水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

愉快なユーモア短編集-40- 懐(ふところ)具合

2018年10月02日 00時00分00秒 | #小説

 誰だって懐(ふところ)具合がよければ愉快な気分を満喫(まんきつ)できる・・としたものだ。外出している場合などは特にそうだ。それも遠方へ旅する場合は尚更(なおさら)である。多額の金を持っているという安心感が心の奥底にあるからだろう。
 仲のよい二人が行楽の旅へヒョイ! と出た。目的地を定めない出たとこ勝負の旅である。
「いいもんですなぁ~こういう旅も…」
「はい、なにせ時間に追われませんからなぁ~」
「そうそう! 思いつきの気侭(きまま)旅ですから…」
 各駅停車の地方列車の窓からは、都会では見られない田畑の景色が流れる。懐具合のよさが余計に旅気分を高揚(こうよう)させるのか、二人は満足げに笑う。
「次の駅で降りてみますかな?」
「はい、そうしましょう…」
 二人が降り立ったとある駅は無人駅で、人っ子一人いなかった。
「妙な駅ですなぁ~? 誰もいませんぞ…」
「地方の無人駅ですからな…。少し歩けば、誰ぞに会うでしょう」
「そうですな…」
 二人は駅を出ると、のんびりと歩き始めた。ところが、行けども行けども、いっこう人に会わない。
「? 妙ですなぁ…」
「はい、誰もいませんなぁ。おっ! あちらに人家(じんか)らしい建物が…」
 二人は細道を抜け、遠くに見えた人家らしい建物の方へと近づいていった。ところが、である。人家らしく見えた家は廃屋(はいおく)で、やはり人の気配はまったくなかった。
「弱りましたな。そろそろ昼時(ひるどき)ですが…」
「はい、少し腹が減ってきました…」
「ですなっ!」
 二人の愉快な気分は、いつの間にか消え失(う)せていた。
「ともかく、駅へ戻(もど)りましょう!」
「はいっ!」
 二人は駅へ取って返した。しばらくして、二人はようやく元(もと)の駅へ辿(たど)り着いた。だが、しかしである。駅には時刻表がなかった。それもそのはずで、この地方路線は一日、上下一本の単線だったのである。二人はそのことにまったく気づかず、駅へ降り立ったのだった。うっかりミスも甚(はなは)だしかった。二人はとうとう夕方までジィ~~っと空(す)きっ腹(ばら)を抱(かか)えたまま、鄙(ひな)びた駅の中で下りの列車を待つ破目になってしまった。
 懐具合がよくても、必(かなら)ずいい結果が得られるとは限らない・・という一例である。^^

                                 


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