水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(67) よく効きます!

2014年08月23日 00時00分00秒 | #小説

 宝木は病院へ行こうか、どうか迷っていた。というのは、悪いとは感じないし、具合が悪いというほどの体調でもなかったからだ。妻に夜な夜な攻められ、宝木は体力的にギブアップ寸前だった。しかし、かろうじて夜のお勤めを果たし、仕事のお勤めに朝、疲れ顔で家を出ていたのだ。妻は益々、艶(つや)っぽく綺麗になっていく。それに反比例するかのように、宝木は貧相になる一方だった。これ以上、痩せたくはないのだ。勤務の予定はその日に限って空(あ)いていて、昼から明日のプレゼンテーション準備だけだった。
 気づけば、病院前のエントランスに宝木は立っていた。そして、いつの間にか受付で手続きを済ませ、待合室の長椅子にいた。
『宝木さん、どうぞ…』
 マイク音が響き、宝木は診察室へ入った。
「どうされました?」
 医者が馴(な)れた静かな声で言った。
「… どこも悪くはないんですがね」
「えっ?」
 医者は宝木の言う意味が分からず、怪訝(けげん)な表情をした。
「調子はいかがですか?」
 医者は気を取り直して、また訊(たず)ねた。
「はあ、お蔭(かげ)さまで…」
「はあ?」
 医者は、やはり意味が分からず途方に暮れた。
「ちょっと、前を開けて下さい」
 医者は聴診器を耳に付けながら、医者のパターンにしようと試みた。それには逆らわらず、宝木は素直に胸をはだけた。
「大きく吸って…。はい、吐いて…」
 医者は聴診器を胸へ当て、上から目線の言い方で呼吸音を確かめた。
「…大丈夫ですね。どこか、調子悪いんですか?」
 医者は、訝(いぶか)しそうに宝木に訊ねた。
「いや、どうも精力が…」
「はあ?」
「ナニですよ。ははは、先生…」
「あっ! ああ! ああ! そっちでしたか。ははは…」
 やっと意味を理解したのか、医者は笑って声を和(やわ)らげた。
「いいのが、ありますよ。よく効きます! お出ししておきましょう」
「アレですか?」
 宝木は、てっきりバイアグラだ…と思い、ニヤけながら暈(ぼか)して訊(き)いた。
「アレじゃないんですがね。…まあ、よく似たようなものです。よく効きます!」
「そうなんですか?」
 宝木は身を乗り出した。
「間違いありません。その新薬、現に私が服用してるんですから。はっはっはっ…!」
 医者は大笑いした。
「ははは…。効きそうですね?」
 釣られて宝木も笑った。
「ええ。間違いなく、よく効きます!」
 医者が太鼓判を押した。その瞬間、不思議にも宝木は、ムラムラと身体に力が湧(わ)くのを覚えた。

                             THE END


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