川塵録

『インテグリティ ーコンプライアンスを超える組織論』重版出来!

コンプラを変え,会社を変え,日本を変える!

中島敦『李陵』の中で、後藤徹さんを思わせるフレーズ

2025年02月24日 | 言葉
私が毎朝の朝焼けのランニングの時に聴いているAudibleの『李陵』。

以下のフレーズが、この李陵のクライマックスと思われるのですが、ここを聴くたび、私はいつも12.5年監禁された後藤徹さんのことを想っている。

~~~以下引用~~~

想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもこれから死に至るまでの長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄まじくも壮大なものと言わねばならぬ。 

飢餓も寒苦も孤独の苦しみも、祖国の冷淡も、己の苦節がついに何人(なんぴと)にも知られないだろうというほとんど確定的な事実も、この男にとって、平生の節義を改めなければならぬほどのやむを得ぬ事情ではないのだ。

 ~~~引用終わり~~~

これを後藤徹さんに当てはめると:

想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもいつまでも続くか分からぬ長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄まじくも壮大なものと言わねばならぬ。 

飢餓も寒苦も孤独の苦しみも、家族の冷淡も、己の苦節がついに何人にも知られぬかもしれないというほとんど絶望的な事実も、この男にとって、平生の信仰を改めなければならぬほどのやむを得ぬ事情ではないのだ。

____________

「蘇武持節」ってのは中国では四字熟語的になっている。こちら

『李陵』を愛して30年になりますが、「持節」とか「節を持す」って言葉は、蘇武の故事から生まれた、ってことを、本日初めて知った、、、
 

 ※ 「節義」の「節」までが蘇武由来かは今日のところは未確認

蘇武が胡地で節を持していたのは19年。伝説の19年。19年も祖国漢を思い、使者の証である「節」を持していた。だから「蘇武持節」が故事になった。

後藤さんが信仰を持ち堪えたのは12.5年。「後藤持節」ならぬ「後藤持信」(信仰を持つ)も四字熟語になっていい。

後藤徹さんに敗訴した鈴木エイト氏や拉致監禁に深く関与してしらばっくれていらっしゃる紀藤正樹弁護士にも、この中島敦の名作『李陵』を読んでいただきたいものである。

 
 後記:リンク貼れませんが、日蓮聖人もこの蘇武の逸話を引用している文献が8個もある。日蓮も蘇武好きだったか、、
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ガンディと聖と俗

2025年02月24日 | 宗教
【執筆原稿より抜粋】

ガンディと聖と俗

マハトマ・ガンディ

渋沢栄一『論語と算盤』の文脈で挙げたい国際人が、インドのガンディです。

本書のテーマである「正しさと美しさ」の文脈では欠かせない人物です。世俗・物質の反対概念である、精神・宗教性を極めた人でした。だからマハトマ(聖者)と渾名されました。

ガンディは弁護士出身ですが、社会を変えるためにはまず自分を変えねばならぬと考え、欲望を極限まで抑えることに挑戦しました。その自分の禁欲的な姿が説得力を持つと信じていました。

具体的には、食欲、性欲、睡眠欲、所有欲を極限まで削りました。

まず、食欲を抑え、あの痩せぎすの姿になりました。

次に、37歳で妻との性交を絶ち、晩年には自分の性欲が失くなったことを試すために若い女性と同衾して寝るという変な実験をしています。そのためガンディをロリコン呼ばわりする人もいます。

また、睡眠時間も極限まで削り、朝2時ころに起きて10キロの散歩をすることを日課にしていました。

さらには、所有欲も削ぎ落とし、死後に残したのはメガネ・杖・時計・食器(木製お椀とスプーン2本)・服(着る綿布2枚とサンダル2足)以外は3冊の聖典のみでした。文字どおり、無所有・無一文で死んだのです。

ちなみに、無一文・無所有で死んだのは足尾鉱毒事件の田中正造と同じで、田中の場合は小石3つとマタイ伝のみでした。

「7つの社会的罪」

このガンディはヒンズー教徒ですが、ヒンズー以外にもいろいろな宗教を学び、7つの社会的罪(Seven Social Sins)を唱えました。

  1. 理念なき政治
  2. 労働なき富
  3. 良心なき快楽 
  4. 人格なき学識 
  5. 道徳なき商業
  6. 人間性なき科学
  7. 献身なき信仰

この7つの「罪」はいずれも良くないものとして納得できますが、2つ目の「労働なき富」が渋沢の唱えた商業道徳と似ています。

現代的な価値観からすると、「労働しないで儲ける」ことはむしろラクでコスパも良く素晴らしいことと受け入れられがちです。

不労所得を得て早く仕事を辞めるFIRE(Financial Independent, Retire Early)が勝ち組だよと考えている方も多いでしょう。

しかしガンディはそれを「社会的な罪」だと言うのです。少し掘り下げてみましょう。

「労働なき富」は、「少なく働いて多く稼ぐ」(More with less)ことです。効率的にラクして儲けることです。世俗的・物質的な価値観では「正しい」です。

一方、その反対の「多く働いて少なく稼ぐ」(Less with more)という精神的・宗教的価値観もあります。

ボランティアや修行僧やマザー・テレサがイメージできます。彼女は「貧しいことは美しいこと」「所有すればするほど、捕らわれてしまう。少なく所有すれば、より自由でいられる」と言っています。

イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんも「大きな努力で小さな成果を生みなさい」と説いています。

この対比を表にすると冒頭画像(以下で再掲)のようになります。



世俗的な「正しさ」は、ラクして儲けること。でもそれは宗教的な価値観からすると「醜い」。

一方、宗教的な「美しさ」は、犠牲になる辛い道。それは世俗的な価値観からすると「誤り」。

「世俗的には誤りであることが美しい」と言うと違和感を感じるでしょうが、例えば、三浦綾子『塩狩峠』の主人公が良い例です。

この主人公は他者の犠牲になって死にます。その犠牲的精神に美しさを感じますが、資本主義社会における世俗的・金銭的価値観からすると「誤り」といえます。

聖と俗

この物資(世俗)と精神(宗教)との対比は、有史以来繰り広げられてきた聖と俗の問題です。かつては政教一致でしたが今は政教分離になりました。

しかし、アメリカ大統領の就任宣誓で聖書に手を置くように、政教は完全に分離されていません。どうバランスを取ればいいのでしょうか。

私の卑近な例で言えば、私も常に聖と俗の間で揺れています。

私は弁護士事務所の代表として、組織維持のために売上を上げる必要があります。そうでなければスタッフとその家族に迷惑がかかります。ですから私はお金が欲しい俗物です。

とはいえ、ガンディや田中正造の心の美しさに惹かれているため、できるだけ安価な法律サービスを提供してクライアントに喜んでもらいたい。

具体的には、本来なら20万円の仕事に25万円の請求書を送るのは、良心が許しません。とはいえ、胸を張って20万円もらえるのに15万円しかもらわないと、経営が圧迫され、スタッフのボーナスに皺寄せが行きます。

このように、私は常に「たくさん儲ける」と「少なく儲ける」の間で揺れています。

人間は私のように常に揺れているものだと思います。

我利我利亡者に見える人でも1%くらいは自分のアコギさに良心の呵責を感じている。

一方、ガンディや修行僧のような聖者でも名利を求める下卑た心は1%くらいはある。品性と修練によってそれを表現していないにすぎません。

このように、人間はみんな聖と俗の中間をふらふら行ったり来たりしているのです。人間みんなちょぼちょぼなのです。完全な聖者も、完全な悪人もいません。

自分の心の中で常に聖と俗が戦っている。そういう自覚をもつバランス感覚が、論語で孔子が言う「中庸」なのだと思います。 

本書では、この聖と俗、物質と精神、哲学用語で形而下と形而上と言いますが、この両者を「正しさ」と「美しさ」という言葉・切り口で対比しています。

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内村鑑三と文鮮明は同じことを考えていた

2025年02月24日 | 宗教
若松英輔の『内村鑑三 悲しみの使徒』を読んでいる。たぶん再読。

再読のはずだけど新しい発見がすごく多い。

内村鑑三の再臨運動(1918〜)の若松さんの解釈が、さすがに内省的というか深奥に迫るというか。



他者の痛みを「私」の痛みとする。

それが内村鑑三にとってのキリスト教の道だった。

それどころではない。

さらに踏み込んだ解釈を若松さんはしている。

内村鑑三は、宗教をなくそうとして再臨運動をしていた。

内村の使命は、この世から宗教をなくすことであった。




これって、文鮮明と同じじゃないか、、、

内村や文の他に、「宗教をなくそう」と思っていた宗教家っているんでしょうか。

寡聞にして知らない。

どなたかご存知であれば、教えてください。




家庭連合の教義の詳細はよく知りませんが、「内村鑑三の唱えた再臨運動」そのものをごっそり教義化して取り入れたのが家庭連合とも言えそう。

 ※ 文の生年(1920)が内村再臨運動の直後だという事実から、内村の再臨運動を高く評価する家庭連合信者がいらっしゃることも知っています。



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