企業とは個人では成し得ない生業(なりわい)を企(くわだ)て、世の中に貢献する組織である。決して金儲(かねもう)けで肥え太ることを最終目的とする組織ではない・・とは、いつぞや聞いたような聞かなかったような夜間の講義である。^^ それは分かっているのだろうが、厳(きび)しい生存競争をかけ、それでも企業は企業を続けねばならないのが辛(つら)いところだ。^^
ここは、とある中堅企業である。なんとか同種の大手企業に打ち勝とうと社長の皺宮(しわみや)は、社長椅子で腕組みをしながら策を練(ね)っていた。そこへ、入ってこなくてもいいのに秘書室長の若肌(わかはだ)が社長室へ陽気に入ってきた。
「ははは…いつもながら、お元気そうでなによりでっ!」
「君はいつも、そんな馬鹿なことを言って入ってくるが、なにか心配ごとは他にないのかねっ!」
「はあ、そういう社長は、いかがなんでございましょうか?」
「私かっ!? 私はいつも会社のことで悩んどるよ。能天気な君と一緒にしてもらっちゃ困るっ!」
「いや、それは余(あま)りにっ! ははは…」
若肌は血色のいい頬(ほお)を紅潮(こうちょう)させて愛想笑いした。愛想笑いで気持を暈(ぼか)すところがこの男の得意とするところで、今まで一度も社長の機嫌を損(そこ)ねたことがなかったのは、ある種の特技とも言えた。
「それはそれとして、大手に打ち勝つ、何か妙案でもないかね、君?」
「と、申されますと?」
「分からないか? 長髪(ながかみ)グループに先を越されそうじゃないかっ!」
「ああ、長髪グループですか…。でしたら! こちらは角刈(かくが)りの束子(たわし)頭でやり返しゃ、いいじゃありませんかっ! ははは…」
「ほう!! 束子頭ねっ! …それは気づかなかったぞっ! よしっ! すぐに専務を呼んでくれたまえっ!」
皺宮は何が頭へ浮かんだのか? 急に相好(そうこう)を崩(くず)した。
「分かりましたっ!!」
若肌は陽気な早足で社長室から出ていった。
危機に瀕(ひん)した企業が、企業としてそれでも存続していくには、奇抜(きばつ)なアイデアが必要なのかも知れない。^^
完