『Starman』が選ぶ『Rock今夜の1枚!』(Vol,6) Gerry&The Pacemakers『Second Album』(US)&『Ferry Cross the Mersey』(カナダ)
今回も引き続きジェリー&ザ・ペースメイカーズの盤をご紹介します!ビートルズ同様リヴァプールの出身であり、ビートルズと同じマネージャー、プロデューサーによって見出され、ファーストシングルの「How do you do it」でいきなり全英1位と華々しくデビューした彼ら。今回はそんな彼らのアメリカでの2ndアルバム、タイトルはそのまま「Gerry and the Pacemakers' Second Album」(US Org MONO)になります。
それでは早速、針を落としてみましょう!1曲目の「I Like it」はイギリスでの2ndシングルで、なんと、こちらも全英1位に輝いております。「How do you do it」と同じく、作者はミッチ・マーレイ。1stシングルの勢いをそのまま、同じ路線のポップロックに仕上げており好感が持てます。ちなみにこのミッチ・マーレイと言う人は、当時の様々なビートグループに曲を提供しており、オリジナル曲を書ける人が少なかった当時のブリティッシュビート界においては貴重な存在だった裏方のひとりです。2曲目以降はアメリカのR&Bのカバーを中心に収録されているのですが、基本的にUKデビューアルバムからの未収録曲が収録されています。それ自体は当時としては珍しい話ではないのですが、たとえば前作のようなジョージ・マーティンによるオーケストラのような革新性はなく、カントリーやR&B等、アメリカのルーツ色の濃い選曲となっております。USオリジナル盤の音の良さとダイレクト感は十分に感じられるのですが、前作が素晴らしかった分、若干パワーダウンした気はいなめません。
ただ、その中でボーカル&ギターのジェリー・マースデンは「It's happend to me」「It's all right」と2曲のオリジナル曲を書き、バンドとしての進化を見せます。ちなみにB面のラスト2曲は「Slow down」「jambalaya」と、それぞれ後にビートルズやカーペンターズも取り上げた曲。あれ?これ聴いたことあるぞ!と突然の「デジャ・ヴ」に襲われ、思わず前作のUSファーストアルバムを見ると、なんと全く同じ曲が収録されているではありませんか。いくら短い期間でリリースされたとは言え、前作と2曲も曲が被ると、さすがに当時のファンも黙ってなかったんじゃないのかな~。その心配は的中し、なんとこちらのアルバムはアメリカのチャートで129位までしか上昇せず・・・早くも苦境に立たされたジェリー&ザ・ペースメイカーズ。「このまま消えてしまうのか!」と頭を抱える僕。ここで次のアルバムを紹介しましょう!こちらは翌年1965年にリリースされた「Ferry Cross the Mersey」で、USのUAレコード盤とは違いジャケがカッコイイ!そんなカナダ・キャピトルから出されたオリジナル盤からのレビューです。曲含め内容はUS盤と同じなのですが、マニアックな僕はついついコレを推してしまうのです。
こちらはメンバー達が主演を務める同名映画のサウンドトラック盤なのですが、12曲中9曲がジェリー&ザ・ペースメイカーズ(しかも全てオリジナル曲)、そしてもう1曲はプロデューサーのジョージ・マーティンのオーケストラによる作品なので、実質彼らのオリジナルアルバムと言えるでしょう。針を落とした瞬間、「It's Gonna Be Alright」のアコースティックギターによるフォーキーながらもテンションの高いマイナー調のイントロで、明らかに「違い」を感じる僕。まず違いの一つはジェリーのヴォーカル。今までの明るく楽観的な雰囲気はなく、終始、緊張感の高い演奏となっております。バンドの演奏もアコースティックギターの比率が増えています。しかし、アメリカのカントリーミュージックとは異なる、イギリスならではの何処か湿った感じが何とも切なく心地よいのです。映画のコンセプトによる部分もあったのかもしれませんが、あえてアメリカ的な部分を排除し、ブリティッシュトラッド的なアプローチがふんだんに取り入れることで、結果的に彼らの新しいスタイルを開拓する形となっております。
B面はさらにその傾向が高くなり、予想外の「美しい音楽」にため息がでる僕。4曲目のみイギリスのシンガー「シラ・ブラック」が歌っているのですが、こちらも同じくアコースティック路線の美しいバラードで、とにかくアルバムとしての統一感が素晴らしい。最後の曲は、映画のタイトルと同じ「Ferry Cross the Mersey」。アコースティックギターと微かなパーカッション、そしてジョージ・マーティンによる美しいオーケストラが織りなすこの曲はアルバムのベストトラックと言えるでしょう。
ここで僕は、ボブ・ディランが2020年にリリースした17分にも渡る「最も卑劣な殺人(Murder Most Foul )」という曲を思い出さずにはいられないのです。ケネディ大統領暗殺事件を主軸に、ビートルズやビーチボーイズを始め黒人音楽やJazz、クラシックにいたるまで、様々なミュージシャンや曲名が歌詞に登場する大名曲です!その中でボブは「マージ―河のフェリーボートに乗って、みんなを虜にするよ」と歌っているのです。2020年のボブがあえてジェリー&ザ・ペースメーカーズの曲名を歌詞に入れるぐらい、当時は印象的な存在だったのだと改めて実感した次第です。
さて、オリジナル9曲という圧倒的な存在感を見せつけた彼ら。チャートでも、イギリスで19位、アメリカで13位とかなりのヒットとなりました。よく考えてみたら、USのセカンドアルバムの多くは既にレコーディングされた曲を集めた「編集盤」と言える内容なので、このサントラまでの合間を埋める「繋ぎ」だったのかもしれません。残念ながら、このサントラ盤は彼らにとって「最後の輝き」となってしまいます。その後、数枚のアルバムを出しながらも人気も音楽もフェードアウトしていきます。いつの時代でも、「長く成功し続けるというのは本当に難しいもんだなぁ~」とひとり口にする僕。
しかし皆さん!サッカー・イングランド・プレミアリーグの名門「リヴァプールFC」の試合では、すべてのサポーターにより今でも彼らの「You'll never walk alone」がスタジアムで大合唱されている事実をご存知か?!そう!「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」の音楽は今でも確実にその姿を残しており、イギリスだけでなく世界中の多くのサッカーファンの耳にも自然にすり込まれているわけです。ぜひ皆さんも今こそ「ジェリー&ザ・ペースメーカーズ」の音楽に、針を落としてみてはいかがでしょうか?特にサッカーファンの君やサッカー少年・少女たち、そしてその親御さんにこそ入り易い!(笑)
と言うことで、今日はこの辺で失礼いたしましょう。次回もお楽しみに!