重要な明日の予定を立て、竹原は眠った。
さて、次の日の朝である。竹原が目覚めると、予定したことは記憶していたが、困ったことに肝心の内容を忘れてしまっていた。さて、どうしたものか…と竹原は善後策を考えながら必死に思い出そうとした。
竹原はまず、前夜のことを頭に思い描いた。歯を磨(みが)いて…寝室へ入り…メモを見たっ! そうだっ! メモだっ!! と、竹原は、これですべてが解決したぞ…とニンマリした。だが、その予想は見事に外(はず)れていた。確かにメモは走り書かれていたが、その内容は今日、予定していることとは、まったく関係のない内容に思えた。竹原は今までにも思い出せない人の顔や事物はあったが、そういうときは、あいうえお順に言葉の先頭から順々に追って思い出すことにしていた。今回は予定だから内容が大きく、忘れるはずがなかった。だが、竹原はすっかり忘れていた。時間は刻々と過ぎていく。竹原は焦(あせ)った。しかし、思い出せない。ともかく落ち着こう! とテーブル椅子へドッカ! と座った竹原だったが駄目だった。そのうちいつしか竹原はウトウトと眠気に沈んでいった。
ハッ! と気づくと、時間はそう経(た)っていなかった。こうなっては仕方がない。食べてからにしようと、軽い朝食をとりあえず済ませた竹原は、ふたたび思い出すことに専念した。そして、小一時間が経過していった、だがやはり、竹原は予定を思い出せなかった。すると、また竹原は眠くなった。
ハッ! として腕を見ると、時間はそう経っていなかった。というか、眠ってしまった時間よりも逆に早い時間だった。そんな馬鹿なっ! と思ったが、それは現実だった。いや、現実のようだった。まあ、いいか…と竹原は、また予定を思い出すことに専念した。だがそのとき、腹がグゥ~~っと鳴り、竹原は腹が空(す)いていることに気づいた。これは、いくらなんでも怪(おか)しいぞ…と竹原は気づいた。というのも、朝食は軽いながらも済ませた記憶があった。それは間違いなく現実に思えた。だが、夢で朝食を食べた・・とも考えられた。そう考えれば、現実に空腹な今の状況の説明がつく。夢か現実か…と竹原が思い倦(あぐ)ねたとき、竹原はハッ! とした。昨日、思い描いた予定を思い出したのである。予定は、明日の夜の献立に使う材料の買出しだった。ははは…なにも必死に思い出すほど重要なことじゃない…と竹原がニヤリとしたとき、重要な来客が来ることを思い出した。それで、材料を買うことが重要になるのか…と竹原は得心した。そしてまた、竹原は眠気に襲われた。
気づくと、竹原は寝室で眠っていた。朝だった。夢という現実が始まろうとしていた。
完
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