物を運ぶ場合、目的を達すればそれでいい・・と普通は思うが、実はそうではなく、正しい運び方というのがあるのだ。^^ 何を言ってるんだっ、あんたはっ! とお怒りの方もあるだろうが、事実なのだから仕方がない。運び方が悪いと、正しい運び方で運んだ場合と同じように目的は達せられるが、その先に展開する結果が全然、違ってきて、助かるものも助からないというのだから怖(こわ)い。^^ ただ、正しい運び方をしても助からない場合も当然、あるにはある。このお話も、そんな一例である。
とある片田舎(かたいなか)である。地方道を車で走って事故に遭遇(そうぐう)し、怪我(けが)をした男がパトカーで病院へ運ばれようとしていた。掠(かす)り傷だから、運ばれている自分の立場を忘れ、とやかく口が五月蝿(うるさ)い。
「あと何分で着くんです、いったいっ!」
「いやぁ~、そう言われても、ここいらは病院がねえんでねぇ~~旅のお方」
横柄(おうへい)な口を利(き)く男だな…と警官は思ったが、立場上そうとも言えず、聞き流した。
「まあ、それはいいとして、病院はあるんでしょうなっ!」
「そりゃ~、あるこたぁ~ありますよ」
「こんな掠(かす)り傷、どうでもいいからっ! 駅へ、駅へ頼みますよっ! 今日、着かんと、間に合わんのですっ!」
「そりゃそうなんでしょうがね。私も一応、仕事だもんでっ!」
巡査も負けてはいない。これが正しい運び方なんだっ! と心に言い聞かせながら、反発して返した。
「分からん人だっ! 私がいいと言ってんだから、それでいいでしょうがっ!」
「いやいや、そういう訳には…。おっ! 見えてきましたっ!」
巡査の声に男が外を見遣(みや)ると、車が走る前方遠くに民家が見えてきた。だがそれは、どこから見ても病院ではなく、ただの民家だった。
「あれが病院?」
「はいっ! ここいらでは唯一(ゆいいつ)の動物病院でっ!」
「ど、動物病院!」
「はいっ! まあ、あんたも動物なんだから、いいでしょ、ははは…」
「…」
男は、何がははは…だっ! と怒れたが、そうとも言えず、心で俺は助からん…と思った。
助かる軽い怪我でも、正しい運び方で心理的に助からない場合があるという、実に馬鹿げたお話である。^^
完