口橋は覆面パトのエンジン・キーを捻った。
「はいっ!」
鴫田(しぎた)は、急ぐって、運転してるのは口さんでしょ!? とは思ったが、とてもそんなことは言えず、素直に返事した。
「署長に訊けって、どういうことだ、鴫田」
「さあ…」
「署長が婆さんを知っていたとはな…。署では億尾(おくび)にも出さなかったぞ…」
「そういや、そうですよね。そこが妙だといえば妙なんですよ」
「だいいち、合同捜査本部の立ち上げを了承したのは署長なんだしな…。新任の鵙川(もずかわ)が捜査から外されたっていうのも気になる…」
「庭取さんは、どうなんですかね…」
「どうとは?」
「副署長なんですから、何か鳩村さんのことを知ってられるんじゃないですか?」
「婆さんに言わせれりゃ、署長は天から降りてこられた尊いお方ということになるからな、ははは…」
口橋は祈祷師の老婆の言ったことを、まったく信じてはいなかった。
覆面パトは一路、青梅街道を麹町署へと、ひた走った。