力し合わなければいけない。力を合わせてしっかり結論を出していくというスタンスをとっていきたい。
5、いちばん大切なのは、真実を明らかにすること。今回は、覆すことのできない客観的データが存在しない。1つ1つの証言がとても大きな意味を持ってくる。その中で、1つの真実を組み立てていく。最終的には、次の世代につながる教訓を引き出したい。
2
まず評価したいのは、室崎委員長が所信表明で、亡くなった人や遺族の気持ちに寄り添いながら、「疑わしきは取り上げる」という方針を明らかにしたことだ。
検証を求める大川小学校の児童の遺族たちは、あの日から、行政や教育委員会の壁に阻まれながら、何度も話し合いを行い、自分たちの力だけで情報収集を続けてきた。この2年近くにわたって、遺族たちが集めてきた資料や情報は、すでに膨大な量に上る。
しかしいま、ようやく立ち上がった検証委員会は、ゼロから調べていかなければいけない。遺族の持っている情報量の域に達するまでには大変な作業が必要であり、「疑わしきは取り上げる」姿勢で調査を進めていかなければ、遺族の思いに寄り添うこともできなくなるだろう。
検証委は「公開」の約束だったのになぜ?
メディア批判、映像は一部制限の経緯
その一方で、室崎委員長は、こんな気になる発言をした。
「公開の場はとてもいいことだが、個々にとってはプレッシャーがかかる。発言が責められたりしないかと思ってしまうと、言いたいことが言えなくなる」
この発言の真意は、続いて行われた「情報の取り扱いについての話し合い」で明らかになった。
当日、すでに事務局は、同委員会の「会議の公開は傍聴によるもの」であり、「傍聴者は会場が許す限り制限を設けない」とする資料を配布。口頭で「委員の議論の中で、撮影は頭撮りだけでなく、継続させるべきとの意見があった」ことも紹介された。
しかし、芳賀委員は「うっかり固有名詞を出してしまったり、まだ調査が始まっていない段階で、発言が間違っているかもしれない」として、「録画が流れてしまうと、ユーチューブで複製がどんどん広まって、間違いでしたと後で言っても、何万人も見てしまう。議論の間の録画録音はやめていただけないか」と意見を述べた。
すると、首藤委員がこう続けた。
「昨日、ソロモンの地震の津波が来たとき、第一報のユーチューブに日本の3.11のときの津波が出た。きちんと責任を持てる段階の情報であることをお出しになられたほうがいいと思う」
佐藤健宗委員も、ご自身の経験から「すべての議論の過程を撮影録画されるのは窮屈で議論しにくい」と同調した。
遺族の代表であるはずの美谷島委員も、「映像は一部切り取られて、決して遺族を守るものではない」と発言した。
私は、映像メディアではないものの、このやりとりに少し違和感を抱いた。
3
大川小の報道についても、どの部分をどう伝えていくかについては、私たちメディアの側も遺族たちと真剣に向き合う中で、さんざん悩みながら、みんなで積み上げてきたものだ。
今回の検証委員会の議論を「公開」で行うことは、遺族とのやりとりだけでなく、そもそも石巻市議会が検証委員会委託費を同市の予算で通すときに交わした条件であり、石巻市民との約束事でもある。
2年近く経って、その“付託”を背負って委員に就いた人たちが、これまでの経緯を知る努力をすることもなく、「勝手にユーチューブに流される」などと、自らの発言が可視化されることへの不安を一方的にまくし立て、メディア側の規範のみを問題視した。
もちろんメディア側は、これまでの市教委の説明会などでも、個人情報が出れば、当該箇所を伏せるなどの配慮をしてきたし、今後も配慮し続けていかなければいけない。
しかし、こうした検証の議論の過程で発言が変わっていったりするのは、人間として自然なことだろう。世界も注目する公的な委員を引き受けられた以上は、委員たちの一言一句の展開に、オープンな場でリスクマネジメントが問われていくのは当然の話である。
ある委員は「私が用意した資料も、まだ最初の段階の考えで変わっていく可能性がある。報道されることに不安。報道関係には十分注意を…」などと映像メディア批判に“便乗”した。実際には、資料は配布されたものの、公的な立場としての自覚が問われる発言だ。
室崎委員長は、「報道関係と相互の信頼関係ができたときに許可することはできると思う。今日に関しては頭撮りだけで、報道から『こういう取り扱いします』という文書を出していただき、妥当なものだと判断したときに、許可することでどうか」と議論を引き取った。この後、委員長の指示で、カメラは退出を求められた。
まるで三文芝居でも見せられているかのように、のっけから委員たちのメディア批判が繰り広げられるという異様な展開に唖然とさせられた。
遺族が約2年間訴えてきた
「事後対応」も検証対象に
休憩をはさんで、「検証の方針、進め方など」についての議論に入った。
画期的だったのは、遺族が2年近くにわたって求めてきた「事後対応」も、検証の対象に含める方針が決まったことだ。
すでに事務局側のほうで、【要検討事項】として、
<①サバイバル・ファクター(生存可能性に関する要因)>
<②遺体捜索、事故に関する調査、ご遺族・保護者への説明など、関係当局として実施しなければならない各種対応>
についても「対象とするか」。対象とする場合は「どこまで取り扱うか」という資料が用意されていた。
事前に、事務局の社会安全研究所が、検証を求めてきたご遺族の意向を汲んで、検証に生かそうと反映させたものなのだろう。
4
美谷島委員が、こう口火を切った。
「被害者ならではの視点を大切にしてほしい。ご遺族の方々がいろいろと調査なさっている部分も含めて、この場でご遺族の方のお話も聞きたいと思う。事後対応をぜひ対象に入れてほしい」
佐藤健宗委員も、こう続けた。
「サバイバル・ファクターが重要なのは議論するまでもない。ご遺族ならではの視点、気づき、情報収集に真摯に学ぶべき。委員会の場に、ご遺族の何人かに来ていただいて、資料も提示していただきながら、しっかり聞く場を設けるべきだ」
さらに、同委員は<事故に関する調査>についても、「米国NTSB(国家運輸安全委員会)の事故調査報告書や、英国HMRI(鉄道監督局)の鉄道事故調査報告書を見てみると、事故直後の現場保全が適切だったかどうか。生資料が散逸しているか。当事者によって証拠資料の改ざんが行われたかという点が触れられていた」ことを説明し、こう踏み込んだ。
「我々が生資料を参照できなかったことが影響あるかどうかも考えながら、事故直後の対応が徹底的な事実究明や再発防止に悪い影響があった、という結論が出るかもしれない」
事後対応のうち、①及び、②の<事故に関する調査>の対応について、検証対象に入れるべきとの意見が出た。
これに対し、芳賀委員は、「教育委員会による教員や児童に対する聞き取り調査への不満、問題点について、直接批判的に述べることはしなくていい」と指摘。事後対応のあり方についても、
「非常に乱暴な聞き取りが行われた可能性がある。様々な事件事故が起きたとき、今後こういうことに配慮して、できるだけ速やかに十分な配慮をもって聞き取りが行われるような仕組みや体制が必要である」
などと、遺族の求めてきた教育委員会に対する問題究明とは別の方向性から必要性を語った。
一方、佐藤美砂調査委員は、事後対応について「必要に応じて検討する進め方でよい」としながらも、<事故に関する調査>について、「他の機関で行った調査を、この委員会でどうこうするのはいかがかと思う。遺体捜索(の対応)も、ここでテーマにする話ではない」と懸念も示した。
翠川調査委員は、「『いつどこでご遺体が発見されたのか?』は結果として、『どういう被害に遭ったのか』の解明につながる。事後対応も避けて通れない。全体を把握するためには避けられない」と強調した。
こうして、震災後の学校や教育委員会の「事後対応」についても、必要に応じて検証対象に含まれる方向で合意した。