きっかけはスタンリー・クラークであった。
ジャズ業界屈指のベーシストであり、
ロックファンにはジェフ・ベックとのプレイでもお馴染みの
スタンリー・クラークのことである。
中学生の頃、私は父のレコード棚にあった
彼の2ndアルバム(名盤!)をターンテーブルに乗せては
「この人のベースはすごいなぁ。ギターよりかっこいいかも」
と阿呆ヅラさげてよく聴き入っていたのだ。
そこから少し時が経ち、高校生の頃。
音楽雑誌を読み漁っていた時のこと。
お、スタンリー・クラークの記事だ。
「チック・コリアとのリターン・トゥ・フォーエバーでその名を上げたスタンリー・クラーク……」
ふぅん、そうなのか。
「リターン・トゥ・フォーエバー」ね。
今度探してみよう……
後日。
おお、あったあった。(確か2ndアルバムを買ったのだ)
帰宅後、プレイヤーにCDを突っ込み、再生。
はて、この鍵盤の音はなんじゃらほい。
透明感があって柔らかくて……
あ、この音を出してるのが「チック・コリア」なのか……
というわけで御機嫌よう、読者諸賢。
ハウリンメガネである。
前置きでお分かりの通り、
今回のコラムは先日亡くなったチック・コリアに哀悼の意を示し、
彼について触れたいと思う。
先述の通り、筆者とコリアの最初の遭遇は
「リターン・トゥ・フォーエバーの2ndアルバム」であった。
スタンリー・クラーク目当てでアルバムを買った私だったが、
1曲目のイントロから流れてくる彼のシグネイチャートーン
といっていいローズピアノ(エレクトリックピアノ)の音に
一気に惹き込まれた。
その以前からローズピアノの音自体は聴いていたものの、
彼の音はそれまで聴いたどのローズピアノよりも
筆者のイメージするローズピアノの音を奏でていたのである。
コリアはエレクトリックマイルスへの参加時に
初めてローズに触れたといわれているが、
彼がマイルスバンドに初参加した
「イン・ア・サイレント・ウェイ」の時点で
彼のローズの音、透明なアタック感と柔らかさを兼ね備えた
あの音が出来上がっている.
(因みに私はエレクトリックマイルスだと「ビッチェズ・ブリュー」よりこの「イン・ア〜」の方が好きである。コリアもこっちの方がいいプレイをしていると思うのだが……)。
これはどういうことか。
なんのことはない、彼のローズサウンドは
彼のピアニストとしての技倆がローズの音とマッチして生まれた
つまり、そもそも彼のプレイ自体が透明感と柔らかさを併せ持っていた!
のである(生ピアノでの彼のプレイを聴けばわかるはずだ)。
だがそれを加味した上で、
何故コリアはローズの音をここまで引き出せたのか。
それは彼がヴィブラフォンプレイヤーだったからではないのか
(コリアはヴィブラフォンの名手でもあった)。
ローズピアノは乱暴にいえば
ヴィブラフォン(鉄琴)に鍵盤をつけたものである
(正確には諸々異なるので各々調べて頂きたい)。
ピアノで培ったテクニックとヴィブラフォンの特性への理解、
この両者を持ったコリアがローズの名手となったのは
当然の帰結といえるのではなかろうか。
それを表す好盤が写真の
「デュエット/ゲイリー・バートン&チック・コリア」 である。
この盤はジャズ界の名ヴィブラフォンプレイヤー、
ゲイリー・バートンとチック・コリアの2人セッションアルバム。
バートンはヴィブラフォン、コリアは生ピアノという編成なのだが、
なぜかこのアルバムを聴くとコリアのローズサウンドを思わずにいられない。
恐らくこの2人、とても気が合うのだろう
(何枚か2人での作品を出している)。
コリアの生ピアノとゲイリーのヴィブラフォンの響きが見事に調和し、
2人がローズを連弾しているように聴こえる瞬間すらあるのである。
彼のプレイが後のピアノ弾き、
ローズ弾きに与えた影響は計り知れない。
というか、ギター弾きの私ですら、
未だに彼のローズの音をギターで出せないか模索し続けている。
ピアニスト、作曲家として
幾多の作品を世に出した功績だけでも称賛に余りあるが、
個人的にはローズという楽器の音色の美しさを
世に知らしめてくれたことに万雷の拍手を贈りたい。
素晴らしきピアニスト、ローズプレイヤー、
「チック・コリア」
只々ご冥福を祈るばかりであります。
《 ハウリンメガネ筆 》
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