イスラム諸国は分裂する 外交評論家・加瀬英明氏に聞く中東問題(2)
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外交評論家 加瀬英明
プロフィール
(かせ・ひであき) 1936年、東京生まれ。77年から福田・中曽根内閣で首相特別顧問を務めたほか、『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長を経て、現在は国内外での講演・執筆活動を行う。『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(祥伝社新書)、『加瀬英明のイスラム・ノート』(幸福の科学出版)など著書多数。
年初からイスラム過激派によるテロが相次いでいる。しかし、日本人にとっては、なぜ、どんな理由で中東地域の混乱が起きているのかは分かりにくい。
そこで、外交評論家でイスラム教やユダヤ教に関する多数の著作で知られる加瀬英明氏に話を聞いた。現在発売中の本誌2015年4月号では紙幅の関係で割愛せざるをえなかった内容も含めて、全3回に分けてお届けする。2回目の今回は、日本の宗教観と中東の今後について。
イスラム諸国はどう変わっていくか
――今後、イスラム諸国はどのように変わっていくのでしょう? トルコではアタチュルク大統領が近代化をしましたが、現在はその方針が変わってきています。また、イランを近代化しようとしたけれどもイラン革命で崩壊したパーレビ政権も、イスラムを否定しすぎてしまった部分があるのでしょうか?
加瀬: トルコも今はイスラム原理主義が強くなってきていますね。しかし、エジプトのナセルもそうですし、イラクのフセイン、シリアのアサドも、全員がイスラムを否定していました。
彼らは、西洋に対して強い劣等感を持っていたんです。日本の明治時代に似ているんです。西洋を模倣して近代化を進めなければ、と考えていました。
ところが1970年代に石油ショックが起きました。自分たちが手本にしなければいけないと思っていたヨーロッパやアメリカ、日本などの、大統領や首相、経済界の大物が、「油乞い」で中東にやってきたわけです。
そうすると、「やはりイスラムは偉大だ!」ということになって、イスラム原理主義が復活してきました。石油ショックがなければ、中東は今もラクダが群をなしてナツメヤシが名物というエキゾチックな地域だったはずです。
中国も同じです。中国に投資すればたいへん儲かるということで「中国詣」が始まると、「中華文明は偉大だ」ということになった。
中国も、先進諸国が中国に投資しなかったら、今もまだ苦力(クーリー)ばかりの国で、昔ながらのおとなしい遅れた中国だったでしょうね。
――そういう揺り戻しのようなものがあるわけですね。
加瀬: 今の中東諸国は、第一次大戦後に、西側諸国が分割して国境線を引いてつくられた国です。地図をご覧になると、直線の国境線が多いですね。
中東の実状を全く考えずに、文字通り机の上に地図を広げて、定規をあてて勝手に国境線を引いた。これからは、これらの国境線がなくなっていきます。リビアは3つに分かれると思います。イラクも3つくらいに分かれますね。
トルコ、イラク、シリアには、シーア派、スンニ派、それからクルド族がいます。クルド族はトルコに1500万人くらいいるんですね。クルド族は自分たちの国をつくるのが願いであり、夢なんです。トルコにとって、クルド族は、イスラム国よりも恐ろしい。
イスラム圏を民主化しようとしたことが混乱のもとに
加瀬: もうひとつ、中東の混乱の原因は、アメリカがイスラム圏を民主化できると思い込んだことです。チュニジアで「アラブの春」が起きたとき、アメリカのオバマ政権は礼賛していました。
エジプトでは、自由な選挙を行ったら「ムスリム同胞団」の政権が生まれ、軍部がクーデターを起こしてシシ政権になったわけです。リビアでも欧米がカダフィ政権を倒してしまった。
もっと遡れば、アメリカのブッシュ元大統領は、イラクのフセイン政権を倒せば民主国家が生まれると思ってイラク戦争を始めましたが、それはとんでもない思い違いです。
イスラム諸国の長い歴史の中で、一度も民主主義が行われたことがないんです。急にうまくいくわけがない。とにかく第一次大戦後に引かれた現在の国境線はなくなっていくでしょう。
――今のイスラム国の動きも、そうした欧米の支配への対抗という意味があるのでしょうか。
加瀬: そうですね。だから、私はイスラム国は長く持たないと思います。
次の中東の大きな問題はイラン対イスラエル
加瀬: 中東の大きな問題は、イランの核開発がどうなるかということです。私は今のままゆくとイランが核兵器を持つことになると思います。
イランは中東唯一の核保有国であるイスラエルとアメリカへ対抗して核開発をしていますが、もし核武装すれば、イスラエルが先制攻撃をするかもしれない。
イスラエルはユダヤ人国家ですが、過去、ナチス・ドイツによって何の抵抗もせず羊の群れのように、死の収容所に送り込まれました。
それに対する反省と、イランによって抹殺される恐怖から、世界有数の軍事国家になっています。「もしイランの核を放っておけば、またアウシュビッツになる」と恐れて、ハリネズミのように武装しているのです。
もうひとつ懸念されることとして、イランが核武装すれば、対立するサウジアラビアがパキスタンから核兵器を買って核武装するかもしれません。そうなれば、中東は一層混乱すると思います。
そうした中で日本は、"極楽とんぼ"のように、今も原油の85%をペルシャ湾岸諸国に依存しているんですね。イスラム国の人質になった後藤健二さんのお母さんは、「反原発」を叫んでいましたが、日本としては原発をしっかりと全部稼働させるべきです。