3月某日。
最近気に入っているコーヒー豆の買い置きがなくなりそうなことに気づき、神戸三宮へ(最近の三宮は再開発の絡みで店舗の開閉店が多く、景色の変化が激しい)。
JR三ノ宮駅の地下街(「さんちか」という)を抜け、目当てのコーヒーショップで目的の品を購入。
さて、到着早々に目的は果たした。となれば後はふらふらと街を歩くだけ。
皆様ご想像の通り、私の歩くルートなんぞ楽器屋、本屋、レコード屋のあるポイントを気ままに往くだけだからまあ、ただの散歩だ(とはいえルート上にあるお高いぶちっくのウィンドウを横目に、へぇ、洒落た服だなぁ、と独りごちたり、海沿いを歩きながら考え事に耽ったりする時間はこれはこれで個人的に大事な時間だったりするのだけれど)。
この日もそんなルートを頭に浮かべ、まずは、と一番最寄りのいつも覗いてるレコード屋へ足を向ける。
先々月も書いた気がするが去年のクリムゾン公演からプログレ熱が冷めない私。まあないだろうと思いつつも、なまはげ気分でマグマはねえがぁ、エニグマはねぇかぁ、アラン・ホールズワースはぁ……
……アラン・ホールズワースがあるでねえが!
はい!前置きが長くなったが今回はコレ!
「メタル・ファティーグ/アラン・ホールズワース(85年日本盤来日帯付)」
(いや、労を惜しむべからず、とはまさにこの事。中古レコードはまさに一期一会。運を逃すと知らぬ間に入って知らぬ間に売れてしまう。読者諸賢も店頭でほしい盤を見つけたらとっとと買ってしまうことをお勧めしておく。ちなみに私がたまに「なまはげ気分」になるのは学生時代のバイト先のオーナーご夫妻が東北の方だった影響。閑話休題)
アラン・ホールズワース。
超絶技巧かつ唯一無二のスタイルを持つギタリストであり、世界中のギタリストからミュージシャンズ・ミュージシャンとして敬意を払われるも、商業的なヒットに恵まれず、ギタリストであれば一般教養として知っていても、一般リスナーまでは中々届かない、不遇の天才ギタリストであります(ん?スーパーギタリスト列伝と被るな。まあよかろ)。
有名どころだとジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォード、エディ・ジョブソンとのバンドであるUKや、カンタベリーロックの大御所であるソフト・マシーンやゴングなどでの活動が挙げられるが、どのバンドも1〜2枚のアルバムに参加しては脱退(穏やかな人柄だったと云われているが、どこか孤絶したところもあったのだろう)。
そんな彼がバンドへの参加という方法を止め、自身のサウンド全開にして作ったソロアルバムの3作目(正確には4作目だが1stは本人が「あれはレコード会社の意向に弄くられたものであり、私の作品として認めない」とまで言っていたそうなので3作目としましょう)がこの「メタル・ファティーグ」だ。
先に白状しておく。
筆者、そこまでホールズワースファンではなかった。UKでのプレイはあまりピンと来なかったし、近年のソロアルバムを2、3枚聴いて「好みだけど熱心に追いかけるほどでもない」というのが正直な感想だった。
で、「メタル・ファティーグ」だが……
俺が悪かった!
1曲目、表題曲の「メタル・ファティーグ」。ド頭からピッチシフトをかけたと思われる、捻じくれたサウンドの異次元的なギターリフが耳と脳ミソを叩き起こす!
なんじゃこりゃ!と耳を集中させたとたん、ギターの音は急にまるでシンセパッドのように柔らかく浮遊感のある幻想的なコードバッキングへ変化し、ゲスト参加したポール・ウィリアムスのボーカルと繊細に溶け合う。そしてまた先述の異次元サウンドリフと往復を繰り返し、クールな印象のまま熱量が上がっていく!
アタックを感じさせない、歪んでいるようで歪んでいない不思議な音色でまるでジョン・コルトレーンのサックスの如く埋め尽くされる音、音、音。かなりの音数を詰め込んでいるはずなのにそれが全く気にならず、トリッキーなはずなのにメロディアスなギターフレーズは頭を混乱させながら不思議な快感に満ちている。
ザッパ門下のチャド・ワッカーマン(dr)と名セッションマンであるジミー・ジョンソン(b)のプレイがまた冴えており、ホールズワースのプレイと呼応するクールかつメロディアスな見事なコール・アンド・レスポンス。
B面はメンバー違いで10分超えの大作「ジ・アン・メリーゴーランド」を含めた2曲。こちらもまたテクノ的でリズミックな単音リフに異常に伸びやかなギターが展開、展開、また展開で混乱と快感をもたらした後にポール・コーダのゲストボーカルの混じったクールな歌もので〆るという構成が心憎く、A、B面を何度もひっくり返して聴きたくなってしまう。
いやぁ、大変申し訳ないことをしていた!フリップ先生が褒めていた理由がやっとわかった!(というか先生がフリッパートロニクスからサウンドスケープへ移行したのは確実にホールズワースの影響ですな……)
この盤、朝、寝起きに聴くと妙にハマる。
エンジンのかかっていない頭で捻じくれたギターリフと冴えたリズム隊を聴きながらコーヒー豆を挽き、濃く入れた熱いコーヒーを飲みながら浮遊するようなギターに耳を傾けていると不思議と気分よく目が覚めてくる……
やっぱりコーヒーも音楽媒体もブラックに限るってね!(どっとはらい)
……じゃ、また!
あっ、そんな冷たい目で見ないで……
《ハウリンメガネ筆》