水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (92)キャスト

2019年06月10日 00時00分00秒 | #小説

 皆さんもよく観られると思うが、テレビや映画の中に必ず登場するのがキャストとかの名前だ。もちろん、その作品スタッフの裏方(うらかた)なども登場する訳だが、特にこのキャストを料理に例えれぱ、どうなるだろう? と、ふと思った次第だ。暇(ひま)な人だ…他に考えることはないのかい!? と思われる方もお有りだろうが、考えてしまったのだから仕方がない。そこはそれ、一つお許しを願って、お読みいただきたい。^^
 どこにでもいそうな家庭の主婦が、どこでも作られそうな料理を作っている。言わずと知れた料理、カレーである。材料は、これも言わずと知れたジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉だ。これらのキャストが、調理されながら、それでも主婦の隙(すき)を窺(うかが)っては、なにやらコソコソと話をしている。
『そりゃ~当然、肉のおいらが主役でしょうよっ!』
『なに言ってるのっ! 味(あじ)よ、味っ! ルーの私がいなきゃ、話にならないでしょっ!』
『…まあ、私やタマネギ、ジャガイモさんは脇役(わきやく)だから、どぉ~ってこともないんですがね…』
『そうそう! ニンジンさんのおっしゃるとおりっ! 私らはグツグツと煮(に)られるだけのものですから…』
『ジャガイモの私も、そう思いますなっ!』
『あらっ! そうでもなくってよっ! ルーの私に、いいお味、下さってるじゃありませんのっ!』
『そう思っていただければ有り難いです』
『確かに…』『はあ…』
 そんな思いを知ってか知らずか、プロデューサーの主婦は、いつものようにキャストである材料を適当に調理し始めた。
『あら、嫌(いや)だわっ! そんなやり方っ! ったくっ! ちっとも、上達してないじゃないっ!』
『ルーさん、おいらも諦(あきら)めましたよっ! ここへ出演したのが運の定め、とね…』
『そのとおりっ!』『そのとおりっ!』『そのとおりっ!』
 肉に促(うなが)され、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ達は、異口同音(いくどうおん)に煮込まれた。

                                  


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