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サン・セバスティアンのバルはしご!


タパスも店内の雰囲気も好きなタイプだったGandarias


70年代から80年代にかけ、バスク人のシェフらによって開発された「新バスク料理(ヌエバ・コシナ・バスカNueva Cocina Vasca)」の成功は、バスクの名をあらためて有名にした。

伝統的料理に基づいた「新バスク料理」はまたの回にするとして、今日はもうひとつの食の雄、バル巡りの話を。


バルといえばピンチョス、ピンチョス(ピンチョスはスライスしたパンの上におつまみを乗せたスタイル、タパスはおつまみ風前菜という区別があるらしい)といえばバル。
サン・セバスティアンの旧市街と新市街、合わせて一体何軒のバルがあり、何種類のピンチョスを提供しているのだろう...どの店も個性的で、できることなら全部回りたいくらい。

ただ、意外に夜が早く、23時くらいには店じまいを始めるので、1日目は3軒(4軒目は気に入った1軒目に戻った)しか回れなかった。




ウニのグラタン、大皿のハモン・イベリコ、ハモンのクロケット、フォワグラ、干しタラのクロケット、鴨肉とマンゴーとガスパッチョ類のソース(上の写真。友達の一番のお気に入り)、スープに入った麺...

後悔は、食べるのとしゃべるのに夢中で写真がほとんどないこと(笑)。
タコ、食べ損ねた...


こちらはホテルのバアで飲んだチャコリ。男前のウェイター氏がエスカンシアールという手法で注いでくれる。


そして何より大ファンになった地酒チャコリ。
チャコリはマスカット種の葡萄から作る(微発泡性と聞いていたが、どこで飲んだのも発泡していなかった)、キリキリに冷やして飲む低アルコールの白ワイン。

りんごから作るシードラを注ぐのと同じように、チャコリもエスカンシアールという手法で注ぐ。この落差でお酒が空気に触れ、香りと泡が立つそう。
とてもドライで軽く、食欲を増進させ、食べ物の味が活きる。うっかり飲みすぎてしまう...でも翌日には残りませんでしたよ。


Bar Martinezで注文したシードラ。こちらはハモンが超絶的においしかった


シードラは、フランスのシードルとはまた違い、「りんご焼酎?」といった感じでわたしは全部飲めなかった。
風味は非常に良いので料理に使ってみたいなあ。


......


早朝はコーヒーの香りと共に


バスク地方の料理が非常に豊かなのは、その地理によるところも大きいのだろう。

ビスケー湾(大西洋)とピレネー山脈の海と山の幸。
そしてエブロ川の渓谷が大地を肥沃に潤すという。

そういえばヘミングウェイの短編『白い象のような山並み』の冒頭部分はエブロ渓谷を舞台にしている。
それを妙によく覚えているのは、ヘミングウェイが短編の名手であるということを証明(?)した本だった(他に「新生児用の靴売ります」というのも引用されていたな。あの本は何だったろう)。

ああ、話が逸れていく...


なんておいしそう


バスク地方は、現代の国境ではフランスとスペインの国境をまたいでいる。

ネアンデルタール人や先住民、紀元前7世紀に移動してきた古代のケルト民族、古代ローマからの入植...などは古すぎるとしても(笑)、北からヴァイキングが船を操って入って来ていたそうだ。
以下はわたしの想像だが、ビスケー湾の北は英国島であるからして往来はあっただろうし、地中海を渡って北アフリカや中近東からも人は訪れていたに違いない。

ディアスポラのユダヤ人が新しい技術を携えて入り(玉木俊明著『迫害された移民の経済誌』という超おもしろい本を今読んでいるところ)、大航海時代を先駆けたスペインには新世界からじゃがいもや唐辛子、チョコレートなどももたらされた。

文化のハイブリッドの地に美味いものあり、である。

海と山に囲まれたサン・セバスティアン
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ビスケー湾の真珠 サン・セバスティアンを歩けば




ビルバオから左手に海を見つつ、ピレネー山脈の緑豊かな裾を東へ。
車を駆けること1時間10分。

「ビスケー湾の真珠」と枕詞に謳われる入江の街、サン・セバスティアンに到着する。
サン・セバスティアンはバスク語でドノスティアという。

ここまで来たらフランス国境までは23キロ20分ほど。ビアリッツまでは40分程度だ。




この地域は乾燥したイベリア半島のうちでも比較的雨の多い地域だそうだが、同行したブルージュ時代からの友人もわたしも晴れ女なので(笑)快晴に恵まれた。

海岸線に建つホテルにチェックインしてベランダの扉を開けたら、日焼けにいそしみ、海水浴を楽しむ人々が...




バスク文化は言語からしてスペイン語とは全然違う。
能天気な外国人観光客としては、近現代の裏側にあるその神秘性や多層な豊かさにいちいち感動してしまう。
わたしは世界の文化が一色に塗りつぶされてしまうのは大反対なので、イベリア半島の多文化にはとても興味がある。それがナショナリズムと紙一重であるとはいえども。

次回はもっと勉強してから行こうと思う。
これまではラヴェル(フランス系)とティアーズ・フォー・フィアーズのローランド・オーザバル(英国系)、デザイナーのバレンシアガ、マゼラン船団に加わって世界一周したエルカーノ、シェフのベラサテギ...くらいしか知らなかったから。




そういうわけで、サン・セバスティアンでは、今回は食が目当てだったと言っても過言ではない。

チャコリ
シードラ
ピンチョス
バスク・チーズケーキ
バスクの食文化を一躍有名にしたミシュラン三ツ星を冠するレストラン群...

わたしはとにかく美味しいものが好き、食に対する好奇心も強く、ローカルなものはなんでも試したい。無芸大食で胃腸も丈夫(笑)。

時間と満腹中枢が許す限りバルをホッピングし、ピンチョスを試した。


意外に夜が早かった(23時には店じまいを始める)ものの、いろいろなところでとても親切にしてもらい、海辺を散策しつつ、ゲラゲラ笑いながらホテルに戻り、部屋で午前2時くらいまで喋っていたのも良い思い出。




友人はクレアやフィガロの旅行雑誌でいろいろ情報を収集してくれ、老眼のわたしに代わって地図を読んでナビをしてくれ、交代で運転してくれ、夜遅くまでつきあってくれた。


どうです、あなたもモエと一緒に旅行がしたくなってきたでしょう(笑)

わたしは協調性には欠けるが、サバイバル能力はあり、物欲しそうな顔つきをしているのだろうか、なぜかよく「ご馳走になる」(笑)。
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美食とアートのスペイン・バスク



ゲイリーの建築とブルジョワの『ママン』



長らくご無沙汰いたしました。
みなさま、わたくしのことお忘れでは。


在ベルギーの友人とスペイン・ビルバオ空港で待ち合わせし、二人三脚、バスク地方をレンタカーで旅した。


何から書きとめようか。

バスクの美食、緑のピレネー山脈と青い大西洋のビスケー湾、バレンシアガの故郷、そしてビルバオの名前を一躍有名にした現代アート...



この日が一番暑く、35度。


バスク地方を訪れる動機となった、97年に完成したビルバオ・グッゲンハイム美術館から始めよう。

神戸のフィッシュ・ダンスを最初のきっかけとして大ファンになったフランク・ゲーリーの建築。

ガラス、チタニウム、石灰岩でできた建物は、どの角度から見ても壮大で形がおもしろく、とても絵になる。

工業都市として栄えたこの土地の地面からにょきにょきと生えて来たかのようだ。





セラのThe Matter of Timeは、ケーキの上に乗ったチョコレート・コポー(削ぎチョコ)のようで、まるで自分が小人になってチョコレートの壁の間を歩いているよう。

大っ好き、この作品。世界で一番好きなインスタレーションかもしれない。




4.3メートルの高さのスチール製、8つから構成されている。

しかも美術館内のこの空間はFish Gallery「魚のギャラリー」と呼ばれる。




そして大大大好きなロスコー作品も。

有限と無限、瞑想と祈り。
あるいはバスクの夕焼けに照らさる大地のよう。
この部屋で1時間半も過ごしたため、レストランの予約までに他に何も見られなかったくらいだった。

続きます。
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swan lake – special performance for ukraine



写真はROHから拝借。
これぞ百花繚乱。モエ的極楽。ずっと見ていたい。



待ちに待った、ロイヤルバレエによる『白鳥の湖』ウクライナのための特別パフォーマンスSwan Lake – Special Performance for Ukraineを鑑賞した。
特別な趣向を含め、どなたの演技も高貴で素晴らしかった。

...いや、こう言いながらも非常に複雑である。
チャリティとはいえ、わたしは三度の飯よりも好きなバレエを鑑賞するのを楽しみにしていたし、歓喜にわれとこの世を一瞬忘れ、豊かな気持ちになった...からだ。本来なら戦争被害支援のこんな催しはないに越したことはないのに。

しかも、開演前に独善的なひとくさりがあるたびに思う。

ウクライナを支援するのは真っ当だ。

そうは思うが、ではシリアは? パレスチナは? ミャンマーは? という気持ちになる。
もちろん、他の国や難民を支援できないなら、ウクライナの支援をやめろと言っているのではない。

ただ、ロシアを西側諸国の都合ではなく、国連憲章と国際法においてのみ批判する、という態度を保持するのは大切だと思う。

民主主義だの人権だの自由だのを持ち出したくなる気持ちは分かる。わたしもその価値は何より大切だと思っている。
しかしそれらにしても絶対的なものではなく、「ひとつの価値」にしかすぎない。価値と価値の衝突が戦争を招くのである。そしてそれを双方が言い出すと歩み寄りはない。

戦後、国際社会は、言語も、習慣も、考え方も異なる、理解を絶した異質な他人同士が共存共栄するため、現状の国境線を武力では変更しないというルールを作った。
きれいごと、かもしれない。しかしそれを守らないことには、異質な他人は殲滅するまで叩き潰す、という状況に陥ってしまう。

ロシアはその点において非難されるべきである。


美しきロイヤル・オペラ・ハウス。
カーテンコールではプロセニアム・アーチ(舞台の額縁に当たる部分)がウクライナ国旗色に彩られた。
拍手するのに忙しかったのでこの写真は幕間のもの。



さて、今回の特別版の『白鳥の湖』は、最初、「4人の女性プリンシパルがオデット・オディールを交代で踊り、ジークフリード王子はVadim Muntagirovが務める」と告知された。

それでわたくしは妄想も逞しく、この世ならぬ者のオデットとオディールには多層的な性格が備わってるゆえ、個性の違う女性プリンシパルが入れ替わり幻のように登場し、王子を翻弄し、混乱させ、間違った判断(オデットとの約束にもかかわらずオディールを選んでしまう)をさせてしまうというような演出を想像し、ほくそ笑んでは盛り上がっていたのだった...

モエのこのカラフルな妄想に比較して、演出はごく平常通りであり、単にシーンごとにプリンシパルが変わる、という率直なものだった。
つまり
第一場 Lauren Cuthbertson, Matthew Ball
第二場 Sarah Lamb, William Bracewell
第三場 Marianela Nunez, Vadim Muntagirov
第四場 Natalia Osipova, Reece Clarke




が、だからといって、魅力が減ったというわけでは全くない。
特に第三場の花嫁選びの舞踏会シーンにオディールが現れ、王子を誘惑するシーン(Marianela Nunez, Vadim Muntagirov)の完璧な魔法のような絢爛さ。
第四場で王子に裏切られたオデットの絶望と悲嘆を、腕の動きで物語るNatalia Osipovaの迫真。

他にも、ジークフリード王子の母親である女王も、ロットバルトも、王子の友人ベンノ、王子の妹2人も、さらに指揮者も...ダブルキャストだった。

そうだ、一幕目で全部かっさらっていったのは王子の友人ベンノ役のJoonhyuk Jun。     
跳躍の夢のような美しさも、立ち姿の美しさもさることながら、役柄をよく理解しているのではと感じた。

オーケストラは...珍しくテンポが非常に不安定で残念だった。


Marianela NunezやLauren Cuthbertsonのインスタにも当夜の写真がたくさんアップされていて、何度も見てしまう...
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不思議な不思議な...桃のタルト




わたしの英国内での行動範囲はロンドンとロンドンから南部の地方に限られるのだが、この辺りはすっかり新型コロナ禍前に戻っていると言っていいだろう。

周りが正常化されるとわたし自身の生活も正常化される。
というわけでこのところは多忙で、ケーキのひとつも作っていなかった。

今日は金曜日(金曜日ってウキウキするよね)。
小鳥がさえずり、緑が爆発し、惜しみなく花を咲かせる5月の綺麗な光のもと、買い置きの桃の缶詰で桃のタルトを作った。

桃の缶詰は、わたしが発熱した時の非常食。しかし馬鹿は風邪もひかないのでめったに食べることもない...

ベースは砂糖をできるだけ控えたアーモンドクリームとローズマリー風味のカスタードクリーム。
紫の小さい花もローズマリーの花。今、庭で満開で、働き蜂のお気に入りである。

一日寝かせると味が馴染むので、明日土曜日の朝ご飯に食べよう。


昨日BBCのニュースによると地球温暖化で鳥の産卵・孵化の時期が3週間も早まり、ブルーベルの開花なども早まっているそうである。





昨日は他にも盛りだくさんだった。

英国統一地方選挙で与党保守党が苦戦している模様。実は夫の部下が保守党から立候補している。

保守党には最近ほとほとあきれている。
エネルギー価格の上昇(50パーセントですよ、50パーセント!!)に伴って、暖房が使えない家庭に「セーターをもう一枚着ろ」だとか、食料品が思うように買えない家庭に対して「スーパーの自社ブランドを買え」と公共放送で発言するようなズレた人たち(が少なくない)なのである。

パンがないならお菓子を食べたらいいじゃない、まさにあれである。
あるいは庶民にはパンとサーカスを与えて生かさず殺さず、である。
そんなズレズレのわたしでもできるようなアドヴァイスではなく、政治家には政治的な解決をしてほしい。

ボリス・ジョンソン首相にいたっては、「暖房が入れられないので、高齢者パスを使って一日バスの中で過ごしているご老人」をどう思うかとジャーナリストに質問されて「パスを導入したのはロンドン市長時代の私だ」と鼻高々に言い放った。しかも導入したのはジョンソン首相ではない、というオチも。

一方、BPやシェルなどのエネルギー大企業は空前絶後の収益を上げた。

イングランド銀行はインフレ抑制のため金利を1%に引き上げ。

思うように賃金は上がらず、消費は冷え込み、今後は現在のインフレ率9パーセントをはるかに超えるだろう。


また、岸田首相がロンドンで演説し、英国との防衛パートナーシップ協定に合意、原発の活用を約束、「岸田に投資して」とお願い...また同じその路線。
日本のニュースを見たら「岸田に投資」「所得倍増計画=資産倍増計画」(<ただし富裕層だけ)という華やかな部分しか(まだ?)取り上げられていない模様。これはいったいどういうことなのだろう。

報道の自由度 日本は世界71位 日本は「政権がマスコミやスポンサー企業と癒着して、政権にとって都合の悪いことは報じらていない」(こちらも昨日のニュース)

こういうことなのだろうか。

明るい5月の光とは大違いの世の中である。
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