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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(66) 賞

2014年08月22日 00時00分00秒 | #小説

 美術展覧会場内のホールである。受賞した者達が順々に表彰されていた。葉桜もその中の一人で、少し前、観客席の前列から上がり、表彰状とトロフィーを受け取ったところだった。この手のものは貰(もら)って悪い気がしない…と、トロフィーを眺(なが)めながら葉桜は壇上で北叟笑(ほくそえ)んだ。葉桜が貰ったのは努力賞である。あとで懇親会…と続く会の構成上、誰彼(だれかれ)となく賞を与えようという開催者側の意向で受賞となったのだ。だから、招待された者で受賞していない者は皆無(かいむ)だった・・ということになる。
「お疲れさまでした…。なかなかの力作ですね!」
「はあ? …ええ、まあ」
 懇親会が開かれ、グラス片手に葉桜は紳士風の知らない人物からそう言われ、ニタリ! とした。どうも同じ受賞者の感じがした。
「あなたは何賞を?」
 紳士風の人物は唐突(とうとつ)に訊(たず)ねた。
「ははは…、まあ」
 努力賞を…とも言えず、葉桜は笑って濁(にご)した。よく考えれば、オリンピックで金メダルをとった訳でもなく、ただ描いて出品した一枚の絵なのだから、どうってことはないのだ。そこらのゴミと一緒にされて捨てられても決して不思議ではなかった。だから、努力賞とトロフィーを頂戴できただけでも御(おん)の字で、葉桜は少しずつ恥ずかしくなっていた。懇親会にいることすら不釣り合いに思えた。
「私は技巧賞でしたよ」
「ほう! それは素晴らしいですね!」
 少し驚いたふりをして褒(ほ)めた葉桜だったが、内心では、『まあ全員が貰えるんだから、大したことはないさ…』と、冷(さ)めて思っていた。
 美術展覧会は会員制で、会の維持のため、年会費を出資する仕組みになっていた。額自体はそれほど高額ではなかったが、それでも、懇親会ぐらいでは元は取れんぞ…と、葉桜は、さもしくも思った。
 数日後、葉桜の職場に一報が届いた。美術展覧会からの電話だった。
「おめでとうございます! あなたの絵が世界の○○賞受賞作に決定いたしましたっ!」
「えっ! 本当ですかっ!!」
「はい! ただ今、大賞決定の報がっ!」
 電話の声は興奮ぎみに震えていた。葉桜もその声に促(うなが)されるように興奮した。
「そうですかっ! 有難うございましたぁ~! ところで、○○賞って、なんですか?!」
「はあ?」
 葉桜は、その賞を知らなかった。

                                THE END


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