老婆が言った20分ばかりは瞬く間に過ぎ去った。二人は老婆が淹(い)れたドクダミ茶をひと口だけ啜っただけで、ジィ~っと借り物の猫のように正座して待った。幸いにも床は硬い板ではなく干し草だったから助かった。
「お待たせいたせぇましただ。では…」
老婆は庵の中に作られた祭壇を向くと、一変した声で祈祷し始めた。口橋と鴫田はただ、その進行を見守る他はなかった。
「%$#%$!"''%%~~""#$&%#"'#!!~~」
老婆が祈る、訳が分からない祈祷は10分ほど続いたが、突然、老婆は何者かにとり憑(つ)かれたかのように茣蓙(ござ)の上で気絶し、そのままの位置で横倒しになった。そして数秒後、またゆったりと茣蓙の上へ座り直し、静かに語り始めた。
「分かりましただ…。ミイラは、とある崇高なお方が連れて行かっしゃれましたな…」
「とある崇高なお方とは?」
口橋が呆然と訊ねた。
「崇高なお方は崇高なお方ですじゃ。あなた様にお分かりになろうはずがごじゃりません…」
口橋は、そうか、俺には分からないのか…と老婆のお告げを鵜吞みにした。^^
「では、どこへ…?」
鴫田がさらに訊ねた。
「あの方向の彼方(かなた)でごじゃりますじゃ…」
老婆は庵の中の地平線ではない斜め上空を指さした。
口橋も鴫田も、老婆の信じがたいお告げを、ただただ聞き入るだけだった。さらに、老婆は付け加えた。
「あなた様がお思いの警察署内や病院の霊安室ではごじゃりましぇん…」
では、どこへ? …と訊ねようとした鴫田が、思わず口籠った。老婆が返す現実離れしたお告げが少し怖くなったのである。^^