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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-16- 音(おと)

2018年09月08日 00時00分00秒 | #小説

 誰しも愉快になる音(おと)と不愉快な音はある。もちろんそれには個人差があり、程度の差もある。笛や太鼓の祭りの音(ね)は風雅(ふうが)でいいものだが、雑音(ざつおん)と感じる者もいることだろう。窓際(まどぎわ)を走る電車の振動音を心地よい子守唄として聴(き)き、愉快な気分で眠る剛(ごう)の者もいれば、騒音公害だっ! と息巻(いきま)いて訴訟に及(およ)ぶ繊細(せんさい)な神経の持ち主だっている訳だ。それだけ音は影響力が大きいといえる。世の音を観(み)られるという有り難い菩薩さまもおられるくらいのものだ。^^
 とある公園で誰が聴いても下手(へた)なバイオリンを弾(ひ)く一人の男がいた。唯一(ゆいいつ)の救いは、その男が誰にも聴かそう! と意気込んでいないことだった。いい気分で散歩に来た人々は、思うでなくその男を迂回(うかい)した。男を避(よ)けた・・のではなく、愉快な気分を削(そ)がれる音を避けたのである。男はそうした状況にも怯(ひる)むことなく弾き続けた。すると妙なことに、散歩をする一人の男が、バイオリンを弾く男に近づいてきた。
「いい音色(ねいろ)ですねっ!!」
 男は傍(かたわ)らまで近づくと、そう語りかけた。
「ははは…そ、そうですか? いやぁ~、お恥ずかしいっ!!」
 周(まわ)りを避けて散歩する人々は、その二人を妙な変人のような目で見ながら通り過ぎていった。
 愉快な音には感じ方に違いがある・・という、ただそれだけの愉快なお話である。音の答えは、ただ一つではない・・ということだろうか。^^

                                 


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