遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(497) 小説 希望(21) 他 人生の時

2024-05-12 12:00:34 | 小説

             人生の時(2024.5.4日作)


 
 日々 日毎 かつて眼に 耳に 馴染んだ
 あの人 この人の 訃報が報じられる
 今日この頃 自身の島の
 削り取られて行くかの如き 寂しさ 心細さ
 日々 日毎 過ぎて行く時間 人生の時
 眼前に広がり 見えて来るものは
 深い谷間 死の断崖
 今の時を彩る色彩は 最早 無い
 時を彩る色彩は 無い
 それならせめて
 自身の豊かに生きたあの頃 
 若かりし頃の思い出
 懐かしく 彩り豊かだった日々の
 思い出を胸に その
 思い出と共に 日々 日毎
 削り取られて行く 人生の時
 今という時の糧として 今は唯
 思い出の中に生きて行く 
 思い出のみを抱き締め 見詰めて 日々 日毎
 失われて行く色彩の中 この人生の時を染め
 生きて行こう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(21)





「それはまた、別に相談するよ」
 北川は言った。
 修二はだが、その時には、ふと湧き上がった怒りの感情に対する冷静さを取り戻していた。
「とにかく、俺はそんな事したくないよ。何かあって店に迷惑を掛けたりしたくないから」
 と、きっぱりとした口調で言った。
 頭に浮かんだのはやはりマスターの存在だった。
 日頃、穏やかに暮らしてゆけるのもマスターの心遣いがあるからだーー感謝の思いが修二の心には根強くあった。
 そのマスターに迷惑だけは掛けたくなかった。
 北川は修二の言葉を聞くと、微かな期待が裏切られたかの様に苛立ちを滲ませて荒い口調で言った。
「チェッ、お前(め)えも話しが分かんねえなあ。俺達はクロちゃんがあんな事になったんで、仕返(けえ)しをして遣りてえんだよお。奴等のボスをなんとしてでも痛め付けてやんねえ事には気が収まらねえんだ。お前えにもその気持ちは分かんだろう」
 無論、その気持ちの分からない事は無かった。それでも修二は静かに、
「でも、おれはチームに入ってないし」
 と言った。
「だけっど、クロちゃんは知ってんだろうよ。クロちゃんのお袋さんが可哀そうだと思わねえのか」
 責める様に北川は言った。
 何んで、お袋さんまで持ち出さなければならないんだ、修二はそう思いながらも黙っていた。
「俺達もいろいろ、チームの連中に当たってんだけっど、これはと思う奴等はみんな面(つら)を知られちゃってんだよ。その点、お前えなら面(めん)も割れてねえし、考(かんげ)えて置いて貰いてえんだよ」
 北川は言った。
 その夜はそれで話しは終わった。
 北川が切る前に修二は受話器を置いた。
 あい奴の遣り方は何時も強引だ、と腹を立てていた。
 階段を上がって部屋へ戻ると、風呂へ行くのも面倒臭くなって隅にある布団を引っ張り出して広げた。
 パジャマに着替えると、そのまま布団の上に転がった
 裸雑誌を開いて見る気にもなれないままに天井を見詰めていると、クロちゃんのお袋さんが可哀想だと思わねえか、と言った北川の言葉が思い出された。
 クロさんは病気で痩せ細ったお袋さんの事を思いながら、死んでいったんだろうかーー 。
 口が重く、髪をモヒカン刈りにして一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二の心の中では奇妙に懐かしく思い出された。
 たった二言三言、言葉を交わしただけで、じゃあな、有難う、と言ってオートバイの音と共に夜の中に消えて行ったクロちゃんの姿が郷愁を誘った。
「あのお袋さんはどうしているんだろう・・・」
 修二は口に出して言った。
 誰かが面倒をみているのだろうか ?
 だが、修二が心配しても始まらない事だった。
 自分が生きる事だけで修二には精一杯だった。

 北川は一週間が過ぎても何も言って来なかった。
 女将さんの嫌がらせは相変わらず続いていた。
  それでも以前程、露骨ではなくなった。
 時折り、修二の腕や脇腹をつねったりして修二を驚かせた。
 鈴ちゃんはそれを眼にして笑いを堪え、修二に流し目を送った。
 修二は腹を立てて鈴ちゃんを睨み返した。
 女将さんが再び、修二の部屋を訪ねて来たのは、そうした日々の中での夜の事だった。
「修ちゃん、修ちゃん」
 表通りから呼ぶ声がした。
 修二が女将さんの声だと気付いて二階の窓から顔を出すと、
「開けて入るわよ」
 と女将さんは言った。
「何か用ですか」
 返事をしながら修二は嫌悪感に捉われた。
 何しに来やがったんだ !
 女将さんを受け入れる気持ちは無かった。
 修二が顔を引っ込め、窓を閉めると鎧戸の引き上げられる音がした。
 修二は部屋を出て階段の上に立った。
 女将さんの姿が下に見えた。
 女将さんはすぐに階段を上がって来た。
 この前と同じ様に薄化粧をしていた。
 身体に密着した薄い桜色のセーターを着ていて、黒いタイトスカートを穿いていた。
 胸の隆起がセーターを膨らませているのが修二の視線を戸惑わせた。
 その隆起が嫌がらせと共に自分の身体に押し付けられた時の感触が蘇った。
 女将さんは何かの入ったスーパーマーケットの青いビニール袋を手にしていた。
 階段を上がって来て修二の前に立つと、
「長野県に居るお友達がリンゴを送って来てくれたから、持って来て上げたのよ」
 女将さんは言って、袋の中を見せ、そのまま部屋へ入った。
 日頃の不機嫌さを感じさせない打ち解けた口調だった。
 修二は女将さんの突然の変身に戸惑った。
「何をぼんやり立ってるのよ。これ、四個あるから食べなさい」
 女将さんはまだ廊下に立っていた修二に言って袋を差し出した。
 修二はようやく部屋へ入って戸惑いながら「すいません」と言って受け取った。
「バカ、何をうろうろしてんのよ。もう、あんたなんか口説かないから心配しなくたって大丈夫よ」
 女将さんは笑いながら言った。
 修二は黙ったまま小さく頭を下げた。
「どお ? 何か、一人で困った事は無い。もし、有ったら言いなさい。遣って上げるから」
 部屋の中を見廻しながら女将さんは言った。
「はい」
 修二は短く答えた。
「相変わらず、あんな雑誌を見てるんでしょう」
 女将さんは散らかった雑誌に眼を移しながら、なんとなく媚びを含んだ様な眼差しで修二を見詰めて言った。
 修二は顔を赤くして黙っていた。
「全く、融通が利かないんだから」
 柔らかな甘さを含んだ口調で女将さんは言った。
「心配しなくたって大丈夫なのに」
 修二は改めて女将さんが迫って来る様な気がしてなんとなく身を引いた。
 女将さんはそんな修二に気付いて、
「修ちゃんって、臆病なのね」
 と、笑みを含んだ声で言ったが、その顔がなんとなく引き攣っている様にも見えた。
 修二は黙ったまま俯いていた。
 女将さんはそれで気持ちを切り替えた様に、
「わたしはもう帰るけど、悪戯なんかしていないで早く寝なさい」
 と、言って、何事も無いかの様に部屋を出るとそのまま階段を降りて行った。
 修二は鎧戸の降りる音がして、女将さんが帰ったと知ると猛烈な腹立たしさに捉われた。
 なんとなく、自分が弄ばれている様な気がして来て女将さんへの新たな腹立たしさを覚えた。
「何が、リンゴを持って来てやったなんだ ! クソ婆が」
 怒りに捉われたまま女将さんが持って来たリンゴを袋ごと、傍にあった汚れた紙屑などの入ったごみ箱に投げ込んだ。
 翌日、女将さんは人が変わった様に修二に優しかった。
「おはよう、修ちゃん」
 と言った挨拶の言葉にも棘は無くて柔らかかった。
 修二はだが、そんな女将さんの変身にまた、嫌な思いを抱いて気持ちが落ち着かなかった。
 鈴ちゃんは女将さんの変身には逸早く気付いていた。
「この頃、女将さん随分、修ちゃんに優しいね」
 と、数日後にはからかい半分の冗談を言った。
「知らないよ、そんな事」
 修二はムキになって言い返した。
「女将さんと出来たの  ?」
「知らないってば ! 煩いな」
 修二は言った。
「そうやって怒るところを見ると、かえって怪しいわよ」 
 鈴ちゃんは相変わらずからかい半分で言った。
「チェッ、何んにもある訳ないだろう.色気違い !」 
 修二は捨て台詞を残して鈴ちゃんの傍を離れた。

 修二の予感は的中した。
 女将さんは何かに付け、頻繁に修二の生活に係わって来た。
 頻りに果物や菓子などを差し入れてくれた。
 時には下着のシャツなどを買って来てくれたりした。
 修二に掛ける声からも以前のとげとげしさが無くなっていた。
 修二は必然的に鈴ちゃんの眼を気にしないではいられなかった。
 なんと言って揶揄われるか分からない。
 自分にその気が無いのに揶揄われるのは割に合わない気がした。
 修二には、一日の内に自分一人で気ままに過ごせる夜の時間さえあればそれで良かった。
 生身の女など必要なかった。
 人間の持つ煩わしさだけが修二には思われた。
 雑誌に見る裸の女達は何時も修二に優しかった。
 修二が見詰めれば何時も優しい微笑みを返してくれた。
 彼女達が修二の心を傷付ける事はなかった。
 修二を蔑み、嘲(あざけ)り笑う者もなかった。
 夜毎、修二は好みの女達と心のままに遊ぶ事が出来た。
 時として修二は、あまりに執拗に思える女将さんの親切に、「いい加減にしてくれ !」と叫びたくなる事もあった。
 それでもさすがにその言葉は口に出来ずに、不満の表情だけが顔に現れたりした。すると女将さんは、
「何よ、人がせっかく親切にして遣っているのに、少しも嬉しくないみたいね」
 と腹立たし気に言った。
 修二に取ってはだが、女将さんのその親切が迷惑だった。
 第一に鈴ちゃんの眼が気になったし、自ずとマスターの眼も意識せずにはいられなかった。
 マスターは依然として、修二が此処に来た時のままに親切で優しかった。
 それでも鈴ちゃんの眼に付く事が、マスターの眼に届かないはずが無いと思うと気持ちは休まらなかった。
 何時だったか、鈴ちゃんが言った様にマスターはやっぱり身体が駄目で、それで女将さんの行動を知っていても、眼をつつぶっているのだろうか、と思ったりした。


            六


 クロちゃんの四十九日の翌日、北川が久し振りに<味楽亭>に顔を見せた。





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様



                有難う御座います
               チングルマ 羽毛状 初めて見ました
               紅葉も美しい チガヤは懐かしいですね
                カロライナジャスミン 初めて知りました
               花付きの様子がハゴロモジャスミンと同じです
               その白い花も今では茶色に・・・中に残る数少ない花が
               それでも未だに強い香りを放っています
               また一つの季節が過ぎた そんな感覚です
                栴檀の花は子供の頃を蘇らせてくれます
               門の所の二本の栴檀がいっぱいに花を付け
               実を稔らせた事を思い出します
               冬になるとシギが来て甲高い声で鳴きながら
               黄色くなった実を啄んでいました 懐かしい思い出です
                キジ 来ましたね なんだかこれも奇妙に懐かしい気持ちで拝見しました
               美しい鳥です 国鳥ですよね 訳もなく不思議に誇らしい気分になります
               やはり その美しさのせいでしょうか
                蕗 我が家でも収穫 手間を掛けて煮ました
               昨年も 書いたと思いますが わたくしはこの葉が好きです ちょっと苦みがあって               
               みんなは嫌いますが
               タマネギ 小松菜 今年は高い ! 全般に野菜が高いです
               大腸ガン経験者として日頃 多くの野菜を採るようにしていますので
               二倍にも近い値上がりは年金生活者には思わぬ負担です
               それなりの労力を必要とするとはいえ 気ままに新鮮な作物を収穫出来る
               生活を羨ましく思います
                今回も美しい花々 春爛漫の気分です
               有難う御座いました        





遺す言葉(496) 小説 希望(20) 他 惑わされるな

2024-05-05 11:47:35 | 小説
             惑わされる(2024.4.29日作)


 虚名に惑わされるな
 この人間社会 人の世は 日々
 名も知れない隠れた場所でそれぞれが
 それぞれの道に於いて 地道に 真摯な作業を続け
 より良いもの 今より更に良いもの と
 たゆまぬ努力を続けている 平生
 人の眼に触れる事の無い場所で生きる人々の
 たゆまぬ努力によって 形成 形造られている
 農業 漁業 林業 工業 商業 運輸 建設 事務
 あの職業 この職種 そこに携わる名も知れぬ
 数多くの人々 その人達が積み上げ 積み重ね
 築いて来た人間社会 日常 この世界
 日頃 ペラペラ ペラペラ 自慢気に喋る事は無い
 寡黙 質実 堅固 揺らぎのない人々
 虚名に惑わされるな お喋り好きな人間達
 如何にも物知り顔 得々としてこの世を語り 社会を語り
 世界を展望して見せる物知り顔の知識人 ? 
 言葉だけの人間達 実行力の伴わない顔を売るだけ
 そんな人間達の 虚名に惑わされるな
 その者達への過大な評価 価値付けで 人の道
 真の 人としての道を歩む 日々 日頃 人の眼に触れる事の無い 
 隠れた場所で 自身の道を真摯に生きる その人達の
 立派な姿 尊い姿を見誤り 見落とすな
 人の価値 人の値打ちは 著名 無名 それだけでは計れない
 実行力 実践力 その人 一人が何を為し 何を成し得たか
 人の値打ち 人の価値は総て そこに集約される




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               希望(20)



 

 修二はその依頼まで断る事が出来なくて、すぐに押し入れに行って鞄からナイフを取り出した。 
 ずしりとした重みが久し振りに見るナイフに手応えを与えた。
 マスターの店で働くのと共に忘れていた感触だった。
 穏やかな満ち足りた日常の中では必要とする事の無いものだった。
 それが無くても済む日が続いていた。
 母親が来た時も、高木ナナに裏切られた時も、怒りや苦悩、哀しみに捉われる事はあっても、日常の生活がそれで脅かされる事は無かった。ナイフに必要性を感じる事も無かったのだ。
 北川は修二が手にしたナイフを受け取ると得意気に、掌の上で二、三度小さく弾ませた。
「いいナイフだろう」
 さも自慢気に自分の持ち物でもあるかの様に仲間達に言った。
「格好良いナイフだなあ !」
 小柄な男が言った。
「飛び出しなんだ」
 北川はボタンを押した。
 小さく鋭い、乾いた音を立てて瞬時に刃(やいば)が飛び出した。
「おう、凄えや !」
 男達の誰もが言った。
「これを借りていって、俺達で遣るか ?」
 北川が言った。
「いや、俺達じゃ拙いよ。面(めん)が割れちゃってるから」
 頬に傷のある男が否定的な面持ちと共に言った。
「扮装して行くんだよ」
 北川が言った。
「いやぁ・・・・」
 頬に傷のある男は気乗りのしない様子で言った。
「誰か、面の割れてねえ下っ端に遣らせたらどうだ ?」
 頭を丸刈りにした瘦せ型の男が言った。
「腹の座った奴が居ればいいけどなあ」
 北川が言った。
「一人ぐれえは居っだろう」
 丸刈りの男が言った。
「どうかなあ」
 鳥越が言った。
「口の堅え奴じゃねえと拙いよ。ペラペラ喋られたんじゃあ、目も当てられねえかんなあ」
 小柄な男が言った。
「そうだよ」
 鳥越が言った。
 修二は黙って聞いていた。
 自分には一切関係ない、他人事に思えた。
 ナイフの刃を収めると北川は修二にナイフを返した。
 男達はそれから一時間程、あれこれ話し合って結論の出ないままに帰って行った。
 北川は帰り際、修二の肩に手を置いて、
「な、修二、考えておいてくれよ。お前(め)えなら度胸も据わってるし、動きも速えからよう」
 と、如何にも親し気にまた言った。
 修二は返事をしなかった。
 男達が帰った後、修二は畳の上に寝転がった。
 頭の下に両手を組んで天井を見詰めたまま、
「チェッ、バカにしてやがる。人をなんだと思ってやがんだ  ! 手めえ達の道具じゃねえや」
 腹立たしさと共に声に出して言っていた。
  一日のうちの最も大切な自分一人の時間を台無しにされた事への怒りと共に、その依頼の話しにもならない愚劣さにも怒っていた。
 店の電話が鳴ったのは翌々日の夜だった。
 階段を駆け下りて行って受話器を取ると北川だった。
「どうだい、考えておいてくれたか」
 北川は馴れ馴れしい口調で穏やかに言った。
 修二は北川だと分かると途端に腹立たしさに捉われた。
 うっせえ 野郎だ !
 思わず口の中で呟いていた。
 それでも、極力、感情を抑えた声で、
「いや、駄目だよ。考えるも考えないも無いよ。そんな事、俺、出来ないよ」
 と、きっぱりと言った。
 北川は再び、修二を諭す様に、
「大丈夫たよ。お前えには一切、迷惑は掛けねえから。この前えも言った様に段取りは俺達がやっからさあ」
 と言った。
「でも、駄目だよ。もしもの事があって、店に迷惑を掛けてもいけなから」
 修二は言った。
 咄嗟に思い付いた本音だった。
 その思いと共にそのまま電話を切ってしまいたかった。
 北川はその前に言った。
「俺達も他の人間に当たってんだけっど、やっぱり、根性のあるいい奴がいねえんだよ。そっで、お前えに頼みてえんだ」
「俺だって、根性なんか無いよ」
 反発心と共に修二は言った。
「そんな事ねえってば ! 俺は<金正>の店先でちゃんと見てんだから」
 北川は言った
 北川が唯一の自分の弱点にに踏み込んで来た、と修二は思って一層の腹立たしさに捉われた。
 同時にもし、あの時の事を警察に喋られたら、と考えると焦りも覚えた。
 <金正>の店の者には顔も見られている・・・・・
 新たな恐怖が修二の胸の中を走り抜けた。
「今更、お前えがナイフをかっ払ったなんて警察に垂れ込む心算りはねえけっど、もう一回よく考げえてみてくれよ。この前(めえ)言った様に礼はすっからさあ」
 北川は言った。
 北川が最後の切り札を出して来た、という思いと共に修二は、湧き上がる怒りのままに強い口調で言っていた。
「じゃあ、幾らくれる ?」
 北川の小ずるい遣り方に対する反発の思いがあった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


               久し振りの御作品 何か懐かしい思いで拝見しました
              お身体の不調 無理をなさいません様にして下さい
               笑顔 面白いですね 笑顔の綺麗な人 醜い人
              笑顔の美醜はその人の持って生まれた天性のものだという気がします
              テレビ等でも笑顔の美しいアナウンサー そうでないアナウンサー
              様々です
              作った笑顔は見ていても何か 人に媚びて居るに様に見えて来て下品な感じです
              気持ちの良いものではありません
              美しい笑顔 矢張りその人の人柄 人格が表れるのではないでしょうか
               前回戴いたコメント 失礼だ とは思っていません
              唯 わたくしはこのブログに発表する文章は自分自身の思考の跡を記録して置きたい
              という思いでのみ書いているもので 他人様を教育 説教しようなどという気持ちは
              全くありません その為 週一回の発表に於いても
              スタッフの方々にお手を煩わせる事をお願いしても          
              お眼をお通し戴く方々への配慮は全くしていません
              故に退屈な文章になるとは思いますがお読み戴く方々を意識する事はありません
              そんな中 何時もお眼をお通し戴く事に感謝申し上げます
               お二人でランチ 小さな公園と流れ なんと素敵な風景ではないですか
              お幸せそうな御様子が眼に浮かびます どうぞ これからも良い人生の時を
              お過ごし下さい こちらは今 春本番真っ盛り花々の一番美しい季節です
              一年の中でも最も至福に満ちた季節だと思います
               退屈な物語 お読み戴き有難う御座います
              今回は短編(ショートストーリー)ではなく 長編(ノベル)になると思います
              完結までには少し時間が掛かる予定です
               コメント 有難う御座いました
              何時も有難う御座います



      

               takeziisan様


                溢れる花の季節 少し歩けばあちこちに咲き誇る
               様々な花 ブログ画面で拝見する様々な花を見ていると 
               それが現実でもあるかのように身に迫って来ます         
               折りしもハゴロモジャスミンが茶色の色彩を
               濃くしながらも最後の強烈な香りを家中いっぱいに満たしている中
               画面上の鮮やかな花々を拝見していますと それが匂っているかの様な錯覚に捉われます
               何時も楽しく拝見しております
                ニッコウキスゲー―禅庭花 初めて知りました
               尾瀬沼のニッコウキスゲ 一度は身を置いてみたいと思う風景ですが
               多分 もう行く機会は無いでしょう お子様との思い出
               いい思い出ですね
                垂れ下がった鯉のぼり 揺れる事もなく これはこれでまた可笑しく 面白く
               見事な風景ですね
                登山 今朝のニュースで遭難者の多い事を報じていました
               こういう所で足を滑らすのかなあ と思いながら画面を拝見していました
                イノシシとの奮戦記 失礼ですがイノシシにも頑張れ と
                声援を送りたい気持ちになります
                短いながら楽しい記事です
                何時も笑いと共に拝見しています
                それにしても土の状態が良くないですね
                こちらで眼にする畑の土の状態とは段違いに見えます
                この地方は恵まれているのかなあ などと思ったりしています
                 何時も楽しい記事 有難う御座います
                詰まらない文章にお眼をお通し戴く事と共に 御礼申し上げます







遺す言葉(495) 小説 希望(19) 他 禅の言葉 ほか

2024-04-28 12:08:04 | 小説
            幸せと辛い(2024.4.18日作)


 
   辛い という字は
   幸せ という字に
    一本足りない
   今が辛いのは 自分に何か一つ
   足りないからだ
   今の自分に後一つ 何かを一つ
   自分 独自のもの 一つを見付け
   加える そうすれば きっと
   辛い今も 幸せな今に
   変わるだろう



              禅の言葉           
            有るけど無い
 
   
   読書をするな
   考えろ
   考えるな
   行動しろ
   行動するな
   考えろ
   考えるな
   読書しろ
  



             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





              希望(19)



 
 祭壇の傍には親族が並んでいた。
 少ない親族の中でお袋さんらしい人はすぐに分かった。
 骨と皮ばかりと言ったふうに瘦せていて、まだ若いはずたったが七十歳にも近い年寄りに見えた。
 修二が焼香を済ませてマスターの車に戻ると北川が来ていた。
「チームの連中はみんな来るのか ?」
 マスターが聞いた。
「ええ、主だった連中はみんな来ますよ。サブ(副)がみんなに知らせて置いたから。ーーお袋さん居ましたか ?」
 北川が気懸りな様子でマスターに聞いた。
「お袋って言うのは知んねえけど、痩せた人が居たよ。ずっと泣きっ放しだった」
「お袋さんの顔を見るのが辛いですよ」
 北川は心底、辛そうに言った。
 翌日、クロちゃんの告別式が行われた。
 修二は<告別式 午前十一時より、午後十二時半まで>と書かれた看板を思い出しながらだんだん忙しくなる店の中で働いていた。
 たった一回、ほんの二言三言、言葉を交わしただけのクロちゃんの死が何故、こんなに心に絡んで来るのか不思議な気がした。
 ずっと泣き続けていて、息をするのも苦しそうに見えたお袋さんの姿が頭から離れなかった。
 クロさんは、あのお袋さんの事を心配しながら死んでいったんだろうか ?
 一瞬の出来事で、何も考える暇も無かったんだろうか・・・・ ?
 北川は告別式が済んだ翌日、午後十時過ぎにマスターの店に来た。
「昨日、警察が俺の所へ来ましたよ」
 疲れ切った顔でぼそりと言った。
「なんだって ?」
「いろいろ聞かれたけど、俺達の走りには関係ねえんで、そのまま帰って行ったですよ」
 北川にはクロちゃんの死が相当な痛手だったらしかった。
 クロちゃんが居なくなって<ブラックキャッツ>に対抗出来るだろうか ?
 不安そうだった。ほとんど無駄口を利かずにしきりにビールを呑んでは、思い出した様にイカの燻製を口に運んでいた。
 北川が午前零時過ぎに<味楽亭>の鎧戸を叩いたのは五日後だった。
 自分の名前を呼ぶ声に修二が二階の雨戸を開けて下を見ると北川が居た。
「開けてくれよ」
 修二の姿を見て北川が言った。
「なんか、用 ?」
 修二は、うるせえ奴だ、と思いながら聞いた。
 クロちゃんに抱いた親近感とは反対に何故か、北川には素直に溶け込めない思いがあった。
 修二が下へ降りて行き、鎧戸を開けると四人の男達が建物の陰に身を隠す様にして立っていた。
「ちょっと、部屋を貸してくれよ」
 北川が言った。
「部屋 ? 何すんの ?」
 不満を押し殺した声で修二は言った。
「相談してえ事があんだ、好いだろう ?」
 北川は何故か、厳しい口調で言った。
「別に構わないけど・・・・」
 不満を押し殺したまま修二は言った。
 四人の男達はその間にも早くも店の中に入っていた。
 北川は最後に入ると、
「シャッターを降ろしちゃってくれよ。人に見られると拙いんだ」
 と言った。
  修二は言われるままにシャッターを降ろした。
 男達は修二に構わず二階へ上がった。
 クロちゃんが来た時にも顔を見せた連中だった。
 部屋へ入ると男達は勝手知った様子で思い思いの場所に座った。
 誰もが無言だった。
 表情には緊張感が漂っていた。
 一番遅れて修二が部屋へ入ると北川がドアを閉めた。
「ちょっと、座ってくんねえか」
 北川が修二に言った。
「・・・なんか、用 ?」
 修二は立ったまま言った。
 男達の様子に警戒感を募らせた。
「実は、おめえに頼みてえ事があんだ」
 北川は立ったままでいる修二を見上げて言った。
 修二は無言でいたが少しの間を置いて、
「何を ?」
 と聞いた。
「おめえ、前に<金正>で盗んだナイフ、まだ持ってんだろう」
 修二の眼を見詰めて北川は言った。
「持ってるよ」
 修二は答えた。
「あのナイフ、使った事があんのか ?」
  穏やかな口調で北川は言った。
「いや、無いよ」
 質問自体が不満な様子で修二は答えた。
「使ってみてえと思わねえか ?」
 北川の眼差しが一瞬、厳しくなった。
「別に・・・・」
 嫌な予感を覚えながら修二は呟く様に言った。
「実はよう、おめえに頼みてえってのはよお」
 修二を見詰める北川の眼差しが一段と厳しくなっていた。
 その口調から修二は、ナイフを貸してくれと言うのかと思った。
「何 ?」
 とだけ短く答えた。
「他でもねんだけどよ、ある人間を傷め付けて貰いてえんだ」
「傷め付ける ?」
 修二は思わず聞き返した。
「うん」
 北川は厳しい表情のまま頷いた。
「俺が ?」
 修二は驚きと共に言った。
「うん」
 北川は修二の眼を見詰めてまた言った。
「駄目だよ、そんな事、出来る訳ないよ」
 思わず声を荒らげて言っていた。
 冗談もいい加減にしてくれ、という思いだった。
 北川はだが、真剣だった。眼差しが更に熱を帯びていた。
 他の男達は黙ったまま修二と北川の様子を見守っていた。
「俺達、クロちゃんの仕返(しけえ)しをしてえんだ。クロちゃんが死んで、このままにし置くと奴等ますますのさばって来やがっから、その前(めえ)に一度、こっぴどく傷め付けてやりてえんだよ」
「でも、駄目だよ。そんな事、出来ないよ」
 修二は断定的口調で言った。
「俺達も此処へ来る前にいろいろ考えたんだよ。だけっど、俺達はみんな警察にも相手の奴等にも面(めん)が割れてるんで、思うように動けねえんだよ。その点、おめえなら誰にも知られてねえし、遣り易いんじゃねえかと思って頼むんだ」
 北川は言った。
「でも、駄目だよ。他の事なら兎も角、そんな事出来ないよ」
 修二は言った。
「おめえに手間は掛けねえよ。段取りは一切、俺達でやっからさ、おめえはただ、ナイフを使ってくれさえすればいいんだ。おめえなら、度胸も据わってるし、動きも速えんで敢えて頼むんだよ。俺はおめえが<金正>でナイフを盗んた時の動きを見てるんで、そっで、みんなと相談したんだ」
「でも、駄目だよ」
 修二は呟く様に言った。
「兎に角、俺達にしてみれば、このままクロちゃんが遣られっ放しで放って置く訳にもいかねえんだ。それじゃあ、クロちゃんにも済まねえからよお」
 今まで黙っていた鳥越という男が初めて口を開いた。
「もし遣ってくれるんなら、それなりの礼はするよ」
 北川が言った。
 修二は黙っていた。
 疲れ切った思いだった。
「今すぐでなくていいからさ、二、三日考えてみてくんねえか。返事はまた聞きに来るよ」
 北川は言った。
 修二はやはり黙っていた。
 話しはそれで終わった。
 北川は一区切り付ける様に修二を見詰めて穏やかな口調で言った。
「ちょっと、ナイフを見せてくんねえか」
 そう言ってから仲間達の方を見て、
「凄えナイフなんだ」
 如何にも自慢気に言った。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様
            

               チム チム チェリー 思い出します 懐かしいですね
              ほのぼのとした思いで聞いた当時が蘇ります
               ビリー ヴォーン どれも良い曲です 若さに任せて
               繁華街の夜を彷徨い歩いていた当時が思い出されます
              それにしても 最近はこのように心に沁みる曲が聞かれません
              最も 普段 テレビを観ないせいかも知れませんが
              スイッチを入れれば下らない戯れ番組ばかりで観る気にもなれません
               アマリリス全開 我が家ではクンシラン全開です
              落ちた種をそのままにして置いた場所からまた芽が吹き
              何時の間にか幾つもの花の群れが出来て見事に咲き誇っています
              この季節の至福です
               ハゴロモジャスミンも今週は全開になり むせる様な甘い香りを放っています
              桜も若葉になっていよいよ春本番です
               イノシシ 相変わらず笑ってしまいます
              知恵比べ記事を拝見していて楽しくなります
               キヌサヤ 新鮮さがじか伝わって来ます 食味の良さがしのばれます
               川柳 実感出来るのは世代のせいだからでしょうか
              何時も楽しく拝見しています
               星取表 是非 頑張って下さい わたくしも
              身体は動かさなければ衰えるばかりだ と
              自分に言い聞かせ 毎朝の体操に励んでます
              お陰様で薬の厄介にもならず 至って元気な毎日を過ごしていますが
              年齢的衰えは如何ともしようがありません
              数年前を思い 日々 老化現象を実感する毎日です
              どうぞ 頑張って下さい 使わない肉体 頭脳は衰えるばかりです
               何時も有難う御座います









遺す言葉(494) 小説 希望(18) 他 死刑とその執行者

2024-04-21 12:00:45 | 小説
            死刑とその執行者(2024.4.12日作)



 死刑は犯罪被害者の立場からは
 もし その犯罪が現実社会の規範 規則に照らして
 正当なものである限り 実行されて然るべきもの
 犯罪被害者の被害に相当し得る刑罰を
 犯罪加害者に要求するのは 被害者としての
 当然の権利
 
 しかし 
 その刑を執行し得るのは 誰だろう

 人間社会が人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものなら 人の手で
 人の命を奪う死刑 その刑を実行する時
 死刑執行者が犯罪加害者と完全 絶対的に
 無縁であると言えるだろうか ?

 一見
 遠く離れた場所に居る人間は
 引き起こされた犯罪とは無縁に見える
 遠く離れた場所に居る人間には
 直接的に犯罪加害者に関わる事は出来ない
 犯罪加害者が引き起こした犯罪には
 手の施しようもなく 防止のしようも無い

 故に
 犯罪を引き起こした犯罪加害者との関り
 その責任を 遠く離れた場所に居る人間に
 問う事は出来ない

 至極 正当な意見であり
 正しい見方と言える

 だが 世上 引き起こされるあらゆる出来事は常に
 反面の見方 異なる角度からの検証も
 可能になる

 人間社会が 人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものと捉える時に
 死刑を執行する人間もまた
 人と人との繫がり 人との繫がり 人の輪の中に生きる
 一人の人間であり その立場から
 犯罪に対する間接的責任の皆無と言えるのか ?
 
 人と人との繫がり 人の輪が連綿と続いて この世界
 人の世を形成する限りに於いて
 繋いだ人の手の温もりは 何時か
 遠く離れた場所に居る誰かに伝わる
 犯罪加害者が かの地で繋ぐ手の温もりは 巡り巡って
 遠く離れた この地に居る 死刑執行者の手に伝わり
 届いて来る

 同じ人間同士 人と人との繫がり
 人の輪の中に生きる犯罪加害者と死刑執行者
 その死刑執行者が正義の名の下
 犯罪加害者の罪を断罪し 死刑を執行する事は
 執行者自らが 
 自身の行為に唾する行為にならないか ?
 
 同じ人の輪の中で手を繋ぐ人間同士
 一人の罪は万人の罪
 人と人との繫がり 繋いだ手と手の温もり
 その温もりを伝え合う人の輪 その輪は
 総ての行為は自身の身に舞い戻り
 降り掛かって来る事を 人 一人一人の心に
 問い掛けてはいないだろうか ?

 では 死刑に相当する犯罪者の罪は ?
 死刑に値する犯罪者に対する刑罰は ?
 永久的無期懲役
 死刑に値する罪を犯した犯罪者は生涯
 自身の生を生きる事は許されない 被害者とその家族への弁済
 終身的永久奉仕を続ける 続けなければならない
 犯罪者自身の生を生きる事は許されない
 被害者とその家族への絶対的従属 奉仕 生涯に渡って
 総ての行為を被害者とその家族に捧げ 自身の罪を償う
 自身の生への欲望 欲求は認められない
 犯罪被害者に代わり 被害者の生きたであろう生を生きる
 永久 永遠に嵌(は)められた足枷(あしかせ)
 恩赦は許されない
 ーー永久不変に許されない犯罪者自身の生
 永遠に嵌められた足枷
 死刑にも勝る過酷な刑とも言い得る





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               希望(18)





「マスター、昔はこの辺では有名な組の親分だったのよ。今では足を洗ってるけど、以前、出入りがあってその時に撃たれたんだって。それで生きるか死ぬかの境目をさ迷ったんだけど、良くなった時にはもう、男として駄目になっていて、組にも、不自由な身体で迷惑を掛けてはいけないからって、跡目も譲って引退したんだって」
 修二は息を呑んだ。
 マスターに対しては何か重い物を感じてはいたが、そこまでは考えが及ばなかった。
「女将さん、その事を知ってるの ?」 
 息を呑む思いのまま聞いた。
「知ってるわよ。その時はもう、一緒になっていたんだもん。マスターが刑務所に入ってる時には、女将さんがマスターの両親の面倒を看てたのよ。今でもマスターのお母さんが施設に入ってるんだけど、お店が休みの日には何時もお見舞いに行ってるんだよ」
「へーぇ。だけど、変な話しだなあ。普通なら女将さん、マスターを嫌って逃げ出したっておかしくないじゃないか。女将さん、マスターが怖いのかなあ」
「そうじゃないわよ。昔、女将さんの両親がマスターに世話になったのよ。詐欺に引っ掛かって困っている時、マスターが助けてあげたんだって。それで、女将さん、マスターに魅かれて高校を卒業するとすぐに結婚したんだけど、今ではこの店の名義は全部、女将さんのものになってんのよ。マスターが、自分には何時、何処でどんな事が起こるか分からないからって言って、そうしたんだって」
「鈴ちゃん、よくそんな事まで知ってるなあ」
 鈴ちゃんの訳知り顔を疑って修二は言った。
「だって、世間ではよく知られてる事だもん、みんなが知ってるわよ。それにわたし、前に居た子にもいろいろ聞いたしね。前に居た子は女将さんから聞いたんだって。だから、修ちゃんも女将さんを慰めて上げればいいのよ。女将さん、欲求不満で苛々してるんだから」
 鈴ちゃんは年増女の様な言い方をした。
「全く、しょうがねえなあ。下司の勘ぐりだよ、そんな事」
 修二は匙を投げる様に言ってその場を離れた。
 夜、十時に近かった。
 店内はようやく忙しい時間帯も過ぎてひと息入れる時刻だった。
 カウンター席に男の客が二人残っていた。
 北川が蒼ざめた顔で入って来た。
 悲愴感を漂わせていた。
「なんだ、どうしたんだ ?」
 カウンターの奥に居たマスターが目敏く見抜いて聞いた。
 北川はマスターの顔を見たが無言だった。
 二人の客とは離れた場所に行って隅の椅子に腰を下ろした。
 前掛け姿で腕組みをし、煙草を吹かしていたマスターはゆっくりと北川の前へ行くと、
「何か食うか ?」
 と聞いた。
「いや」
 北川は小さく首を振った。
 二人の客は店内の動きには無関心だった。
 一人の客はチャーハンを口に運びながらテレビを観ていた。
 あとの一人はスポーツ新聞に眼を落したままラーメンを口に運んでいた。
 北川は前に立ったマスターに視線を向けると、
「クロちゃんが事故っちゃったんですよ」
 と、悲痛な声で言った。
 マスターは驚きの表情も見せなかった。
 指の間で短くなった煙草を口に運びながら、
「死んだのか ?」
 と聞いた。
 静かな声だった。
 北川は黙って頷いた。
「何処で ?」
 相変わらず静かな声でマスターは聞いた。
「境川の向こうっ側ですよ。ブラックキャッツの連中に走路を邪魔されて、橋の欄干に激突してしまったみてえなんですよ」
「クロ一人で走ったのか ?」
「ええ、一人だったんですよ。お袋さんに用事を頼まれて、叔母さんの所へ行った帰(けえ)りだったらしいんだけど、奴らのエリアを走らねえと行けねえ所だったもんで・・・・。クロちゃんの顔は奴らには売れてるんで、偵察に来たとでも思ったんじゃねえですか。帰りに四、五台のオートバイが追っ掛けて来て、橋の近くへ来た時には横合いから乗用車が飛び出して来て、アッという間だったらしいんですよ。クロちゃんにその気があれば、四台や五台なんて目じゃねえんだけど、お袋さんに頼まれた用事があったもんで、相手にしなかったらしいんだけどねえ」
 北川は声を詰まらせた。
「何時、やったんだ ?」
「昨日の夕方らしい。今朝、工場に電話があって初めて知ったんだど・・・。クロちゃんのお袋さん、ショックで倒れちゃって、近所の人達が全部、クロちゃんの始末をしたらしい。チームのメンバの一人が近くなもんで、そいつが知らせて来たんですよ」
「どうするんだ、遣るのか ?」
 マスターは軽い世間話しの様に聞いた。
「勿論、遣らねえ訳にはいかねえですよ。このままにして置いたら、好い様にのさばられちゃうし、俺だって、頭(あたま)としてのメンツが立たねえですから」
「警察は動いてるんだろう ?」
「当然だと思いますよ。そのうち、俺の所へもなんとか言って来るんじゃねえですか」
「まあ、あんまり派手に遣らねえ方がいいさ」
 マスターは短くなった煙草を灰皿の中で揉み消しながら、諭すともない口調で静かに言った。
 裏の世界を知り尽くした人の重みのこもった口調だった。
「だけど、礼だけはしねえ訳にはいかねえから」
 北川は腹立ちを抑え切れない様子で言った。

 クロちゃんの通夜は翌日、午後六時から自宅で行われた。
 路地の奥の狭苦しい所に受付があって、中年の男性が二人、手持無沙汰な様子で椅子に座っていた。
 修二はマスターの車に乗せて貰って行った。 
「済いません、六時になったら少し時間を貰いたいんですけど。クロさんのお通夜に行って来ようと思うんで」
 食材の下ごしらえが終わって少しの暇が出来た時、修二はマスターに言った。
「おまえ、クロ知ってんのか ?」
 マスターは意外そうに聞いた。
「一度、みんなが俺の部屋へ来た時、会ってるもんだから」
「そうか。じゃあ、俺の車で一緒に行けよ。俺も行って、ちょっと線香を上げて来るから」
 クロちゃんは小さな祭壇で写真となって微笑んでいた。
 高校生ぐらいに見える写真の中のクロちゃんはまだ、修二が会った時の面影は無かった。素直な少年と言った感じだった。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




           takeziisan様


            春爛漫 自然の豊かさ キジの声 イノシシ出現
           羨ましい環境です これでは散歩も飽きる事は無いのでは
           時折り 用事で出掛け 車で自然豊かな田園地帯を走る事がありますが
           何時も心が洗われる気がします
           都会の街の中で唯 家々の屋根を見て暮らすだけの生活
           味気ないものです
            それにしてもイノシシとの戦い この農作業記事には何時も
           笑いがこぼれ ほのぼのとした気分になります
           楽しいですね と言っては失礼かも知れませんが
           畑の真ん中にヤグルマギク ツツジの花の道            
           我が家では今 クンシランが花盛りそれぞれの株が色を競っています
            この季節の楽しみの一つです 手入れもせず放りっぱなしなのですが
           毎年 見事な花を咲かせてくれます
           この所の気温の上昇でハゴロモジャスミンもすっかり蕾を膨らませています
           あとに三日であの甘い香りを漂わせるのではと思っています
           数々の花の美しさ この季節の特権であり眼の保養です
           何時も楽しく拝見させて戴いております
            有難う御座います









 








遺す言葉(493) 小説 希望(17)  他 独裁者

2024-04-14 12:42:27 | 小説
            独裁者(2023.3.30日作)


 
 覇権国家に於いて 
 権力を振るい 君臨する独裁者
 自身の胸の裡に広がる
 欲望の海しか見る事の出来ない 哀れな人間としての 欠陥人間 
 彼等の眼には 人の命の貴重な事も 人権の尊さ 重さ
 平等な事も 映る事が無い 総てが
 自身の欲望に満ちた卑小な脳の世界で処理され
 それが正解と信じて疑わない 愚かな存在 
 独裁者




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





              希望(17)



 
 新聞配達のバイクの音は聞いていた。
 あとの記憶が無かった。
 表通りから店の鎧戸を叩く音が聞こえて来て眼が醒めた。
 雨戸の透き間から差し込む微かな光りに気付いて飛び起きた。
「修ちゃん、修ちゃん」
 鈴ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
 電灯を点けて時計を見ると間もなく九時になるところだった。
 服のままごろ寝をしていた。慌ててズボンをたくし上げて窓の傍へ行った。
 急いで雨戸を開け、外を見ると鈴ちゃんが見上げていた。
「今、すぐ開けるから」
 鈴ちゃんに向って言った。
「何よ、寝坊したの ? 早くしないとお店に間に合わないわよ」
 鈴ちゃんは修二を見上げて言った。
 修二は雨戸の残りを開け、部屋を出て階段を駆け下りた。
 鎧戸を開けると眼の前に鈴ちゃんが立っていた。
「バカねえ。寝坊したの ?」
 鈴ちゃんは咎めた。
 その日、マスターは何時もより二時間程遅れて店に来た。
 女将さんだけが独り、先に来ていた。
 これまでにも何度かこういう事があって、それがマスターの花札による徹夜のせいだったのだと初めて知った。
 女将さんは修二を無視したように言葉も掛けなかった。朝の挨拶もなかった。
 修二は終日、女将さんと視線を合わせないように気を使いながら、気まずい思いで過ごした。
 仕事が終わって一人になり、二階へ上がった時には頸木を解かれたような安堵感を覚えて思わず、大きな溜息と共に大の字になって畳の上に転がった。
 店は何時もと同じ様に忙しかった。それぞれがそれぞれに自分の持ち場を滞りなくこなしていたが、女将さんと修二の間に交わされる何気ない会話は一切なかった。
 マスターや鈴ちゃんがそれに気付いていたかどうかは分からなかった。
 それでも、明日の事を思うと気が重かった。
 今までの様な屈託のない気持ちで過ごせるかどうか分からなかった。
「ああ、やだ、やだ !」
 思わず声に出して言った。
 昨日までの何事も無かった穏やかな時間が、再び、夢の中の時間の様に思われて来て、生きている事の煩わしさを改めて覚えた。
 いっそ、此処を出てしまおうか ?
 そうも考えたが、仕事の当ても行く先の当てもなかった。
 二、三日は貯金を崩してなんとか凌げてもその先は・・・・・
 再度、女将さんの愚行への腹立たしさに捉われて怒りを滲ませた。
 翌日も修二は店に留まっていた。
 頭の中にはマスターへの思いがあった。
 マスターは古びた布製の肩掛け鞄一つを抱えただけの、何処の誰とも知れない修二を快く受け入れてくれて、常に優しく接してくれていた。
 マスターへの感謝の思いは修二の心の中では、言葉では言い表せない程に強かった。
 もし、黙って此処を出てしまえばそんなマスターの優しい気持ちと好意を裏切る事になる。
 修二には日頃見ているマスターの一人の男としての姿、立ち居振る舞いに無意識的に憧れている部分があった。
 マスターがどんな過去を持つ人なのか、修二は知らなかった。それでも、ふとした折りにマスターが見せる鋭い眼差しが、修二に畏怖にも近い気持ちを抱かせる事があって、その眼差しと共に、この街の悪(わる)達が一目置くマスターが、通常の世界を生きた人ではないらしいという事だけはなんとなく理解出来た。その影の部分がまた、修二のマスターへの憧れを増幅させていた。
 田舎の家に付いてはこの時になっても思い出す事はなかった。母親の要求などは、はなから受け入れる気持ちは無かったが、あの火事の夜以来、田舎の家は修二の気持ちの中では完全に無いものになっていた。父ちゃんも死んだ、婆ちゃんも死んだ‥‥田舎の家の思い出は完全に修二の気持ちの中では失われたものになっていた。

 修二がそれとなく怖れていた警察からの呼び出しはその後無かった。
 母親も陰で何をしているのかは分からなかったが、再び訪ねて来る事も無かった。
 女将さんの修二に対する不機嫌はなお続いていた。
 厳しい口調で用事を言い付ける以外に言葉を掛けて来る事は無かった。
「修ちゃん、あんた、女将さんと何があったの ?」
 ある朝、女将さんとマスターがまだ来ない時間に鈴ちゃんが聞いて来た。
「なんで ? なんにも無いよ」
 修二は不機嫌に答えた。
 一番、聞かれたくない事だった。
 鈴ちゃんはそれでも総てお見通しと言った口振りで、
「嘘ばっかり。なんにも無いなんておかしいよ。女将さん、この頃、随分、修ちゃんに八つ当たりして機嫌が悪いじゃない」
 と言った。
「そんな事、無いよ !」
 思い掛けない鈴ちゃんの言葉に動揺して、思わず荒い口調で不機嫌に言い返していた。
 鈴ちゃんは重ねて言った。
「女将さん、修ちゃんを口説いたんでしょう」
   修二は狼狽した。
 急所を突かれた思いだった。
   その思いを懸命に隠して、
「なんで、そんな事が言えるんだよお」
 と言って突っぱねた。
「だって、女将さん、前にいた子も口説いた事があるんだから」
 鈴ちゃんは訳知り顔で言った。
「チェッ、詰まんねえ事言ってらあ。鈴ちゃんが男に持てないからそんな事言うんだろう」
 修二は相手にしない口調で軽蔑する様に言った。
「あら、お気の毒様。わたしにはもう、ちゃんとした相手がいるんだから」
 鈴ちゃんは修二の軽蔑など何処吹く風と言ったふうに軽く受け流して言った。
「結婚してんのかよお」
「結婚はしてないけど、一緒に暮らしてるよ。今、マンションを買おうと思って、二人で一生懸命に働いてるんだもん」
「じゃあ、他人(ひと)の事なんか、気にしなくたっていいだろう」
「でも、修ちゃんが女将さんに意地悪されるのを見ていると可哀そうになっちゃうから同情してんじゃない」
「そんな同情なんか要らないよお」
「なんで、女将さんの言う事を聞かなかったの ?」
「知らないよお」
「少しは女将さんを慰めてやればいいのに。女将さん、淋しいんだから」
「淋しい ? なんで ?」
 思わず聞き返した。
「いろいろ、訳があんのよ」
 鈴ちゃんは心得顔で言ってそれ以上は口にしなかった。
 鈴ちゃんの思わぬ言葉に修二は興味をそそられた。
「マスターもこの事を知ってるのかなあ」
 思わず言っていた。
「薄々は知ってると思うわよ」
 修二には不可解に思えた。
「知ってて、マスター、怒らないのかい ?」
「これには訳があんのよ」
 鈴ちゃんは事情通らしい口調でまた言った。
「前に居た人、それで店を辞めたの ?」
「ううん、違うわよ。この前の子はここに六年近く居たんだけど、田舎へ帰って店を出したいって言うんで、マスターがいろいろ力を貸してやったのよ」
「マスター、女将さんの事を知ってて、それでも怒らなかったのかい ?_」
 修二には不自然に思えて聞き返した。
「マスター、やたらな事では怒らないわよ」
 鈴ちゃんは言った。
「なんで ?」
「マスター、昔、ピストルで撃たれて怪我をしたのよ」
「ピストル ?」
「そうよ」
「なんで ?」
 また聞いた。





              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               一週 間を置くうちにめっきり春らしくなって来ました 
              当地の桜も満開 早くも散り始めています
              道路も庭も吹き込む桜吹雪で染まります
              何とも言えない嬉しい春の景色です この桜吹雪と知り敷いた
              一面の桜 満開の花の景色とはまた違ったこの季節の美しい景色で
              何とは無い幸福感に包まれます でも それも
              三日見ぬ間の桜かな 瞬く間に過ぎて行き 世の中はまた
              悲惨に満ちた愚かな人間達の争い事に包まれます
              何百年と続く桜の花の美しさと愚かな人間達の醜い争い
              何時の世も変わらない現実なのでしょうね
               当地 クンシランはまだ蕾です ドクダミもようやく芽を吹いて来たところです
              ドクダミの白い花の群れて咲く景色が好きです
              それにしても様々な花々 よく収集しました
              パソコン上に春の気配が溢れ出して
              これだけで春の気分に包まれます 楽しいひと時でした
              継続は力なり いっ時の気まぐれ気分では出来ない事です
              敬服致します       
               体力減退 年々 強くなります さて これから後 何年 
              これまでの生活が続けられるか 年毎に頭を過ぎります 
              様々に報じられる同時代を生きた人達の死 テレビ画面などに映し出される
              老齢化した姿 人生の週末の時をふと 意識させられます
               相変わらずの農作業 痛っ 痛っ と愚痴りながら
              続けられる事の幸せ どうぞ 御大事にして下さい
               有難う御座いました










遺す言葉(492) 小説 希望16) 他 多様性

2024-03-31 12:10:55 | 小説
             多様性(2024.3.25日作)


 人にはそれぞれ その人なりに
 持って生まれた運命 人生 世界がある
 その運命 人生 世界が 他者に害を与え
 不正なものでない限り 他者は
 その人の運命 人生 世界を 軽んじ 嘲笑
  軽蔑する事は許されない
 この世界 人間社会で 人の為に尽くし 尽力
 その尽力に成功した人は それなりに評価
 賞賛されて然るべき それでもなお
 尽力 人の為に尽くす事の出来ない人 その人を
 無能 無益 と批判 批難する事は許されない
 人 おのおの それぞれ それなりに独自の世界
 運命 個性を持って この世に生を受け 生きている
 その個性 独自性 他者に無いもの 人間社会 
 この世に存在する人の数だけ 存在する
 多様性 豊かな森は 樹一本では生まれない
 多様性 多様な樹々 その密集
 密集する樹々の一本一本 おのおの それぞれ
 各個が持つ個性 独自性 その一本一本が
 豊かな森を生 み 育む
 人の社会 この世界 人それぞれ おのおの持つ個性
 その個性 独自性が育む人の森 人間社会
 豊かさ 深さ 厚さ 堅固さ 人それぞれ おのおの
 各自が持つ個性 独自性によって 揺るぎない 人の森
 人間社会が形成 形作られる
 人 それぞれ 各個が持つ個性と独自性 その尊重
 多様性の失われた世界 やがて衰退 消滅 へ




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(16)




「みんな、きれいな子ばっかりね。こんなの見てたら我慢出来なくなっちゃうでしょう」
 女将さんはそう言って再び熱に潤んだような眼差しを修二に向けた。
 修二は羞恥で赤くなった。
 女将さんはそんな修二に、
「でも、若いんだもの、しょうがないわね」
 と言って、微笑みと共に修二を見た。
「アダルトビデオは無いの ?」
 そう言ってから女将さんは部屋の中を探す様に周囲を見たが何も無かった。
「無いみたいね。あれば一緒に見られたのにね」
 と、意味ありげに言って再び修二を見た。
 修二は赤くなって身体を堅くしたままでいた。
 女将さんはその修二には構わず、
「あんた、夜は何処へも出ないの ?」
 と聞いた。
「はい」
 そう答えただけだった。
「今夜、わたしここに泊っちゃおうかな」
 女将さんはまるでからかうかのように依然として、意味ありげな眼差しを修二に向けたままで言った。
 修二は息が詰まった。
 何時だったか、鈴ちゃんが「女将さん、修ちゃんの所へ行かない ?」と言った時の言葉が途端に思い出された。
「なんだか、帰りたくなくなっちゃったの」
 微笑み掛ける女将さんの眼が潤んでいた。
 修二は突然の思わぬ言葉に狼狽した。その狼狽のまま、
「駄目ですよ。俺、困りますよ」
 と、思わず言っていた。
「あら、どうして ? 大丈夫よ。今夜、うちの人、帰って来ないから」
 女将さんは修二を説得する様に言った。
「違いますよ。そんな事じゃないんですよ」
 強い口調で言っていた。
「じゃあ、何故 ? どうしてなの ?」
 女将さんの眼差しも真剣みを帯びていた。
 修二には咄嗟には答えられなかった。
「怖いんでしょう。あんた、初めてで怖いんでしょう」
 女将さんは修二を追い詰める様に言って、なおも熱のこもった熱い眼差しで修二を見詰めた。
「違いますよ !」
 修二は投げ捨てる様に言った。
「大丈夫よ、わたしが教えてあげるから」
 女将さんは昂ぶる気持ちを抑え切れなくなった様に言って修二の方へ身体を寄せて来た。
「違いますよ ! そんな事じゃないんですよ。帰って下さい。俺、困るから」
 怒りの感情に捉われたまま修二は厳しい口調で言っていた。
 女将さんはそれで漸く修二の本心を理解したようだった。修二を見詰める眼差しがみるみるうちに憎悪に満ちて来た。
「何よ ! 意気地なし。せっかく心配して来てやったのに !」
 女将さんの声は怒りを含んで涙声になっていた。
 その声の震えに気付いて修二は我に返った。
 女将さんに強い言葉を返した事に心の痛みを覚えた。
 その痛みに耐えるように呆然としてその場に立っていた。
「いいわよ ! もう、あんたの事なんか心配してやらないから」
 女将さんは修二の愚鈍を責める様に言って立ち上がると、そのまま入口近くに立っていた修二を押し退けて部屋を出た。
「覚えてらっしゃい。意地悪をしてやるから !」
 叩き付ける様に言って階段を降りて行った。
 修二は呆然としたままその場に立っていた。
 女将さんの足早に階段を降りて行く足音が聞こえて来た。
 乱暴に表のシャッターが引き下ろされる音がして、女将さんが外へ出た事が分かった。
 修二はその場を動かなかった。
 女将さんが残していった女の匂いが部屋の中に籠っていた。
 それに気付くと女将さんの薄手のセーターの下に見えた胸のふくらみや、白い脚のしなやかだった事が改めて思い出された。
 あの時、確実に手の届く距離に普段の夜とは違う、温もりを感じさせる女の肉体があった・・・・
 その現実が修二を息苦しくさせた。
 それでも結果的には後悔はしていなかった。
 女将さんの機嫌を損ねた事だけが唯一の気懸りだった。
「覚えてらっしゃい。意地悪をしてやるから」
 憎しみを浮かべて言った女将さんの顔が眼に浮んだ。
 明日からの店での生活を思うと不安になった。
 此処での生活が出来なくなってしまうのだろうか ?
 マスターはなんて言うだろう・・・・ ?
 考えてみても仕方がなかった。
 布団の上に仰向けに転がって頭の下に両手を組み、天井を見詰めた。
 漸く馴れて来た穏やかな生活が思いがけず突然乱されて、明日からまた不安定になる・・・・。
 女将さんの愚行を思って腹立たしさを覚えた。
 女将さんがこんな事をしなければ、悩む事など何もなかった !
「女なんか大ッ嫌いだ。みんな薄汚い !」
 鬱憤を晴らす様に思わず声に出して言っていた。
 女将さんも母親も高木ナナも、みんな小狡(ずる)くて薄汚い !


          五


 夜の明ける前に此処を出てしまおうか ?
 明日の朝、女将さんと顔を合わせる事を思うと不安だった。
 どんな顔をして挨拶すればいいんだろう ?
 女将さんに無視されたり、嫌味を言われたりして傷付く事を考えると耐えられない気がした。
 漸く得た心の平安がまた、何処かへ行ってしまった。ーー
 明け方までとうとう眠る事が出来なかった。


              (都合により 次週は休載します)
           


           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





             takeziisan様

         
              有難う御座います
             ようやく春の気配 と言うより初夏の気配 昨日はちよっと動くと汗をかきました
             気紛れ天気には翻弄されます
             野菜の新鮮な緑 羨ましい限りですが 苦労無くして収穫は無い
             何事も現実は甘くはない という事ですね
             それにしても野菜の値段の高い事 軒並み 例年の二倍近くの値段です
             家計の遣り繰りの苦労が偲ばれます
              川柳 相変わらず楽しいですね 好いですね
             何時も楽しく拝見しています
              由布院 辻馬車 中学校卒業旅行の折り 塩原の町中で見た
             辻馬車の光景をふっと思い出し郷愁を覚えました
              昭和二十年代前半 わたくしの居た村にも馬車の姿が見られたものでしたが
              何時の間にか消えてしまいました
              ポールモーリアサウンド 懐かしいですね 相変わらず好いですね
              言葉の問題 言葉には専門 最も敏感であるべきはずの
              アナウンサーの中にも近頃は首を傾げたくアクセントや
              使い方をする人が多く見られる様な気がします
              もともと言葉は時代と共に変化する ものとは言え             
              せめて言葉を専門にするアナウンサーぐらいは基 本をしっかり
              押さえて置いて貰いたいものだと思います
               見事なウスラウメの花 実は食べられるのですね
              豊かな食の世界羨ましい限りです
               御忙しい中 御眼をお通し戴き有難う御座います


                   
 


















遺す言葉(491) 小説 希望(15) 他 行為の範囲

2024-03-24 12:17:17 | 小説
            行為の範囲(2023.2.22日作)



 何事に於いても
 人間に許される行為の範囲は
 自身の生存を守る それが
 その時点に於ける
 最大の条件となる
 生存の為の条件が 最悪の場合
 最悪の行為も許される
 しかし
 自身の生存確保の為
 他者の生存権を犯し 奪う
 その行為は絶対的に
 許されない




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              希望(15)



 
 店が終わって風呂へ行って帰ると午前一時を過ぎていた。
 疲れていた。
 その夜は何時もの様に裸の女性達の雑誌を開いて見る気にもならなかった。
 部屋の隅に寄せてある布団を広げて仰向けになると、「あのバカ女が垂れ込んだんだ」と、改めて警察での出来事が思い出されて母親への憎悪を滾(たぎ)らせた。
 同時に何故か、今まで遠くに感じられていた母親が身近に感じられて、肉親としての感情が蘇った。
 幼かった頃の母親との思い出も蘇って、その思い出が懐かしくさえあった。
 改めて修二は思った。
 あいつは母親なんだ !
 その母親が修二を警察に売っていた !
 とは言え、修二自身も母親を焼き殺そうとして家に火を点けたーー
 そして、刑事が訪ねて来た。
 刑事達は証拠を見せてやる、と言った。
 あの言葉に根拠はあるのだろうか ?
 単なる脅しにしか過ぎないのではないか ?
 もし、放火した事実が知られるとすれば何処から知られるのだろう ?
 いや、分かるはずがない !
 声に出して言った。
 あの時、母親はぐっすり寝込んでしまっていた。
 自分のスカートに火が付くまで分からなかった。
 母親が警察に訴えたとしても、推察に依るものでしかないのだ。
 俺を罪に陥れるだけの証拠など、何処にも無い。
 安堵の中で考えを締めくくる事が出来た。
 修二は耳を澄ました。
 何かの物音を聞いた様に思った。
 確かに誰かが店先で鎧戸をいじっているらしい音がしていた。
 誰だろう ? 今頃。
 もう、警察が来たのだろうか ?
 それとも、泥棒 ?
 起き上がって音を忍ばせ、部屋の戸を開けてみた。
 物音はまだ聞こえていた。
 部屋を出て階段の上に立ってみた。
 鎧戸を開ける気配が音として伝わって来た。
「誰だ !」
 修二は叫んでいた。
「わたしよ、修ちゃん」
 女将さんの声だった。
 修二は緊張感から解放されて階段の明かりを点けた。
 女将さんは階段の下に立っていた。
「泥棒かと思ってビックリしたですよ」
 安堵の声と共に言った。
 修二が此処での生活に馴れるに従って女将さんが訪ねて来る事もこのところ無くなっていた。
 久し振りの女将さんの訪問に修二が階段を降りて行こうとすると、
「もう、寝ていたの ?」
 と言いながら女将さんが階段を上がって来た。
 修二は狼狽した。
 部屋には何冊もの女性のヌード写真が載った雑誌が放り出されたままになっていた。
 それを知られる事への羞恥から修二は自ら階段を降りて行こうとしたが、女将さんは委細構わず登って来た。
「警察に呼ばれたりしたから、どうしているかと思って心配になって来てみたのよ」
 女将さんは言った。
 修二には答えるべき言葉か見付からなかった。ただ、女将さんに部屋へ入って貰いたくない思いだけで階段の上に立ち塞がっていた。
 女将さんは昼間とは違って薄化粧をしているのが階段の上に居る修二にも分かった。
 普段見ている女将さんとは違ったその美貌の冴えに修二は眼を見張った。
 その間にも女将さんは階段を登って来ていて修二の前に立った。
 修二はそれでも動こうとしなかった。
 女将さんはそんな修二の身体の横から部屋の中を覗き見るようにして、
「まだ、寝てなかったのね。ああ良かった」
 と言って、そのまま部屋の中へ入る気配を見せた。
 修二は慌てて女将さんの前に身体を移動させたが、そんな修二を押し退けるようにして女将さんは部屋の中へ入ろうとした。 
 強引とも言える女将さんの行動だった。
 修二は困惑、混乱したまま、それ以上に女将さんの行動を防ぐ手立てを思い付かなくて呆然と立っていた。
 女将さんは部屋へ入ると散らかった雑誌に眼を向けたが、それを気にする様子もなく、部屋の中央に敷かれた布団の傍に黒い柔らかなスカートで膝を包む様にして横坐りに坐った。
「もう、こんな時間だからどうかなって思ったんだけど、起きていたので良かったわ」
 と、まだ呆然と入口に立ったままでいる修二を振り返って言った。
 修二はその言葉には答える事もなく仕方なく部屋へ入った。
「今夜、うちの人、花札に行っちゃったの。それで、一人で居てもつまらないから、修ちゃんが警察に呼ばれたりして、どうしているかなって心配になって来てみたのよ」
 昼間とは違った何処か親しみを感じさせる優しい口調と共に女将さんは、媚びを含んだ様にも見える眼差しで修二を見詰めて言った。
 そんな女将さんの、その美貌をひと際浮き立たせる薄化粧と共に、女の匂いでその場を包み込む雰囲気に修二はドギマギしながら、
「車で来たんですか」
 と、無愛想に聞いていた。
「ううん、自転車で来たの。十分足らずで来られるんだもの」
 女将さんは優しさの滲んだ口調で言ってから、
「警察では、あんなに長い時間居て何を聞かれたの ?」
 と修二の気持ちを労わる様な口調で優しく言った。
「別に」
 修二はやはり無愛想に答える事より他出来なかった。
 女将さんの何処か、普段と違う雰囲気が修二の気持ちを戸惑わせていた。
「この前来た、お母さんっていう女の人の事 ?」
 女将さんは修二の眼を見詰めて言った。
 その眼差しがうるんでいる様にも見えて修二は戸惑った。
「ええ」
 そう答えただけだった。
「そう。お母さん、ちょうどわたしと同じぐらいの歳なのね」
 と、女将さんはやはり熱い眼差しを修二に向けたままで言った。
 何故か、身体の堅くなる様な緊張感を覚えて修二は黙っていた。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと部屋の中を見廻わした。
 部屋の中には柱から柱へ紐を通して何枚ものパンツやシャツが干されたままになっていた。
 思わず赤面する修二に女将さんは、
「何か、困る様な事はないの。もし、あったら言いなさい。わたしに出来る事ならなんでもしてあげるから」
 と言った。
「はい」 
 息の詰まる思いのまま修二は言った。
 女将さんはそんな修二から視線をそらすと今度は辺りに散らばった様々な雑誌に視線を移した。
 夥(おびただ)しい雑誌の中にはページが開かれたままになっているものもあった。
 女将さんはそんな雑誌の中の、全裸の女性が誘いかける様な眼差しでこちらを見ている一冊を手に取ると、
「あなた、毎晩、こんなものを見ているの ?」
 と言って、媚びを含んだようにも見える微笑みと共に修二を見た。
 修二は夜毎の自分の秘密を盗み見られた様な気がして体中が熱くなった。





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               有難う御座います
              この冬は暖冬だったと言いながら 彼岸が過ぎてもまだ寒さが残る
              強風の日もかつてなく多くて 嫌な年です
              穏やかな春の陽ざしが欲しいものです
               美しい花々 よく御覧になっていらっしゃる
              敬服です またお庭の花々 春の楽しみですね
              狭苦しい都会の中で暮らしていると無性に自然の美しさが恋しくなります
              我が家はその中でも左手には比較的大きな防災公園
              右手には映画「男はつらいよ」の舞台 江戸川の堤防がそれぞれ
              百メートルほどの距離にあるのですが それでも雄大に広がる自然の美しさには
              とても及びません 無性に、子供の頃過ごした環境が懐かしく思い出される事があります
              それにしても 文化祭 よく当時の物をお持ちになっていらっしゃいます
              わたくしの方では学芸会と言って年に一度行われました
              中学三年に菊池寛の「父帰る」を行った事を思い出します
              それこそなんの娯楽も無い田舎 村中が学芸会運動会には 馳せ参じたものでした
              懐かしい思い出です
               高齢者運転免許 わたくしの兄妹でも次々に返納しています
              思わぬ事故 高齢者に多い事をつくづく実感します
              それにしても人間 歳を取るという事は寂しいものです
              今まで有ったものが次々に失われてゆく
              せめて自身は日々 元気に過ごす それを心掛けるようにしています
               どうぞ お身体に気を付けて御無理をなさいませんように
              何時も有難う御座います













遺す言葉(490) 小説 希望(14) 他 人間 その生きる目的

2024-03-17 12:41:50 | 小説
            人間 その生きる目的(2020.1.23日作)

  

 人間が地球上に生きる究極の目的は
 人間 各々が 如何に幸福 安穏に生きられるか
 この一点にのみ集約される
 思想も科学も その為に奉仕 利用されるべきもの
 思想の為の思想 科学の為の科学 その
 至上主義は人間社会に於ける邪道
 人の心 人の命 この視点を忘れた思想や科学は やがて
 人類の滅亡 破滅という道へ突き進む事になるのだろう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(14) 




「そうか、それならそれでいい。だけど、おまえ、この情報は何処から入ったと思う ? いいか、おまえのおふくろから入ったんだぞ。おまえの実の母親が、わたしを焼き殺そうとして火を点けたんです、って言ったんだぞ。どうだ ? それでも火を点けてないって言うのか ? 実の母親が伊達や酔狂でそんな事を言うと思うか ?」
「そんなの嘘です。出鱈目です」
 思わず大きな声を出していた。
「出鱈目 ? 出鱈目でどうして母親がそんな事を言うんだ ?」
 怒りの表情で修二は黙っていた。
「おまえと母親は旨くいってなかったんだろう。母親が男をつくって病気の父親を放り出してしまったのを、おまえは怒っていたんだろう ?」
「そんなの、関係ありません」
「関係ない ? どうして ? おまえは自分達に苦労を押し付けて来る母親が憎くて、そんな母親を焼き殺そうとしたんだろう ?」
「おれはあの時、寝ていたんです」
「おまえは寝ていた。だけど、母親も寝ていたな。しかも酒に酔ってぐっすり眠り込んでしまった。それで、お前が何かの拍子にふっと眼を醒ましても母親は気が付かなかった。傍には煙草の吸殻やライターがそのまま放り出してあった。いろんな書類も散らばっている。おまえが母親への憎しみを募らせてその母親を焼き殺そうとするには、これ以上に好い条件の揃う事は滅多にないな。どうだ ?」
 刑事の言葉は現場を眼にしたかの様にそのままの事実だった。
 修二にはだが、驚きも狼狽もなかった。腹は坐っていた。
「俺が火を点けたっていう証拠はあるんですか ?」
 強気のまま言った。
 母親からのその場の状況の説明を受ければ、誰にでも考えられる事だと思った。
「証拠 ?」
 刑事は思わぬ言葉を聞いた様に修二を見た。
「証拠なんて、何処からそんな言葉を聞いて来た ? 証拠が欲しけりゃそのうち、ちゃんと見せてやる」
 年端もゆかない修二の思い掛けない言葉に刑事は誇りを傷付けられでもしたかのように、軽い怒りを滲ませて言った。
 取り調べは長身の刑事も加わって更に続いた。
 母親が遺産相続で走り回っている事。母親の男関係。病気の父親を看病していた時の母親の様子。修二と祖母の事。修二が働いていた製材所での日常や母親の下(もと)を逃げ出した火事の夜の事。そして、マスターの店で働くようになった経緯(いきさつ)など、刑事達は脅したり賺(すか)したりしながら、執拗に探りを入れて来た。世間話しの様に話していたかと思うと急に恫喝的になったりした。
「もう、そろそろ、本当の事を喋ったらどうだ ? しぶとい野郎だなあ」
 修二はその頃には疲れ切っていた。
 早くこの場から逃げ出したいという思いだけが強くなっていた。
 何度もマスターの店で働いている自分の姿が頭を過ぎった。
 その生活が夢の中の事の様に思えて明るい色彩の下に懐かしく思い出された。
 息苦しく閉塞感を伴って迫って来るこの部屋と刑事達。
 自分が永久にこの部屋から出られないのではないか・・・・そんな気がして来て気分が滅入った。
「居眠りをするな ! 馬鹿野郎」
 年上の刑事が怒鳴った。
「居眠りなんかしてません」
「今、船を漕いでいたじゃないか」
「眼を瞑っていただけです」
 時折 、どちらかの刑事が席を外した。
 修二だけが絶え間ない言葉の攻撃を受けて休息も与えられなかった。
「くたびれたんだろう ? 本当の事を言え。そうすればすぐに帰してやる」
「俺はやってません」
「やってない、確かにそうなんだな。やってないんだな ?」
「やってません」
「よし、分かった。そんなにおまえが言うんなら、今日はこれで帰してやる。だけどいいか、これで終わったと思ったら大間違いだぞ。この次は、ちゃんと証拠を見せてやるから、何処へも逃げないであの店に居ろよ」
           
 修二が警察の建物を出た時には午後五時を過ぎていた。
 長い時間、白い壁だけに囲まれた部屋に居たせいか方向感覚が分からなくなっていた。
 少し歩いてタクシーを拾うと「北裏町の味楽亭」と告げた。           
 タクシーの運転手にはすぐに分かった。
 修二はタクシーを待たせておいて二階へ上がりタクシー代を取って来た。
「警察は何んだって ?」
 店に戻った修二にマスターは言った。
 店内は混んでいた。女将さんも鈴ちゃんも忙しそうに働いていた。
「家の事でちょっと聞かれたんです」
「おふくろとの事か ?」
「はい」
 マスターはそれ以上の事は聞かなかった。
「今まで警察に居たの ?」
 背中を見せて洗い物をしていた女将さんが顔だけ向けて聞いた。
「はい」
「お昼御飯は ?」
「まだです」
「じゃあ、向こうへ行って何か食べなさい。お腹空いたでしょう」
 女将さんは同じ姿勢のまま言った。
「大丈夫です」
 修二は言ってすぐに仕事の支度に掛かった。

 その日、修二は店が終わるまでの時間をいつも通りに働いた。
 マスターも女将さんも鈴ちゃんも普段と少しも変わらなかった。
  警察に呼ばれた不快な思いも忙しく働いているうちに忘れた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               春の気配 花々の美しさ 嬉しい限りですが また寒さが戻るとか
              気温の激しい変化に身体が追いつきません なんだかこの所
              体調不良ーーとまではゆかないのですが 身体がシャキッとしない
              力が入らない感じでシャキシャキと動く事も出来ません
              やはり老化現象 ? 年々 肉体の衰えが顕著になって来る気がします
              一年と言えない 母親が口にしていた言葉が実感として迫って来ます
              ウォーキング九千二百歩 厳しさが実感されます
               雑草の山 あれも駄目 これも今一つ              
              一口に農業と言っても その厳しさ 難しさが改めて想像出来ます
              今年の野菜の高値 消費者に取っては不満ですが
              農家の方々に取っては不満どころではなく 頭の痛い問題なのではと
              改めて思わされます
               何事もただ新聞ラジオテレビ等でペラペラ気軽に喋って
              言いたい放題の事を言って居る人間達には分からない苦労が
              実践者には付きまとうものだと改めて実感されます
               フキノトウ 今頃 ? という 思いです         
              当地では前にも書いたと思いますが 二月頃だったかに収穫しました
               アラスカ魂 随分昔に観た映画でストーリーも曖昧ですが
              ジョン ウェインとしては西部劇ではない所に新鮮さを感じたのを覚えています  
               山頂に立つ快感 画面からも伝わって来ます      
               好いですね 改めて病み付きになる人の気持ちが分かります
               口の着く言葉 口数が多いですね
               今回も面白く拝見させて戴きました
               有難う御座います

































遺す言葉(489) 小説 希望(13) 他 幸せ

2024-03-10 12:16:31 | 小説
             幸せ(2024.3.2日作)



 ただ夢にだけ囚われ
 日々 何事も無く生きる事の幸せ
 大切さを忘れるな
 人は現に今ある日常の何気ない幸福 幸せを忘れ
 単なる夢 幻 夢想にしか過ぎない幸せに
 憧れるものだ 人は
 どの世界に於いても それなりの
 苦労 苦難から逃れる事は出来ない
 その世界には それなりの 苦労 苦難がある


             夢

 自己の夢
 その頂に辿り着くには
 日々 日常 一歩一歩 一足一足
 階段を登ってゆく
 思いがけず 望外に得た幸運 僥倖は
 ひと時の夢 幻
 幸運に酔い痴れる事は出来ても
 その喜びは束の間 地に足の着かない喜び
 不安定さの故に 瞬時に
 崩れ去って逝くだろう




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               希望(13)



 
 修二は業者が置いていった野菜を調理場に運んでいた。
「おい、修二 ! 」 
 マスターの何時にない鋭い声が修二を呼んだ。
 修二が返事をして店先に向かうとマスターは、通用口の近くに立っていた。
 修二と眼が合うと小さく首を振って表に注意を促した。
 店の入口には二人の男が立っていた。
 すぐに刑事だと分かった。
 二人の鋭い視線は共に修二に向けられていた。
「山形修二か ?」
 大柄で屈強な感じの五十歳前後の男が言った。
「そうです」
 修二の声はかすれていた。
 咄嗟に母親の顔が浮かんだ。
 火事の事で来たんだ、と判断した。
「ちょっと一緒に来て貰いたい」
 警察手帳を見せて言った。
 もう一人の四十歳位かと思われるやせ型の背の高い男は黙ったまま修二を見ていた。
 修二は息が詰まって言葉が出なかった。
「行って来いよ」
 様子を見ていたマスターが言った。
 静かな声だった。
 咎める気配はなかった。
 励ますような響きさえが感じられた。
 マスターは修二の身の上に付いては何も知らなかった。
 修二が住み込みで働くようになっても、過去に付いては何も聞かなかった。
 修二を信用しての事か、軽く見ての事なのかは分からなかった。
 修二はただ、日頃、マスターが持つ、何処か普通の人とは異なる独特の険しい雰囲気に、射すくめられるような思いと共に、ある種の畏敬にも似た感情を抱いていた。
 それが、日常見せてくれる優しい心遣いと共に、修二のマスターに対する従順さを育んでいた。
「なんですか、これ」 
 修二はマスターの言葉に励まされた様に、警察手帳に視線を落として反抗的に言った。
「お前の家が焼けた火事の事で聞きたいんだ」
 口調は穏やかだったが、厳しさのこもった声で刑事は言った。
「知らないですよ、そんな事、俺」
 修二は警察手帳に視線を落としたまま不服そうに言った。
「知ってる事だけ、話せばいいんだ」
 修二は黙っていた。
「行って来いよ」
 マスターがまた言った。
 依然として、修二を励ますような響きがあった。
 修二はマスターの言葉と共に顔を上げて刑事の顔を見た。それから、
「今、着替えて来ます」
 と言った。
「そのままでいい」
 刑事は言った。
「大丈夫ですよ。二階へ行くだけですから」
 マスターが、警戒する刑事の心を読み取ったかのように言った。
「すぐ、降りて来いよ」
 修二の背中に向かってマスターは言った。
「はい」
 修二は答えた。
 あいつが告げ口をしたんだ !
 階段を昇りながら母親の顔を思い浮かべた。
 それと共に、どんな事があっても、絶対に口を割っては駄目だ、と自分に言い聞かせた。
 ライターも燃えてしまったし、証拠になる物は何もないんだから !
 
 広さ三畳程の部屋だった。
「その椅子に座って待っていろ」
 長身の刑事が言った。
 刑事は入口の扉を閉めてすぐに出て行った。
 小さな、ガラス二枚の窓が修二が座った椅子の後ろの高い位置にあった。
 鉄製の柵で窓は守られていた。
 部屋の壁は白い漆喰で塗られていた。
 修二が座った椅子の前には木製の古びた四角い机があった。
 傍には修二が座ったのと同じ様な椅子が二つ置かれていた。
 二人の刑事が再び姿を見せた時にはは三十分以上が過ぎていた。
 何も無い空虚な部屋で長い時間を待たされて修二は苛々していた。
 二人の刑事は無言のままそれぞれが椅子に座った。
 机に着いてからも二人は無言のままで手にした書類を動かしていた。
 分厚い書類の束だった。
 書類の整理が付くと年上の刑事が初めて口を開いた。
「名前は山形修二だな」
「そうです」
「十七歳」
「そうです」
「家族は母親と二人だけか ?」
「そうです」
「去年三月八日、家は火事になったな」
「はい」
「なんで火事になったんだ ?」
「分かりません」
「ここには煙草の火の不始末が原因だと書いてある。そうなのか ?」
「分かりません」
「火が出た時の様子を覚えているか ?」
「分かりません。眠ってたから」
「どうして火事に気付いたんだ ?」
「あふくろが火事だって叫んで分かったんです」
「それで飛び起きたのか ?」
「そうです」
「それからどうした ?」
「鞄を持って逃げたんです」
「なんで、鞄なんか持って逃げたんだ ?」
「婆ちゃんが死んだ時に貰った香典が入ってたんです」
「よく、その鞄がある所へ行けたな ?」
「何時も仏壇の傍に置いてあったからです」
「寝間着のまま飛び出したのか ?」
「いや、服を着てました」
「着替える時間はあっのか ?」
「服のまま寝てたんです」
「何時も服のまま寝るのか ?」
「違うけど、あの夜はおふくろと喧嘩して、そのまま寝てしまったんです」
「なるほど」
 刑事は言った。それから、正面から修二の顔を見て、
「おまえはなかなか、説明が上手いな」
 と、軽い笑みを浮かべて言った。
「なんで、今ごろになって呼び出したのか分かるか ?」
 刑事は修二に視線を向けたままで言った。
「分かりません」
「あの夜の火事は、おまえが火を点けたんだっていう情報が入ったんだ」
 刑事は言った。
 修二に驚きはなかった。やっぱり、あいつだ、と思った。
「いくら、おまえが隠し立てをしたって、結局、最後には分かってしまうんだ。はっきり言わないで隠し立てをすればする程、罪は重くなるんだぞ。どうだ ?」
「俺。放火なんかしてません」
 刑事の口調に対抗するように修二は強い口調で言い返した。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

            
               楽しい記事 懐かしい写真 堪能しました          
              書けない文字 読めない文字 タケナワ
              酒盛りの盛んな状態に関して表現する文字としての酣は分かるとして
              何故 橋の闌干(通常 欄干と書きますがこの文字も使います)の闌が
              タケナワに使われるのか ? 面白く拝見しました
               野菜収穫 大根には思わず笑ってしまいました             
              形自体もそうですが まるで人の笑っている顔に見える模様
              傑作です 苦労のあとの収穫の喜び
               花粉 車が黄色くなる事はありませんが クシャミ頻発です
              星取表 面白いですね わたくしは週一回の
              体重測定をしています もう十年以上も続いていますが
              多少 体重の減少が見られますが それなりに元気です
              膝のチクチク痛みも食事と体操で克服しました
              今は快調ですが 流石に体の堅くなった事だけは自覚せすばにはいられません
              柔軟体操は毎朝行っているのですが 
              年齢による現象と諦めています
               蘇州夜曲 若き日の長谷川一夫 李香蘭
              昭和十五年 わたくしが生まれて二年目 なぜか懐かしく時代への郷愁を覚えます
               もうすぐ彼岸 何時まで寒い事やら 今年は暖冬という事ですが
              こちらも日曜には雪が一二三センチ積もりました
              春の陽気が待ち遠しいです
               何時も有難う御座います





              桂蓮様


              コメント有難う御座います
             文頭の文章 年寄りの説教だとお取り戴くのはちょっと心外です 
             わたくし自身 他人様へ説教など出来る身では有りません
             何時も此処に掲載する文章は日常の中で自身が納得した
             感慨 思いを書き留めているだけのものにしか過ぎません
             自身の心の呟きなのです それにわたくし自身 自分を年寄りだとは思っていません
             身体的には確かに確実な衰えを実感しますが 思考的には今が最も
             充実している時だと思っています  
             年齢を重ねた経験の中で得た知識として 揺るぎない確信の下に
             書き留めています
             どうぞ、これからも年寄りの説教などとは思わずに一人の人間の考えた事として
             良否を御判断戴けましたら嬉しく思います       
             勿論 人それぞれ考え 思いは異なります こんな文章は嘘っぱちだと
             思われる方もいらっしゃると思います それはそれでわたくしのどうこう言える問題では
             ありません ただ わたくしはわたくし自身だという確信の下
             掲載してゆく心算でいます
              バレー 以前にも書いたと思いますが 良い御趣味を見付けられました         
             楽しみと共に心身の健康 充実にも役立ちます
             明日は今日よりもっと良く・・・・日々の生活に潤いと張りが生まれます
             どうぞ これからも頑張って下さい
             御健闘を祈ります 
              有難う御座いました
             和文 英文 分離 確かにこの方が文章の流れとしては自然な気がします



              


























































遺す言葉(488) 小説 希望(12) 他 重石

2024-03-03 14:52:46 | 小説
           重石(2024.2.25日作)


 過去に拘り 過去を背負って
 未来へ歩く重石にするな
 重石にすれば足は疲れて歩けない  
 二度と戻らぬ過去ならば      
 未来へ向かう心の栄養 糧として 
 総てを呑んで 呑み尽くせ  



          無駄


 人は飲み食い生きる
 無駄な口は動かすな
 頭と身体を動かす 
 頭と身体を動かす事で
 この世は前へと進んで行く
 口先一つ 口先だけの動きでは
 世の中総ては空の空
 


         寒紅梅 観て来て後の あと幾年




           ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(12)



 
 あらゆる事がこの母親の前では無意味に思えて気力が萎えた。
 実際には婆ちゃんがどうであったのか、修二には分からなかった。
 嫁の悪口を世間に言いふらして歩いていたのか・・・・ ?
 父親が丈夫だった頃には婆ちゃんと母親との関係は悪くはなかった。世間的にによくある普通の嫁と姑の関係だった。
 あるいは、母親が自分を守る為に作り上げた話しなのか ?
 唯一つ、はっきりしている事は、婆ちゃんは修二と同じ世界に住む人間だったという事だった。
 修二に取って大切なのは、その事実だった。責任も義務も忘れて男に走り、自分の欲望だけに捉われた無責任な母親の言った事など、どうでもよかった。
「それは確かに病気の父ちゃんの面倒を看なかったのは悪いかも知んないよ。だけど、仕方がなかったんだよ。医者代だって掛かるし、お金の出るところなんか何処にもなかったんだから。お前だってそのうち大きくなれば分かると思うけど。見てみなよ、家が火事になっても保険金の一つだって入って来やしないじゃないか。みんな父ちゃんが吞んじゃったんだよ」
 修二にはしつこく言い訳をする母親がなおさら不潔に見えて来て昂ぶる感情だけを懸命に堪えていた。
「とにかく、お前にもいろいろ苦労を掛けて済まないと思うけど、もう、父ちゃんも婆ちゃんも居ないんだから、これからは丸山さんと三人で仲良くやっていこうよ」
 母親は急に馴れ馴れしい態度を見せて擦り寄って来た。
 修二はだが、男の名前を聞いた途端にこれまで懸命に抑えていた感情が一気に膨れ上がって、その感情と共に、
「嫌(や)だ ! 」
 と、腹の底から湧き出る野太い声で言っていた。
 憎しみと怒りの混じった修二の思わぬ声に母親は圧倒されて、一瞬、恐怖の表情で身を引いた。それでもすぐに気を取り直して怒りの表情を滲ませた。
 修二は怯まなかった。
「手前えなんか親じゃねえ。唯の色気違えだ。さっと男ん所さ帰(け)えりやがれ ! 」
 と吐き捨てた。
 母親は修二のその言葉に血相を変えた。
「まあ、親に向ってなんて事を言うんだよ、お前は」
 と言った。それから、
「そうかい、分かったよ。じゃあ、これからは一切、わたしとは関係ないって言うんだね」
 と言った。
「そうだ ! 」
 修二は言った。
「それならそれでいいよ。だけど言っておくけどね、あの家はわたしが始末するからね。わたしはまだ、あの家の者なんだから。それでいいんだね」
 母親は言った。
「勝手にすればいいだろう」
 修二にはどうでもいい事だった。そのまま母親の前から立ち上がった。
 母親はそんな修二を見て慌てた。
「待ちなよ。まだ言いたい事があるんだよ」
 と言った。
 修二はその場を離れようとした。
 母親はその修二に言った。
「ちょっと、お前に聞くけどね、あの夜の火事はお前が火を点けたんだろう。わたしを焼き殺そうとして、お前が火を点けたんだろう」
 思わぬ母親の言葉だった。
 修二は心臓をわしづかみにされた思いで息を呑んだ。
 思いがけず母親が真実に迫って来た !
 修二は呆然として立ち尽くしていた。
 そんな修二に母親はなお、憎しみの眼差しを向けたまま言葉を続けた。
「警察ではわたしの煙草の火の不始末だって思ってるけど、そんな筈はないんだよ。あの時、わたしはちゃんと、灰皿で揉み消しているんだから。だけど、警察にはお前が火を点けたなんて言えないと思って黙ってたんだけど、お前がそんな心算ならわたしはもう一度、よく調べて貰うからね。いいかい ?」
 修二は母親のその言葉には答えなかった。そのまま母親の前を離れた。
 二人の刑事が修二を訪ねて来たのは、それから何日かして後(のち)だった。





            ーーーーーーーーーーーーーーーー




             takeziisan様

             
              有難う御座います
             山の景色 何時見てもいいですね
             心が洗われます
             NHKで百名山を放送していますが 険しい山々
             辿って行くとやはり思わぬ景色が眼の前に広がる
             この醍醐味 病み付きになると思います
              蘇州 思わず 水の蘇州の花咲く春を と歌が頭の中に浮かんで来ました
             ミモザ 花の季節 待ち遠しいです と共に雪景色
             何故か懐かしさと共に拝見しました 当地では           
             ここ何年か このような景色に包まれる事は有りません
             以前は よく経験したものですが やはり温暖化のせいでしょうか
              ミラー グッドマン べーシー 昔が偲ばれます
             川柳 堪能 いいですね 次回 期待です
             やはりこうして表現されたものを拝見しますとなんとなく
             心がほのぼのと豊かになるのを覚えます そうだそうだの共感
             楽しいです
               有難う御座いました




















遺す言葉(487) 小説 希望(11) 他 岡本太郎芸術より ねぶた ほか

2024-02-25 12:07:57 | 小説
             岡本太郎芸術より ねぶた(2024.2.25日作)


 岡本太郎芸術より
 ねぶた ねぷた
 岡本芸術 何処か
 メキシコ芸術等からの
 借り物的印象 匂い
 (初期作品 傷ましき腕 秀作)
 ーーメキシコ市街の壁 古い発掘物などに
 しばしば見られる美の様式
  青森 秋田の ねぶた ねぷた
 この国 日本 東北
 地元に根差した 風土が
 醸し出す 美
 美しいと思う


 人間は自分の視点でしか
 物を見る事が出来ない
 悪の視点 膳の視点
 人間性が反映する




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




               希望(11)




「おふくろ ?」
 修二は思わず聞き返してマスターを見た。
「おまえと話しがしてえんだってよ。少し時間をくれって言ってる」
 修二は身を堅くした。
「おふくろなんて、どうだっていいですよ」
 自分には関係のない事のように修二は言った。
 これからの時間、店が忙しくなるのを知っていた。
 店に迷惑を掛けたくない思いもあった。
 修二に取って今、一番大切なのはこの店だった。
 漸く手にした落ち着いた生活を誰にも邪魔されたくなかった。
 ましてや、自分達を一度は見捨てた母親だった。今更、母親面をされたくはなかった。今の修二には母親と話さなければならない事など何もなかった。
「どうだっていいって言ったって、放って置く訳にもいかねえだろうよ。行って話しをして来いよ。店の支度はいいから」
 マスターは母親に対する修二の苛立ちを察したらしく、諭すような口調で言った。
「喫茶店の" らんぶる " なら落ち着いて話しが出来るから行って来いよ」
 マスターの言葉に強制的な響きはなかった。
 それでも修二はマスターに逆らう事は出来なくて、
「はい」 
 と答えていた。
 日頃からマスターが何かと気を使ってくれる事に修二は感謝をしていた。
 修二が二階の部屋で着替えを済ませ、店の外に出ると母親は向こう側の歩道に立っていた。
 修二の姿を見ると急かれたように車道を渡って来た。
「なんだよ、随分待たせるんだねえ」
 と、苛立った口調で言った。
 恐らく、三十分近くは待ったはずだった。
 修二は返事もしなかった。
 すぐに母親の前に立って歩き出した。
「ちょっと待ってなよ。マスターに挨拶をして来るから」
 母親はなおも修二を咎めるように言った。
 修二はマスターという言葉で足を止めた。
 母親は店に向かうと入口で頭を下げて挨拶をした。
「済いません、ちょっとお借りします」
 修二に向けたとげとげしさは無くて、愛想の良さを滲ませた口調だった。
 修二はそんな母親の下卑た変わり身の早さにまた嫌悪感を抱いた。
 母親はすぐに戻って来た。
「何処か腰を落ち着ける場所はないかね」
 修二の後を追いながら母親は言った。
 修二は返事をしなかった。
 母親の前に立ってただ歩いた。
「喫茶 らんぶる」は五分程の場所にあった。
 その間、母親は修二の後を追うように小走りに付いて来た。
「何時(いつ)からあの店で働くようになったんだい ?」
 店内に入り、テーブル席に向き合って着くと母親はまず聞いた。
 修二は答えなかった。
 店員が注文を取りに来た。
「何にする ?」
 母親は猫撫で声で修二に聞いた。
 修二はやはり答えなかった。
 母親は修二の答えを待たずに、
「コーヒー二つ」
 と言った。
 店内は空いていた。
 店員が背中を見せてその場を離れると母親は早速口を開いた。
「おまえがあの夜、姿を消してしまってから、何処へ行ったのかって随分、心配したんだよ。でも、小さい子供でもないと思って気持ちを落ち着けたんだけどね。それでね、十日ぐらい前だったかなあ、店に来るトラックの運転手さんが、おまえをあの店で見たって教えてくれたんだよ。だもんで、自分の眼で確かめてみようと思って来た訳なんだよ。いろいろ家の事なんかもあるし、おまえの居場所が分からないと何かと不便だからねえ」
 母親は修二の様子を探るようにじっと見つめたまま言った。それから機嫌を取るかの様に穏やかな口調で、
「ずっと、あの店で働いていたのかい ?」
 と言った。
 修二は母親と向き合ったまま、不機嫌な表情で黙っていたが、その穏やかさを滲ませた口調に我慢が出来なくなって、
「うっせえな ! 俺がどうしようとてめえには関係ねえだろう」
 と、怒鳴っていた。
 母親は突然発した修二の怒声に一瞬、驚いた様に身体を引いたが、また身を乗り出して、
「大きな声を出すんじゃないよ ! みんなが見るだろう」
 と、叱責するように言った。
 事実、周囲に居た何人かの人達が視線を向けて来た。
「見たってかまわねえよ !」
 修二は不機嫌な表情のまま言い放った。
 母親は周囲を憚ってかそれ以上は口にしなかった。
 コーヒーが運ばれて来た。
 それぞれの前に置かれると母親は自分の分には備え付けの砂糖とミルクを入れたが、修二のものには入れようとしはしなかった。
 修二の反発を恐れているのが明らかだった。
 修二は椅子の肘掛けに両腕を掛け、背中を後ろに持たせ掛けたままの姿勢で、何時、母親の前から立ち去ろうかと考えていた。母親と話す事など何も無かった。
「修二ねえ、おまえ、母ちゃんを怒っているんだろう ?」
 母親はコーヒーを掻き混ぜ終わるとその手を止めて修二の顔に視線を向けて言った。
 修二を問い詰めるかのような厳しい口調だった。
 修二は怒りの滲んだ表情のまま返事もしなかった。
 母親はそんな修二には構わずに如何にも不快気な口調で言葉を続けた。
「でも、仕様がないじゃないか。母ちゃんが働きに出なければ、何処からもお金が入って来るところが無かったんだから。父ちゃんに掛かった医者代だって大変なもんだったんだよ。それに元々、父ちゃんがあんな風になっのも、父ちゃんの責任なんだよ。毎日、酒ばっかり吞んでいて、いくら注意しても聞かなかったんだから。見てみなよ、父ちゃんが死んだって、家が火事になったって、保険金の一銭だって入って来やしないじゃないか。みんな父ちゃんが吞んじゃったんだよ」
「父ちゃんの事ば悪く言うな ! 父ちゃんは酒ばっかり呑んでても、仕事は毎日真面目にやってた !」
 修二に取って父を貶す事は冒涜だった。ましてや他の男に走った母親がそんな言葉を口にする事など、猶更、許せなかった。
 母親はしかし、修二の反撃にも怯まなかった。
 更に不満も露わに言葉を重ねた。
「それは仕事は毎日やっていたよ。でも、倒れる前の一年ぐらいは大事な事はみんな、母ちゃんがやってたんだよ。心臓は悪くなるし、肝臓は悪くなるしで、父ちゃんの身体はガタガタだったんだから。だから、母ちゃんの言う事を聞いて、少しでも酒を控えていたら、こんな事にはならなかったんだよ」
 修二も父親の身体の悪い事は知っていた。
 父親の唯一の欠点が酒好きだった。
 そんな父だったが、修二には何時も優しかった。夜釣りに連れて行ってくれたり、ホオジロを入れる鳥かごを作ってくれたり、友達のように優しかった父親だった。
 高木ナナのCDを聴く為にプレイヤーを買ってくれたのも父だった。
「それに婆ちゃんだって悪いんだよ。母ちゃんが夜昼構わず働いてるのに、父ちゃんの面倒見が悪いんだとかなんだとか、誰構わず言いふらして歩いてさ。幾ら働いても良く言われない家の中で二年も三年も治る見込みのない病人を抱えて暮らすなんて、おまえだって考えただけでもうんざりするだろう。家を出たくなるのも当たり前じゃないか」
 修二は母親の言葉を確かに耳にしていた。だが、修二の耳にはその言葉が、何処か遠い所で見知らぬ人が口にしている言葉の様にしか響いて来なかった。
 そんなてめえのせいで、俺も婆ちゃんもえれえ苦労ばしたんだ !
 喉まで出かかる怒りの言葉も呑み込んで結局、口にしなかった。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


             有難う御座います
             週番 懐かしい言葉ですね
            昭和三十年当時の記憶が鮮明に蘇ります
              あの家並み 古き良き時代というより まだ貧しかった時代の景色
            今では遠い記憶の中の風景ですが 何故かあの頃に      
            郷愁を覚えます
            人々が一生懸命に生きていた時代でした 今はあの当時より
            多少は豊かになっているのかも知れませんが人の心の有り様では
            どうなんでしょう
            野球 相撲 懐かしい名前ばかりです
             春の要請 地に這うように咲く花々 寒さの中に何故かふと
            温もりの感情を目覚めさせます それにしてもホトケ草の強さ
            わが家の屋上でも根を張り 花を咲かせます それでいて邪魔にも思えない小さな花です
            それにしても見事な野菜 収穫の喜びが見ているだけで伝わって来ます
            収穫の喜び 何時も羨望の眼差しで拝見しています
            今年は総ての野菜が高いです 日常 無くてはならない物だけに主婦の方々の
            困惑が眼に見えます
             薄化粧 海辺育ちの人間にも何故か懐かしい風景です
            国土の三分の二が山々 この国に生きる者の自然な感情ではないでしょうか
            わたくしの中では東北地方に旅行をした時に眼にした山々の姿が
            今でも鮮明に 懐かしさと共に甦って来ます そしてふと
            すぎもとまさと の「吾亦紅」を思い浮かべます          
             美しく青きドナウ ウイーンフィルハーモニーの定番ですね
            小澤征爾の追悼番組でもやっていました 映画の舞踏会場面でもしばしば登場して
            ポピュラー化していますね
             今回もいろいろ楽しませて戴きました
            有難う御座います











遺す言葉(486) 小説 希望(10) 他 永遠 今 

2024-02-18 12:01:08 | 小説
             永遠(2023.12.10日作)


 自分が捉えたと思った " 今 "は
 既に過去であり
 永久に取り戻す事は出来ない
 遠くのものは遅く動き
 近くのものは速く動く
 眼の前のものは瞬時に過ぎて行く
  " 今 "という時はない
 今 現在は永遠だ
 今 現在を捉える事は誰にも出来ない
 今 現在 眼の前に迫りくるものは
 瞬時に過ぎて 過去となり
 遠ざかる 止(とど)まる事はない すなわち
 今という時はなく 今現在は無であり
 永遠だ


             今


 時間という概念がある限り
 今という時は存在しない
 今は未来と過去の接点であり
 それが止まる場所はない
 今とは時間を突き抜け
 未来も過去も包み込む概念
 永遠だ
 人は常に未来と過去を生きている
 すなわち
 永遠の今を生きている





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

       
              希望(10)              

 

 
 
 修二が出口に向かう人の群れに混じって階段を駆け下り、ひしめき合う人達と一緒に会場の裏口に着いた時には既に大勢の人達がそこに居た。
 みんなが高木ナナが出て来るのを待ちながら、興奮した面持ちではしゃいでいた。
 修二は人々の後ろから背伸びをして出入り口の様子を窺った。
 人の頭が見えるだけだった。
 もっとよく状況を知りたくて高木ナナの色紙が入った袋をしっかりと抱き締めて、強引に人垣を掻き分けて前へ進んだ。
「何よ ! この人、痛いわね」
 女の人が声を上げて言って、修二を小突いた。
 修二は意に介さなかった。
 更に進んだ。
 その時、ひと際高い歓声が上がって、人の群れが出口に殺到した。
 高木ナナが姿を見せた。
 修二は背伸びをしてみたがそれでも人の頭が邪魔になって見えなかった。
 修二は我を忘れて夢中になっていた。
 この機会を逃したら何時また高木ナナに会えるのか分からない ! 
 人込みの中で揉みくちゃになりながら前へ進んだ。
 突然、眼の前が開けて、ガードマンに囲まれた高木ナナが群衆を掻き分け掻き分け歩いて来る姿が眼に入った。
「通れないから道を空けて下さい。すいません、道を空けて下さい。道を空けて」
 先導役の中年のガードマンが声を枯らして叫びながら、殺到する群衆を掻き分けていた。
 高木ナナは白いパンタロンに胸元と袖口にフリルの付いた薄桜色のブラウスを着ていて、赤い野球用の帽子を被っていた。
  TとNを組み合わせた白い文字が正面に見えた。
 周囲を固めた警備の男達に守られながら高木ナナは、次々に差し出される手を握っては笑顔で群衆の歓声に応えていた。
 周囲を固めた男達が必死で、高木ナナに近付こうとする群衆を抑えていた。
 修二は自身も人々に小突かれながら、我を忘れて次第に近付いて来る高木ナナの姿に見入っていた。
 今、眼の前に確実に近付きつつあるのは紛れもなく、あの田舎のレコード店で握手をした時の高木ナナだった。笑顔もあの時の高木ナナそのものだった。
 修二の胸には抑え切れない懐かしさが込み上げ。
 白い手の柔らかな感触が実感を伴って生々しく甦った。
 握り締めた自身の手が汗で濡れた。同時に何時、色紙を取り出してナナに見せようかと、焦りにも似た思いが生まれていた。
 四メートル、三メートル、高木ナナの姿が次第に近くなって来た。
 修二は我を忘れたまま袋の中から色紙を取り出すとそれを振りながら、ナナさん、ナナさん、と叫んでいた。
 やがて高木ナナの姿が修二の眼の前に来たーー。その時の自分を修二は覚えていなかった。ただ、夢中で手にした高木ナナの色紙を振って群衆の中から抜け出し、高木ナナに近寄ると警護の男達の腕を振り払いながら、ナナさん俺、ナナさんに貰った色紙を持ってるんです、握手をして下さい、と叫んでいた事だけが鮮明な記憶として残っていた。
 無論、そんな修二はたちまち何人もいる警護の男達に取り押さえられ、腕を掴まれて身動き出来なくなっていた。
 高木ナナはその様子の一部始終を最初から眼にしていた。
 だが、修二を見詰める高木ナナの眼には明らかな恐怖と嫌悪の色が浮かんでいて、修二の記憶に残る優しく、親し気に微笑み掛けて来る眼差しは何処にも見られなかった。のみならず、
「何、この人、怖いわよ。早く向こうへ連れて行ってよ !」
 と、怒りと憎悪を滲ませた声で叫んでいた。
 修二を取り押さえた男達はその言葉と共に更に一層、容赦の無い力を込めて押え付けて来た。
 その間に高木ナナは足早に修二の前から去って行った。
 高木ナナの姿が見えなくなると修二の腕や身体を押さえていた男達は突き飛ばすようにして手を離した。同時に足蹴にする者もいた。
 高木ナナの姿が見えなくなるのと一緒に群衆もまた修二の周辺から遠ざかって行った。
 修二だけがポツンと一人、その場に残された。
 ーーどれ程の時間、呆然とその場に立っていたのだろう ?
 そんな自分に気付くと修二はのろのろと歩き出した。
「名前はなんて言うの ? これからもよろしく応援してね」
 白く柔らかい手をしたあの時の優しい高木ナナはもうそこには居なかった。高まる人気と共に傲慢さを身に付けた気位の高い高木ナナだけが居た。
「早く向こうへ連れて行ってよ」
 叫んだ時の憎悪と敵意に満ちた眼が修二の脳裡から消えなかった。
 現在、ポップス界の若手ナンバーワンスター、高木ナナ。
 現実が高木ナナを修二の手の届かない遠い所へ運び去ってしまっていたーー。
 どのようにして自分の部屋へ帰ったのかも覚えていなかった。
 部屋へ入って明かりを点け、眼の前に高木ナナのポスターを見た時、初めて我に返った。
 それまでは総てが夢遊の世界の出来事だった。そして、現実の世界に還ると同時に修二は激しい怒りに捉われた。
 ポスターの中で高木ナナは何時もの優しい眼差しで微笑んでいた。
 こんなの嘘っぱちだ !
 修二は大きな声で叫ぶと壁のポスターに手を延ばして力任せに引き剥がした。そのまま思いっ切り引き裂いた。
 ポスターはたちまち修二の手の中で小さくなり、小さくなったポスターはそのままごみ箱に投げ入れられた。
 あんな奴なんかの顔など見たくもない !
 足元に色紙と演奏会のプログラムの入った袋が落ちていた。
 眼にするとまた、新たな怒りに捉われた。
 なんだって、こんな物を後生大事に抱えて来たんだ !
 拾い上げてそのまま、ポスターと同じ様に力任せに引き裂いた。
 同じ様にゴミ箱に投げ捨てた。
 高木ナナに関する物はそうして総てが無くなった。 
 淋しさはなかった。
 奇妙な満足感を覚えていた。
 もともと、何も有りはしなかったんだ。自分だけが独りでいい気になっていただけなんだ。
 そう納得すると、気持ちも落ち着いて、明日からもまた、これまでと同じ様に生活してゆこう、と思った。



             4



 九月に入って間もない日だった。
 修二は調理場で長ネギを洗っていた。
 午前十一時に近かった。
「修二、おふくろさんが来ているぞ」
 マスターが修二の傍へ来て言った。
 普段と変わらない静かな口調だった。



  
             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

          
               御忙しい中 御眼をお通し戴き 有難う御座います
              二月半ばで春の気候 春の話題が何故か似合います
              わが家でもフキノトウ 芽を出しました
              様々な花が開く季節 待ちわびる気持ちが躍ります
              美しい花の写真を見ればなおさら 豊かな春の情景が浮かびます
              今朝もNHKで高知県の話題を取り上げていましたが       
              自然の景色には自ずと心洗われる気がして気持ちが和みます
              嫌な事ばかりが続く世の中 美しい自然 景色
              花々を眼にする事がせめてもの慰め 救いです
               花と小父さん 浜口庫之助 初めてです
              この歌を亡くなった野坂昭如が 幼児趣味の嫌な歌だと
              酷評していた事を思い出します 決して そんな歌だとは思えませんが
              浜口庫之助の成功へのジェラシーがあっのかも知れません
                いのく いのかす わたくしの方では いごく いごかす でした
              マンサクの赤 初めてです
               自然の美しさを映した写真 心洗われます
              有難う御座いました

























           

遺す言葉(485) 小説 希望(9) 他 欲望

2024-02-11 12:00:20 | 小説
             欲望(2021.3.10日作)



 人は欲望によって 行動する
 欲望を持たない人間は 死んだ人間
 欲望 その欲望が 人を
 高みへと 飛翔 飛躍 させる 
 しかし 欲望は
 無限自由 自由無限では ない
 人は 人との関係 係わりの中で 生きる
 人との係わりを損なう欲望は 悪の欲望
 罰せられ 拘束され 棄却されて然るべき 欲望
 正ではない 負の欲望
 ✕(バツ)の欲望




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             希望(9)




 北川はバイクを買って仲間に入れと頻りに勧めたが、修二にはその気が無かった。
 誰にも煩わされず、一人で街を歩いている時が一番気持ちが休まった。
 依然として心の中には堅く凍り付いて溶けないものがあった。
 それが何処から来て、何に依るものなのかは修二自身にも分かっていなかった。分かろうともして来なかった。
 今の修二に取って必要なのは一人だけの時間だった。一人だけの時間の中で思いのままに過ごす事、それ以外に今の修二が望む物は何も無かった。
 その日、修二は何時もの休みの日のようにゲームセンターで長い時間を過ごした。その後、デパートの屋上へ行った。
 屋上には庭園があった。
 様々な小動物や小鳥、植木や草花などが売られていた。
 修二が好きなアイスクリームやハンバーガーを売る店もあった。
 休日の最後は何時もそこで過ごした。
 六、七人の人と一緒にエレベータ―を降りて修二は思わず足を止めた。
 右側の壁の辺りから強烈に修二の意識を貫いて来るものがあった。
 様々な催し物のポスターが貼られていた。
 その中の一枚に修二は吸い寄せられたように近付いて行った。
 高木ナナの名前と笑顔がそこにはあった。

       高木ナナ スペシャルステージ
        トップアイドル遂に登場 !
              県民ホールに於いて
              十九日 水曜日のみ

 ポスターの中の高木ナナはそこでもやはり、修二が見馴れた何時もの微笑みを浮かべていた。
 修二はその微笑みを意識すると途端に胸が締め付けられるような感覚を覚えて息苦しくなった。
 修二が毎晩、自分の部屋で見馴れている高木ナナがそこにいる !
 心臓の鼓動が速くなるのを意識して咄嗟にその場を離れた。
 湧き起こる高木ナナへの甘い感情に誘われ、何時もの夜の二人だけの世界に引き込まれてしまいそうな気がして自身への危うさを覚えた。
 少し距離を置いた場所へ戻ると漸く気持ちも落ち着いて、思わず深い息を吐いた。
 改めて冷静な眼差しでポスターに眼を向けると細かい文字を読んだ。

 < 前売り券残り僅少 当日売りなし 午後六時三十分開演 >
 
 水曜日なら店が休みだ !
 咄嗟に頭の中を走る思いがあった。
 歓喜の思いと共に、高木ナナと握手をした時の感触が生々しく甦った。
 修二は急いでエレベーターへ戻ると入場券売り場のある地階へ向かった。
 もしかして もう売り切れてしまってるのではないか ?
 エレベーターにいる間中、気持ちが落ち着かなかった。
 抱いた危惧は半分、当たっていた。
 一階席は総て売り切れていた。
 二階席後部に僅かな席が残っていた。
 代金の三千円は持っていた。
 二階席後部という位置が不満だったが、買わずに見送ってしまう事の方が心残りな気がして購入した。
 手にした入場券を改めて見つめ直した。
< 高木ナナ・オン・ステージ >と書かれた文字が期待感と共に心の中で躍った。
 期待に高まる胸で前売り券を改めて袋に収め、宝物のように大切にズボンの尻ポケットにしまった。
 今日は七月五日だから、二週間後の水曜日だ。
 その日を待ち遠しいように思った。

「明日、県民ホールへ高木ナナのショウを見に行くので、夜、部屋を留守にしていいですか」
 火曜日の夜、店が終わった後でマスターに聞いた。
「高木ナナのショウ ?」
「はい。六時半からなんで」
「構わねえよ。高木ナナのファンなのか ?」
 マスターは修二の顔を見て笑顔で言った。
「はい」
 その夜、修二は押し入れから布鞄を出して中に仕舞ってあった高木ナナのサイン入り色紙を取り出した。
  
   高木ナナ      
     
  山形修二君へ
   これからもよろし 
     応援してね !

 色紙の文字を丁寧に辿りながら、明日はこれを持って楽屋へ行って握手をして貰おと考えた。
  高木ナナはきっと懐かしがって、喜んで握手をしてくれるに違いない。事に依ったらまた、新しいサインも貰えるかも知れない。
 当日、修二は二十分程バスに揺られて県民ホールに着いた。
 広場では既に開場を待ち切れない若者達が入場の順番待ちをして長い行列を作っていた。
 修二が行列の最後部に並んで三十分程してから開場が告げられた。  
 客席が埋まり場内の騒めきも収まって間もなく、金糸で縁取りされた真紅の豪華な緞帳が上がり始めた。
 やがて舞台の中央に、バンドを後方に従え、スタンドマイクに手を掛けて立っている高木ナナの姿が足元から徐々に見えて来た。
 その全身が現れて緞帳が上がり切ると同時に演奏が始まった 
 会場内いっぱいに大きな音が響き渡った。
 高木ナナがスタンドマイクに手を掛けたまま歌い始めた。
 高木ナナ独特の透き通るような響きのいい声が一気に会場内の観客を虜にした。
 黒いレザーパンツにノースリーブの赤いシャツ、ヒールの高い赤のブーツを履いた高木ナナの細身の体がスタンドマイクを手にしたまましなやかに舞台の上を動き廻った。
 熱狂と興奮、会場全体が一瞬も途切れる事のない歓声に沸き返った。
 修二もその渦に巻き込まれていた。
 約二時間、高木ナナは熱狂的に歌いまくった。<目まぐるしく変わるライト><スモークにかすむステージ>プログラムに踊る言葉そのままに、夢の中の事かと思われる世界が展開された。と同時に修二は奇妙な感覚の混乱にも陥っていた。
 今、眼の前に見ている高木ナナが普段、ポスターやテレビの中で見ている高木ナナと同じ人だとはどうしても思えなくなっていた。 
 奇妙に遠い感覚の中にいた。何処か、見知らぬ世界の人のような気がしてならなかった。
 何年か前、田舎のレコード店で握手をした時の、あの柔らかい手の感触が舞台の上の高木ナナに感じ取る事が出来なくなっていた。正しく夢の中の人のようにしか思えなかった。それでも高木ナナは最後の曲が終わると自身も昂揚した声で、
「みんな、声援どうも有難う !」
 と、客席に向かって手を振り、言った。
 一斉に拍手と歓声が沸き起こって観客は総立ちになり、会場は興奮のるつぼに陥った。
 やがて降り始めた緞帳がそんな高木ナナの姿を見えなくしていった。
 場内に明かりが点いた。
「早く外に出て車に乗るのを見ようよ」
 修二の隣りにいた女の子達が興奮した声で話し合っていた。
 修二もその声に誘われた様にその気になり、女の子達の後を追った。高木ナナの楽屋を訪れる心算でいたその思いも忘れていた。












遺す言葉(484) 小説 希望(8) 他 石は空裏に立つ ほか

2024-02-04 12:14:50 | 小説
            石は空裏に立つ(2022.11.23ー30日作)
              禅の言葉

 この世は巡る
 朝が来て 夜が来る
 風が吹く 雨が降る
 陽が射して 雲が動く
 
 わたしは ここに居る


            言葉
         
 
 言葉はその人 独自の言葉で語る事によって
 一つの世界が創られる
  それを記録する事によって
 世界が広がる


 言葉をいじくり廻しても詩は書けない
 物事 事象の本質 その心を見抜く力がなければ
 詩は書けない


 詩とは
 言葉を人の心に響かせる技術
 感動を生む力を持った言葉を書く行為


 言葉は信用出来ない
 言葉を信用する
 心が言葉を決定する
 言葉は心



            行動

 
 行動は言葉を超える
 行動の前に言葉は無力だ


 プロとは物事の境目を
 明確に理解出来る人の事を言う
 プロは臆病だ
 プロは闇雲な行動に走らない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(8)



 
 皆、二十五、六歳だった。
 クロちゃんは中でも一番大柄で、髪をモヒカン刈りにしていた。
 鍛え上げられた様に見える逞しい肉体はボクサーかレスラーを連想させた。    
 その上、その夜集まった仲間内でも一番口数が少なかった。
 一見、近寄り難い印象で一言一言、重い口調で言葉を口にした。
 暫くは北川が提案し、みんなが議論に加わり、最後にクロちゃんが締めるという話しの展開が続いた。
「とにかく、当分の間はチームで走るのは控えた方がいいよ。何人か、自分達だけで走るのはかまわねえけっど。マッポ(警察)がこれまでになく、本気で取り締まりに掛かって来てるからさあ」
 北川が結論を口にした。
 クロちゃんは自分でビールを注いでは頻りに飲んでいた。
「ブラックキャッツだって、大っぴらには走れねえだろうからなあ」
 ひとりが言った。
「それはそうだよ。奴らにだってマッポの眼は光ってるさ」
 北川が言った。
「じゃ、いいかな。悪りいけど俺、先に帰らせて貰うよ」
 クロちゃんがグラスに残っていたビールを一気に飲み干して言った。
「けえ(帰)んのか ?」
 北川が聞いた。 
「うん」
 クロちゃんが腰を上げた。
 誰もクロちゃんの行動に不快感を見せなかった。
 みんなが病気の母親を抱えるクロちゃんを労わるように優しい眼差しを向けた。
「クロちゃんも当分、走れねえんだろう ?」
 一人がクロちゃんを見上げて言った。
「うん、大人しくしているよ」
 黒い革ジャンパーに腕を通しながらクロちゃんは言った。
 相当量のビールを吞んでいたが酔った素振りも見せなかった。
「おふくろさんがしんべえ(心配)するもんな」
 北川が言った。
「うん」
 クロちゃんは気のない返事をした。
「修二、鍵を開けてやれよ」
 北川が修二を促した。
 修二は頷いてすぐに立ち上がった。
 クロちゃんが先に立って階段を降りた。
 クロちゃんがブーツを履いている間に修二はサンダルを引っ掛けて店の出口へ向かった。
 ガラス戸を開け、鎧戸を鍵を開けて押し上げた。
「有難う」
 クロちゃんは鎧戸を潜り抜けて外へ出た。
 修二も後に続いた。
「おふくろさん、うんと悪いんですか」
 ジャンパーの胸元を合わせているクロちゃんの背中を見ながら修二は聞いた。
 一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二は何故か親しみに近い感情を覚えていた。
 口数が少なく、何処か無愛想に見えたが、人柄には信頼が置ける気がした。
「癌なんだ。もう手遅れみてえだ」
 クロちゃんは胸元を合わせるファスナーの手元に視線を落としたまま答えた。
 特別の感情も見せない無表情な声だった。
 修二は癌だという言葉に息を呑んだ。
「手術をしても駄目なんですか」
 少しの間を置いてから聞いた。
 クロちゃんはヘルメットを脇に抱えてオートバイの置いてある場所へ向かった。
「駄目みてえだ。今は薬でどうにか持ってるけっど、今度、入院するような事があったら終わりだろうって医者は言ってた」
 何処か、他人事のようにクロちゃんは言った。
「おふくろさん、癌だって知ってるんですか」
 クロちゃんの後を一足遅れで歩きながら修二は聞いた。
 何故か、おふくろさんを大事にするクロちゃんが気になった。
「多分、知ってると思うよ。本人には何も言ってねえけっど」
「心配ですね」
 心底からの思いを込めて修二は言った。
「あと半年か、長く持っても一年だと思うんだ。だもんで、なるべく心配えを掛けねえようにしてるんだ。おふくろは俺が二歳の時、大工をしていた親父が材木の下敷きになって死んでから、ずっと苦労しながら育ててくれたんだ。だから、今は俺が出来る限りの事はしてやりてえって思ってるんだ」
 クロちゃんは静かな声で自分に言い聞かせるように言った。
「おふくろさんと二人だけなんですか」
「うん」
 大きなオートバイが小さな空き地の片隅に黒い影を見せていた。
 クロちゃんはオートバイに近寄るとハンドルにヘルメットを掛け、ジャンパーの内ポケットに手を入れてキイを取り出した。
「クロさんはおふくろさんが居ていいですね」
 クロちゃんの背中を見ながら修二は言った。
 母親と心の結ばれているクロちゃんが羨ましく思えた。
「おめえ、おふくろは居ねえのか ?」
 クロちゃんは振り返ると皮手袋を嵌めながら修二を見て言った。
「いや・・・・」
 修二は言ったが、なんと答えたらいいのか分からなかった。
 クロちゃんの視線を痛いように感じて顔を反らした。
 修二に取っては、母親は実の母親でありながら母親ではなかった。
 何処かの尻軽な浮気女の一人にしか思えなかった。
 母親へ抱く感情は憎しみの感情しかなかった。
 母親を恋しいとも思わなかった。
 醒めた感情だけが修二の心を支配していた。
 クロちゃんは修二の曖昧な言葉にもこだわっていなかった。
 ヘルメットを被るとすぐにオートバイに跨りキイを差した。
 エンジンの乾いた音が起ち上って夜の空気を引き裂いた。
「じゃあな、有難う」
 クロちゃんは修二に言って、オートバイはすぐに動き出した。
「おやすみなさい」」
 修二は言って軽く頭を下げた。
 オートバイは一気に加速してたちまち夜の中を遠ざかって行った。
 修二は小さくなるクロちゃんの後ろ姿を見送りながら、心から母親と呼べる人のいるクロちゃんを羨ましく思った。
 クロちゃんには帰って行く場所がある・・・・
 マスターもおかみさんも鈴ちゃんも、ここではみんな優しかったが、それでも修二は自分には帰る場所が無い気がして寂しさが込み上げた。
 クロちゃんの姿が見えなくなると修二は店に帰った。
 なんとなく、クロちゃんなら好きになれそうだという気がした。

 修二は週に一度の休日には何時も一人で過ごした。





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              
              takeziisan


               有難う御座います
              一月 初めの川柳 まず堪能 相変わらずクスリ・・・・
              楽しいですね 書く事の魅力が此処にも伺えます
              もう十年以上も前の記事 何事もなく過ぎるのが一番の幸せ
              正にその通りだと思います
               中学生日記 前にも拝見した記憶があり 書いたと思いますが
              全く同じような日常を過ごして来ました
              狭い日本 西も東もそんなに変わらないものです
               白菜写真 ただただ羨望の眼差しのみ 何か見ているだけで
              日常が浮かんで来て気持ちがほのぼのとします
              こんな何気ない物の中に眼には見えない生きる事の喜びが隠されているのですね
              この平凡な写真が実に心に沁みる良い写真に思えます
               朝の目覚め・・・・夢 わたくしも夢の不思議を文章にまとめてあります
              何時か発表する心算でいますが ちよっと長くなりますので
              バランスを考えて 何時かと 思っているところです
               雪山の写真 いいですね 実際の光景 是非見てみたい物の一つとして
              心にありますが出不精のわたくしには叶わぬ夢です
               カチューシャ ダークダックス 歌声喫茶ーーー
              つい先日も BSにっぼん こころの歌 でカチュウーシャを放送しました 
              ダークダックスを思い浮かべながら聞いていました
               今回も楽しませて戴きました
              何時も楽しい記事 有難う御座います






















遺す言葉(483) 小説 希望(7)  他 飾り人形

2024-01-28 12:48:51 | 小説
            飾り人形(2024.1.17日作)



 大仰な言葉を口にし
 見映えのいい場所で
 見映えのいい事だけに身を委ねる人間に
 眼を奪われるな この世界 世の中は
 普段 眼に見えない場所 隠れた場所で
 日々 地道に 自身の仕事に励む
 多くの人々によって 支えられている
 見映えのいい場所 陽の当たる場所で 日々
 華やぎ踊る人間達は 地道に自身の仕事に励む
 陰の人達が差し出す手の上で 浮かれ騒ぐ
 飾りの人形にしか過ぎない
 大地が無ければ花の咲く樹木は育たない




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               
               希望(7)


 
 
 その日、二つのチームが走るという情報はしかし、警察には筒抜けだった。双方がぶつかり合うインターチェンジには、二十数台のパトロールカーや白バイが待機していた。
 北川が率いる<ファイヤードラゴン>と<ブラックキャッツ>は警察を中にして、それぞれの領域に車を並べて向き合う形になった。
「すぐに解散しなさい。この道路を走る事は出来ません。直ちに解散しなさい」
 警察官はパトロールカーの中から何度も呼び掛けた。
 双方の車が今にも飛び出しかねない勢いでエンジンを吹かし続けていた。
 辺りには異様な雰囲気と騒音が立ち込めた。
 時折り、乗用車や大型トラックがその間を通り抜けて行った。
 双方の睨み合いは二時間近くに及んだ。
 時々、どちらからともなく二、三台の車が飛び出して相手を挑発する様に派手な走りを展開したが、それもすぐに白バイに制止された。
 最初に引いたのは<ブラックキャッツ>だった。
 百台近くの四輪や二輪が<頭>に続いて次ぎ次ぎに中央に飛び出しUターンをしては、自分達のエリアへ帰って行った。
「あのまま、まともにぶつかっていたら、明らかにこっちの分が悪かったですよ」
 北川は言った。
 走りの夜、北川は修二のナイフを借りには来なかった。
「じゃあ、警察の車に助けられたようなもんじゃねえか」
 マスターが言った。
「まあ、そう言えるかも知んねえですね」
 北川も素直に認めたが、
「とにかくあい奴等、一度、さんざん傷め付けてやんねえと、いい様にのさばって来やがっからね。こっで済んだと思ったら大間違いさ」
 如何にも腹立たし気に言った。
「誰か、警察に垂れ込んだ奴がいるのか ?」
「それは分かんねえけっど、警察も俺達の動きには眼を光らせてるんで、派手な行動はすぐに読まれちゃうんですよ」
「まあ、ぶち込まれねえようにした方がいいさ」
 マスターは言った。
「俺達はピュアに走りを楽しんでるっていうのに、奴らが突っ掛かって来やがんでどうしょうもねえですよ」
「舐められたもんだなあ」
 マスターは笑った。
「まったく、すっかり舐められちゃったですよ」
 北川は腹立たし気に言った。


            3



「マスター、また二階を貸して下さいよ。集会をやろうと思うんで」 
 北川が言った。
「使っても構わねえけど、修二に聞いてみな。今は修二の部屋になってんだから」
 マスターが修二をかえり見て言った。
 北川はマスターの言葉に修二を見て、
「今度の土曜日に部屋を貸してくれよ」
 と言った。
「うん」
 修二は気のない返事をしたが、北川達が何をするのかは分からなかった。
 マスターが別段、反対する様子も見せなかったのでそう答えるより仕方がなかった。
 ただ、修二に取って気がかりなのが部屋に貼ってある高木ナナのポスター写真だった。
 その写真を誰にも見られたくなかった。
 高木ナナは修二が唯一、心を寄せる憧れの人だった。
 また、秘かな恋人でもあった。
 その秘密を知られるのが恥ずかしかった。
 もし、北川達が部屋に来るのなら、あの写真は外さなければ、と思った。
 修二が小学校六年の時で、父が倒れる少し前の事だった。当時、歌手になったばかりの高木ナナが駅前のレコード店にキャンペーンで来た。その時、高木ナナはCDを買った人にサイン入り色紙とポスター写真をくれて、握手もしてくれた。
「名前はなんて言うの ?」 
 高木ナナはそう聞いてから色紙に、

   高木ナナ
 
  山形修二君へ
   これからもよろしく
    応援してね !

 と書いてくれた。
 その時握手をした白いきれいな手の柔らかな感触が今でも鮮明に脳裡に残っていて、ふと思い出しては夢のような世界に浸っていた。
 現在、高木ナナはポップス界のトップスターだった。
 テレビで見る彼女の美貌には一段と磨きが掛かっていて、押しも押されもしないスター歌手の雰囲気が備わっていた。
 あの高木ナナが色紙に俺の名前を書いて握手をしてくれたんだ、テレビの画面に高木ナナを見る度に得意な気分に包まれて言い様のない幸福感で満たされた。
 店が終わってマスターとおかみさんが車で帰ると修二はすぐに鎧戸を降ろして鍵を掛け、二階の自分の部屋へ上がった。
 一日中、閉め切りになっていた部屋は扉を開けると正面の壁に高木ナナのポスター写真が貼ってあって、修二を笑顔で迎えてくれた。
" 今日も一日、御苦労様 "
 何故か、ポスター写真は何時もそう語り掛けて来てくれるような気がしていて、修二自身も思わず笑顔になっていた。
 それからの時間は修二にとって一日のうちで最も至福に満ちた時間だった。この時間の為にのみ一日があるような気がした。高木ナナとたった二人だけの時間・・・・
「二階を使うのはいいけど、あんまりでっけえバイクや車を通りに並べて置くなよ。一応、ここは堅気の店になってんだから、変な事で警察に嗅ぎまわれたくねえからなあ」
 マスターは言った。
「それは大丈夫ですよ。来るのはサブ(副)だけですから。せいぜい六、七人ってとこですよ。車もみんな分散して置くように言っておきますから」
「クロも来んのか ?」
「ええ、おふくろさんも退院したみてえで、奴も工場へ出てますよ」
 土曜日の夜、零時過ぎに北川を始め、六人の男達が修二の部屋へ集まった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              桂蓮様


               勉強のストレス
              拝見しました 見落としていたのでしょうか
              初見の気がします とても面白く拝見しました
              学生時代に還った様に机に向かって参考書類のページをめくる姿が
              自ずと文面から浮かび上がって来ます これも普段 退屈に思われる日常の中の
              ちょっとした変化で面白かったのではないですか     
              いずれにしてもアメリカ市民 その新しい視点でまた
              ブログに日常をお書き下さい 
              この一年 アメリカはちょっと騒がしいですね
              日本でも連日 あの大統領候補を目差す嫌な男の顔がテレビ画面に
              映し出されますが その光景を見ていますと アメリカという国の品格も
              大分落ちたのかなあ などと思ってしまいます
              いずれにしても これからはアメリカ市民としての自覚が必要になりますね
              とても興味深く拝見しました
               有難う御座いました



              takeziisan様
 
              
               いやあ 今回のブログ 特別の懐かしさと共に
               たっぷり楽しませて戴きました
               藤本二三吉 梅は咲いたか かっぽれ
               幼い頃 よく耳にしたものです ラジオからこれ等の歌が流れていた当時が蘇ります
               江戸情緒たっぷり 懐かしいですね 取り分け
               かっぽれ まだテレビが出て間もない頃だったと思いますが
               かっぽれ で当時の 雷門助六 この人が踊った踊りが今でも
               眼に焼き付いています
               踊りの名手と言われた人ですが それこそ
               踊りを踊らずに踊る その言葉通りの踊りで
               後にも先にもあのような芸は見た事がありません 
               ですから今の若い人たちの踊りを踊る踊り など全く見ていられません
               何事に付けても昔の修行の方が厳しかったような気がします
               今ではちょっと見栄えが良ければすぐに売り出してしまう
               芸はそっちのけで人気取りだけの芸です
               また レコードのかすれた音が殊更 郷愁を誘います
                冬の木立の景色 水仙 見ているだけで気持ちが洗われます
               今のわたくしどもの環境では再び あのような自然の中に身を置く事は
               出来ないでしょう 懐かしさばかりです
                ブラザーズ・フォー 七つの水仙 知りませんでした
               初めてです 遥かなるアラモ グリーン・フィールドなど
               よく耳にしていたものですが          
                背伸ばし 伸脚 屈伸 分かります
               わたくしは腰の痛みはないのですが 右膝がチクチク痛みます
               軟骨のすり減りによるものなのか 昔あった神経痛の名残りなのか
               ちょっと判断が付き兼ねています 大した痛みではないのですが
               夜 寝ている時などにも突然 襲って来ます
               なんで 何もしてないのにと不思議な気がします
               それだけに多分 神経痛の名残りなのだと思ったりしています
               いずれにしても 足腰の痛み これ以上悪化させないよう
               お気を付け下さい
                今回も楽しいひと時を過ごさせて戴きました
               有難う御座いました