ここは天界である。
『今や我が国は、ゆゆしき事態に至っておりますなっ!』
『はあ…まあ、今に始まったことではないのですが』
神々は下界を眺(なが)めながら話しておられた。
『いや、確かに…。随分(ずいぶん)と前から、かなり国力は落ちております』
『そうですぞ。半世紀ばかりも前は、皆、頑張っておりましたが…』
『頑張ったお蔭(かげ)が、このざまですか…』
『いや、頑張ることはいいことなんですがな。なにをどう頑張るかじゃないんでしょうかな』
『頑張り方、いや、頑張る方向を間違えた・・ということでしょうな』
『頑張って文明を進めた結果、得たものも多いようですが、失ったものも…地球上から絶滅した生物も含め、これが結構(けっこう)、多い』
『それは言えます。文明を進めて既存の古いものを排除する・・この思考方法ですな』
『そうです。新しいものはすべて役立つ・・と人々は勘違いをした』
『新しいものでも古いものでも、いいものはいい、悪いものは悪いという取捨選択を忘れ、古いものをすべて切り捨てていった間違いです』
『その結果、そのツケがすべて国民に回ったんですな』
『というか、国民へツケが回されたと…』
『回したのは政治家で、その政治家を選んだのは国民なのですから、やはり国勢レベルが落ち込むのは自業自得(じごうじとく)ですか?』
『自業自得とまでは言えないかも知れませんが、どうせ変わらないという諦(あきら)めと煩(わずら)わしさが混ざったような政治に嫌気(いやけ)がさした感情がそういう結果を招いたんだと思いますよ。選挙の棄権(きけん)は賛成票を投じたことになるんですな。それが分かっちゃいない。ほら、あそこで鼻毛を抜いているあの男、選挙に行ってませんが、ああいう男が結果として、国勢レベルを下げたんですよ』
「誰か、俺の悪口、言ってんのかっ?」
天界の神から指をさされた下界の自堕落は、クシャミをしたあと腹立たしそうに言った。そのとき、雲もないのに空に一瞬、稲妻が走った。そして轟音(ごうおん)が轟(とどろ)いた。男は怖(こわ)さで身を縮めた。
完
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