日本の和の精神が平和への道 外交評論家・加瀬英明氏に聞く中東問題(3)
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外交評論家 加瀬英明
プロフィール
(かせ・ひであき) 1936年、東京生まれ。77年から福田・中曽根内閣で首相特別顧問を務めたほか、『ブリタニカ国際大百科事典』初代編集長を経て、現在は国内外での講演・執筆活動を行う。『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(祥伝社新書)、『加瀬英明のイスラム・ノート』(幸福の科学出版)など著書多数。
年初からイスラム過激派によるテロが相次いでいる。しかし、日本人にとっては、なぜ、どんな理由で中東地域の混乱が起きているのかは分かりにくい。
そこで、外交評論家でイスラム教やユダヤ教に関する多数の著作で知られる加瀬英明氏に話を聞いた。現在発売中の本誌2015年4月号では紙幅の関係で割愛せざるをえなかった内容も含めて、全3回に分けてお届けする。最終回の今回は、イスラム諸国の近代化と日本の和の精神について。
イスラム諸国の近代化は難しい?
――現在のイスラム諸国は科学技術で欧米に負けてしまっていますが、キリスト教圏が近代化する前は、イスラム教圏のほうが進んでいました。日本が明治維新で近代化を遂げたように、イスラム教圏でもそうした近代化が進んでいくのでしょうか?
加瀬: 難しいでしょうね。というのは、石油が出るからです。
――日本は石油が出なかったから……。
加瀬: まあ、日本は江戸時代から、からくり人形などを見ても分かるとおり、技術が非常に進んでいた。話が脱線しますが、黒船でやってきたペリーの航海記には、「日本は大変な技術大国になるだろう」と書いてあります。彼らは乗船してきた幕使にコルトの最新式拳銃を見せたんですが、次に日本に来たとき、日本側はその拳銃を真似して、何とそれよりもいいものを作っていた。
それからイチゴ。イチゴは幕末にオランダから来たんですが、オランダのイチゴなんて食べられたものではありません。ところが今、日本のイチゴは一粒が何万円という高級品になりました。リンゴもアメリカから来ましたが、日本のリンゴは世界一。自動車だってそうです。
そういう意味では日本は石油が出なくてよかったんです。資源があると、それを売ることで経済が成り立ってしまうから、モノづくりをすることが難しくなります。最近では、サウジアラビアが、そのうち石油が枯渇してしまうから、日本からモノづくりを学ぼうということになっています。
ユダヤ教、キリスト教は論理の宗教
加瀬: もうひとつ日本の不思議なところは、超近代国家でありながら精霊信仰がまだ息づいていることです。宗教学は西洋の人が作ったものですが、一神教であるユダヤ、キリスト、イスラム教を「高等宗教」と位置づけているんですね。一方、神道のように万物に精霊が宿っていると考えるのは「原始宗教」と言って見下しているわけです。ところが日本は、超近代国家でありながら、古代の祭祀王である天皇が125代続いていて、精霊信仰が息づいている。
これはなぜかと考えたときに、ひとつは、日本人は「善悪でものごとを考えない」ということが理由として挙げられると思います。善悪よりも、「何が美しくて、何が穢れているか」のほうが重視されます。一方、ユダヤ、キリスト、イスラム教は、善悪をはっきり分ける。つまり、論理の宗教なんです。
もちろん、日本にも論理的な宗教である仏教や儒教が入ってきました。中国でも朝鮮半島でも、ほとんどの国で、論理の宗教が精霊信仰を乗り越えていきました。しかし日本では、仏教や儒教は日本文化を豊かにする大きな力になりましたが、不思議なことにそれによって圧倒されなかった。
論理の危険なところは、論理を戦わせていると自分に都合のいい論理をつくってしまって、詭弁に陥ることです。日本人は直感による感性を、論理よりも大切にしてきた。
日本の「和」の心が宗教対立解決の鍵
加瀬: 日本人は、12月25日にはキリスト教の教会で賛美歌を歌って、それから1週間も経たない年末には仏教のお寺で除夜の鐘をついて、その次の日の元旦にはいそいそと神社へ行く。1週間のうちに3つの信仰を渡り歩くなんていいかげんだとよく言われますが、こんなに素晴らしいことはないと思いますよ。
やはり、平和を何よりも妨げているのは、寛容さがないためですから。相手の宗教のことを「悪」と考えるのではなく受け入れてしまう、日本の「和」の心が大切なのです。
――日本の「和」の心が、イスラム教徒や、ユダヤ、キリスト教徒にも浸透することが、宗教対立を解決する鍵になるということでしょうか。
加瀬: そうですね。幸福の科学は和の信仰だから素晴らしいと思いますね。
私は、愛よりも和のほうが上だと言っているんです。なぜなら、和は、全てを包み込むものだからです。
今から10年ほど前、大学生向けに「日本の青年はどう生きるべきか」というテーマで講演したことがあるのですが、質疑の時間に、ある女子大学生がこんなことを私にたずねました。「私もそのうちに好きな人ができて結婚して、子供が生まれると思います。子供をどう育てたらよいでしょうか?」と、こうきくんですね。私は育児の専門家じゃないから、びっくりしましたが、こう答えました。
「これからきっと、素敵な伴侶に巡り合って結婚されて、お子さんが生まれるでしょう。しかし、夫や子供を『愛する』ということは絶対にしないでください」
そうしたらポカーンとしていました。私は続けました。
「愛というのは、明治以降になって、男女関係の愛という言葉として日本に入ってきました。ところがキリスト教の愛というのは、『神を讃えると神が愛してくれる』という考え方で、契約の宗教と言われています。これは取引なんです。ですから、お子さんを『愛する』となると、子供が気に入らないことをした場合に、『こんなに愛してあげているのに一体何してるの!』ということになってしまいますよね。夫に対しても同じです。しかし、日本には『慈しむ』という言葉があります。これは見返りを求めません。ぜひ夫や子供さんを慈しんでください」
後日、その女子学生は、便せんにきれいな字でお礼の手紙をくれました。
イスラム国の人たちも、同じイスラム過激派の思想を信じている人はお互いに愛し合うけれども、それ以外の人たちを愛することができないのです。
結局、それぞれの信仰は、その地域の文化によって、つくられているんですね。中東地域ではリーダーが独裁をしていたから、神もそうだということになっている。日本の神道も古来の日本社会を反映しています。独裁ではなく、和の精神を重んじてきました。
ジョン・レノンの「イマジン」という歌をご存知ですか。あれは日本人で妻のオノ・ヨーコと一緒に作詞したものですが、神道の世界観を歌ったものです。Imagine there's no heaven…「天国なんかありゃしない、地獄もありゃない、宗教がなければこの世界は平和になる」と歌っていますが、否定している宗教が、一神教です。
――えっ、そうなのですか?
加瀬: ヨーコは私の従妹なのでジョンも親戚で、親しくなりました。ジョンは靖国神社にも伊勢神宮にも参拝していますよ。
――中東問題はすごく根深い争いですが、日本的な和の精神が広まることによって、解決の道筋が見えてくるということですね。ありがとうございました。
(了)
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