水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (84)やる前か、やった後(あと)か?

2019年06月02日 00時00分00秒 | #小説

 朝、物事をやり始めたとしよう。そしてその作業は順調に進んでいく。だが、もう少しというところで昼となる‎。ここで、物事の出来は二つの違いを見せることになる。一つは、そのまま作業が継続されることで物事が無事に完成、終了し、昼食、あるいは休憩になるという形だ。この場合は、事後(じご)の昼食、あるいは休憩である。もう一つは、一端(いったん)、作業は中断され、昼食、あるいは休憩になる形だ。この場合だと物事は完成、あるいは終了しておらず、継続作業をする必要が生じる。要は、物事の完成や終了が、やる前か、やった後(あと)か? ということに他(ほか)ならない。この二つの違いは、同じ完成や終了した場合でも、その後に大きな差異を見せることになる。東海道を進んで、スンナリと関ヶ原の戦いに勝つか、あるいは中山道を進んで梃子摺(てこず)った挙句(あげく)、関ヶ原の戦いに間に合わなくなるか・・の違いによく似ている。^^
 とある公民館で日曜大工教室が開かれている。今週の課題は本棚だ。
「そろそろ、昼ですなぁ~!」
「ですなっ!」
 ほぼ完成が近づいたところで、昼を告げるチャイムが高らかに鳴り響いた。
「ああ、もう少しなんですが…、どれどれ、昼にしますか?」
「いや、私は仕上げてからにします」
「ああ、そうですか。では、お先に…」
 一人は完成する前に昼食に出かけた。そしてもう一人は、最後の完成まで続けた。そこへ教室の講師が現れた。
「ほう! 完成しましたか。いい出来ですねっ! 作品に手抜きがありませんっ!」
「いやぁ~、お恥ずかしい。もう一人の方より、かなり下手(へた)な出来で…」
「いえ、下手でもいいんですよ。手抜きがあれば、作品としての価値は、まったくありませんっ!」
「お昼になってもですか?」
「はい、それでも、です!」
 講師は、はっきりと言い切った。
 やる前か、やった後か? ということになれば、やはり、やった後がいいようだ。^^

                                  


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