物事をやっていると、上手(うま)くいくときと、いかないときがある。いくときは愉快な気分になるからいいのだが、いかないときは少しずつ気分が悪くなるから困りものだ。ただ、この気分は個人差があり、別にどうとも思わない気長(きなが)な性格の人から、イラッ! として途中でやめたり、投げ出してしまう人と違いがある。共通するのは、愉快な気分ではない・・という点である。上手くいかないとき、気分を愉快にすれば物事がどうなるか? である。妙なもので、愉快にすれば、その上手くいかない原因がポロッ! と現れたり分かったりするのだから不思議といえば不思議な話だ。どうも、冷静さがその上手くいかない原因を自(おの)ずと探り出すからなのかも知れない。要は、上手くいかないときこそ愉快な気分が求められる・・とも言える。
一人の男が旅をしていた。乗り継ぎが上手くいかず時間が二時間ばかり出来てしまい、仕方なく男は知らない町へ降り立った。男は、上手くいかないときはこんなものさ…と、そう気にする風でもなかった。スケジュールを組まないブラリ旅だったということもある。まったく一面識もない町で、男としては地元の人に訊(たず)ねる以外、どうしようもなかった。
「ちと、お訊ねしますがっ?」
「はい、なんですかな?」
通りかかった老人が、逆に訊ね返した。
「あの…旅の者なんですが、この辺りで有名な所などは…」
「おお、いいとこへ来られたっ! 今日は牡丹(ぼた)神社の祭礼日でごぜぇ~ましてなっ! 是非、ご見物なさるがよいっ! なにせ、数メートルの高さから牡丹餅(ぼたもち)を真下で大口を開けて待つ多くの男衆(おとこし)めがけて落とす神事がごぜぇ~ましてなっ! 上手く食えた男衆は神男として一年、皆の衆から崇(あが)められるんでごぜぇ~ますよっ!」
「上手くいかないときはどうなるんですかっ?」
「ただの笑い話になる・・というだけのことでごぜぇ~ますよっ」
「ほう! それは面白そうだっ!」
上手くいかないとき、愉快な気分になれるという典型的な一例である。^^
完