最近の夏はお馬鹿だっ! と滴(したた)り落ちる汗を拭(ふ)きながら真下は怨(うら)めしげに炎天下の空を眺(なが)めた。あの頃は…と小学生当時を思い出そうと真下は巡った。すると、急に眠くなった。有り難いことにクーラーが効き始め、部屋が冷えてきていた。それで眠くなったのだ。いつしか真下は微睡(まどろ)んでいた。
『ははは…こんちわっ! あの頃の夏です!』
『えっ! あんたが、あの頃の?』
『そうですよ。正真正銘(しょうしんしょうめい)のあの頃の夏です!』
『ほんとですか~?』
真下は疑わしそうな眼差(まなざ)しで、あの頃の夏を見た。
『ええええ、そらもう。間違いなくあの頃の夏です。日射病当時の・・最高気温32℃の』
えらく強調するなぁ…と真下は思った。だが、よくよく考えれば、それも頷(うなず)けた。今の熱中症という言葉がなかった暑いが夏らしい夏・・真下には、今のお馬鹿な夏ではなく当時は頭のいい夏に思えた。青い空に入道雲が漂(ただよ)い、山や海に人は溢(あふ)れた。決して人は熱中症で病院へ搬送される事態にはならなかった。真下も若かった。山や海で戯(たわむ)れる自分がいた。
ハッ! と真下が目覚めると、すでに4時は回っていた。外はまだ、灼熱地獄のように茹(う)だっていた。真下は少し悪寒を感じた。汗が体熱を奪ったようだった。もう少し拭いておけば、夏風邪にはならなかったのだ。お馬鹿なのは今の真下だった。
完
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