水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (49)弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)

2020年02月22日 00時00分00秒 | #小説

 AをBが食べ、そのBがCに食べられ、食べたCが、『食べた食べたっ!』と喜んでいると、そこへDがヒョッコリと現れ、『こりゃ、美味(うま)そうだっ!』とばかりにパクリ! とCを食べてしまう。^^ これが自然界における食物連鎖(しょくもつれんさ)だと私達は学校で教(おそ)わったものだ。この食物連鎖は弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)といえる現象なのだが、何も食物に限ったことではなく、身近な私達の社会の中でも見受けられるのだ。この現象がいつ起きるのか? は疑問となる点だが、妙なタイミングで起きる場合がよくあるのは不思議といえば不思議な事実だ。まあ、世界七不思議にはならない疑問ではあるが…。^^
 とある会社の昼過ぎである。食事から戻(もど)った社員全員が仕事を始め、しばらくしたところだ。管理職は上がってきた書類に目を通し、決裁印を押している。一般社員はパソコンと格闘し、必死に午前中の事務処理を続けている。午後二時前、全員、眠さに耐えての時間帯だ。
「ファ~~、どうも今日はいかんっ! 実に眠いっ! 君、この書類を引き継いでくれたまえっ! これが決裁印。頼んだよっ!」
「分かりました…」
 部長室に入ってきた専務に分厚い書類を手渡され、部長はアングリした声で了承(りょうしょう)した。気分は『自分でしろっ!』なのだが、とてもそんなことは言えず、とりあえず顔だけ笑って引き受けた。声と顔のギャップはスキー競技の滑降なら間違いなく転倒する感じである。^^
 専務が消えると、部長は、「チェッ!」とひと声、発し、決済印を押し始めた。自分のノルマもあるから大変な量だ。だが、眠気(ねむけ)は容赦(ようしゃ)なく部長を襲う。
 その10分後である。
「アァ~~、どうも今日はいかんっ! 実に眠いっ! 君、この書類を引き継いでくれるかっ! これが決裁印。頼んだよっ!」
「分かりました…」
 課長席の前で部長に手渡された課長は、アングリした顔で「クソッ!」とひと声、発し、決裁印を押し始めた。自分のノルマ+部長の決裁+専務の決裁もあるから、とても無理な量だ。
 しばらく決裁印を押していた課長だったが、眠気も手伝ってか、『こりゃ、ダメだっ!』と諦(あきら)め、係長を呼んだ。
「少し頭痛がするから早退させてもらうよ。君、悪いがコレ頼むっ!」
「えっ!! 僕が決裁をするんですかぁ~~!?」
「分かりゃせんよっ! これが専務印。で、これとこれが部長と私の印だっ! 済んだら、決裁印はデスクのココへ入れておいてくれ。これが鍵(かぎ)だ。じゃあ、よろしくなっ!」
 課長が社屋から消えたその後が、どうなったか? は疑問だが、これがある種の弱肉強食の一例となる。^^

                                


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