水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (3)もうダメだ…

2019年06月21日 00時00分00秒 | #小説

 何をしても思うようにいかなくなったとき・・そんな状況を人は万事休すと言う。別に万事でなく千事でもいいと思うのだが、まあそう言うのだからそうしておこう。^^ 万事休してもうダメだ…というとき、思ってもいないことで助かることにでもなれば、その喜びは途方もなく大きなものに違いない。今日は、そんなお話だ。
 昔々(むかしむかし)[once upon a time]のことである。とある片田舎に煮干(にぼし)村という小さな山村(さんそん)があった。百姓の与平や村人達は、長く降らない雨に弱り果てていた。日照りがこのまま続けば作物が全滅する恐れがあったからだ。
「弱ったのう。ああ、弱った弱った…」
 少しも弱っていないような顔で、与平は村人達にそう言った。
「ったくっ! おめぇ~は、ちっとも弱っとりゃせんがっ!」
「んだっ、んだっ!」
 他の村人も与平の顔を見ながら異口同音(いくどうおん)にそう言った。与平が弱っていないのには一つの理由があった。与平には天から授(さず)かった先を見通せる能力があり、三日もすれば潤(うるお)いの雨が降ることが疾(と)うに分かっていたからである。
「いやいや、弱っとるよぉ~、おらぁ、十分に弱っとるっ!」
 そう言う与平の顔を、訝(いぶか)しげに村人達は取り囲んで眺(なが)めた。
 そうこうして、三日ほどが経ち、村の者達が待ち望んだ念願の雨が降り注(そそ)ぎ、田畑を潤した。もうダメだ…と、半(なか)ば諦(あきら)めていた村人達の喜びは一入(ひとしお)だったが、それに比べ与平の喜びは今一つ・・といったところだった。
 心底、困り果て、もうダメだ…と思っていたときに助かる喜びは格別だ・・という、どうでもいいようなお話である。^^

                                 


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