夏も終わり近くになると、お地蔵さまを囲こみ、各地で地蔵盆(じぞうぼん)と呼ばれるお盆の供養(くよう)が行われる。日本に古くから伝わるレトロ感覚のいい風習である。津島盆(つしまぼん)[今から考えれば神さまのお盆というのも妙な話だが…]というのも昭和30年代当時は存在したが、今の時代も続いているかは定かでない。枝葉末節(しようまっせつ)となったので話を地蔵盆へ戻(もど)すが、僧侶(そうりょ)の読経(どきょう)のあと、子供達は手に持つ大きな袋の口を開け、並んでお下がりのお菓子を入れてもらう・・という救済(きゅうさい)を受ける。このことがお地蔵さまが子供の味方(みかた)といわれる由来(ゆらい)? なのかどうかは別として、子供達は有り難~~い功徳(くどく)を受け、愉快になる訳だ。だがこれは、お菓子も乏(とぼ)しかった昭和30年代前半の子供達の感じた愉快な気分で、物が有り余った今の子供達に通用する話なのかは分らない。昭和30年代の子供達といえば、すでに老人の域へさしかかろうとする際(きわ)どい世代である。^^ この時代の子供達は、朝からお菓子の救済を受けるぺく? ^^ お地蔵さまや神さまの祠(ほこら)を水で洗いながら束子(たわし)で必死にゴシゴシと磨(みが)き、ひとまずその場は撤収(てっしゅう)したものだ。そして暗くなると、袋を密(ひそ)かに潜(ひそ)ませた浴衣などを着てお参りするでなく現れるのである。この愉快な感覚は、物資の乏しい時代だったからこそ言えることで、現代では味わえない感覚なのかも知れない。
二人の男がお地蔵さまの前に敷かれたバランシートの上に座り語らっている。
「ほう! 時代も変わりましたなぁ~。昔は茣蓙(ござ)でしたが…」
「ははは…時代ですよっ、時代っ!!」
「ですなっ! 時代、時代っ! ははは…」
「で、津島盆はっ?」
「さぁ~…? 今もやってるんですかなぁ~? ははは…ゴシゴシとっ!」
「ははは…ゴシゴシでしたなっ!」
救済された愉快な気分で遠い過去を話し合う二人の男の姿が、行灯(あんどん)の微(かす)かな光りに浮かんでいた。
完